陰謀・抵抗・波乱の幕開け!?救世主無き世界!
法子と孫悟空が未来へと消えた後、この世界はカミシニの世界となっていた。
それは法子と孫悟空が西王母の造り出した次元の穴へと消えた後の話。
世界は再び亀裂した。
西王母と、その夫神であった玉皇大帝が、二郎神君の身体を器として復活したのだ。
更に仙界を西王母と二分とした始祖神であり、倶利伽羅王たる東華帝君の存在。
そして新たなカミシニの神が復活した。
カミシニの神とは、蛇神との戦争で死んだはずの楊戩だった。
地上世界を二分とした戦い。
いや、三分とした戦争が勃発したのだ。
その中で、法子と孫悟空を失った仲間達は、その両者に追われながらも、今も戦っていた。
天界の助力もなく、地上には避難出来ずに残ってしまった力無き人間達の集落があった。
彼等は、その取り残された者達を天界へと避難させていたのだ。
しかも、その戦いは既に三年の月日が経っていた。
その中で先頭にたっていたのが、沙悟浄であった。沙悟浄は阿修羅と共に地上界に残っていた人間達や多種の種族の者達を天界へと移住させる働きをしていた。
「必ず、法子さんと孫悟空兄貴は戻って来てくれる。それまで私が頑張らないと」
「沙悟浄。無理はしないで」
「ありがとうございます。阿修羅さん。でも、大丈夫です!次は北の大地に三百人の集落があるみたいです。その方達を早く天界に移しましょう」
「そこには、カミシニが軍隊を率いて既に進軍しているのだよね」
「急ぎましょう」
この地上に残っていた人間や妖怪達は、西王母や東華帝君が自軍を増強させるために捕らえては、カミシニの血を与え、配下を作っていた。そしてねずみ講のように配下は増えていく。
「我がカミシニの神に捧げよう。この地上界に生きる全ての者を等しく同族に致します」
カミシニは三段階の階級がある。
血を武器として戦う雑兵。
さらに血の濃度が濃く、飛躍的に力が強化された将軍級がいた。
将軍級はカミシニの配下達を率いて地上界の勢力拡大に努めていたのである。
「私は残った皆さんに、天界への道を開いて移動させます。そして進行する敵軍は任して大丈夫ですか?」
「あぁ。問題ないよ。僕には分かる。もう少しで、法子が帰って来るって。だから、僕が法子の帰る場所を守っておかないと」
神にとって猛毒のカミシニの血も、当たらなければ意味がない。
阿修羅の速さは並大抵の者には捉えられない。
阿修羅は手にした独古許を手に戦う。
多少なりとも触れてはならない敵を前にして、返り血すら脅威。
そんな心配なく、阿修羅の攻撃は一撃確実に敵をくだしては、次々と数を減らしていた。
阿修羅は単身、カミシニの軍の中枢に向かって行く。その戦いは、カミシニ相手にしても怯むことなく、逆にカミシニ兵達が恐怖する対象として噂されていた。
銀髪の戦神と。
「阿修羅さんが戦ってくれている間に、私は私の仕事に集中しないとですね」
沙悟浄は印を結び、結界陣を地面に張る。
そして神気で文字を記しながら魔法陣を描き、天界までの道を急拵えで造り出していた。
そもそも天界への道など、優れた神結界師が何人も集まって造り出すもの。
それを一人で造り出す沙悟浄は、天界では類のない存在であった。
光の道が天界へと昇っていく。
「道は開きました!皆さん早くこの光の道を通ってください」
生き残った人達は既に行列となり、言われた通り並んでいた。
中には、反抗する者もいれば、カミシニになれば逃げることなく、力を与えられて苦しむことなく生きられるなどと誤った噂を信じて脱走して行く者達もいた。
それでも一人でも助けるために沙悟浄は、天界への移住を説得していたのだ。
数時間後、戦いは終わった。
この地の住人を天界へと移し終え、阿修羅もカミシニの軍を殲滅させていた。
たった二人だけの戦い。
二人だけで、カミシニの軍を相手に戦うなんて無謀。それでも諦めなかったのは、法子と孫悟空が戻れば必ずこの戦いは変わると信じていたから。
食事をとった三人は休息をとり、眠りにつく。
その中で沙悟浄は目覚めて一人星を眺めていた。
「けど、やっぱり貴方がいないと心持たないですよ。八怪兄貴・・・」
八怪。
西王母との戦いの最中、単独で地上界と仙界の境目にある扉を開かせないために単独で門番として残ったのだ。牛角魔王と紅孩児が八怪を見付けた時、八怪は動かなかった。
心臓も止まり、呼吸も無かった。
死んだ?殺された?
