崩壊世界脱出!?ノアの方舟!
異なる未来世界の最後の戦いがついに・・・
私は法子よ。
ついにこの過去の異世界最後の戦いが繰り広げられようとしていたの。
けれど私は暴走の影響で力尽き、孫悟空も私を止めるために力使い果たしてしまっていた。
そして知らされた真実。
あの安倍晴明師匠の正体が、実は転生前の記憶を持つ妲己そのものだった。
つまり安倍晴明と言う転生後の意識よりも、転生前の妲己の意識が強く表に出た存在。
妲己はカミシニの力と、始祖神ニュクスの能力を奪い手に入れた。
世界は完全に妲己によって滅ぼされようとしていたのだけど、まさかそこに現れたのが・・・
殺されたかと思われていた姜子牙君(中身は太公望さん?)と、過去の世界でカミシニの王だった紂王、それに即身仏だったはずのフォン君が、私達の知る若かりし姿で現れたの。
これは一体、どういう事?
「お前達、揃いも揃ってなにようだ」
妲己を中心に、三者が囲んでいた。
「しかも殺しても死に足りぬか?馬鹿な男共よ。愚かな死に損ないが」
妲己の殺意に、三人の男達はその殺気すらも受け止めていた。
話は遡る。
妲己に剣の刃で串刺しにされた太公望は完全に命尽きようとしていた。
「やっぱり来て、良かったぜ」
「あぁ、早く手当てしよう」
「でも、どうやって?」
「俺達は主(姜子牙)のカミシニの血で生かされている。だったら逆も同じじゃないのか?」
駆けつけたのは、この世界でカミシニとして生かされた恭介と真壁だった。
二人はカスミと真壁の弟を残して、この戦場に来ていたのだ。
二人はお互い頷きあうと、その手首を傷つけて瀕死の太公望に自らの血を垂らす。
鮮血に染まる太公望は、全く反応なかった。
「本当に大丈夫なのか?」
「もし主が先に死ねば、その眷属になった俺達も消滅するって聞いたよな。だから大丈夫に違いない。信じよう」
「そうだな。恭介」
すると「ゴホッ!」と、太公望が動き出して、串刺しになった剣を引き抜きながら起き上がったのだ。
「はぁはぁ、本当に死ぬとこだった。はぁはぁ。お前達が助けてくれたのか?無茶をしてからに。しかし、正直助かった」
「姜子牙!」
「すまぬ。今、姜子牙は私の中で眠っておる。私は太公望。姜子牙の中で眠っていた別の人格とでも説明しておこう」
「えっと、よく分からないが、姜子牙は無事なのですか?元に戻るのですか?」
「うむ。事が済んだら、この身体を姜子牙に戻してやるつもりだ。まぁ、この後、また私が死なねば良ければな」
その時、太公望は胸が燃え盛るように熱くなるのを感じた。
「なんじゃ?胸が燃え盛るようだ。何かが飛びだして来そうな、く、苦しい」
「大丈夫なのか!」
心配する恭介と真壁の目の前で、太公望の胸から血が噴水のように噴き出したのだ。
その血は塊たなって人型となって立っていた。そして剥がれるように血がこぼれ落ちると、その中より、まるで王のような風格ある若者が立っていた。
「まさか既に命果てたと思っていた余が、再び現世に呼び起こされるとはな。まだ現世にやり残した事があったと言うことか・・・」
その者の名は紂王。
過去の世界でカミシニの王だった者。
「そして太公望。命の奪い合いをした因縁あるお前と、まさか再び合間みる事になるとは思ってもみなかったぞ」
「紂王なのか?これはどういう事なのか分からぬが、そうだな。あの妲己と因縁深き我々でなくては、あの者を救えぬと言う事なのだな」
「妲己が、おるのか!?」
かつて天界の陰謀で、実験体として使われていた太公望と妲己。
やがて二人は男女の仲になっていたのだ。
しかし、二人に亀裂が入った。
太公望が妲己の力を奪い、妲己のもとから立ち去ったのだ。
太公望は、妲己が初めて心を許し愛した男だった。
そして紂王。
力を失い、追われる身になった妲己。
その妲己を庇護し、守り愛したのは人間の王だった。紂王は妲己を守るために、妲己の呪いと力を我が身に移し、刺客として現れた恋敵である太公望と戦ったのだ。
