法子暴走!?ヒュプノス神の呼ぶ闇の世界!
法子が勇斗の死を知った時、法子が崩壊した。
法子に起きた異変。
それは天地を揺らす程であった。
法子の脳裏を廻る記憶の濁流。
幼少よりともに過ごした記憶。
楽しかった事や、喧嘩したこと。
一緒に泣いたり、笑ったり。
その思い出が法子の胸を引き裂く。
「ゆ、勇斗?勇斗?嫌、嫌、うっ、うっ、うわぁあああ!いゃああああ!!」
法子の絶叫とともに凄まじい力の波動が放たれ、大地が陥没し、貫く程の余波で天が揺れるように一帯の雲を一瞬で消し去った。
「ァアァアアア!!」
法子の暴走に、玉龍と桜は手をこまねいていた。
凄まじい力の波動に近寄る事も出来ずに耐え凌いでいた。
「法子さんの身に何が?けれど、この力は何かいけない気がする。止めないと。僕が止めないといけない」
そして桜も、
「助けられた私の命。今度は私が法子さんを救ってみせます。皆も力を貸してくれますね?」
「当たり前だ」
「俺達もまた恩は返す」
「桜、お前はお前の好きに戦え!」
「お前も俺達が必ず守るからな」
赤龍朱雀、白龍白虎、黒龍玄武、青龍蒼龍、桜を守る守護の戦士が集う。
しかし法子の暴走は止める事はもちろん、近付く事も叶わなかった。
その様子を高笑いをしながら見ている者がいた。そして法子に興味を抱く。
暴走する法子の心の揺らぎに、目を付けた者がいた。
「うふふ。何が起きたか分からないけど、私の新たな依代には使えるかもね」
それは桜の器から弾き出された霊体のエリスだった。
「キャハハハ!この私の邪魔をしておいて暴走してムカついていたけど、良いわ。私がお前の器をいただくわ」
そして無防備の法子の身体に背中から入り込んだのだ。エリスは桜の身体から法子の身体へと乗り換え、寄生しようとしているのだ。
「そうはさせないわ!」
「法子さんから出て行けぇー!」
桜と玉龍が飛び出すと、
「邪魔はさせぬぞ。虫けらども」
が、その前にネメシス突如姿を現したのだ。
そして振り払う神力で、その場にいた全員を吹き飛ばした。
「エリスの奴、新たな器を手に入れたようだな。ならば良い。ここにいる連中全て皆殺しにしてやる。これまでにない残虐なやり方でな!アハハハハ!エリスよ、私と共に我が兄弟達の怨みをはらしてやろう」
ネメシスは法子に手を差しのべた時だった。
「ウグゥ!?」
ネメシスの腕が震え、その腕の筋肉が男の腕のように盛り上がったのだ。そしてネメシスの意思に逆らい、その首に掴みかかる。
「え、エリス!な、何をする?血迷ったか!」
が、そこに男の声がネメシスに聞こえて来たのだ。
その男の声に聞き覚えがあった。
『俺の腕を持って行った事が、お前にとって最大のミスだったようだな?俺はあの小僧と違い、女相手にも手を抜くつもりはねぇぜ』
「ぐぅ、は、離せ!」
その声はネメシスによって殺された坂上田村麻呂だった。そしてネメシスはこの戦いの前に起きた初めて感じた恐怖を思い出す。
それは勇斗との戦いで、命懸けの攻撃が繰り出した一撃は間違いなくネメシスを仕止めるには十分だった。にも関わらず、勇斗はネメシスが女である事に気付いた瞬間に攻撃の手を止めた。それが自らの科した絶対的なケジメだった。
そして自らが無駄死にする事を承知に手を止めた。
「愚かな男、馬鹿め!何を血迷ったか?アハハハハ!自らの行動で、仲間達が苦しみもがき死ぬ事になるのだからな!」
が、そのネメシスもまた失敗を犯した。
坂上田村麻呂に斬られた右腕を、自ら殺した田村麻呂の右腕をもって代替えした事。
まさかその腕が突然意思を持ちらネメシスの首を絞めているのだから。
「は、離せ!はな、はなぁ」
「お前を生かしておくほど、甘くねぇと言ったはずだ。終わりだぁー!」
鈍い音がした。
ネメシスの首が砕け、潰れるように胴体と分かれて頭が地面に転がった。
恐怖と怒りに涙と、よだれにまみれたネメシスの頭部は消滅していった。
そして残された胴体の片腕から感じる坂上田村麻呂の意思もまた消えていこうとしていた。
一つだけ疑問を抱きつつ。
『何故、死んだはずの俺の意識が突然呼び戻された?あの小娘の願いが俺を呼んだように思えたが。「勇斗の仇を取れ」と、俺の魂が命じられたような気がしたが。強制的に』
坂上田村麻呂は法子の方を見て、
『しかし俺にはもう何も力を貸せぬ。残されし者達よ、後は頼むぞ』
その言葉を最後に、坂上田村麻呂の魂はその場から消失したのだった。
目の前の法子は法子なのか?それとも寄生したエリスなのか?