それは違う。
八怪は何者かの能力によって肉体の時を止められたのだ。
その者は人間界より、仙界に入り込んだ侵入者だった。
八怪ほどの猛者が倒される相手とは?
その者の名は聞仲。
地上界を支配した紂王の側近にて、カミシニ最強の総大将であった。
倶利伽羅の王でもある聞仲は天界のナタクと、その父親である毘沙門天との共闘により倒したかに思えたが、死の間際に同じ倶利伽羅の王であった趙公明と張奎の力と同調し、その力を取り込んで甦ったのだ。その聞仲が仙界の扉を開けて入って来た時、八怪は対峙した。
破壊の力を持つ八怪と聞仲の戦いは熾烈を繰り広げた。
まさかの猛者の存在に聞仲は八怪相手に本気で戦う。
「打神鞭・大地」から繰り出される鞭の直撃は、八怪の身体を打ちのめした。
それでも何度も何度も立ち上がる八怪は、頑丈と言う言葉のレベルを越えていた。
「こんな化け物が存在しとるとはな。まだまだ私の知らぬ事は沢山あるようだ。しかしこの神々住まう新世界で王になるためには、どのような猛者にも敗れる事は許さぬ。私こそが世界を統一し、真王となるのだからな」
聞仲が打神鞭を掲げ、振り下ろすと地震で足元が崩れて立っていることも叶わなかった。
「うぉらぁあ!」
八怪も聞仲の強さに驚きを隠せずにいた。
「何者らか知らねぇらが、オラを止める事は出来ねえらよ!」
八怪は全身の力を拳に宿し、覇気と共に地面を叩きつけると、まるで嘘のように揺れが止まった。まるで力付くで震える星を強制的に鎮めたかのようだった。
「これで動けるらな。酔いそうらったら」
八怪が飛び出すと、その鋭い拳が聞仲を襲うが、全て紙一重で躱されたのだ。
「あまり時間はかけられぬ。この私の真の力を見せてやろう。お前には見せる価値があるようだ」
聞仲の身体から血の障気が立ち込めると、その身に倶利伽羅の王たる鎧が纏われる。
「血咒の忌鎧装」
その途端、八怪の全身に衝撃が走った。
「身震いが止まらねぇら。武者震いらか?こんな強い奴、危険な奴は久しぶりら」
「滑稽な事を。この私と同格の者が他にもいると言うのか?」
「なんら?お前は自分が一番らと思っていたらか?このオラよりも強い奴らはいっぱいおるらよ!オラの仲間にも、オラが戦って来た連中は恐ろしい奴らばかりらった。そしてこの先(仙界)にも、化け物染みた連中はうようよいるんら」
「そうか、それは楽しみだ。久しく味わう事が無かった。追う側ってのも面白い感覚だ。その為にも、先ずはお前を始末してやろう」
「残念らったな。オラもまた強いらよ」
「!!」
聞仲は、見た。
笑みを見せて見上げる八怪の瞳は、揺れる前髪から輝く金色の光が見えた。
「ナタク同様、金色の魔眼所持者か」
八怪の力が沸き上がる。
今度は八怪の漆黒の覇気に大地が揺れ始め、その闘気に地割れが起きた。
一触即発!
聞仲とハ怪の激しい戦い。
その戦いは、更にヒートアップしていく。
ハ怪の全身に傷痕が増えていく。
聞仲の鞭がかする度、血が焦げるように焼き爛れるが、八怪の闘志は止まらずに聞仲の間合いに入りこみ、その頬に拳が触れた。
「!!」
(この者は不死身か?この私が与えた傷痕が消えている?強力な再生力。カミシニの血で与えた傷までも塞がっていると言うのか?)