この二人の因縁深き男が二人、かつての女の前に現れたのだ。
さらにもう一人。
その後、封印された妲己はその後、己の力を目的としていた者達から庇ったフォンと言う修行者と出会い、二人は過去の世界から遠い未来へと時を渡って逃げたのだ。
その後は、二人は共に生きた。
フォンと呼ばれた少年は役行者と名を改め、今の総本山の基盤を作った。
が、そこで妲己は一度死に、安倍晴明として転生した。
その後、運命は枝分かれした。
三蔵と呼ばれる救世主との出会いの有無。
それが二つの分岐点。
三蔵と出会う世界線で妲己は魂ともに救われ、安倍晴明として生きた。
後に法子の師匠として世界を救う柱となった。
しかし別の世界線では、安倍晴明として転生した妲己の魂に闇が潜み、安倍晴明の自我をも喰らって、再び妲己として復活した。
復活した妲己は世界を呪い、一度は心を許した役行者を手にかけたのだった。
役行者は死した後も、その身を即身仏として弟子の空海に魂を保存させ、数年先に現れる法子と孫悟空に伝える役割を終えて、そこで消えるはずだった。
「まさかノアの生き残りがまだ残っていたのか。しかしこれで元の世界に帰る手立てが見付かった」
「何者じゃ?」
即身仏の役行者の正面には光輝く一本の錫杖が宙に浮かんでいた。
そして、その影が獣の姿として現れる。
「私の名は白澤。法子様に仕える者」
「法子様に?」
「はい。私は今、肉体無き魂の存在。それは貴方とて同じ。すまぬが貴方に私との契約を持ち掛けたく思う。貴方が望むか否かは任せよう。ただ、この世界の貴方の果たすべき事と、法子様を元の世界に帰す事に繋がると先に伝えて起きたい」
「否応なしですな」
役行者と白澤の契約は結ばれた。
すると役行者の枯れた肉体が再生し、若返っていたのだ。
(役行者よ、貴方に与えた時間は僅か。その後は今度こそ魂共々消えるでしょう)
「問題ない。私はこのために生き残って来たのだと思う。いや?一度は死んだがな。あははは!なら、今、行くぞ!妲己よ!」
妲己と因縁深く、妲己を愛した三者が今、世界を滅ぼそうと試みる妲己の前に現れた。
「ふふふふふっ。お前達に今さら何の未練もない。今となっては過去。この先、消え失せる世界に私の前に現れた事はもはや無意味。せめて私の手で始末してやろう」
妲己の力が発動すると同時に天空の無数の瞳から閃光が降り注ぐ。
「妲己。お前の力は余には効かぬぞ」
紂王の能力は妲己の能力から手に入れたものであった。放たれた閃光が降り注ぐ前に紂王の意思で軌道を変えて落下していった。
「余の中にはまだ、お前の半身が宿っておる。お前の力は全て余の支配下にある」
「腹立たし。紂王!なら、お前を先に始末し、その力を取り戻してやろうぞ」
妲己が紂王に向かって襲いかかると、その間に割って入った役行者が印を結んで妲己の動きを止めた。
「妲己!お前から話には聞いておった。この二人が、お主がかつて愛した者達なのだな。お前を裏切り、力を奪い、そして追い詰めた張本人」
「そうじゃ!役行者よ。だが、お前が私を止められると思っておるのか?再び、この手で始末してやろう。どうやって復活したか分からぬが、今度は魂も残さず跡形もなくな!」
「残念だが、私はお前を止めるために来た。もう迷いはない。だから今度はお前の手にかかるわけにはいかぬ。それに、お前から話に聞いた二人、この者達は私から見て、お前を本意で裏切ったようには信じられぬのでな」
「なんじゃと!」
妲己の殺気が役行者の身体にのしかかる。
その直後、太公望は背後から妲己の身体に打神鞭を絡ませて動きを止めると、
「妲己。お前に呪われ、恨まれるのはこの私一人で十分だ。その二人はお前にとってかけがえのない者。その手を止めよ!攻撃をするのなら、この私にだけするのだ!」
三者は妲己の力を抑え込む事は出来ているが、妲己を宥める事は出来なかった。