今、法子の精神世界の中にはエリスが入り込んでいた。
そこは法子の思いが詰まった世界。
駄々広い白い部屋に、アイドルやアニメのポスターやゲーム、それにお菓子が散らばっていた。その中をエリスが進むと、今度は図書室のような部屋が存在する。
エリスは興味なく本に触れると、法子の記憶が映像のようにエリスに入って来た。
「面白い記憶ね。興味深いわ。でも、この記憶の全て、覚えちゃった。これで私はこの娘の能力を手に入れたも同然ね。ん?何あれ?」
エリスは法子の深層心理世界の中で、微かに感じる異様な力を感じて向かってみると、閉ざされた通路を見つけたのだ。
その通路の先に、目映く金色に光り輝く扉があった。それは潜在能力を司る法子の可能性の扉だと思われたが、その神々しい波動にエリスは震えていた。
「この扉は何?この文字はギリシア文字?違うわ、神話文字じゃないの?何故、こんな扉が存在するの?分からないけれど興味あるわ」
その扉には刻まれていた。
『選ばれし者はこの扉を開け、力を使う事を許す。そうでない者は開ける事を固く禁ずる』
「私が選ばれし者よ!ああはははは」
エリスは扉に触れると、その扉が微かに開いたのだ。
場所は変わる事、現実の外世界。
そこでは玉龍と桜達が嘘のように動きを止めた法子に近付いていた。
今のうちに法子を取り戻そうとしていた。
「法子さん!気をしっかり持ってください」
「待ってください!法子さんの様子が変です!それ以上、近付くのは危険です!」
「えっ!?」
力が爆発した。
法子を中心に金色のオーラが渦を巻きながら、濁流の如く竜巻が起こった。
その破壊力は激しく、接近していた玉龍達は飲み込まれるように弾かれたのだ。
「うわぁあああ!!」
そして吹き飛ばされながらも、玉龍は大地に剣を突き刺して堪えると、視線の先にいる法子の異変に気付いたのだ。
ゆっくりと開かれる瞼の奥から見える金色の輝き。
それは奇跡の力として幾度と見せた法子の金色の魔眼だった。
しかし、玉龍と桜は法子の更なる異変に凍てつくような感覚を覚えた。
「う、嘘だ。法子さん?どうして!」
法子の金色の輝きが徐々に歪みながら変色していき、その輝きは銀色に移り変わっていく。そして法子自身の変化に、その変化を知る玉龍は震えて動けなくなる。
法子の金色の魔眼が瞼で塞がれ、再び開かれた時、その輝きは銀色の閃光を放つ魔眼に変わっていた。いや?それは魔眼ではなく、
「どうして法
子さんが忌眼を?」
それは姜子牙や玉面が持っていたカミシニの持つ王の眼の事だった。
法子の忌眼が開かれた時、法子を中心に足元が広範囲に陥没し、そして天が裂けるように雲を消し去った。揺れる大地は地震を起し、被害が増大していった。
その揺れに、眠っていた者が目を覚ました。
「はぁ、おちおち寝てらんねぇな。法子の奴、何やってんだよ。はぁ、はぁ。お前がそんなんじゃ、俺様が支えてやんねぇとならねぇよな」
それはヒュプノス神とタナトスとの戦いで、タナトス神の自爆に飲み込まれた孫悟空だった。
しかし寸前で玉龍により救われていた。
「くっ、俺様が必ず・・・」
孫悟空は思い出していた。
かつて孫悟空や八戒、沙悟浄の師であり、法子の父親である三蔵は、阿修羅と一つだった孫悟空が幾度と繰り返し暴走する度に、我が身をかえりみず受け止め、助けてくれた。
その三蔵が最期に自分に託したのは、いずれ現れる我が娘の法子だった。
「今度は、俺様が救う番だ!そのために俺様は強くなったのだからな!」
孫悟空は傷付いた身体を気合いで立ち上がると、金斗雲と呼ばれる飛行雲を呼び寄せ飛び立ったのだ。
場所は変わり、時を遡る。
法子の身に変化があった原因、忌眼が覚醒したのはエリスの行動であった。
エリスが扉に手を触れた時、金色の輝きが濁っていた。
そして扉が開かれたのだ。
「この中に、何があるか楽しみだわ」
扉の中は高密度の神聖なる神気が凝縮し、神であるエリスでさえ足を踏み入れる事に躊躇する程であった。
「この私を誰だと思っているの!この私はエリス!始祖神である母様の直系の血統なんだからね!」
エリスが一歩踏み入れた時、全身を通り過ぎるように力が廻られた。そして、全身が落下するような体感を得て息苦しくなる。
「ウッ、な、何よ!この沸き上がる力は?こんな力が人間の中に存在するなんて有り得ない。いえ、この娘は神の転生者だとしたら、納得出来るわ。そうなのね。それにしても、何なの?力の底が全く見えないわ!」
エリスは、入って来た扉のこと。
そして目の当たりにする力の宝庫。
それに思い当たるふしがあった。
「まさか、これはあの?そうね、そうなのよ!間違いない。数多の神々が争い、手に入れようと求めた世界そのものと言える力、運命すら変革する救世の力なんじゃないの」
でも、どうしてこの法子の中に?
