なりたい自分?
法子の危機に現れたのは、過去の世界に残してきたはずの玉龍だった。
新たな戦力が加わり、巻き返せるのか?
私は法子。
まさか玉龍くんまで、この世界に来ていたなんてビックリだわ。
けど、これで私も負ける気が失せたわ。
「聖獣変化唯我独尊・麒麟」
私は玉龍君が変化した麒麟と合神化する事により、銀色の鎧と衣を纏ったの。
力が魂から漲ってくるわ。
「何なの、お前。龍神と同化したのか?そんな、何なの?あんたは!」
邪神エリスは私の変化した姿に驚愕していた。私が人間相手だった事に油断していたが、これが原因で本気になってしまう。
「まぁ~相手にとって不足なしよ」
「お前が何なのか関係ない。始末してやるわ!この私の力で!」
邪神エリスは桜ちゃんの黄龍の鎧を身に纏い、私と対峙したの。
金色の龍鎧と銀色の龍鎧。
お互いの龍気が空間を歪ませ衝突すると、私とエリスは飛び出していた。
「紛い物でこけおどしなど、通用しないわ」
龍神の杖を振り払うエリスに対して、
「奪った力で調子こかないでよ。私と玉龍くんの絆の力は、ハンパないわよ!」
私はエリスの杖を紙一重で躱すと、鎌の斬撃のように私の真横をすり抜けていく。
(既に見切っている)
確かにエリスの杖から放たれる桜ちゃんの力は強大だけど、エリス自身は戦闘にかけては素人のようだわ。どんな名刀も使いこなせなければ、価値はないのよ。
「グヌヌヌッ!」
私は龍気を掌に集中させると、形となって剣と化していく。
「あら?これ何?」
(これは僕の麒麟剣です!使ってください)
「玉龍君の武器を使えるのね?有り難く使わせて貰うわね!」
私は麒麟剣を振り払うと、業火がエリスを襲ったの。
「こんなもの!」
炎を振り払うとエリスの前に、私が印を結び「大重刑」と叫ぶと、エリスが押し潰されるように地上へと落下した。
「重力系の能力か?こんなもの私には効かないわ!」
地面に着地するなり、エリスは吐き出した息吹きが私の能力を消し去る。
「小手先の攻撃が効かないのは承知よ。だからこれが本命」
閃光と轟音が空を覆うと、私は電流を纏い、雷のように移動しながら落下してエリスに接近していた。
「龍雷蹴り」
私の雷の如き蹴りがエリスの杖を弾き飛ばすと、剣を顔面の前に突き立てる。
「これで勝ったつもりか?人間」
「あんたを倒して勝つ前に、取られたものを返して貰うわ」
「何を!?」
私は剣を地面に突き立てると、両掌から水流を放出させて同時に疾風を起こし、更に回転させながら鳴門の中にエリスを閉じこめる。
「うごぉ、うごごご!」
これで身動きを止めたわ。
後は、桜ちゃんとエリスを引き離すだけ!
私は印を結び、唱えたの。
「以心伝心精神移動の術」
私の念を飛ばしてエリスの意識と強制的に繋げたの。
(桜ちゃん!待たせてごめんね!今、助けるから!)
私はエリスの深層心理の中に潜っていく。
いえ?これは桜ちゃんの深層心理?
産まれてから、今日までの記憶が私の前に映写機のように流れていく。
赤ちゃんの時、言葉を覚えて、喋りだし、そして成長していく姿を見て、
私は・・・
「萌え~!!可愛い~!やっぱり美少女は赤ちゃんの時から天使よ~!キュン死にしそ~!あ~!!」
悶える私の肩を叩く感触がした。
「えっ?玉龍君?」
「あの~法子さん。お邪魔して申し訳ございません。えっと、あちらの方に」
「ん?何かな?」
見ると、黒い障気が漂う空間があった。
「玉龍君?きっとあの先に桜ちゃんがいると思うわ。行ってみましょ」
「はい!法子さん」
私と玉龍君は黒い障気が立ち込める空間へと入り込んでいく・・・・・・。
私は桜・・・
私はどうなってしまったの?