それもそのはず、妲己の怒りと憎しみは、呪いとなって己の心を破壊していたから。
今の妲己には、世界を滅ぼす意思のみ。
もはや愛情など残っていなかった。
その苦しい戦いを繰り広げていた四人の姿を見た法子は、
「胸が痛い。なんて締め付けられるような戦いなの?こんなの間違っているわ。止めなきゃいけない、絶対に」
「しかし法子、今の俺様達じゃ手を出せやしねぇ。何か策があるのか?」
「あるわけないじゃない、孫悟空!私が聞きたいわよ!」
(法子様)
「えっ?この声?」
法子は声の主が、白澤だと気付いた。
「白澤も、この世界に来てたの?」
(ご連絡が遅れて申し訳ございません。そこで、あの戦いを止める手段があります)
「えっ?何、それ?聞かせて!」
(承知致しました)
すると法子の目の前に白澤の錫杖が出現して、法子の手に渡った。
すると白澤のイメージが、法子と繋がっていき、全てを理解したのだ。
「そうだったのね。だったら、私がもう一度でしゃばらなきゃいけないわね!やれる事はやらないと、寝覚め悪いから!」
法子は瞼を綴じて、印を結ぶ。
しかし力が全く沸いてこない。
完全に力尽き、集中力が欠ける。
完全に霊力が涸竭した状態だった。
「法子、大丈夫か?俺様の力も使ってくれ」
「孫悟空」
法子は孫悟空の手を握ると、流れてくる力を受け止める。
けれど、まだ足りない。
「法子さん!」
「法子様!」
左右から桜と玉龍が私の身体に触れて力を注ぐ。
全員の力を受け止めた法子が行おうとしている術は、
「正直、見よう見まねだけど、一度しか見たことないから100%出来るか分からないわ。だから、白澤。貴方の知識で私をフォローしてよ」
(承知致しました。我が主)
白澤の杖から光が魔方陣となって法子の身体を覆うと、その知識の中より今から行う術の連術方式が吸収されていく。
「す、凄いわ。これならテスト勉強しなくても百点取れる勢いよ!後は、カンニングペーパーを私が有効活用出来るかだけだわ!」
法子はイメージを繰り返す。
あの時、彼女が行った方術。
きっと、この時に使うために、私はあの場にいたのだと思うのよ。
さぁ、練りに練ったわ。
「波紋同調!!」
私の術が放たれた。
これは攻撃技でもなければ、相手をどうこうさせる術でもないの。けど、きっとこの術なら、この状況をひっくり返してくれる。
私は思い出す。
サクヤ龍王さんが私達に行った術。
それは精神感応の高難易度の術。
指名した者全ての意識を繋げるの。
それは同時に意志疎通だけでなくて、相手の思考や記憶なんかも流れ込んで来た。
強制的なプライバシー破壊の大技だった。
「!!」
私の術の矛先は、あの四人だった。
「何じゃ、これは!」
突然の奇襲に慌てた妲己は勿論、太公望、紂王、そして法子の行動に何かを感じ取った役行者の周りを囲む光に包まれた時、全員の意識が強制的に繋がれた。
記憶が濁流の如く流れ込んでくる。
意識の壁で拒絶しても、この勢いは止まらず妲己は苦しみだした。
そして太公望、紂王、役行者。
妲己は思い出していた。
未来世界に逃れ、唯一心許せた相手は知り合ったばかりのフォンだった。
しかし先逝く妲己。
共に生き、最期を看取った男。
そして紂王
最初は人間界に送り込まれ、人間の王に接近して世界を術中にしようと考えた天界の策であったが、妲己は逃亡して、紂王の庇護の下で救われた。
紂王
人間と妖怪との境を越えた、純粋な愛。
しかし天界からの刺客だった太公望が現れた事で、急転した。
紂王は妲己の力を奪い、そして太公望と一騎討ちを果たして、妲己を残し死んだ。
最後に太公望。
憎み、怨み、戦うべき宿敵。
共に天界の実験体として集められ、妲己が認める力を持つ男だった。
やがて二人は男女の関係になっていた。
しかしカミシニの神より、忌眼を奪取する最後の選定で、太公望は妲己から力を奪い去り、妲己は全てを失った。
そう、太公望こそ妲己が始末するべき真の敵なのか?