そんな疑問など関係ない。
まさに今、エリスが手に入れる力なのだから。
その時、エリスはこの何もない空間から気配を感じたのだ。
しかも一つ二つではない。
「な、何よ。何なの?何なのよ!あんたらはーー!」
エリスは扉の先から無限にも思える無数の眼に見下ろされていた。まるで選別されるかのようにエリスを見透かし、その威圧感に全身が凍り付く。そして、謎の声がこの空間全てに響き渡る。
『汝はなんぞ。エラバレシ者か』
その問いに、エリスは答える。
「アハハハ!選ばれるって何よ?この私に力を与えるなら、寄越しなさい!これほどの力なら、このエリス様が使ってこそ相応しいわ!早く寄越しなさい!」
『・・・・・・』
その時、謎の声が再び響き渡った。
『愚かなる者よ。好きにするがよい』
「何が愚かよ!私を誰だと思っているの?この私はエリス様なのよ!あははははは!」
エリスに漲る力が一瞬で溢れた。
「凄いわ!力が全開したわ!これなら計画を果たす必要なく世界を変えられるはずよ!ヒュプノス兄様への良い土産になるわ。えっ?ちょっと待って!ねぇ!待てよぉー!」
が、エリスは突然胸を押さえて苦しみだしたのだ。それは溢れる力にエリスの魂が耐えきれずに、亀裂が入ってきたのである。
エリスの顔の皮膚が割れ、全身を突き抜けるように力が噴き出した。
「フアギャアアアア!」
その直後、外の世界の法子が「忌眼」を解放させて、暴走したのだ。
「必ず僕が法子さんを守らないと!」
「私も救われた命、必ず報います!」
が、二人は法子の放つ力の波動の前に近付く事すらかなわなかった。そこに、玉龍の肩に手を起き、語る者がいた。
「安心しろ。ここから先は俺様が任されてやるぜ、玉龍。だからさがっていろ」
「孫悟空さん!」
振り返る玉龍は孫悟空の姿を見て、安堵した。
しかし孫悟空もまた重傷だった。
「お前達、また力を借りるぜ?」
孫悟空は、桜を守る四人に叫ぶと、赤龍朱雀、白龍白虎、黒龍玄武、青龍蒼龍が頷き、共に掌を向けて力を孫悟空に注いだのだ。
「私の力も使ってください!」
桜も同じく掌を向けて力を注ぐ。
「ありがてぇー。後は俺様の仕事だぜ!」
孫悟空は力の濁流の中心にて暴走する法子に向かって向かって行く。龍神と聖獣の力を加えた孫悟空ですら、容易に近付く事が出来ない。それでも孫悟空は一歩一歩近付く。
「法子、お前の身に何が起きたか分からないけどよ、絶対に、必ず、俺様が元に戻してやるからよ」
孫悟空は渦の中心にいる法子に向かって飛び込むと、その肩に手を置いて叫んだ。しかし、法子の瞳は孫悟空を見ていなかった。
「俺様を見ろぉー!」
孫悟空は法子の肩を強く掴み、叫ぶ。
「らしくねぇーぞ!法子!お前は逆境に負けねぇ!俺様が知るお前は、困難を乗り越えられる奴だろ?そんなお前を俺様が信じている!もしそれでもお前にのし掛かるなら、俺様に背負わせろ!俺様がお前の荷物番にでも何でもなってやるからよ!」
「うわぁあああ!」
孫悟空は暴走する法子を強く抱き寄せると、
「クッ!覚えているか?この戦場に来る前にフォン(小角)が言ってた忠告を・・・」
それは小角の即身仏が置かれた洞窟を出る際に告げられた。
この世界は法子の生きていた世界とは異なる別の世界。
同じ容姿で、同じ声で、同じような運命を生きている者が存在する。
しかしそれは似て非なる存在。
だからこの世界で起きる惨劇に関しては、決して深掘りしてはならないと。
誰が傷付き、たとえ死んだとしてもだと。
そうでなくては、この世界に囚われ、元の世界に戻れなくなることはもちろん、法子の知る本当の世界に歪みが生じて、予測出来ぬ何らかの異変を起こす可能性があるのだと。
「俺様がお前を背負ってやるから、元に戻ってくれーー!」
「!!」
その時、法子の瞳から一粒の涙が頬をつたった。
同時に法子の銀色の瞳の輝きは消えて、元の瞳へと変わっていた。
「孫悟空、あんたが私を助けてくれたの?」
「法子!元に戻ったのか?」
法子をまた強く抱き締める孫悟空に、
