魂の浄化?二人の新たな道!
坂上タムラと鬼神の前に現れたのは、
あの男だった!
俺は坂上タムラ…
俺と鬼女が危機に現れたのは、あのマヌケな僧侶だった。
「さて、ガキ達が踏ん張ってくれたお陰で俺の出番が残っていたようだな?」
あの男は俺達に向かって目の前に存在する凶悪な鬼神を前にして言った
「コイツを倒したら一件落着で良いな?状況がいまいち理解してないのだが…」
突然現れ軽口を叩く僧侶に対して崇徳鬼神が気にさわる。
「ウツケか?私を前にして力の差が解らぬほどの小者か?」
「いや?久しぶりに手応えがありそうだとは思うぜ?その前にお前、誰よ?」
「私を知らぬと申すかぁ!何て無知、無教養だ!」
「悪かったな?俺は義務教育受けてないんだよ!」
「ならば知るが良い!私の名は崇徳天皇!この世界を支配する新たな王じゃ!お前こそ何者だ?」
対して、
「俺は名乗るもんじゃねぇー!」
「なぁ!?」
真面目に名乗ってしまった崇徳鬼神は虚仮にされた気分になりショックを受ける。
と?
すかさず男は手首にかけてある数珠を掴むと一つ一つ鬼神に向けて弾く。油断をついた不意打ち?
『数珠連弾』
数珠は男の霊気を纏いながら凄まじい破壊力で飛んで行く。が、男の数珠は鬼神の身体の闇の中に消えてそのまま消失したのだ。
「なるほど…どうやら物理攻撃は効かないようだな」
「うはははは!無駄に無駄!滑稽じゃ!油断させたつもりのようだが浅知恵じゃ!お前も、そこにいる輩も全て私を前にして塵と消えようぞ!」
崇徳鬼神の全身から嫌な感じが広がり全身が身震いし始める?何だ?これは?
「呪え~呪い呪え~闇に飲まれ、凍える恐れ~」
それは呪いの言霊。崇徳鬼神の口から発する言魂が死神の如く俺達に纏わりつき全身を凍えさせた。
気を張っていないと意識が持っていかれる…
「どうじゃ?いつまで持ち耐えられる?」
だが、崇徳鬼神は驚きを見せたのだ。
「お前、まさか?」
それは男の背後にいた俺達にだった。俺と鬼女二人と金髪の僧侶を囲む九本の尾が呪いから防御していたのだ。それは安倍晴明の防御壁。
「お前、九尾か?まさか私に匹敵する化け物が目の前に現れるとはな?まさかこの連中はお主のさしがねか?」
九尾?あの髪の長い女みたいな陰陽師が?
「私の要件は貴方ではありませんよ?それに私を意識するより、目の前にいる彼から目を離していると痛い目にあいますよ?」
「そなた、何を?その者は既に息絶えておろう?」
が、
「誰が息絶えたって?つまらない歌で俺を倒せると思うな?まだ、何処かのガキ大将の歌のが破壊力あるぜ!」
男は印を結ぶと早口に真言を唱える。
『ナウマク・サマンダ・バザラ・ダン・カン!』
男の身体から噴き出した炎が全身を覆い、その中から不動明王の姿が現れたのだ。
「お前、そこのガキ達を好き放題痛め付けてくれたようだな?まったく悪い大人だぜ。確かに若い奴らのリア充にムカつく気持ちは痛いほど解る。だがしかし!認めてやれよ?理解してやれよ?俺もガキが一人いてな?その辺りは許容範囲広くなったわけよ?つまり…お前は愚痴愚痴と呪ってないで大人になれよ!」
「………」
崇徳鬼神は茫然と見当外れ男の説得を聞いていたが、我に返って意味不明的に頭来ていた。
崇徳鬼神は男に近付いて来る。その呪いと怨念は近付くに連れ更にのし掛かって来たが、男もまた気合いで返した!?
『渇ッー!!』
男から放たれた気合いの覇気が、纏わりついていた怨霊を全て消し去る。
「驚いた。だが、私の深き憎しみの怨念はこの程度ではないぞぉー!!」
崇徳鬼神を中心に闇が広がり一瞬にして俺達のいた場所が闇に閉ざされた暗黒世界になったのだ。押し潰すような闇が身体を締め付け引き裂かれる感覚になる。
そんな状況の中で俺はあの男が冷静かつ懐かしい何かに浸っているように見えた?まるで呪いや怨念が懐かしい子守唄に聞こえているかのように。
何なんだ?
