世界を飲み込む歪み!
王魔の死が、世界を巻き添えにするのか?
俺は牛角魔王だ。
まさか四面王魔の最後の足掻きが、自爆だなんて。
しかも己と道連れに世界を飲み込むなんて真似、出来るとは思えない・・・
思いたくはないが、四面王魔の存在していた場所から真っ黒な歪みが穴となり、その場の全てを飲み込んでいたのだ。次第に吸引力は強くなり、この俺も耐える事で精一杯。
「お前達、ここは俺に任せてこの場から離れて距離を取れ!」
俺の言葉にその場にいた紅孩児、剛力魔王と玉面乙女が頷き、離れて行く。
四面王魔が造り出した歪みはどんどん大きくなっていき、本当に世界を飲み込むのではないかと思わせる程の、悪寒を感じた。
あの穴の中に飲み込まれると、塵となって消滅していく。
まさに塵芥チリアクタ。
「燃え上がれ!俺の魂!」
俺は覇蛇の力を全開に解放させた。
もう二度と俺は暴走などせん。
「お前(四面王魔)が残した後始末は俺がしてやるぞ!」
俺の覇蛇の気が、俺の身体を纏う。
このまま近付き、あの歪みの穴を押し潰しながら、消してやろう!
俺は両手を広げながら覇気を放ちつつ、目の前の歪みを押し潰しながら押さえ付ける。
「グゥオオオオオオ!」
なんて、勢いだ。
俺の力を突き破るように押し広がってくる。
俺の力は、ただあの穴の膨張を止めているだけに過ぎなかった。
これがカミシニの王の力。
倶利伽羅の力なのか?
だが、ここは俺が食い止めねばならぬ。
俺がやらねば・・・
俺を元に戻らせてくれた紅孩児達に顔向け出来ぬからな。
「紅孩児と剛力を先に離れさせていて正解だったな。しかし、このままにはしていられんぞ」
その時、俺の魂が何かに触れた感じがした。
それは王魔の記憶だった。
流れ込む記憶は、王魔が最期に自分を誰かに知ってくれと訴えているようだった。
己を証明するための生き様。
今、起きているのは倶利伽羅の能力。
歪みの力らしい。
四面王魔の能力が、己を否定して世界を飲み込む力とは、本当に哀れな奴だ。
奴の存在そのもの(魂)がもう感じない。恐らくは能力解放と引き換えに、己の存在をもチリアクタとして飲み込まれたのだろう。
命と引き換えて世界を滅ぼしたいとは。
この俺は、魔王と呼ばれてはいるが、世界を滅ぼしたいたいとも、手に入れたいとも思った事がなかった。無欲?
いや、俺は満ち溢れた人生だったと思う。
魔王として、一度は地上界を統一させようと父上の下で働いていた事もあった。
それは弟の蚩尤の自由を得るためだった。
俺が父上を討ち果たし、逆賊の王となった後は、生きる屍のようだった。
そんな俺を美猴王の奴が手を引っ張り、再び地上界統一を掲げて戦場に呼び戻した。しかしそれは俺にとって、何のしがらみもなく、己の力の限り闘った自由な戦い。
仲間達との絆の戦いだった。
天界との戦いで敗戦となった後も、俺は羅刹女と出会い、そして幸福を得た。
しかし羅刹女が殺され、紅孩児を拐われた後も、俺は生きる事に絶望はなかった。
俺には紅孩児が残されたのだから。
俺には生きる目的がある!
王魔よ、俺はお前のように世界に憂いている暇はないのだからな!
「決して退かぬ!この俺の誇りにかけて、必ず止めて見せるぞ!!」
俺は全身全霊でありったけの覇蛇の気を解放させた。
これはもう力と力のぶつかり合い。
覇蛇の気で覆っていても、押さえ付ける俺の腕が押し返されていく。
力を抜くと、俺自身が穴の中に吸い込まれてしまう。
「このまま力を出しきっていれば、いずれ俺の方が力尽きてしまう・・・それに比べて王魔の造り出した歪みは徐々に吸引力がアップしているように思える。無尽蔵なのか?ふざけるなよー!」
このままでは時間の問題だぞ?