「待った!待った!もう大丈夫よ。だから苦しいから少し離れてちょうだい」
「ん?」
孫悟空は法子から離れると、そこに様子を見ていた玉龍と桜達が駆け寄って来た。
「やっとお前らしくなったな」
「ごめんね。それに皆もありがとー」
「法子さーーん!孫悟空さーーん!」
「法子さん!」
この場が落ち着いた。
そう感じた時だった。
「ウギャアアアア!!」
「!!」
声の方向には、焼き焦げた姿のエリスが苦しみながら踠いていた。
「エリス!」
「こ、この私はどうなってしまったの?何故、外に出てしまったの?あー!身体が熱い!痛い、焼けるようだわー!」
そのエリスの頭上から、新たに神が降りて来たのだ。
それは孫悟空の知る敵。
「ヒュプノスか!やはり生きてやがったか」
「我が兄神タナトスの決死の行為も無駄におちたか」
「ヒュプノスお兄ちゃん!痛いのよ!私!痛くて苦しくて、憎くて!」
「分かっている。だが、他の兄弟は我々を残し全て人間どもに淘汰された。しかし我々神が敗北など許せぬ。ならば計画を速める事が最優先だと知れ」
ヒュプノスはエリスの胸に手を置くと、神力を籠めて唱えていた。
「ま、待って!早まらないで!私、見つけたの!見つけたのよ!私達が喉から手が出る程のお宝よ!お兄ちゃんもきっと…」
「眠れ、エリスよ」
ヒュプノスはエリスの言葉を遮り、その計画を発動させた。ヒュプノス神達がエリスの復活を最優先にし、行おうとしていた計画とは?
後にエリスは凶悪な魔神を産み出す聖母としての能力を持っていた。
しかしこの計画は、エリスの身体を使い更なる別の魔神を産み出すための儀式として使う生きた祭壇だった。
「ウギャアアアア!」
エリスの魂が業種しながら、ヒュプノス神の力を籠められ、その中心に闇が穴として出現した。その闇は噴き出すようにして、この一帯を深淵へと変えていく。
「あの野郎!何をしでかすつもりだ!この俺様が止めてやる!」
孫悟空が飛び出そうとするが、力が抜けるようにその場に膝をつき、朦朧となる。
法子の暴走を止めるために力を完全に使い果たしていたのだ。
「孫悟空!」
「大丈夫だ。こんな時にヘタってらんねぇよ!それにしても何が起こったのだ?」
するとヒュプノス神が高笑いし始めた。
「もうじき世界は深淵の闇に染まる。この世界にはいっぺんの光は残らぬ世界となる。そう、我が始祖たる母神の力によってな」
それは夜。
しかも深淵たる闇のごとき夜の世界。
世界は闇に染まっていく。
全く物音一つなく、視界も消えた。
それは世界中に生きる全ての生者を恐怖させた。
「我が母神ニュクスの最誕。この夜の世界で、この夢を司るヒュプノス神は、何者も近寄れぬ究極の絶対神となったのだ」
が、ヒュプノス神の前に光が妨害した。
「!!」
それは玉龍、桜と四人の聖獣戦士達。
そして、孫悟空と法子の神気の輝きだった。
「愚かなり!この私は今や、至高!お前らなど、もはや相手にならぬわ!」
すると闇が触手となって、法子達に絡み付き身動きを止めたのだ。
「な、何なの?これ!うざったいわ!」
「くそ、本調子なら好きにさせねぇのによ!調子に乗りやがって!」
「ぐぅうっ!」
締め付ける闇に押し潰されようと防御することしか出来ない状況に陥る。
「アハハハハ!この闇全てがこの私の力の源!もはや世界が私と一つとなったのだ!この偽りの世界、この私が一度消し去ってっ・・・!!」
「!!」
何が起きたのか、この場にいる全てが理解する事に思考が追い付けずにいた。
突如闇の中よりヒュプノス神の背後から巨大な獣が口を開き、そのままヒュプノス神を喰らい飲み込んだのだ。
一瞬の出来事。
ヒュプノス神は自らに起きた状況を把握出来ずに、その魂が消失していた。
そして、その場にヒュプノス神の代わりに佇み立つ姿が一つ見えた。
アレは?
「安倍晴明!」
この世界に終末に、今起こる最後の戦いが始まる。
次回予告
安倍晴明は敵か味方か?
そして、崩壊する世界で戦う法子達の戦いは何をもたらすのか?




