進化する力に手を伸ばして!?
牛角魔王と王魔の戦いの幕が切って落とされた。
そして見守る紅孩児の前で父親の威厳を見せられるのか?
俺は牛角魔王。
どうやら、この王魔(四面王魔)は一筋縄にはいかないようだ。
「これからが本番だ」
「二度目はないですね」
「残酷に殺してやるぞ」
「覚悟は良いか」
四面王魔の四つの顔から声が聞こえた。
「忙しい奴だ。だが、俺も本気でヤらせて貰う」
牛角魔王が先に飛び出すと、抜刀した両刀で斬りかかる。四面王魔の十六の眼がギョロギョロ動くと、抜刀を一つ一つ見切って躱していた。
「お前の動き、手に取るように分かるぞ。次は俺の番だ!」
四面王魔は両手首から噴き出した血が凝固して大剣になると、牛角魔王の頭上から振り下ろした。
「ヌゥウウウウ!」
咄嗟に刀を交差して受け止めるも、重圧がのし掛かり、足下が陥没する。
「速さ、力、共に力がアップしたようだな」
「余裕を噛ましているようだが、いつまでもつかな?牛角魔王!」
「フンッ!」
牛角魔王の剣技の速度が上がっていく。
「!!」
その加速に四面王魔の眼が追い付けずに、次第に追い込まれていく。
「さすが父上だ。心配する事はなかった」
孩児児は父親の勇姿に感心しつつ、自らの不甲斐なさに落ち込んでいた。
確かに金色の魔眼を使えば容易く倒せるが、この力には己の魂を削るデメリットがある事は沙悟浄から聞かされていた。
それで孫悟空が消耗する姿を見ていたから、牛角魔王が魔眼使用を止めていたのだ。
そもそも金色の魔眼の仕組みがまだ謎だったから。ただの便利なチートパワーアップアイテムではなさそうなだけに、不安があった。
「ソォーーリャア!」
牛角魔王の振り下ろす刀が、四面王魔の頭上から斬り落としていく。
「うぐぅわあああ!」
これは幻でもなく、本体だった。
血が噴き出して、その場に倒れる。
完全なる勝利だった。
「力に頼りきり、己の身を磨いていない事がお前の敗因だ」
同時に剛力魔王と孩児児が敵兵を片付け終えた所だった。
(お、俺が死ぬだと?こんな所で?ふざけるな!俺は不死身の王魔だ!こんなとこで)
四面王魔は、過去の記憶が走馬燈のように思い出されていた。
九竜島に産まれ、そこで幼き頃より生きる事に執着し、這いつくばって生きて来た。
やがて名の知れた妖仙として、四聖の一人として仲間も出来た。
封神大戦では聞仲に従い戦った記憶。
その後は天界の金吒や竜吉公主と共に時の牢獄に封じられてしまった。
そして出られた後は、過去に付き合いがあった聞仲に頼み込み、紂王の配下となって主従の盃を得てカミシニとなったが、まさかの没落。
その後はによって、生き残るために新たに主従の盃を交わして生き残った。
今は申公豹の命令で西王母の内部スパイとして入り込んでいたが、まさかこんな場所で死ぬ事になるなんて思っても見なかった。
「お、俺は生きてやる。生き残る為になら、なんだってやる。這いつくばって誰の靴底だって舐められる。生き残る為なら、裏切れと言われれば裏切れるし、殺せと言われれば誰れでも殺してやる。お、俺は・・・死にたくなんかない!」
その時だった。
四面王魔の様子に異変があった。
滅びるはずの身体から血の障気が立ち込めて覆うと、禍々しい気配が広がった。
「!!」
その様子に気付いた牛角魔王が振り向いた時、王魔の姿が再び変わっていた。
己の鮮血が鎧と化し、今までにない程の圧が牛角魔王を怯ませる程に。
「血咒の忌鎧装」
その姿はカミシニの王たる鎧。
つまり倶利伽羅の王へと覚醒したのだ。
「ハッ?力が漲る?今にも溢れそうだ。否?この力が俺の力だと言うのか?そ、そうか、やはり俺は選ばれたのだな。王に、王たる資質を持つ支配者として!あははははは!」
ここに十人目の倶利伽羅王が誕生したのだ。
「進化しただと!?噂に聞くカミシニの頂点。倶利伽羅の王か。面白い。この俺の力が通用するか試してみたかったところだ」
