安倍晴明の正体!そして運命の三人!?
ヒュプノス神の陰謀が、崩れ落ちた。
しかし新たな問題、そして本当の敵が動き出した。
私は法子。
ヒュプノス神達の計画が果たされようとしていた。
エリスの身体から闇が噴き出して、世界全土を闇が覆っていく。
世界中の生き物が空を眺め、闇の中に閉じ込められ突然の恐怖に凍り付いていった。
全てはヒュプノス神達の計画通りだった。
誰もが、これから起きる災難に身構えていた。
しかし、それは誰しも予想できぬ事態が起きたのだ。
ヒュプノス神が世界を滅ぼそうとした瞬間、背後から出現した口を開く獣に飲み込まれて、消滅してしまったのである。
そこにはヒュプノス神の姿は消えて、残る人影は、陰陽師の衣を纏う安倍晴明師匠だったの。
まさか私達を助けてくれたの?
師匠はヒュプノス神の陰謀を食い止めるために、敵のふりをしていたの?
だったら、やっぱり師匠は私達の味方?
けど今までの行動は度が過ぎてる。
私は桜ちゃんを見ると、晴明師匠を疑っている。
当然よね。晴明師匠が桜ちゃんの身体にエリスの魂を憑依させたのだから。
けど、私はまだ信じたい。
「せ、晴明師匠?」
と、歩み寄ろうとした時、私は足を止めた。
うん。分かってる。
この晴明師匠は、私の知る安倍晴明でないと言うこと。
何故なら、この人はこの世界のフォン(小角)くんを手にかけた張本人。
「お前が何者か知らぬが、この世界が滅びる姿を特等席で見せてやろう。この我が手で全てが無と化す姿をな」
「ははっ。特等席ってのは嫌いじゃないわ。でも聞きたい事があるの」
「・・・・・・」
「貴方の手で世界をどうこうしなくても、ヒュプノス神が世界を滅ぼしてくれたんじゃないかしら?」
「フッ。この世界と言う鳥籠は、この手で終わらせねば気がすまぬ。我が手で、終わらせてこそ、この世界への復讐が果たされると言うもの」
落ち着いた口調の安倍晴明は、感情的になるわけでもなく、ただ世界を滅ぼすと言った。
「お前も邪魔立てすると言うのなら、あの太公望と同じく始末してやろう」
「えっ!?」
太公望って、多分、姜子牙君の事じゃ?
そう言えば、この一帯何処からも気配を感じないわ。
ん?そもそもカミシニは死者と同じく魂の気配ってのがないのだけどね。
けど、本当に安倍晴明が姜子牙君を手にかけたと言うの?
話は遡ること、姜子牙が安倍晴明と対峙し、戦闘が始まった。
その際に、苦戦していた姜子牙の気配が消えて太公望として覚醒したのだ。
そして安倍晴明と太公望の一騎討ち。
「お前、本当に太公望か」
「久しいな。妲己。しかしなんと言うか。男の姿のお前を相手に話すのは違和感あるもんだ」
「軽口を叩く、その憎き口調。間違いないな。ならば気兼ねなく殺せるというもの」
「そうでなくとも、皆殺しするつもりだろ?まぁ、そうはさせないがな。残念だが、お前は私が葬る。これはこの世界に来た私の本当の理由かもしれぬな」
「何を言っているか知らぬが、殺すことに代わりあるまい」
安倍晴明と太公望との戦いは、次元が違う戦いだった。
安倍晴明は獣神変化で桁違いの力を発揮するが、太公望は姜子牙の持つ忌眼の解放でカミシニの力で無力化した。
この戦いは太公望に分があるように思えたが、突如安倍晴明に異変が起きた。
その身が鮮血に染まり、深紅の九尾の変化と化すと、まさか安倍晴明からカミシニの瘴気を纏い、しかも倶利伽羅王として覚醒した。
「くっ、倶利伽羅の王じゃと?この世界にはカミシニは存在しないのではないのか?いや、違うな。この私がこの異なる世界に来た事で、変化をもたらしてしまったか」
「お前は、この私の手で殺したかった。再び会えた事を、私は嬉しく思うぞ」
すると安倍晴明の背後から、九尾の影が浮かび上がり、そしてカミシニの血が尾となり、太公望に向かって襲いかかる。
「私も楽に殺られるわけにはいかんのでな。お前には殺されてやれん!」
太公望は腰から打神鞭を二つ手にし、両手で握ると振り回す。
伸びる尾と、鞭が交差し、衝突した。
「くっ!」
太公望の身体が尾に貫かれて串刺しになる。
が、それは残像で実体は晴明の背後から鞭を振り下ろした。
一刀両断になった晴明もまた残像で、互いに手の内を見せずに闘っていた。
「埒があかんな。ならば見せてやろう」
太公望は印を結びながら、足下に術式を貼って唱えた。
「封神円技!」
太公望を中心に閃光が広がりながら晴明を覆うと脱力とともに力が抜けて消失した。
この術の間合いでは指を曲げることもままならない。
「お主の力を封じた。もう闘う事はもちろん、動く事も叶わんだろ?」
無言の晴明に、太公望が近付く。
「悪いが、この戦いの根元はお前のようだ。この場で我が手で始末してやろう。それも私とお前との縁。恨むなよ」
が、太公望は動きが止まる。
「ま、まさか?」
太公望は背後から剣を突きつけられていたのだ。
しかも力が出ない?
