転生の譲渡?手繰り寄せる赤い糸??
坂上タムラは崇徳天皇に身体を奪われた鬼女を救うがために、
共に闇に引きずられてしまった。
俺は坂上 タムラ…
俺の魂は崇徳天皇の呪いを受けて闇に飲まれた。そこで同じく闇に飲まれた鬼女の魂と交わり、その過去を見てしまった。
鬼女は幼い頃、鬼に憑かれた。理由は父親が金のために陥れた者達からの恨みが集まり鬼と化して、娘の方を祟ったからである。
だが、立ち寄った退魔師によって鬼は祓われ、それで終わったかに思えた。
だが、父親の方は自らを悔い改める事はなく、鬼と呼ばれる人外の化け物に心を奪われた。
「あの鬼を使役出来れば恐い者はない!」
そして退魔師に渡された魔除けの札を調べさせ、金を使い、裏の世界の呪術を使う者達を雇って鬼を使役するすべを手に入れたのだ。
そこで、
娘が鬼を使役する才能がある事を知った父親は、娘を使う事に迷いはなかった。
娘は自らの行いが間違っていると理解するには幼かった。ただ親の指示に従って覚えさせられた鬼を使役し呪いを使い、父親の邪魔をする者を片っ端から始末していったのだ。
それに反対したのは母親だった。母親は何度と旦那に反発したが聞き入れず、娘を父親から引き離そうと試みた。旦那の目を盗み呪詛中の娘を連れ出して車に乗せて逃げる母親だったが、娘は中途半端に出て来てしまったがために自らが行っていた呪詛の影響で呪いが戻って来てしまい母親事、乗っていた車は崖から転落してしまったのだ。
それが原因で母親は他界。
娘はその時の呪いが原因で自らの顔に醜い痕が残ってしまった。それから二度と屋敷から出る事が出来なくなったのだ。
当然、戻って来た娘は父親の命令通りに呪いをかける生き方しかなかった。
人を呪い殺す人生。
自分が殺した人間達の最期の断末魔の表情が消えない。父親に敵対する組織の幹部や重要人物。最初は父親を騙し邪魔をする人でなしの連中を殺して欲しいと、助けるつもりだった。けど中には善人もいた。見せしめに家族、自分より幼い子供を呪う事もあった。
毎日、毎日、自分が送り込んだ鬼によって人間が死んでいく。
次第に麻痺する感覚。
目をそむけてさえいれば実務的な作業。国の権利者がボタンを押してミサイルが飛んで行き人を殺すだけ。ただ、それよりピンポイントで確実。死に際までしっかりと見れるだけ…
心を閉ざしてさえいれば良いのだと。
そんな時、自分の送った鬼が返されたのだ?使役する鬼が失敗すると呪った側に戻って来る。
驚いた…
自分以外に鬼を使役する者がいたなんて?興味あった。相手は何者なのか?
その相手こそ俺だった。しかし、俺は鬼を使役するどころか鬼の存在も知らない少年だった。
鬼女より二歳年下の中学生。鬼女の父親と敵対ヤクザの一人息子。
名前は坂上組のタムラ。
鬼女は今まで自分が殺す相手の名前なんて興味なかった。素性なんてどうでも良かった。なのに何故か異常に気になって仕方なかったのだ。
「私はどうしてしまったの?わからないわ…」
そこで、
「御父様?坂上組の息子は今、私の呪いで地下に幽閉されました。父親を揺するにはこれで良いかと?直ぐには殺しません。時間をかけて始末致します」
「成る程。それで良いぞ?解るようになってきたな?我が娘として頼もしい」
だが、娘の言葉は真意ではなかった。生かすための方便。初めて殺したくないと願ってしまったから…
それがついに自分の目の前に現れた。あまりの急展開に結界も間に合わず接近を許してしまった。
「この子が坂上タムラ?」
自分を殺しに来た俺に対して興味はあったが、だがそれが何なのか解らずに取り敢えず父親にバレずに自らの結界に閉じ込めた。
が、俺は再び脱け出して見た鬼女は…
悪の行いと解っていても父親のために懸命に自らの手を血に染める娘の姿だったのだ。
俺はそんな鬼女を放って置けなくて、受けた仮りを返したくて、俺はつい首を突っ込み助けてしまった。
助けた?
