西王母打倒策?復讐の玉面乙女!
西王母を相手に戦うのは、玉面乙女だった。
この戦いは、サクヤ龍王を失った復讐なのだ。
妾は玉面乙女。
サクヤ義姉さんの仇。
その西王母が目の前におる。
相手は仙界を支配する始祖の大神。
しかし恐れはない。
「妾は、お前を葬る。サクヤ義姉さんの仇は妾が討ち取るのじゃ」
妾の足下から溢れる水の柱。
濁流となって、西王母に迫る。
「私に水術など通用しない。無駄だぞ」
濁流は西王母の直前で蒸発して消えた。
「仙術の全ては過去に私が編み出したと言っても過言ではない。お前は五行の術の一つを極めた魔王として名高いが、私の前では他愛もない水芸よ」
「それはどうじゃろうな。西王母」
「!!」
濁流が消えた後から、ビー玉状の水球が弾丸のように西王母を襲う。
「何かと思えば、凝縮させた水玉か。凝縮した水は、金剛石をも貫通させられると言う。しかし私は西王母。全ての五行の術を極めし始祖の神」
妾の撃ち放った水球は全て西王母の周りから発する雷の前に打ち落とされていく。
「火、雷、土、風、水。確かに水術は他の五行の術の中では使用者が多くマイナーな術。それ故、使い方は面白いくらいに発明されてきたのを知らないのじゃな。ふふふっ」
「?」
すると妾の撃ち放つ水球は雷を跳ね返して、西王母を襲った。
「何故、私の雷で落とせぬ?そうか、そう言うことか。ふざけた真似を」
西王母が気付いた通り、妾の水球は高速回転をしていた。
その回転が西王母の雷をも弾き返したのじゃ。
更に回転は貫通力も高めて、西王母を襲う。
「種明かしが分かれば雑作もない」
すると西王母は妾の如く水術で水球を出現させ、同じく回転させて妾の水球と衝突させながら消していく。
「一度見た術を容易く真似るか。流石は西王母。しかし妾はお前がカミシニでなかった事を本当に幸運だったと思うぞ」
「ふふふっ。何を喜んでいる?お前の相手は始祖神。力の差は歴然。勝った気になっているつもりか?何処まで愛でたい奴よ。一度は娘として扱ってやった事で、調子こいておるのか?慈悲を求めておるのか?甘いぞ!玉面乙女」
「それは、今のお前の姿を見てから言うのじゃな。西王母!」
「なんと!?」
すると糸のような水線が、西王母の身体に絡み付き、動きを縛り止めた。
「い、いつの間に?そうか、先程の水術は私の目を謀るための陽動だったか。この糸は水術で極限的に細く、視界からも妖気の察知も出来ぬほど、気配を消した見えない糸。これを私の周りに張っていたのか?姑息な真似を」
「お前がカミシニなら、この糸はお前に触れる事も叶わなく無効化されていたであろう。今の妾は忌眼を失い、カミシニの血の能力も失った。しかし水術は、一度死んだ時よりも冴えておるのが分かる」
妾はサクヤ義姉さんの形見である未来視の魔眼を受け継いでいた。
この日までの特訓で、この未来視を使いこなせるようにした。
西王母の次の動きや、行動を先読みして罠を張っていた。
この戦いは、妾はサクヤ義姉さんと一緒に戦っているのじゃ。
そして、西王母打倒の策がもう一つ。
妾は思い出していた。
玉面公主として死んだ時、妾と戦って殺した相手。
一人は鉄扇。
そしてもう一人。
その者とは一度と本気で戦った事は無かった。
無かったけれど、勝てる気がしなかった。
その者とは、牛角様を奪った羅刹女ではなく、その側近だった。
蠍の女妖怪。
猛毒の針を操り、糸を使った拘束を得意としていた。