男は印を新たに結び直し不動明王真言とは違う別の真言を唱え始める。
『オン・カカカ・ミサンマイ・ソワカ!』
それは地蔵菩薩真言だった。男から呟かれた真言は無意識に発っせられていた。
慈愛に満ちた癒しと浄化の波動が男を中心に、その真言から発せられる言霊に乗って崇徳鬼神の作り出した闇を光で照らしていく。
「馬鹿な?私の怨念を消し去るなんて真似が人間ごときに出来るはず…ありはせん!」
だが、崇徳鬼神は男の姿を見るなり自分の目を疑っていた。その姿は人間でも、不動明王の姿でもなく、別の神の姿であった。その姿とは…
闇に包まれし地獄を慈愛と浄化の光で照らした神の姿と似ていた。
いや?その姿その者と言って良かった!
『地蔵菩薩』
その慈愛の光は崇徳鬼神を覆う闇を全て消し去り、その中から崇徳天皇の姿が露になる。
「地獄から消えた救世主が何故、此処にいらっしゃるのだ?貴方に救いを求め、求め、求め、求め、求め続けて、救いを与えてくれなかった貴方が何故に此処にいるのだぁー!!」
崇徳天皇の訴えに地蔵菩薩の姿をした男は答える。
『俺は救うのではない!導き繋ぐ者だ!』
男から放たれた閃光は闇を完全に消し去り、崇徳天皇の邪念が浄化されていく。
その状況を見ていた俺と鬼女は驚きを隠せないでいた。この男は何者なのか?人か?神か?
「あいつは何者なんだ?」
その問いに晴明さんが答える。
「彼は馬鹿でお人好しで我が儘な馬鹿ですよ」
「?」
「それでも、この世界を救う唯一の存在…」
『神を導きし救世主!』
「!!」
神を導きし救世主とは何なのか解らなかったが、目の前に現れたその存在に疑う事が出来なかった。
「崇徳天皇よ!その魂、遅くなったが俺が救ってやろう…」
俺の瞳が金色に光輝き、その光が崇徳天皇を包みこんでいく。崇徳天皇は憎しみの邪念と浄化されたい魂とで苦しんでいた。かつて権力者によって陥れられ、その障害は長きに渡り恨み呪い続け悪霊の鬼神となった。
その時、再び男の姿が炎の中に包まれ、その手に燃え盛る剣を持った不動明王の姿へと変化した!
「我が剣・降魔の剣よ!我が滅する者を斬りさけ!」
男の持つ剣から発する炎が白く燃え盛る。それは浄火の炎!?
『不動明王浄火炎!』
男の降り下ろした剣は崇徳鬼神を斬り裂き、真っ白な炎の中に包まれていく。
「うぎゃあああああ!」
断末魔をあげる崇徳鬼神は次第に二つに分かれ、そして中より一体が抜け出して来た。しかしその崇徳天皇からは邪悪な力は感じず、未だに炎の中に残っているもう一体は身体が徐々に消滅していく。あの男は邪悪に染まった魂のみを斬り離したと言うのか?そんな事が?
「ふぅ~。崇徳天皇よ?これで召せるな?」
男の問いに崇徳天皇は笑みを見せ頭を下げて頷く。
「このご恩、天に召しても忘れませぬ。ありがとうございます」
そう言って、崇徳天皇の浄化された魂は光に包まれて成仏したのだ。
見届けた後、
「終わったな…」
安倍晴明にあの男が問う。
「そういえば晴明?結局お前は何をしに来たんだ?」
「それはですね」
安倍晴明は突然、俺と鬼女に視線を向ける。
「私はその二人に死んでもらいに来たのです」
「はぁ?」
安倍晴明の目的に俺と鬼女は警戒する。こいつ達は俺達にとって敵だったのか?
「と、言っても…どうやら二人は既に一度死にかけたようですね?」
「お前の言ってる意味がさっぱり解らん!」
「私は次世代の後継者探しをしていたのです」
「後継者だと?」
「そう。総本山を守護する後継者をね?彼らは二人ともその資格を持った者達です」
「つまりスカウトに来たのか?この二人を?」
「でも、殺すって何だよ?」
金髪の僧侶に晴明が答える。
「転生の譲渡には一度死にかけなければ出来ないのです。私の場合は物心付いた時には安倍晴明の記憶が表に出て来て戸惑いましたがね?」
「俺は転生者じゃないからいまいちよく分からないぜ」
「まだ覚醒したばかりで力は未熟ですが、二人ともかなりの力を持った転生者ですよ」
そこに救世主の男が割って入る。
「なぬ?こいつ達が誰の転生者だって?」
「それはもう二人自身が記憶の譲渡を得て解っていますね?」
記憶の譲渡?
