王魔の歪み!!
王魔は己の一生を振り返る。
その先に何が起こるのか?
俺は王魔。
全身が麻痺して、動かねぇよ。
俺は死ぬのか?
わざわざ不死の化け物になった俺なのに、死ぬなんて冗談じゃねぇよ。
思い出してしまう。
俺は元は人間だった。
赤子、俺は産まれて直ぐに捨てられた。
理由は俺が醜いから。
その姿は人間と化け物が混ざりあった、化け物のような異形をしていた。
俺の母は化け物に襲われ、俺を産んだ。
半人半妖の赤子。
それが俺だった。
俺は産まれて直ぐに言葉を理解し、そんな母親の言葉を理解していた。
母親は俺を忌み嫌い、恐怖しながら、誰にも見付からないように崖底から放り投げたのだ。
俺は落下しながら身体を打ちあてられ、そして地面に叩きつけられた。
それでも生きていた理由は、俺が半妖だったから。人間離れした再生力があったから。
いや、俺が死ぬ事に関して畏れ、生きる事に執着していたから。
俺は這いつくばりながら、移動し、死臭する俺に群がる害虫を貪り、生き永らえた。
それから俺は人間世界で生きた。
周りの者が気持ち悪がる容姿を隠すように仮面を付け、異色な色の肌を隠すように包帯を巻いて姿を見せないようにした。
それからの俺は・・・
俺は食べていくために傭兵に入って、僅な収入でその日その日を生きていた。
そんな俺の転機は、傭兵として雇われた戦場で敗戦した俺が生きながらえ、入り込んだ場所。
仙界だった。
俺は仙界でも追われる身となった。
化け物のような容姿、そして人間とも判断出来ない異形の俺は、殺してしまう事で災いを消してしまおうと言うわけだ。
俺は仙人達の使う術になすすべなしに捕らわれ、そして殺されそうになった。
「!!」
そんな俺を助ける者達がいたのだ。
それは妖仙と呼ばれる、仙人とは異なる異質の者達だった。
そして助けられた俺は警戒しながらも、感謝しようとして気づいた。
「マジかよ・・・」
言葉が出なかった。
ソイツらは全員が俺と同じく、醜い化け物の姿をした半人半妖の集まりだったから。
俺と同じような境遇、俺と似た姿。
俺は、そこに生きる場所を見つけられたのだ。
俺はその連中から、妖仙の術を学んだ。
人間としての俺は俺の力を使いこなせずに無駄にしていた。
しかし妖仙の術を学んでからは、まるで水を得た魚のように、俺は力を得て、妖仙となった。
そこで俺は気の合う連中達と、義兄弟の契りを交わし、四聖と呼ばれるようになった。
俺達、四聖王魔、李興覇、楊森、高友乾の名声は妖仙の間では名高く、よく魔家四将の連中が名声欲しさにぶつかり合うこともあった。しかし聞仲が間に入り、和解した。
この聞仲は俺達とは違い、仙人の中の最高位に位置し、俺達とは真逆の存在。
俺達が一度、聞仲を襲った際に、奴は俺達を圧倒した。
死を覚悟した俺達だったが、奴は俺達に興味を抱き、招いたのだ。
あの聞仲って奴は、俺達のような妖仙を相手にしても忌み嫌う事なく、実力を評価し、そして平気で酒を共に飲み合える男だった。
俺達はそんな聞仲の頼みだけは断らず、紂王
その後は仙界大戦勃発。
太公望の封神計画で仙の魂が封じられ、聞仲の軍に組した俺達四聖も加わった。
敗戦だった。
兄弟達も封神され、あの聞仲までも封神されてしまった。
この俺だけが生き残り、あの戦争から逃れたのだ。
が、俺は別の問題が起きた。
西王母の張った時の牢獄に封じられたのだ。
それから同じ時を繰り返した。
どれくらい経っただろうか?
俺は、同じくこの時の牢獄に封じられていた竜吉公主、金托、人間の小娘と共に力を合わせて脱出に成功した。
その後が大変だった。
まさか外の世界(人間界)が蛇神が跋扈し、俺達が生き残れるような世界じゃなかった。
なら、時の結界の中にいた方がましだったかもしれない。
行き場を探し仙界へと逃亡した俺が知ったのは、この仙界もまた脅威の中にあった。
西王母が何やら恐ろしい計画を企てていたのだ。それがまさか仙界大戦で封神された者達や、この数百年の間に死んだ死者を甦らせ、カミシニ化させることだったなんてな。
蛇神の脅威が過ぎて直ぐに、西王母の脅威が新たな波となって開始された。
が、この企てに起こった落とし穴。
それがまさか、俺を時の結界から抜け出すキッカケを作った人間の小娘だった。
しかも噂では蛇神討伐の功労者だとか?
そのお陰で、仙界と人間界に分かれた封神されし武将達の魂が解き放たれ、カミシニ化して二つの世界の戦争が勃発したのだ。
紂王
俺は聞仲の復活の噂を聞き、人間界側を統べる紂王の軍勢に入った。
そこで俺は死んだはずの義兄弟達と再会したのだ。
しかし、腑に落ちない。
カミシニ化した義兄弟の三人が、確かに奴らなのだが、同じ記憶を持っているにもかかわらず、ズレがあった。
記憶違い?
