種族繁栄の巫女?
頼みの松本先生が消息を消した。
残された桜は一人になった。
私は桜…
私は昨晩起きた体験を思い出し枕を抱き締めた。
先生…
私は屋敷の掃き掃除をしながら胸が苦しくなって、学校に行く時間が恐くて恐くて仕方なかった。
「はぁ…」
溜め息の数だけ私は陰の気を覆っている事に気付かないでいた。
登校、授業、下校。
毎日の何気ない1日が緊張と不安で仕方なかった。いつ襲われるか解らない恐怖。そんな私にクラスの生徒達は白い視線を向けていた。まるで先生が消えたのが私の責任みたいに…
でも、それはあながち間違いでもなく、私を助けようとしなければ先生は…
また、涙が溢れ出して私は教室から飛び出していた。
私は校舎裏に一人になると声を出して泣き叫ぶ。
「先生!先生!先生ぃー!ごめんなさい!」
私は泣き崩れると、
「僕はこんな時に君に何をしてあげれば良いか解らない…」
「えっ?」
そこには見知らぬ白髪の生徒が私にハンカチを差し出していたのです。
「あ、ありがとうございます…貴方は?」
「僕は…」
すると突風が起きて私は視界を奪われると、気付いた時には目の前にいた白髪の彼の姿は消えていたの。
「何処に行ったの?」
結局、彼は何処にもいなかった。
幽霊、じゃないわよね?
その日、私は決心する事があったのです。
「いつまでも…こんな状況を続けていたら、私は耐えられない…」
決着を付けなきゃ!
私は放課後になっても下校せず、また何か異変が起きる事を待ったの。何が出来るかなんて解らないし、どうなるか解らない。死んじゃうかもしれない…
それでも先生まで巻き沿いにしてしまった私には逃げる事なんて許されないと思ったの。
私は誰もいなくなった教室に一人で待っていた。
「逃げていても、いずれ捕まるくらいなら!」
私は覚悟を決めた。このまま恐怖で気が狂うくらいなら、まだ自我のある今なら抗えるって!
私は身構えながらの待ったの。そして再び嫌な感じがした。
「来るのですね」
私には何も出来ない。出来ないけれど、何故私が狙われるかを知る事くらいは出来るはず!
だと思う…
「ここにいたぜ?」
そこに数人の男子生徒が集まって来たの?何をしに?
「全てはこの女がしぶといからだ!素直に神隠しにあえばよいのによ!」
彼等の狙いは私だった。屋上で私を襲ったあの赤髪の彼はいないみたいだけど、私を狙っている事に間違いなかった。
「あ、貴方達が私に何をするの?どうしてこんな事をするの?」
「何かピィピィ煩いな?とにかく黙らせろよ!」
数人の男子生徒に押さえ込まれ、私は何も出来ずに床に倒された。
「あぅ!」
スカートから腿が見える。私の無防備な姿を見て、唾を飲み込む男子生徒達は、
「へへへ…こいつ、どうせ死ぬんだったらさ?別に今から何をしても構わないよな?」
「あはは…だよな?少しくらいなら良いよな…」
他の男子生徒達も誰も止める事なく、今から何が始まるのか頭に過った途端、息が荒く顔を赤らめて鼻息を立てる。彼らが獣のように見えた。
恐い…
「いゃ、止めて!嫌!」
私も自分の身にこれから起きる事を理解して、暴れたけれど、頬を殴られて黙らされた。
口の中が血の味がして、制服のボタンが引きちぎられた。そしてワイシャツに力が入ったのを感じた時、私は…
「いゃあああああ!」
直後、私の身体が閃光が放たれ、私の真上にのし掛かる男子生徒諸とも囲む男子生徒達を壁際まで吹き飛ばしたの。
何がどうなって?
同時に私は額が割れるように痛み出して、うずくまる。
「痛い!痛い!痛い!痛い!痛い!痛い!いゃあああああ!」
泣き叫ぶ私を見る吹き飛ばされた男子生徒達は、起き上がりながら悲鳴をあげる私を何か化け物を見るようにして震えていた。
漸く頭の痛みが治まった時、私は男子生徒達が私を見たまま動かない状態に不思議に感じていた。
私は起き上がると、その私を見て彼等は言った。
「ば、化け物だ…」
えっ?
私もまた額に残る違和感を感じて恐る恐る自分の額を触ると何かが触れたの?
それがナニか?解ると私は青ざめる。でも、今は逃げる事を優先して走った。
私はトイレに駆け込むと鏡を見て、自分自身の変化した姿に驚愕する。
「何なの?これ?」
私の額には何か角らしき瘤が二つ盛り上がっていたの。さっき殴られたから?違う。
この瘤はまるで…
だけど私に今の現状から逃避し嘆く暇はなかった。我に返った男子生徒達が私を探して学校中を探し回っていたから。
「何処に行ったぁあ!あの化け物女ぁああ!」
金属バットを用意して窓硝子を割る音が聞こえる。狂気と化した彼等が恐くて恐くて仕方なかった。脅えて泣きたくなる声を押し殺し我慢する。
物音が近付く度に私は自分自身が化け物になってしまった事に、彼等は自分達の正義のために私を殺そうとしているのね?私を殺して全てが終わるって…
この村に平穏がやって来るって信じているのかも…
それでも私は死にたくなかった。その時、私のいる女子トイレに彼等が入って来たの。そして閉まっている扉を見て顔を見合わせると、
「出て来いよ!化け物女ぁ!頭潰してやるからよ!」
金属バットで扉を何度も殴ると、扉を開けて入って来たの。
「!!」
けど、そこに私の姿はなく、彼等は仕方なく別の場所へと移動して行った。
「はぁ…はぁ…」
誰もいなくなった後、トイレのロッカーが開いて隠れていて私が出たの。
助かった私は外を警戒しながら逃げる。男子生徒達の姿も音もしない。とにかく逃げないと人間でなくなった私は殺されると思った。
でも何処に逃げれば良いの?屋敷に戻ったとしても今の私の姿を見たら?