が、牛角魔王は一歩も動けないまま、
「!!」
次の瞬間に吹き飛ばされていた。
まるで虫が払われる程の勢いだった。
「ぐぅおおおおおお!」
何をされたか分からなかった。
気付いた時にはその場から強い力で弾かれていたのだから。
「どうした?さっきの勢いは?それとももう御終いか?」
「冗談!見せてやろう!」
牛角魔王は二刀を交差させて、奥義を見せる。これこそ、
「二刀返三角刑!」
斬激が交差しながら三角状の刃が迫る。
「まるで虫が止まりそうだぜ」
四面王魔は先の戦いとは違い、完全に牛角魔王の動きを見切っていた。
そして牛角魔王の間合いに入り込んで、
「爆血開天珠」
「!!」
それは回転する珠。
それが牛角魔王の全身に埋め込むようにして貫き、爆発したのだ。
「うごぉおおお」
その衝撃に倒れる牛角魔王に、紅孩児
「父上!」
「牛角!」
が、完全に倒れる寸前に、牛角魔王は右足を踏み込んで、倒れる身体を凌ぐ。
「強い衝撃だ。俺の覇蛇牛の鎧を纏っていなければ、完全に貫かれ、爆殺されていたであろう・・・はぁはぁ」
ひび割れる鎧に、血が滲み出ていた。
それでも牛角魔王は二人に背を見せて、この戦いは俺の仕事だと制止していた。
「これが倶利伽羅の王か・・・」
牛角魔王の瞳が獲物を狙う目に変わる。
「いつになっても強き敵と戦える事は、血湧き肉踊るもんだな」
牛角魔王は剣を握り締めると、四面王魔に向かって突進し、息も切らせぬ連激を繰り出して攻撃をする。しかし四面王魔は驚異的に跳ね上がった身体能力と、何より十六の眼がその全ての攻撃を捉えていた。
「あはははは!お前の攻撃は俺には効かんぞ!お前はもう俺には勝てんのだぁー!」
四面王魔は口から障気を牛角魔王に吹き掛けるが、牛角魔王もいち早く察知して後方に飛び退けて躱す。障気が地面を熔かせていく。
「残念だったな?お前の攻撃も俺には通用しないようだぞ?多少強くなったようだが、調子に乗ると痛い目にあうぞ」
「何だと?強気になったところでお前は俺の足元にも及ばないのだ・・・ん?」
四面王魔の胸が割かれ、血が噴き出す。
「うぐぅわぁあああああ!(斬られた?斬られていたのか?俺は?いつの間に?さっきの攻撃が俺に届いていたと言うのか?いつの間に?)」
「ほら見ろ?斬られたことにも気付かなかったようだな?」
「こぉのぉお!」
四面王魔は力ずくで裂けた傷を塞ぐと、その傷が再生しはじめる。
しかしその傷の再生が鈍い事に気付く。
「俺は始祖の血を持っているが、その始祖はお前らカミシニと同じく神々に忌み嫌われた蛇神だ。カミシニの血と蛇神の血は相容れないようだな。つまり俺はお前の天敵だと言えよう」
「ぬかせ!お前、強気に振る舞っているが、俺の血の障気にあてられ、かなり体力を削られているくせに」
「チッ。見抜いていたか。流石は仙界大戦に名高い王魔だな。力に頼りきっているだけでは、伝説にも残らぬか」
「俺は臆病なんでな。無理はしない。本来ならこの場から離れる手段もある。しかしだ。俺はお前と戦いたくなったのだ。俺の見立てでは、お前は俺と同等の力を持っていそうだ。俺はまだ倶利伽羅の力に覚醒したばかりの赤子に過ぎん。俺はお前と戦いながら、俺を成長させているんだよ!あはははは!」
四面王魔は足下から障気の影を牛角魔王に向かって伸ばすと、影の部分が腐りながら牛角魔王左右から挟みうちにする。
「逃げ場無しか」
牛角魔王は離れて自分の戦いを見ている紅孩児の不安そうな顔を見て、
「そう頼りないか?お前の父親は。そうだな。俺が奴を倒せねば、父親としてお前に背中を見せられないな」
「潔く覚悟したようだな。死ね!牛角魔王」
「俺が潔いかと言ったが、俺の義兄弟は跪き、頭を下げてでも生き残り、そして最後には必ず勝利を手にする奴だ。どうやら俺も奴に多少なりとも感化されたようだ」
「俺に降伏するつもりか?だが、それはもう遅い!」
「誰がお前に縋ると言った?」