その糸は凝縮させた妖気の糸。
同じく妖気の針を使った暗殺術。
妾は、その者が戦う姿を見た事があった。
戦場で、羅刹女より先に敵軍に忍び込み、隠密の暗殺部隊を率いて戦っていた。
闇に紛れ、敵は殺された事に気付くことなく倒れていく。
身震いがした。
恐らく妖気の全てを見せてはおらぬ。
潜在能力も読めない相手。
羅刹女が右腕として信頼を寄せた猛者。
噂では、羅刹女を暗殺しようと試みて、逆に羅刹女に魅入られ、魅いって側近となったらしいが、羅刹女を内から殺そうとしていた妾に対して、最初から敵意を向けて殺気を放つ褐子精に対し、既に魔王だった妾すら恐怖した。
「あやつの技を真似るとは、この妾も焼きが回ったようじゃ」
しかし相手は西王母。
最も元から正統派な戦いで勝てる相手とはそもそも思ってはおらぬ。
ならば確実に隙をつき、仕留めるには、あの褐子精の戦い方が頭から離れなかった。敵を欺き、確実に殺す。
「お前が始祖の神であっても、妾の能力が通用するのであれば、仕留めらるのじゃ!」
「ぬぅ、うわぁあああ!」
妾の張った水の糸が、西王母の身体を締め付ける。
衣が裂け、肉に軋む。
「そのまま細切りにしてやろう。死ぬのじゃ!」
「フッ」
すると西王母が笑みを見せた。
「この私の身体に傷を負わせるとは、お前の事を見誤っておった。お前は、私に噛みつく獣だったようだな。もはや飼い慣らす気も失せたお前には、この場で私に逆らう事の愚かさへの見せしめにしてやろう」
「!!」
その直後、西王母の身体に巻き付いた妾の糸が1本1本と裂けて切れていく?
まさか鋼でも斬れぬ程の凝縮させた水糸が、どうやって?
「そんな・・・!?」
アレは切ったのではなく、突如盛り上がった西王母の筋肉により、裂けたのじゃ。
「グヌヌヌヌ」
唸り声が響く。
まるで威圧。
全身が震えるのは恐怖?
「獣神自在変化唯我独尊」
それは西王母の変化。
神獣への変化が神獣変化。
獣神の鎧を纏い、人の姿を保つのが獣神変化。
これは獣と人の特性をどちらかに偏らせ、最大限に活かした特化型だった。
なら、この獣神自在変化とは?
獣と人の特性を両方最大限に特化させた最上位の変化形態なのじゃ。
今の西王母の姿は、豹の尾を垂らし、下半身は虎の姿。しかし上半身は人の姿をし、髪は乱れた蓬のように長く伸び、乱れた髪がまた野性味溢れた姿を見せつけた。
「この姿を見せてやるのは褒美。夫の前では見せぬように気を使っておったが、今は取り込み中ゆえ、たまには私も羽を伸ばしたくなった。さてと」
「!!」
瞬間、西王母の姿が消えたかと思うと、妾の腹部が抉られて血を噴き出していた。
見えなかった?
なんて、スピードじゃ?
本当に攻撃を受けるまで、何が起きたか分からなかった。
奴は妾に接近し、そして腹部の肉をその爪で抉ったのじゃ。
妾がサクヤから貰った未来視の魔眼を持っても、その動きが捉えられなかった。
「クゥッ」
跪く妾は、傷付いた身体に手を翳すと、血を垂らす傷跡に水液が覆って塞がっていく。
「素晴らしい再生力。それがカミシニの血をも耐えしのいだ玉面と呼ばれる特異種の能力か。殺すには本当に惜しいが、聞き分けのない者は、あの金剛魔王と同じく魂を消し去り、そして傀儡として扱うべきか」
「妾を傀儡とは、片腹痛いわ」
確かに傷付けられた片腹は痛かった。
が、そんな冗談は言えるほど余裕はない。
力の差は歴然だと感じる潜在能力。
これが本当の西王母の力なのか?
