勘と反射?明王の生き残り?
総本山に迫る蚩尤鬼王の青山に
歴戦の男が相手をする。
俺は娘の前で真言を唱える。この真言は…
『オン・クロダノウ・ウン・ジャク・ソワカ!』
娘の身体に宿る神が抜け出して俺の中へと移動する。そう俺の娘は神の転生者であり、俺は娘の神の力を借りて変化出来るのだ。
烏枢沙摩明王
俺は足元に炎を纏った明王と呼ばれる神の姿となった。この俺は明王の力を持つ選ばれし男なのだ。
まぁ、最も娘はその明王の転生者なのだから、もっと格上?しかし俺は現世での父親だし…取り敢えず良いとするか?
かつての総本山の守護者達は俺と同じく五大明王の力を宿した選ばれし戦士だった。俺も本来はその一員であり、どちらかと言えば守護者の補充要員であった。かつての守護者のバサラとは因縁深く、数度とやり合った事がある。
総本山壊滅の際、明王の連中が戦死した話があった時、当然俺に直接守護者になるように話が来た。
しかし俺は断った。
俺はもう戦う事を捨てた男だから…
それに俺は今、表世界で大企業の社長に成り上がっていた。
忙しいんだよ!
晴明は勿論、座主になった蛇塚は幾度と俺を口説きに来たが、やはり俺の考えは変わらなかった。
場所は代わる。
学園を覆う血塊[結界]が仁王によって破壊された今、座主は総本山の仲間達を率いて学園に攻め混む。
だが、彼らの本拠地である総本山が襲撃にあっていた事を知る。
「大丈夫でしょうか?」
「心配いらぬ。あの方は俺の知る限り人間の中で最強に最も近い。俺やお前[晴明]と匹敵するくらいにな?」
「あの方が守護者になられてくれたのなら本当に心強かったのですが…」
「そう言うな?何だかんだ言っても総本山に何かある度に支援してくれているだろ?」
「そうですね。断る事も出来るはずなのに」
「酒一杯で命をかけるのが、あの方の男気であり、この総本山に心が残っている証拠なのだからな」
座主は天を見上げて俺を口説きに数度出向いた事を思い出し笑んだ。
「それにあの方は、あのバサラさんが認めた男なのだから…」
『八神夜叉彦』
そう。俺の名は八神夜叉彦!
かつての守護者達と同格の明王を今だに宿す唯一の存在なのだ。
再び戦場を俺が戦っている総本山へと戻そう。
俺は烏枢沙摩明王の姿で青山の見上げる先で見下ろしていた。
「何だ?神の姿になりやがった?何?神になったから何だって言うのだよ?神なんか俺の前では無力なんだよ!」
「それはどうかな?」
青山は拳を固めると俺に向かって拳圧を放つ!その一撃は神の防御もすり抜け俺を消滅させる破壊力だ。
「印」
俺は指を交差させて印を結ぶと、その拳圧を躱す。次第に残像が残り、分身が出現していく。
『残像分身!』
無数に出現した分身が俺の本体を隠す。
「俺の本体を見つけられるかな?」
「全て消し去ってやる!」
分身が消えていく中、俺の本体は青山の背後に音もなく忍び寄る。
「はぁ!?」
青山は僅かな勘で俺に気付き背後に攻撃を食らわすと、俺は分身とともに消えていく。
「素晴らしい勘だな?勘に反射が付いて来ているようだ。一撃与えるのは困難だな?」
だが、俺は余裕を見せつつ、俺もまた戦いの勘には負けていなかった。
俺も傷一つ付けられていないのだ。
「勘と反射…人間の時の才能が化け物になって開花するとは皮肉だな?」
「俺は後悔してはいない。この力は俺が求めていた力だ!俺は世界最高の力を手に入れたのぁぁぁ…!」
瞬間、喋っている途中で舌が斬られて落ちたのだ。落ちた舌が再生しつつ、顔を抑えながら睨み付け怒りが混み上がる。
「すまん。長話は良いから早く終わらせようぜ?娘が待っているからよ?」
「お前ぇえええええ!!」
怒り叫ぶ青山の動きが更に早く、破壊力を増して俺の残像を一体一体確実に消していく。残像は凄い早さで消えていき、残る残像は本体しか残っていない。
「これで終わりだぁ!」
本体の俺に攻撃が迫る瞬間、青山の動きに異変が?俺に向けた拳が眼前で止まり震えだしたのだ。
「何だ?身体が動かないぞ?お前、俺に何かしたのか?」
青山は自らの異変に気付いていなかった。
「お前、解らないのか?だったら教えてやるよ?」
確かに青山は強かった。このまま成長したら俺でも手に負えない化け物になっていただろう。しかし未熟だった。普段使っていなかった過剰に膨れ上がった力を無防備に使い過ぎたのだ。過剰な速度と、フルに放つ拳。それは自身の限界を知らぬ故に制御が出来ていなかったから起きた自爆!