そしてその後は妲己を実験体にした神達を滅ぼすが、妲己は太公望の記憶が流れて来たのだ。
「妲己にカミシニの力を与え忌眼を埋め込もう。そのために妲己から自我を奪い、我々の思い通りに動く人形にするのだ」
それは天界の指示だった。
しかし太公望がその指示を覆した。
「この私をお使いください!妲己から心を、自我を奪う事はなりませぬ。あの者の分、この私が戦います!あの者の分、私が貴方方に使えます!あの者の分、私がこの手を血に染めますから!その決定をお変えください!」
「ならぬ。あの獣女に本気になったか?愚か者め。お前にはまだやるべき役目がある。使い捨ての駒になる必要はない。もう退け!お前にはお前の役目があるのだからな」
「・・・すみません。我が師」
太公望は最高神の命令に背き、その場で目の前の神を殺した。
そして妲己を人間界へと追いやり、二度と天界の魔の手が触れないようにしたのだ。
「う、うそだ。幻覚を見せておるのか?この妲己に?なら、何故再び私の刺客として現れたのだ?太公望!」
太公望は答える必要なく、その記憶が流れて来た。
まるで知りたい情報が、自分の記憶のように思い出された。
「妲己、君に会いたい。もう限界だ。もう、私の心は保てられない。このまま己の心を消してしまえば、天界は再び私を英雄などと祭り上げ、道具として裏の仕事をさせる。心を保たねば、妲己、お前のように一族を皆殺しにされるような悲しみを味わう者を、少しでも減らす事が出来るのだからな」
「!!」
太公望の心の拠り所は妲己だけになっていた。
だが、もう一度会いたい・・・
たとえ離れていても、幸せに生きてくれているなら、関わる事が災いとなる。
しかし太公望の意思はねじ曲げられた。
天界の洗脳により、再び妲己討伐の命令が下ったのだ。
その後は、運命の悲劇だった。
妲己達の記憶は、法子にも伝わっていた。
「妲己さん。貴女は本当は愛されていたの。誰よりも、たくさん愛されていたのね」
その瞳に写るのは、太公望、紂王、役行者の三人の男達だった。
「妲己、すまなかった。私の弱さでお前をここまで苦しめてしまった。本当にすまなかった」
「妲己よ。余はお前が何者であっても許すつもりでいた。しかしお前が世界を滅ぼす事は、本当のお前の意思とは違う。お前は世界を妬み、羨ましく思いながらも、何者よりも愛していたのだからな」
「妲己よ。お前を止められなくて悪かった。私にもっと力があれば、お前をもっと早く救えたと言うのにな」
三人の言葉は、妲己の心を揺るがせた。
凍り付いた心を溶かしながら、そして涙を流れ落とした。
「だが、もう手遅れじゃ・・・」
妲己は、思い出したかのように我にかえる。
そして全身を震わせ、そして動かなくなったのだ。
「妲己よ。お前のした事は、この世界に生きる者達によっては何よりも許せぬ断罪に値する。しかしだ。その罪の原因を作ったのはこの私だ。ならばその罪、私が背負う」
太公望の訴えに、妲己は固まったままだった。
そして紂王言葉をかけた。
「妲己、余はお前の全てを肯定し、全てを許すつもりだ。お前の罪が重かろうと、この余がお前の全てを受け止めよう」
そしてフォンが気付いたのだ。
「妲己。お前はまだ何かをしたのか?この闇の世界、天より振り落とされた光線。その他に何かあるのだな?」
その問いに、全員に緊張が走った。
「フォンくん?何を?妲己さんはまだ世界を壊すために何かするつもりなの?」
法子は話を聞いて、孫悟空に頼み金斗雲に乗せて貰い、四人のもとに近付いていく。
その途中、妲己は首を振って答えた。
「何もかも手遅れじゃ。この世界はもう誰にも止められぬ地獄へと落ちる。やがてこの世界を中心に、天界をも滅ぼす闇が広がるのじゃ!そう。妾はもう奴らを引き入れてしまったのじゃからな」
「妲己、お前は何をしたのだ?いや、何が起ころうとしておる?奴らとは何者なのだ!」
フォンの言葉に、妲己はゆっくりと先の見えぬ闇の奥を指差したのだ。
「!!」
その指先の遥か先に何かが存在した。
それは大地から天にまで届きそうな巨大な門と扉があった。
しかもその門は禍々しく、そして瘴気を帯びていた。
「いつの間にあんな門が!何なの、あれ?」
「法子、アレは何かヤバいぜ。この俺様が身震い起こしてやがる。こんなの初めてだぜ」
「孫悟空?」
孫悟空の目は扉から外せないでいた。
あの門は、扉は何なのか?