八怪も万能ではない。
カミシニの血で受けた傷は再生出来ない。
受けた傷は、その上から広く自ら抉るように削り落とし、再生させていた。
場所が場所なら、そんな芸当は不可能。
それを聞仲に気付かせないように、無限再生出来る者として認識させていた。
それだけで、相手に与えるプレッシャーは大きく、戦闘を有利に進められる。
「うぉらぁあああ!」
八怪の拳が聞仲の手刀で受け流した防御を潜り抜け、頬をかすめた。
「カッ!」
聞仲は八怪の繰り出す攻撃に一瞬遅れを取った事に誇りに傷をつき、聞仲は倶利伽羅の王たるもう一つの力を発動させた。
「!!」
八怪はその気配に本能的に気付いたその時、動きが完全に止まった。
「まさか私に奥の手を出させるとはな」
聞仲の額が割れて、第三の瞳が開いていた。
同時に、聞仲の恐ろしき真の力が発動したのだ。
それは絶対無敵の時を止める能力。
この能力の前にナタクは苦戦した。
が、八怪はこの能力に警戒していなかった事で、時の中に閉じ込められたのだ。
「手も足も出まい。今、この空間は私の領域。お前は目覚めたと同時に何が起きたか分からずに命絶えていよう」
聞仲が動かぬ八怪の間合いに入り、腰の剣を抜くと、カミシニの血が纏われる。
たとえ再生力が無尽蔵に思える八怪だとしても、脳を破壊され、意識外の攻撃の受ければ肉体再生が間に合わずに命絶える。
しかもカミシニの血は神を殺し、八怪の再生をも止める事は間違いない。
この攻撃で間違いなく殺せるはずだった。
「ぬぅう!?」
聞仲は腕を挙げた剣を持ったまま攻撃出来ずにいた。
何故?八怪は時の中で動けずにいた。
まるで石化しているかのように。
にも関わらず、聞仲が最後の攻撃が出来ずにいたのは、八怪の額が割れて第三の眼が見開き、聞仲を睨みつけていたから。
八怪は意識があるのか?
それとも、この第三の眼はハッタリなのか?
虚仮威しなら良いが、聞仲の攻撃に合わせるように第三の眼は聞仲の動きに合わせ動いた。
下手に攻撃をして、何が起きるか分からない。自らの攻撃がカウンターになり、自分自身にふりかかる可能性もゼロでもない。
「何処までも、この私に抵抗するか。だが、お前を殺さずとも、お前は二度と私に歯向かう事を禁ずる事は可能だ」
聞仲は掌に時の能力を集中させると、殺意を完全に消し、そして八怪の胸元に指先を軽く押し付けると、八怪の身体を障気が覆った。
その後、聞仲の姿は完全に消えていた。
そして残されていたのは、第三の眼すらも全く身動きしない八怪が石像のようにその場に残っていたのだ。
法子と孫悟空が不在のこの世界で、うごめく者達は目に見える者達だけではなかった。
「お呼びですか?主。僕の私兵はこのまま西王母の陣につかせて置けば宜しいですよね。それとも落ちぶれた東華帝君の陣に身を置きますか?あはは。冗談ですとも。冗談です」
その者の名は申公豹。
この者は何者かの下で隠密として動いていた。
西王母と紂王のダブルスパイとして動き、その情報を伝えていた。
「分かりました。確かに西王母には今、復活した玉皇大帝が君臨してますね。どう見えても、こちらの陣にて計画を進行させるのが一番だと僕も思います。それにしてもカミシニの神ですか?あの噂に名高い楊戩がカミシニの神だったと言うのは正直、想像してもいませんでしたよ。まさかご存知だったのですか?当然、ご存知だったのでしょう。だから、僕が挨拶に出向くのですね」
申公豹の次の目的は、カミシニの神である楊戩。
しかし、この申公豹もまたカミシニの王、倶利伽羅の力を持つ猛者であった。
その申公豹の真の主とは何者なのだろうか?
謎の陰謀が動いていた。
そしてもう一人。
「ようやく動けるだけの体力が戻ったようだ。あの馬鹿弟子の気配がこの地上から完全に消えているが、心配いらぬ。あの者はこの先、鍵となる運命なのだからな」
その者、人の姿をしてこそいるが、狼の耳と尾を持ち、金と銀の混ざりし長髪。
そして異常なまでの冷気を纏っていた。
「この俺の真敵。お前の喉笛を噛みきるのは俺だ。狼の爪も牙も、十分に研ぎ澄ましたからな」
復活した太上狼君が今、動く。
次回予告
沙悟浄と阿修羅だけではなかった。
この世界で抵抗する戦士達が動き出していた。