俺はわざと青山に怒りを与えて冷静さを失わせ、無駄に残像全ての相手をさせたのだ。
「勘と反射…それだけではお前には勝てなかった。だが、戦いに置いて俺にはお前に勝る経験値が勝っていたんだよ」
動けない青山に俺は刃を向けると、青山は恐怖を感じたのだ。目の前に迫る俺よりも、死を間際に悲鳴をあげたのだ!
それはトラウマ?
人間の時の死に際の記憶が化け物になっていても残っていた。自慢だった両腕と両足を失い、身動き出来ない状態で歪禅に殺され化け物となった。その時の恐怖がトラウマとなって残り、化け物となって更にこみあがったのだ。
「嫌だぁあああああ!死にたくなぁああああい!!」
青山は俺の前から脱皮するかのように身体を捨てると、痩せ細った身体が出現して逃げ出したのだ。
「敵前逃亡か?だが俺はそれを許すほど優しくないんでな?」
逃げて行く青山に向かって俺は刀を構えると、真っ白な炎が籠る。これは浄火の炎!だが、これでは奴を始末する事は出来ない。
俺は明王の力を額の一点に集中させる。それは守護者である者なら修得せねばならない天地眼の奥義!
『天地眼・不浄潔炎!』
俺の放った炎が逃げて行った青山を後ろから巻き込んで焼き付くしていく。身が崩れ落ちていく中で青山は不思議と恐怖が無い事に驚きを感じていた?それは死に対して優しく抱き締める炎が、我が身を滅している事に感謝さえ抱く程に…
「安心しろ?俺はお前に死を与えはするが、苦しませて殺す趣味はない。暗殺業とは対象に死んだ事を気付かせない程に楽に眠らせる事が美学だと思うのが俺の唯一の慈悲なのでな…」
青山は俺の炎に抱かれて消滅して逝った。
「さて、俺の仕事は終わったようだな?帰るとしようか?」
「愚かなお父様、私はそれで構いません。でも良いのですか?」
「何がだ?可愛い愛娘?」
「その呼び方をしたら次はお仕置き致します。愚かなお父様」
「す、すまん」
「気付いてないとは思いませんが、この総本山に無数の魔物が迫って来ている事はどうしますの?」
「関係ない。俺は蚩尤鬼王が来たら始末するように頼まれただけだからな?この総本山に迫る化け物連中は蚩尤とは別の魔物だろう。恐らく総本山に恨みある連中で漁夫の利を狙ってやがったんだな?だが、あの数を相手にするには酒一杯じゃ足りねぇよ?解散だ!解散!後は俺には無関係だ」
総本山に迫る新たな襲撃?
それは青山達蚩尤鬼王の襲撃で総本山が崩れた所に現れた。
総本山の存在を邪魔に感じていた魔物達。この魔物達は守護者不在の総本山を潰すために現れたが、蚩尤鬼王達は神や魔物をも消し去る天敵であった。自分達の身も危ぶまれる中で様子を見ていたのだ。
そして今、襲撃に来た蚩尤の魔物達は全滅し、守護者不在の今なら総本山を落とせると乗り込んで来たのである。
「本当に宜しいのですね?今いる夜叉忍軍と私がいれば何とかなるかもしれませんよ?愚かなお父様」
「二言はない。それにお前の命をかけさせる訳にはいかないからな?買い物行くぞ?」
「………」
「それに…」
俺は配下の夜叉忍軍を退かせると、自分もまた娘を連れて総本山からドロンしたのだった。
俺達の気配が消えた直後、総本山は数万の化け物達によって襲撃された。
「間に合いました」
総本山の階段の頂上に光に包まれた少女が一人何処からともなく現れたのだ。
「龍脈に乗って転移して来ましたが、座主様の仰有った通りに蚩尤鬼王はもういないようですね?」
階段の下からは数えきれない魔物達が登って来ていた。更に上空からも妖気の雲に乗って化け物達の姿が見えていた。
「並の化け物なら私達でも何とか出来ると…私、思います。皆さんも手伝ってくれますか?」
「当然だ!」
彼女の周りにいつの間にか四人の戦士が守るように囲んでいた。
彼等は何者?
そして彼女の正体は?
次話より再び過去話へと突入するのであった。
次回予告
それは、新たな物語?
少女は運命に導かれていく。