私はもう何処にも行く場所もない。逃げ場なんかない。もう私には…
お願い誰か助けて…
私は隠れながら学校から出ようと裏門を目指した。
隠れて進む私を、
「あそこにいたぞ!」
彼等は見付けて追いかけて来たの。もうダメ、捕まる。私は彼等に再び腕を掴まれて捕まったの。
「逃げても無駄だ!今から公開処刑にしてやる!この化け物女!」
「いゃあああああ!」
「ちょっと待てよ?」
そこに、あの屋上から飛び降りた赤髪の彼が現れたの。
また私の命を狙って?
「何だ?この赤髪?」
金属バットを持って強気になった彼等は、その赤髪の彼に近付く。
「お前ら?その女に何をするつもりだ?」
「はぁ?関係ないじゃん?誰よ?お前!」
「なら俺も勝手にさせて貰う」
赤髪の彼は私の腕を掴み引っ張る。
「待てよ?お前、何を俺達の獲物を横取りしてんだよ!」
頭にきた男子生徒の一人が金属バットで赤髪の彼に殴り付ける。
「!!」
けれど、金属バットは赤髪の彼が片手で受け止めたの。驚く男子生徒に、
「火傷したくなかったら早く手離すんだな?」
「えっ?アツッ!」
その直後、手離した金属バットは高熱を発して熔けてしまったの。
手品?違う。この赤髪の彼が何かしたの?
「コイツも化け物だ!やっちまえ!」
殺気立った男子生徒達が私と赤髪の彼を囲む。
「面倒事は勘弁して欲しいがそうは言ってらんないな?何せ奴等は俺に喧嘩を売ったのだから!」
赤髪の彼は両手を開くとマジックのように掌から火の玉が出現させる。
「丸焦げだ!」
「えっ?」
赤髪の彼が投げ付けた火の玉は男子生徒達に命中すると、燃え上がっていく。肉の焼ける臭いと断末魔が私を震わせた。
「人殺し!」
「殺さなきゃお前が殺されていたんだぜ?」
「!!」
「お前は死にたかったのか?それとも生きたかったのか?」
「私は、ただ…」
その直後、赤髪の彼の背後から焼かれた生徒の一人が金属バットで頭を殴ったの!油断していた赤髪の彼は額から血を流しふらつく。
「くそ…油断した」
私はそんな彼の腕を振り払い、後ろを見ずに逃げ出したの。そして学校を出て交番に向かって走った。
「人殺し!お巡りさん!助けてください!」
私が村に唯一あった派出所に駆け込むと、そこにはお巡りさんの制服を着た男性が背中を斬られて倒れていたのです。
「あっ!」
悪寒が走る。私の背後に誰かいる事に気付く。それは以前、私と先生を襲った刀を持った男性だった。
「動くな!それ以上動くと命がないぞ!」
「いゃあああああ!」
私は彼の言葉に逆らって駆け出そうとすると、倒れていたお巡りさんが拳銃を向けていたの。
「まだ生きていたか?」
「あっ!」
銃を撃つよりも早く、その刀を持った彼はお巡りさんの額に刀を投げ付ける。
そのまま動かなくなるお巡りさんを見て、私は失神しそうになったけれど、それでも意識を保って逃げ出した。
でも何処に?何処に逃げれば良いの?屋敷に戻っても私は大丈夫なの?
私は額に手をやる。
私の額に二つの瘤は、多分…
角?
私は鬼…なの?
本当に化け物…なの?
私は?
そして私は傷だらけの状態で屋敷に戻って来た。
「何なの?これ?」
屋敷はまるで祭りがあるかのように照らされていて、近くにある竜宮神社には人が沢山集まって賑わいを見せていたの。祭りがあるなんて聞かされてはいなかった。
「祭り?今日?」
時計は既に深夜の2時を回っていたし、しかも平日のこんな日に何故?
すると仮面を付けた大人達が松明に火を点けて私のいる方向に向かって来て囲む。更に祭壇に火を付けると、その中心に神主とリーダーらしき人が立っていた。
「今宵は良き日だ。儀式には相応しい」
儀式?何の?
するとリーダーらしき男は私に向かって声をかける。
「桜よ?良く来てくれた。歓迎するよ?」
えっ?
その声に私は聞き覚えがあったけれど、耳を疑った。
けれどリーダーの男性は自分の顔を隠していた仮面を取ると、その素顔は間違いなく…
「ま、松本先生?」
間違いなく、神隠しにあって失踪していた松本先生だったの。そして?
「その娘か?メインイベントの娘とは?」
「はい。この娘こそ私達が長き時を待ちに待った宝でございます」
「そうか。ならば早々に儀式を始めよう」
「はい。神主様」
私は意味が解らなかった。けれど大人達に囲まれ逃げ場がなかったの。
「先生!何が何がどうなっているのですか?教えてください!」
すると松本先生は私に答える。
「君は私達の念願だった。種族繁栄の巫女なのだよ!」
種族繁栄の巫女?
「グゥオオオオ!」
突然叫び出した先生を中心に何か黒い煙りが噴出する。そして煙りの中より現れた先生の額には私と同じく角が生えていたの。更に私を囲む大人達も仮面を取ると黒い角が額から出ていた。
角が生えた人間?
違う。この人達は…村中の人達は皆、化け物なんだ…
そして私も同じ…
化け物?
次回予告
桜の前に現れた松本先生の裏切りに、
桜は絶望を味わった。