どちらかと言うと巻き沿いかな?俺は鬼女とともに崇徳天皇の魂に飲み込まれたのだ。
が、まだだ!
俺は死んじゃいねぇ!
何故なら俺はまだ思考している。生きている証だ!そして先から俺の魂に流れて来る記憶の流れ?
つまり鬼女もまだこの闇の中で死んではいねぇって事だ!
だが、何処だ?意識を集中しても気配がしない。この闇の中は怨念の濁流、意識を保っていなければ流されて思考も消える。それが死なのだと解る。
だが、まだ生きてる!
例え肉体は麻痺し感覚がとうに失っていようと!
俺は意識のみは生きてる!そして鬼女も、この怨念の濁流の中で生きてる!
俺は意識を集中させる。あの幻の中で鬼を感じたように居場所を突き止め…ダメだ…怨念の邪悪な意志が強すぎて鬼女の居場所が突き止められない。
だが何故だ?
不思議と鬼女が生きていると感じる?願望?違う…何故か俺と鬼女とが繋がっているって実感出来るんだ?
俺の目から何かが零れ落ちる。それは一滴の血だった。血はゆっくりと落下し、俺の感覚のない手に落ちる。すると俺の血は一直線に伸びて闇の奥へ向かって行く。
その先に…
「考えなくとも解る!」
俺は伸びた血を掴む。糸のようなか細い線を引き寄せながら俺は腕を伸ばす。
実際、感覚のない状態で腕が伸びているのか?そもそも自分に身体が残っているのか?それでも、この糸を決して離してなるものか!いや離してはいけない!
手繰り寄せ、手繰り寄せ、手繰り寄せ、手繰り寄せ、俺は、掴み、抱き締める!
「あっ…」
感触があった。俺が抱き締めたのは、
「鬼女!テメェ死んでないだろうなぁ?テメェを殺すのは俺だぁ!だから俺に殺されるまで死ぬなぁ!」
「お前は何なんだ…何なんだ!お前は何なんだ!?」
鬼女が叫ぶ声が?
いや、魂の叫びが伝わる!
「俺はお前を殺すために来た坂上タムラ!だからお前は俺に殺されるまで俺の…だぁ!!」
その時、声が聞こえたのだ!!
俺は鬼女を抱き締めながら、自らの魂に宿る声に耳を傾ける。
それは俺であって俺とは別の自分の呼ぶ声?
《ついにお前に私の記憶、知識、大いなる力を与える時が来た!今よりお前は私であってお前だ!》
何を?
だが、今、この状況を打破出来るなら、その力を俺に寄越しやがれ!
瞬間、俺の胸が熱くなり同時に鬼女もまた何かの声を聞いていたのだ。
《永き時の運命の邂逅を果たしたか?お前は私。お前は主様の盾となり、剣となるが良い!》
「!!」
互いに謎の声を聞き、意味も解らずに受け入れたその時、俺達は胸の中より湧き出る強い力を得たのだ。
二人は闇の中で両手を繋いでいた。そして互いの中心から熱く、強い光が広がりながら崇徳天皇の呪いの闇を消し去ったのだ!