そう最初は思っていたが、確かに奴らは奴らであって、別の何かなのだ。
違和感は、誰にも察すられないようにした。
警戒しながら、こいつ達の懐で居座ったのだ。
俺はそこで、カミシニ化する条件で仲間入りする事になった。
カミシニの血を盃に、その血を飲んで感染し、カミシニ化する。
カミシニ化への条件は幾つかあるらしい。
先ず一つは人間である事。
神にとって、カミシニの血は猛毒。
よって、カミシニ化する前に消滅するのは当然。
西王母の計画を知るために忍び込み、知った事は、元神仙であった者や妖怪は、新たな人間の器を用意されて肉体を手に入れ、カミシニ化させる手順があった。
あの太白金星や金霊聖母も神でありながら、カミシニ化しているのは、その器を交換されたからだと知ったのだ。
では、半人半妖の俺は?
これは半々の賭けだった。
そして、もう一つの条件。
それは神に対する憎悪の念の強さ。
そして、生への執着心。
この条件は俺にとっては朝飯前だ。
後は半人半妖である事と、そして他のカミシニ化した連中のように記憶の欠陥が生じる不安だけが問題だった。
「生き残るために、俺は何でもやる!」
俺はカミシニ化への盃を飲み干した。
全身を襲う猛毒。
血が沸騰し、全身の穴と言う穴から血が流れ、新たな血が増殖と共に入れ替わっていくように感じた。そして、俺を襲う死への誘い。
死ぬ?生きる?死ぬ?生きる?
この問いが幾度となく繰り返され、俺の意識が飛びそうになった時、俺の前に現れたのは、見間違う事なく、この俺の姿だった。
(なんだ?俺は夢でも見ているのか?)
鏡ではなさそうだ。
その俺はニヤニヤしながら俺に近付いて来ると、この俺の胸を握り、言った。
「この器が俺の新たな肉体か。どうせならもっとこう二枚目の身体が欲しかったところだが、別の肉体だと拒否反応が出るようだからな。仕方ねぇ。俺の肉体は俺が貰う」
そう言って、俺に吸収されるように入り込んで来たのだ。
お、おい?なんだ?これは?どういう状況だ?これは?俺が俺の身体を奪う?
拒否反応が起きた。
「俺の身体から出て行けゃーーー!」
俺の身体から、その別の俺が弾き出された。
「なんだ?まさか自我を保ってやがるのか?しつこい奴だ!やはり俺は俺か?生への執着心が半端ねぇな!こりゃ!」
「てめぇは何だ?何故、俺の姿をしている?俺をどうするつもりだ?」
「俺はお前であって、俺は俺だ。説明はいらん。今からその器は俺が貰う。だから、今のお前には消えて貰うぜ!」
と、この俺が俺に襲いかかって来たのだ。
「俺は誰であろうと、俺は奪わせない。たとえ俺でもだ!だから、お前は俺が殺す」
俺は襲いかかって来た俺の胸に手刀を突き刺すと、血を吐く俺の頭を掴み、もぎとった。
悲鳴をあげる俺の姿を見るのは、とても気持ち良いもんじゃねぇな。
「!!」
そこで、俺は目覚めた。
「・・・・・・」
俺は今の体験を誰にも話さなかった。
義兄弟にもだ。
俺は俺で仮説を立てた。
もし?カミシニ化する際に、俺と同じように別の自分に身体を奪われていたとしたら?
そう考えると、今の義兄弟や他の連中との記憶の相違が納得出来る。
今の奴らは奪われし、者達なのではないか?
そもそもあの自分は何者なのだ?
何もかも分からねぇが、俺は生きている。
俺は俺のまま生きているのだ。
そしてカミシニ化を遂げた俺は生き残り、後に西王母の軍へ身を置いている。
これもちゅうおうが死して、血の盃を受けた俺の身が滅びる寸前に申公豹から新たな血の盃を受け取り、生き残ったからだ。
俺は生き残るためになら、なんだってやる。
生き残るためになら、俺は!
その時、俺の中で流れる血が、まるで俺の中を寄生虫や蛇か蠢くように活発になる。
そうだ、俺は倶利伽羅の王になったはず。
倶利伽羅の力はこんなもんじゃねぇ!
「ウゴォオオオオオオ!」
俺の中で何かが弾けた。
『歪み』
歪みとは、カミシニの上位種が使う特殊能力らしい。倶利伽羅となった俺に、この歪みの能力が備わっていたとしても不思議ではない。では、この俺の歪みの能力は一体?
『世界を飲み込む穴』
それは俺の身体を中心に全てを飲み込む無限のブラックホールであった。
「くぅううう!」
牛角魔王が剣を地面に突き刺して堪える姿が見える。
このまま奴を飲み込んでやる!
が、俺は気付いた。
この歪みの能力はどうやって止めるのだ?
止められるものなのか?
そもそも歪みとは、どのような能力なのだ?
(そ、そうか、そうなのか)
歪みとは、この世の理を曲げる能力だと聞いた。
聞仲の能力は時を歪ませ止める絶対無比の能力。
この発動の条件は、この世界の理不尽に対して、この世界への絶望から産まれた能力だと聞いた。趙公明は、死ぬ事に対しての拒否からの無限増殖能力。他にも他人への拒絶から、接近する全てを歪ませ近付かせない能力とか。
なら、この俺の歪みの能力は一つしかない。
俺が願ったのは、この俺一人では死なない。
どうせなら全てを巻き添えにしてやる。
この心の歪みが、世界を飲み込む歪みとなって発動したのだ。
もう、俺にも止められない。
この世界は、全て俺に飲み込まれて消える。
それも良いなぁ。
ヘヘヘッ、俺が全てを飲み込んでやる。
次回予告
王魔の歪みの発動に、牛角魔王は皆を守れるのか?
 