まるで己の術にかかったのように。
「呪詛返し。お前の術はそのまま返させてやった。そして、そのまま死ぬが良い」
「ば、馬鹿な」
突き刺した剣は太公望の胸を貫き、血を吐きながら太公望はその場に倒れたのだった。
「太公望。お前は私を裏切った。このまま死なせるのは惜しい。時間をかけて殺してやろう」
「だ、妲己っ」
すると倒れている太公望の背中から更に数本の剣が串刺しになったのだ。
「うがぁあああ!」
断末魔をあげた太公望に、安倍晴明は伝える。
「その呪詛の剣は、お前の血を貪り、その血を養分にお前に激痛を与え続ける。命尽きるまで、生き地獄を味わうが良い」
そして立ち去った晴明が、今度は法子達の前に現れたのだ。
「ヒュプノス神達が呼び起こした開祖神のニュクスの力を、我が身に手に入れさせて貰った。もはや何者も私を止める事は出来ぬ」
安倍晴明が指で天を指すと、闇に覆われた世界に無数の光が現れる。
「今度は何?あの光は星?」
「違う!よく見ろ!法子」
「えっ?あれは、ウソォオオオ!」
それは星の数ほどの無数の眼であった。
その瞳は瞼を綴じていた。
「満天眼。あの瞳が開かれた時、その視界に写る全てのモノを灼熱の光で焼き尽くす」
「なんですって!」
何処まで続いているのか知らないけれど、あれほどの星の数ほどある瞳が開かれたら、この世界なんて何も残らないじゃないの?
「そんなこと、させないわ!晴明師匠!いえ、晴明!あんたは私達が止めてみせるわ」
「愚かな。この世界を守って何が残る?野蛮な人間が蔓延り、人として転生した神々も傍観しているだけ。この世界は一度、やり直すべきだ。この私の手で!」
「だから、させないわ!あんたの感じてる世界への評価も価値観も聞いてないわ。私はこの世界が好きなの!好きなものを守る事が正義の味方の鉄則。この世界も捨てたもんじゃないわ!」
「だが、もう遅い」
その時だった。
空に浮かぶ眼の瞼が一つ開かれると、灼熱の光が光線となって私の頭上に落ちて来たの。
「法子さーん!危ないー!」
「えっ?」
振り向くと同時に桜ちゃんが飛び出し、光線に向けて掌を上げて私を庇うように防御の盾で受け止める。
「くぅううう!」
「桜ちゃーーーん!」
「きゃあ!」
桜ちゃんは光線を弾くと同時に吹き飛ぶと、四人の守護者が受け止める。
「無理するな、桜」
「でも、法子さんを守れました」
「おまえ・・・」
桜ちゃんは無事ね。
けれど、あんな威力の光線がもし、あの無数の眼から雨のように振り落とされたら?
そんなの耐えきれずはずないわ。
「ふふふ。ヒュプノス神共に手を貸したのは、この始祖神ニュクスの能力を取り込むためでもあった。この力があれば、簡単に世界を滅ぼせる。簡単に」
「どーして、そんなに世界を憎むの!どーして、世界を滅ぼそうとするの!」
私の問いに、
「お前のような者には分かるまい。この世界は偽り。この世界は神々共によって造られし実験の箱庭。私は奴ら神共の目論見を全て破壊した後、この地上界の状況を見ている神々をも全て根絶やしにする。そう、そうよ。私がこの世界を終わらせて、何も感じない、何も苦しまない世界を作ってみせるわ」
えっ?
突如、安倍晴明の口調に変化があって、その声も男声から女声へと変わっていく。
まさかとは思っていた。
この世界では、安倍晴明と言う存在はそもそも存在していなかったの。
「そ、そうなのね。この世界では安倍晴明ではなく、貴方、いえ!貴女は・・・」
安倍晴明の姿がモヤに覆われて変わっていくと、その姿は美しい人型の女狐になった。
「妲己なのね!」
妲己は死して安倍晴明として転生したけれど、妲己の魂が強く濃かったため、偏りが生じた。そして安倍晴明の意識は完全に妲己の魂に飲み込まれ、妲己として復活する形となったのだ。
「つまり私達の真の敵は妲己なのね」
すると妲己が静かに指を天に向ける。
「この世界を今、消し去ってやろう。跡形もなくな。小生意気な娘よ。その眼で、この世界が滅びるのをよく見ておくが良い」
「ま、待って!」
妲己が指を振り下ろすと、天を覆う無数の眼から光の閃光がこの世界へと振り落とされた。
「そうは、させぬぞ。妲己」
その時、全くの別の無数の眼が天と私達の中間を広がるように出現した。それは妲己の眼とは異なる無数の眼。その眼から、天から振り落とされた閃光に向けて、逆に閃光を放った。
世界の闇を打ち消すように、閃光が衝突して眩しい光が覆っていく。
「な、何が起きたの!私の眼が何故、打ち消されたのじゃ!」
「お前の力を半分持つ余なら、お前の力を抑止する事は出来ないわけではないだろ」
「!!」
その場に現れたのは、中国の古き王の立間いであった。
そして、名乗ったのだ。
「妲己よ。会いたかったぞ。そして、今のお前を止めに来た」
「紂王!お、お前が何故!」
そこに、もう一人人影が現れた。
「妲己よ、その者は私の中に眠っていた。お前が私を殺した事で、目覚めさせてしまったようだよ」
「太公望!」
太公望は、血まみれの姿で、恭介と真壁に肩を預けて現れたのだ。
「お前達、二人が私の敵として現れるとは、これも滑稽。何処までこの世界は私を虚仮にしてくれるのか」
「すまぬのぉ。二人ではあらん。この儂もまたお前を止めに来させて貰った」
そこに、死んだはずの役行者こと、フォンさんが妲己の前に現れたのだった。
そして、この世界の最後の結末が待つ。
次回予告
未来の異なる世界での戦いの終幕。
法子と孫悟空達は元の世界に帰れるのか?
そして、この世界の結末は?