その問いを妲己が震えながら答えたのだ。
「妾は世界を滅ぼすつもりじゃった。しかし地上界を滅ぼす事は絶やすくとも、天界を滅ぼす事は妾一人では叶わぬ。じゃから頼った。世界を滅ぼす事にうってつけの、天界をも滅ぼす力を持つ者共の手を、この手で握ってしまったのじゃ」
「誰を頼ったと申すのだ?妲己」
「紂王。奴らは地獄の住人。妾が頼ったのは、その世界を統べる悪魔大魔王達。この地上界と天界を贄にするとな。あの門の名は、地獄門。間もなく扉が開き、地獄の者共が押し寄せてくるのじゃ」
その話に愕然とした。
法子はたどり着くと同時に、
「何て事なの・・・止める手段は?まだ間に合うかもしれないわ」
「無理なのじゃ。既に扉は開かれた。あの神々の魂を贄にしたことでな」
それはヒュプノス神兄弟の事だった。
その時、全員の身体が凍てつくように震えた。それは魂が凍り付くほどの恐怖。
ゴゴゴゴゴゴッと、扉が開かれていく。
「来たわーー!!」
扉が開かれ、この闇を覆う更なる漆黒の者共が、扉から溢れ漏れだすようにこの世界へと飛び出して来たのだ。
額にある漆黒の角に、獣のような黒き翼。
その姿は爬虫類のような者から、異形な姿をした者達。
それは悪魔と呼ばれる種族だ。
「全て食い止められるとは思えぬ。じゃが、妾の仕出かした事への償いは妾の命をもって食い止めてみせる」
妲己は飛び出したかと思うと、悪魔の大軍に向かって行った。
「呼んでおいて悪いが、皆殺しじゃ!」
妲己の能力で空が無数の眼となり、天から光線が悪魔達を消滅していく。
圧倒的な力に思えた。
が、悪魔の数は限りなかった。
気付けば、妲己の周りには無数の悪魔が囲み、襲いかかって来たのだ。
「ギャアアア!」
悪魔が妲己に近付く前に、目の前で消滅した。すると鞭が軌道を変えながら悪魔達を両断していった。
「太公望!お主」
「この私も手伝わせて貰うぞ。今度はお前を一人にはさせぬ。共に戦おう」
そして紂王が妲己と同じく九尾の狐の姿と化し、更に半人獣人となって妲己の背後から、背中越しに答える。
「お前の背中は余が守ろう。この余が生きている限り、お前には指1本触れさせぬ」
「紂王
そして役行者が、二体の獣鬼を召喚させた。
「前鬼(金角)!後鬼(銀角)!我が身と一つに力を与えよ!狼神変化唯我独尊!」
狼神へと化した役行者も同じく悪魔達へと立ち向かっていた。
「妲己、お主は幸せ者よ。我らといった死に損ないの、それでもお主に命わ預ける馬鹿者共にここまで愛されておるのだからな。少しはその涙を拭い、お前の笑顔を見せてみよ」
「お、小角」
妲己を中心に三人の男が戦う。
「孫悟空、私達も戦うわ!これからが正念場よ!」
「乗り掛かった船だ。悪魔の王だか知らねぇが、俺様を敵にしたことを後悔させてやるぜ!」
そして玉龍と桜も頷き戦闘態勢に入った。
(なりませぬ。法子様。お時間です!)
「!!」
法子を止めたのは、白澤の制止だった。
「どういう事よ!このまま見捨てられないわ!」
(法子様。この世界は滅びる世界。貴女の生きる世界とは違います。そして今の現状は世界滅亡へと秒読みです。その前に法子様は元の世界へと帰らなければ、この世界だけでなく、法子様の知る世界までが滅びてしまうのです!決断してください。貴女がすべき、救世主としての決断を!)
「!!」
法子は役行者から聞かされていたのは、この世界が滅びに向かっていようとも、この世界を救ってはならないと言う事。
そして頼まれた事が、この世界を滅ぼす原因は決定されてはいない。
その原因が妲己であってはならない事。
そして今、世界の滅亡直面であり、世界の滅亡が妲己ではなくなった。
「法子さん。約束を果たします」
「貴女は!」
彼女は図書室で出会う幽霊だった。
実際は死んではいないようだが、ノアの一族と呼ばれる世界を行き来出来る存在。
「今から法子さんを元の世界軸に返します」
「嬉しいけど、でも!でも!」
迷いは当然だった。
しかし、孫悟空が法子の言葉を止めて代わりに答える。
「これから、どうしたら良い?」
「貴方達は私の作った舟に乗って帰って貰います。既に舟を創るためのパーツはフォンより受け取りました」
彼女の手には、骨が握られていた。
それはフォンの骨だった。
なら、今戦っている役行者は?