牛角魔王は瞼を綴じたまま、意識を集中させながら呼吸を吐き出して、魂を感じていた。
(血流を感じる。速く、勢いよく、熱い。そして全身を駆け廻る張り裂けそうな力の濁流・・・。俺はこの力を何処まで己のものとしていたのか?浦島との修行で良くて、3割から5割だったな。下手をしたら俺は再び己を見失い、そして新たな世界の脅威になりかねん。蛇神支配の再来)
「だが、そんな事はさせん!俺は今度こそ蛇神の呪いから、己の力で打ち勝ってみせるぞ」
蛇神の血が牛角魔王の中で濁流の如き廻られると、全身から覇蛇の力が解放される。
「ウォオオオオオオ!」
雄叫びが覇気を放ち、四面王魔の障気を打ち消したのだ。
それはそれで良かった。
しかし牛角魔王の様子がおかしい。
その変化に紅孩児が震えた。
「父上、まさか蛇神の血を?あの時のように牛角覇蛇になってしまうのか?そんな、ありえない。父上ぇええええ!」
叫ぶ紅孩児の声も届かない。
牛角覇王の禍々しい覇蛇の気が広がっていく。
その中で、倶利伽羅の力を持つ四面王魔のみが立っていられた。
「変な感じだぜ。俺の血が震えている?否?反撥するように武者震いしているようだ。まるで血と血が意識を持っているかのように敵対心を抱いているようだ。蛇神と倶利伽羅の血は何かあるのか?だが、そんな事を考えている場合ではないな。牛角魔王の異変は異常だ。馬鹿目。力を求め、完全に、己を失っているようだ」
「ウォオオオオオオ!」
牛角魔王の雄叫びが大地を震わせた。
そして牛角魔王が最初に攻撃をしたのは、己の視線の先に入った紅孩児だった。
「父上ぇええええ!」
紅孩児
紅孩児の声は届かない。
牛角魔王の刀が紅孩児に迫ったその時、その刀は受け止められた。
「牛角、駄目。私、止める」
それは大剣を盾に受け止めた剛力魔王だった。
剛力魔王の足下が陥没し、それでも受け止めた剛力魔王は剣を振り払う。
「元、戻る。牛角」
牛角魔王の暴走は、再び牛角覇蛇の再来なのか?
再び、命懸けの戦いが始まるのか?
牛角覇蛇の前に立ち塞がる剛力魔王。
その勢いに剛力魔王は大剣を振るいながら受け止めるしか出来なかった。
この剣が特別な意思のある武器でなければ、最初の攻撃で完全に破壊されていただろう。
そして剛力魔王の力あってこそ、受け止められてはいるが、それ以上は無理。
あまりにも力の差が有りすぎたのだ。
「くっ、牛角」
耐えきれずに膝をつく剛力魔王の眼前に、牛角覇蛇の刀が振り下ろされる。
「駄目だぁー!父上ぇええええ!」
「仲間殺しとは、牛角魔王よ。お前は俺に近いのかもな。あはははは!殺して、二度と立ち直れなくなれば良い。お前は力を求め、その力で全てを失うのだぁー!」
剛力魔王に振り下ろされる剣は止まらず剛力魔王の眼前に迫ったその時、その頭上から濁流の水流が牛角魔王を飲み込み弾き飛ばす。
「!!」
何が起きたのか?
誰もが思った。
その時、空より声が響いた。
「牛角様。貴方は妾が見込んだ男。別に誰を手にかけようと責めはしませんが、貴方に恩を与える事は妾にとって意味がありそうじゃと思っただけじゃ」
それは玉面乙女だった。
玉面乙女の姿が消えて、今度は剛力魔王の隣に現れる。
「久しいのぉ。剛力」
「玉面、お前、正気?記憶、戻った、のか?」
「姿は変わったが、妾は妾。お前の事も記憶にある。身の程知らずにも牛角様に近寄る恋小生意気な馬鹿力の女」
「正気、口悪女。通常」
互いに「フンッ」と顔を背けると、今度は牛角覇蛇を見詰める。
その二人の女を見て、紅孩児は思った。
父上は女たらしだったのか?と。
しかし、この二人は間違いなく、この現状で頼りがいがあった。
「俺様も、父上を元に戻すために戦う」
この戦いの行方は?
牛角魔王は元に戻れるのか?
そして四面王魔との戦いは?
次回予告
いい加減に展開をすすませてくれよ!牛角魔王!
息子には、えらそうな事ばかり言って、
力に頼って暴走って、あんた何度目?
と、心の中で呟いてしまった。