「近年、三眼族の魔眼、影の一族の影使い、そしてお前のような特出させた能力を持つ者が産まれてきている。それはいずれも我ら始祖の神に匹敵する危うい能力だ。危うければ、我ら始祖の神が管理するか、消し去るしかあるまい」
「そう簡単にいくか?」
「安心しろ。次はお前の頭を切り落とし、潰してやる。そうすれば、再生も出来まい。お前は気付く暇もなく命絶えておろう」
次の瞬間、西王母の姿が消えていた。
全身から妾の血が噴き出すように飛び散った??
西王母は妾をいたぶっておるのか?
傷を負った場所に更に同じ傷が深く抉られ、繰り返される。
妾の再生力を上回る攻撃が、恐怖と力の差を見せしめているようだった。
「うわぁああああああああ」
妾に迫る死。
「!!」
そして、妾を仕留めにかかった西王母の爪が私の喉元で止まる?
「お前は?」
西王母の爪は割り込んで来た紅色の扇によって弾かれたのだ。
「まさか私が仇であるお前の命を守る日がくるなんてね。思ってもみなかったわ」
西王母の攻撃から妾を救ったのは、鉄扇だった。
「鉄扇、妾は助けてくれとは言ってない」
「殺されかけたくせに、礼も言えないの?」
鉄扇は扇を構えると、私に答える。
「あんたが敵討ちさせろと煩いから、今まで手を出さないでいてあげたけど、これ以上は無理だと判断したわ」
「ふん!」
鉄扇の乱入に、西王母も不満げでいた。
「邪魔をして、一緒に殺されたいようだな。それも良かろう。しかしお前のような小娘が私に勝てると信じているのか?魔眼能力者の娘」
「あら~?何か勘違いしていない?あんたの相手は私じゃないわ」
「?」
すると今度は、空から何者かが猛スピードで落下して来ると、私達の前に轟音と共に着地して、砂ぼこりの中から現れた。
その姿を見て、あの西王母が怯んだ。
「西王母さん。ようやく決着の日が決ましたね。ずっと待ちわびましたよ」
「お前が私の相手をするのか?」
「はい。私なら、お相手に足りると思うのだけど、どう思います?」
「確かにな。お前なら申し分ない。いずれこの日が来ると思っていたよ。で、お前は私の側近から、今度はその二人の仲間になったのか?」
「う~ん。私は逸材を育てて、私と戦っても壊れないようにするのが生き甲斐ですから。これも、西王母さん?貴女が私に教えてくれたのでしょ?」
「九天玄女!」
妾と鉄扇は、仙女院国での戦いの後にこの九天玄女に拐われて、そして嫌々拒否権もなく修行を付けられたのじゃ。それはもう血反吐なんか生温いくらいに。
しかし九天玄女はもともと西王母の側近だ。
しかも西王母の娘も育てたらしい。
「私の娘を育ててくれた事は本当に感謝したわ。彼女も始祖の力を出せるほど成長しましたし、とても母親としては嬉しい限りです。このお礼は、この場で貴女を倒す事で返してあげようじゃないか」
「礼を言うわ」
一瞬、この場の空気が固まった。
が、同時に妾も鉄扇も二人の姿を見失った。
「上よ!」
先に気付いた鉄扇が、見上げると空の方で二人が衝突する姿が見えた。
「天が震えているようじゃ」
「アレが現状、最強の女同士の戦闘のようね。悔しいけど、まだ追い付けないわ」
その強さは、あの羅刹女と同格。
鉄扇は二人の戦いから、目指す羅刹女の姿を被らせていた。
「妾の手で倒せなかったのは悔しいが、今の妾では無駄死に。今は九天玄女に任せるしかないのじゃな・・・」
妾の戦いは、終わったわけではない。
もし九天玄女が敗北すれば、今度こそ妾が西王母を討たねばならないのじゃないからな。
そのために、九天玄女には西王母の体力を少しでも削ってもらわねばな。
ふふふっ
次回予告
九天玄女と西王母の、現存する最強女達の戦いが始まろうとしていた。
女は恐いと言われているが、その頂点決定戦が始まる。