それは俺と鬼女が闇に飲み込まれた時に聞いた俺とは別の自分自身の声?
その俺は説明が難しいが、とにかく正真正銘自分自身だと本能的に実感した。が、俺が体験した事のない経験や記憶を流し込んで来たのだ。その記憶が俺が誰…だったのかを教えた。
俺は…
『坂上田村麻呂』
そして、鬼女もまた俺と同じ感覚を経て自分自身が誰だったのかを知ったのだ。
私は…
『鈴鹿御前』
俺と鬼女は互いに顔を見合せた。何故なら俺と鬼女は過去に夫婦だったからだ。
いや、その前にだ!
転生者だからスカウト?
「ばっ、馬鹿を言うな!過去がどうあれ俺は俺だ!そんな事で俺の人生は縛られてたまるか!」
「だよな?うむ。道理は合っている。もし俺でも反発するし、そんなの却下するしな?」
「おぃおぃ?お前がそう言ったら晴明の立場ないだろ?」
金髪の僧侶に例の男は名案をとなえる。
「ガキ共!お前達は俺が助けてやった!つまりお前達は俺に借りが出来たわけだな?だったら借りを返すが道理!働いて返せ!」
んなぁ?何をほざいてやがる?この親父??
「さっきはガキを救うのが大人の役目とほざいてなかったか?」
「はぁ~?そんな過去は忘れたぞ!」
過去にしやがったー??
さっきは少しウルッと来ちまったのに、俺の感動を返せよ!マジに!そっちがそういう屁理屈言うなら俺にも考えがあるぞ!
「お前達がいなくとも俺は何とか出来たんだ!余計な世話して借りを作った気になるな!」
「ほぉ~?」
「俺はお前達なんか必要ない!」
「強がるなよ?ガキの分際で!そんなんは俺達に勝ってから言うんだな?」
「だったらお前に一発くらわせてやる!」
「一発でも当てられたならお前も、その娘も自由だ!好きにすれば良い!」
「その言葉に二言はないな?」
「無論だ!この蛇塚に一発でも入れたらお前の好きにしろ!」
「オィオィ?俺かよ!」
突然話に巻き込まれた金髪の僧侶が呆れたように言った。
「誰が相手でも構わないぜ!」
俺は金髪の僧侶に向かって殴りかかる。が、気付くと俺の身体は一回転して地面に倒れた??
「何が?」
「そいつは合気道の超達人だぞ?油断するなよ?頑張れ、少年!」
「頭に来たぁあああ!」
だが、その後も俺は金髪の僧侶に一度も触れる事なく倒される。
「ん!?」
金髪の僧侶が突然背後に気配を感じて攻撃を躱す。
「私も参加します!」
それは鬼女だった。こいつの事を忘れていたが、俺と同じく巻きぞいか?
だが、結局二人がかりでもかすり傷一つ付けられなかった。
悔しかった…
が、俺は胸が躍っていた。こんな強い連中がいる総本山に興味を抱き、こいつ達のように…いや!こいつ達よりも強くなってやると目標が出来てしまったのだ。
ぶっ倒れている俺に、あの男は言った。
「お疲れ様。俺はお前みたいに足掻く奴は好きだぜ?」
そう言うと、
「蛇塚?こいつの世話を任せる。良いな?」
「だと思ったよ!」
「で、晴明はそこのお嬢ちゃんな?」
「最初から、そのつもりですよ」
と、勝手に割り当てられたのだ。
つまり後々蛇塚さんは俺の師匠になる。
「その前に呪いを解いてあげますよ」
晴明が鬼女に近付き顔に手を近付けると、
「何を?」
鬼女の爛れた反面から黒い霧が蒸発し、その素顔から美しい女が見えた。
えっ?
鬼女もまた自分自身の呪いで醜くなった顔が元に戻った事に信じられないでいた。
「君の顔に集まっていた障気を祓っただけです。貴女が使っていた呪いはかけるより反動が危険な術法。先ず君は自分自身を守る手段を覚えるのが課題ですね」
「出来るのですか?私に?」
「貴女なら容易ですよ」
と、何か上手く話が進んでいるようになっていたが、実はこれからが俺と鬼女にとって苦難の日々が始まるのだ。
次回予告
坂上タムラと鬼女は総本山にて修行の日々が始まる。
だが・・・