だが、俺は退かぬ!
「!!」
その時、俺の身体が軋み始める。
そろそろ肉体が限界がきているのか?
俺の覇蛇の気が弱まってくる。
これはカミシニの力が俺の覇蛇の気をも喰らいはじめていると言うのか?
視界がボヤけ始める。
もう押さえ付けている腕の感触もない。
戦いの中で負った傷の痛みすら感じない。
「こうなれば・・・」
俺に過るのは、最後の力を全て使い、一か八かで自爆する。しかしそれで本当にこの歪みを消せるのか?無駄死にする事も考えられる。しかし、このまま放置する事も出来ぬ。
俺の身体が覇蛇の力に軋み始める。
もう限界が近いのか?
なら、考えている暇はない。
「紅孩児、強く生きろよ」
俺は瞼を綴じて、覚悟した。
その時、俺の視界に人影が両手を差し出して力を放出した。
「父上!大丈夫ですかぁ!俺様も力を貸します!!」
「紅孩児!」
何故、来たと問う前に、
「父上、俺様は父上に守られているだけじゃない。父上を守れる強さを必ず手に入れる。その為に、まだ父上から学ぶ事はたくさんあるんだぁー!」
「!!」
俺は我が子の言葉に胸が熱くなった。
「それに父上を守るために命を惜しまない連中は俺様だけじゃないぞ」
「!?」
すると、剛力魔王と玉面乙女が同じく押し寄せる穴に向かって押し返そうと力を注いでいた。
「諦めるわけには、いかぬな」
だが、これはもう時間の問題だった。
力尽きるのが先か?
それとも飲み込まれるのが先かだった。
「この三人を死なせるわけにはいかない」
しかし、俺の言葉に三人は頷かないだろう。
このままでは四人纏めて死ぬ。
いや?この歪みの穴は、この世界を飲み込むまで消えないかもしれぬ。
その時だった。
「!!」
何者かが俺達の真横を静かにすり抜けて、王魔の作り上げた歪みに向かって行く。
その姿を見た時、俺はその者の姿を見て何者か気付いたのだ。
「世界を飲み込む歪み。世界を滅ぼして無に帰す。それは私の思い描く未来ではありません。王魔よ、倶利伽羅の力を授かっておきながら、その力の使い道を誤ってはいけませんね」
その者は歪みの穴に掌を向けると、目の前の歪みの吸引力が収まっていく。
そして徐々に小さくなっていく穴。
「封神永業」
すると王魔の歪みが完全に消失し、王魔が人の姿を残して目の前に倒れていた。
王魔の歪みを消し去った者は、フッと、笑みを見せると、俺達に興味を見せずにその場を去ろうとした。
「ま、待てぇー!」
そこに俺が呼び止めたのだ。
「どうしてお前が現れた?まさか俺達を助けに来たわけではあるまい。それにお前は死んだと聞いていたのだが?何とか言え」
『楊戩!』
楊戩の話しは聞いていた。
一度合流した沙悟浄と阿修羅から聞かされたとは、この楊戩がまさかカミシニの神と名乗り、復活したと言う話を。
敵か味方なのか?
「牛角魔王さんですね。私は今、やらねばならない事が山ほどあります。いずれ準備が終え次第、そうですね」
その時、俺だけでなく、この場にいた全員が鳥肌に、身体が硬直して動けなくなった。
「世界に湧いたお前達虫を駆逐しますから。それまで、今ある生を大切に過ごしなさい」
「くっ」
やはり敵なのか?
それに昔の楊戩とは比べ物にならないほど、恐怖に身震いする程の力を感じる。
「私は旧友に会いに立ちよったまで。今日は見逃してあげます」
さらにその時だった。
「な、何だ!?」
空が震えるように振動し、さらに強烈な閃光が天から大地に突き刺さる。
その光柱の中より、
「旧友とは俺の事か?楊戩よ」
その者は、二郎真君?
次回予告
倒すべき真の敵!
それはカミシニの神・楊戩なのか?
それとも始祖神・玉皇大帝なのか?
 