そして今、戦っている役行者の身体は、弟子である空海の同意のもと、その肉体に役行者の魂を封じた姿だった。
「フォン。貴方の半魂をこの骨に移し込みました。後は私の役目です」
彼女は掌に置いた骨に力を込めると、それは一枚四角い紙となり、大きく広がりながら折りたたまれ、舟の形へと変わっていく。
そして完成した。
「これこそ時と時限を越える舟。ノアの方舟です」
「ノアの方舟!?」
「早く舟に乗ってください。この世界は間もなく消滅します」
「でも、やっぱりこの世界を見捨てるなんて出来ない。私は!」
躊躇する法子を、孫悟空は強引に担いで真面目に告げた。
「法子。お前はもう限界だ。お前はよくやったと思ってるぜ。だが、このままお前をこの世界と心中させるわけにはいかない」
「ちょっと孫悟空!」
孫悟空は法子を担いだまま、方舟へと飛び上がったのだ。
方舟には既に誰かが乗っていた。
それは恭介、真壁、カスミと真だった。
「この四人は既にこの世界との繋がりが切れた異物に近い存在。このままこの世界に残せば、他の世界に問題が生じてしまいかねませんから、貴方達も一緒に乗って貰いました」
「けど、残って戦っている太公望が死ねば、こいつ達も死ぬ。なら、この世界に残った方がよくないのか?」
「孫悟空さん。それは問題ありません」
「?」
すると、法子は気付いた。
「あれ?桜ちゃんは?それにまだ総本山の皆も戦っているはず!一人でも乗せないと」
「それは出来ません。この舟には制限があります。乗員は10名まで」
「そんな」
すると、乗員を乗せた方舟が光輝きながら動きだす。
そして闇の中に異次元に抜ける穴が出現したのだ。
「あの穴に入れば、もうこの世界とは完全に戻る事は出来ません。そして取り残されても同じ。しっかり舟に掴まってください」
動き出す舟に、今度は悪魔達が近付いて来た。理由は分からなくとも、逃げようとする者を許さなかったのだ。
「こっちに来るわ!」
「任せてください。法子さん。そして、今度は貴女の世界を守ってください」
「えっ?桜ちゃーん!」
桜は四人の仲間達と共に、向かって来る悪魔達を迎えうつ。光輝く身体が黄龍と化した桜と、四体の守護龍が護衛した。
「私は、この世界を見捨てるの?」
法子は、この世界での短くも濃い戦いを思い出しては、涙を流していた。
そして、この滅びる世界でまだ戦っている者達の姿が浮かんで来た。
聖太子や、総本山の戦士達。
それに座主に、丹生朱水。
この世界に生き残った世界中の人間や生き物達の悲鳴や、悲しみ恐怖が伝わってきた。
そして妲己の目の前で役行者が全身を貫かれ、紂王が妲己を庇い懐に風穴が開いて血を吐いていた。
「お前達、妾も直ぐにお前達のもとに行くからな。だから、寂しく思うな」
妲己は身体半分を失いながらも、最後まで戦う太公望を見て呟いた。
「・・・お前の記憶を見た。お前はまだこの世界で死ぬわけにはいかないようだ。この妾と共に死ぬわけにはいかないようだな。フフッ。やはりお前とは擦れ違う運命であったようだ」
「何を!?」
妲己は最後の力を振り絞り、太公望の胸に手を置いて、念じた。
「!!」
次の瞬間、太公望は方舟へと移動していた。
「この私を生き残したと言うのか。最後の力を使い、本当に、本当にお前は私が愛した女のままだったのだな」
方舟はこの世界を抜けた。
恐らく、この世界はもう残るまい。
そして孫悟空もまた呟いた。
「この俺様に殺気を向けていた連中。あの世界では決着付けられなかったが、もし俺様達の世界で現れたなら、この俺様がぶっ潰してやるからな・・・」
それは悪魔の大軍の奥から感じとった七つの悪魔の王らしき存在に向けての言葉。
いずれ戦うであろうと運命を感じていた。
そして方舟は時の空間を渡る。
法子は泣き疲れ眠っていた。
そこに、事が起きた。
「何者かがこの舟に侵入していたと言うの?」
西王母様のもとへは戻さぬ・・・
それは、欠片となったタミネタの気配だった。
そして方舟を巻き込み自爆したのだ
次回予告
物語は、再び過去の世界へと戻る。
その世界で、戦っている者達がいた。