「ウギャアアアア!」
二人より放たれた閃光が崇徳天皇の魂を鬼女の身体から弾き飛ばし、二人は闇の中から抜け出したのだ。
「はぁ…はぁ…」
俺は鬼女の手を握りながら息を切らしていた。鬼女もまた力が尽きたように息を切らしている。
《なぁ…なぁにが起きたのだ?私の世界から抜け出しただけでなく私を器から弾き出すなんて…》
鬼女と言う器を失った崇徳天皇は自らの存在を維持出来ない様子で、出て来た闇の穴に再び吸い込まれ始める。
《嫌じゃあああ!二度とあの世に戻ってなるものかぁあああ!》
崇徳天皇は足掻くように呪いを噴出させると、その場にいた鬼共が苦しみもがきながら息絶えていく。命尽きた鬼共の肉体が崇徳天皇に集まっていき、肉塊となって…
「何なんだよ?あれは…」
千体の鬼の身体が崇徳天皇の新たな器となって、巨大かつ膨大な力を持つ崇徳鬼神となって立ち上がったのだ!
だが俺は勿論、鬼女の方も立ち上がれる状態じゃなかった。走って逃げるなんて出来ない…まして戦うなんて出来やしない。
なら、俺の選択枝は一つ!
「おぃ?鬼女!俺が囮になってやる!その間に逃げるんだ?良いな?」
「貴方、何を?お前は私を殺しに来たんであろう?どうして?」
「理由なんて知るかぁ!俺がそうしたいからそうするだけだ!」
が、鬼女は逃げずに俺から離れようとしない?
「お前、逃げろって?」
「私は残る。私がそうしたいから!」
「!!」
俺は鬼女に対して言い返せなかった。
「馬鹿な女だ…せっかく助かった命を無駄にしやがって?」
「お互い様です。それに私のが年上ですから敬語を使いなさい?」
「そんな事を今言ってる場合じゃ!」
そんなやり取りに鬼女がクスリと笑みを見せた。
爛れた皮膚に醜い顔でなければトキメイタかもな?
ん?
少し胸が熱くなったぞ?
何だ?この気持ちは?
だが、そんな事を考えている場合じゃなかった。
崇徳鬼神が俺達を見下ろしていた。悔しいが足が震えて動けない。残念だが、この鬼女と心中てのも俺らしいのかもな…
いや、違う!
俺は諦めねぇぞ!
俺は立ち上がると崇徳鬼神に向かって立ち上がると、鬼女を庇うようにして奮い立つ。
「最後まで足掻く!死んでたまるか!諦めるくらいの命なら、とっくに捨ててるぜ!それに女を前にして先に諦めるほど、俺は情けない男じゃねぇー!」
勝つ?戦う?生き残る?そんな事は関係ない。俺は男として女を守る事を諦めてたまるか!
が、闇の世界の脱出に既に足腰に力が入らない。立ち上がれただけで俺の全てを出しきった限界だった。
「よく持ちこたえたな?ガキのくせに大した根性だ!久しぶりに見ていて熱くなれたぜ?だから後は俺に任せろ?」
なぁ?
気配なく俺の背後から声がした?
しかも俺の頭の上に手が置かれ撫でられたのだ?ソイツは俺が尻を蹴った僧侶だった。
「お前、何故ここに?」
「はぁ~?決まってるだろ?変な事を言う奴だな?」
俺はその男を見上げると、ソイツは笑みを見せて俺に当たり前のように答えた。
「大人がガキを守るのに理由があるのか?」
その言葉を聞いた時、何故か俺の中の緊張がとけて安心した気持ちになった。
「あの化け物は俺が倒す!だから見ていろ?」
すると男は崇徳鬼神の前に一人で向かって行く。
「まさか勝機があるのか?あんな化け物を相手に?」
「勝機が無くても、あの馬鹿は挑むだろうな?お前に格好つけた手前、勝つまで戦うだろうぜ?」
振り向くと、あの男と一緒にいた金髪の僧侶が背後にいたのだ。
「彼は一度言ったら強情だから…幼い時から生意気で口だけ達者で」
背後にはもう一人いた。髪の長い陰陽師姿の女?いや?男か?
そんな中で、あの男は指を天に向けて言った。
「俺が主役!」
はぁ?何、このオッサン?
次回予告
坂上タムラと鬼女の前に現れたのは、
救世主と呼ばれるガラの悪いおじさんだった?