何も思い出せない。
ヒュプノス神との戦いの最中、空中から光る物体が落下して来た事に気付いた。
ソレが何なのか分からなかったけれど、とても恐ろしい予感がしたのを覚えてる。
放って置けば、私達のいる場所だけでなく、この地一帯を焼け野原にする予感。
それが原子爆弾と気付く前に、私はこの場にいる誰よりも先に動いていた。
大地の地脈から龍気を引き上げ、落下して来る物体が破裂するより先に、その周りを結界で覆った。更にその威力が未知数なため、結界を可能な限り広げて災難を防ごうとした。
けれど、爆発は想像を遥かに上回り、その威力を押し止めようと私は気力を振り絞り、力を使い果たした。
そこから先はうろ覚えだった。
倒れている私を抱き抱えてくれたのは総本山の安倍晴明さんだった。
(助かったのね。私)
そう思っていた。
しかし安倍晴明さんは総本山を裏切り、ヒュプノス神達神の兄弟と手を組んでいた反逆者だったの。私は何らかの儀式に使う祭壇の上に寝かされ、そこで肉体を奪われた。
私の意識が遠退き、魂の中に押し込まれていく。
そして、私の中に別のナニかが入れ込まれたの。
ソレは私の代わりに私の身体だけでなく、龍神の力を引き出して使った。
「邪神エリス」
更には私を守ってくれるはずの四人の守護者達を、私の命を人質にして命じていた。
(いや、ダメ!お願い。私の身体を返して)
その後、私の姿をしたエリスの前に、法子さんが現れて対峙していた。
止めなければ!
そう思っていても、エリスは私の意識を更に闇の奥へと封じ込め、、言葉を発する事は勿論、外で何が起きているのかすら分からなくなっていった。
やがて私は魂すら凍てつく牢獄の中へと消えていき、私が何者なのかすら考えられなくなり、思考が途絶えた。
凍てつく闇。
何も感じない世界。
何も考えなくて良い世界。
いや、私は戻らないと駄目なんです。
皆が、私を待ってる。
こんな私をいつも守ってくれる守護者の皆。
けれど私の心は冷えきっていく。
何も出来ない。
未熟で、力のない私。
臆病で、皆の足を引っ張って。
「こんな私、嫌い・・・」
負の感情が、私を余計に縛り付ける。
このまま何もかも諦めてしまえば。
何もかも消えてしまえば、もう苦しまなくてすむかもしれない。
楽になりたい。
邪神エリスは私の持つ負の感情を糧に、そして私の心に棲む闇を増幅させる。
それがエリスの力となる能力。
私は負の感情を何度も何度も繰り返しては、ループするように心を破壊されては修復され、増幅する自分自身への怒り恨みや猜疑心がエネルギーとなり、エリスに力を与えていたの。
自ら死ぬことも叶わずに。
どれくらい経ったのだろう。
もう、何もかもが分からない。
自分が壊れていく。
もう、このまま消えてなくなりたい。
「さくらァーー!」
「!!」
その時、私の魂が揺れた。
声?誰の?いえ、分かるわ。
私をいつも支えてくれた仲間。
赤龍朱雀、双龍青龍、白龍白虎、黒竜玄武
私の転生前からの絆で結ばれた本当に大切な絆の恩人であり、お友達。
こんな弱い私を守ってくれて、支えてくれる。
「み、皆、助けて・・・」
私の意識が一瞬戻り、突然正面に現れた光に向けて手を伸ばしたの。
暖かい手が私の伸ばした手を握る。
それは、一つ?もう一つ。
とても強く暖かい光に包まれながら、私は闇の中から引っ張られていた。
何が起きたと言うの?
その時、声が聞こえた。
「良かったぁ~。桜ちゃん無事でいてくれて、本当に良かったわ~」
「法子さん。この娘が、あの?」
「そうよ。玉龍くん」
私を絶望の闇から引き上げてくれたのは、法子さんと、もう一人の龍族の少年だった。
「わ、私は?」
「桜ちゃん!助けに来たわよ!」
「本当に法子さんなの?夢じゃ?」
「夢のような、本当の話しよ!現実よ」
と、私の頬を詰まんで、笑顔を見せて抱きしめてくれたの。
そしてもう一人の少年が、
「貴女から感じるのは僕と似てる魂」
それに、見つめる彼と私の顔は、双子のようにそっくりだった。
「積もる話は沢山あると思うけど、そろそろ外に出るわよ。その前に、あの娘を追い出してからね」
法子さんの視線の先に、闇が濃くなり、そして私達に向かって殺気を向ける瞳が浮かぶ。
「アレって、もしかして?」
「そうよ。アレが桜ちゃんに寄生した邪神エリスよ!力を貸してくれる?」
「当然ですわ」
私は法子さんの肩に手を置くと、私とそっくりの少年がもう片方の肩に手を置く。
二人の力が法子さんに注がれていく。
「いつまでも私の友達の中で好き勝手やらないでよね!アンタなんて出て行きなさい!行くわよ、退魔の法術!」
放たれる閃光が邪神エリスの闇をけしさっていく。
「ふふふっ。この世界は私の世界。この世界にわざわざ足を踏み入れた地点で、お前達は既に勝ち目も、逃げ場もないのよ!」
邪神エリスの闇が法子さんの放つ光を押し返すように、徐々に迫ってくる。
「法子さん!」
私の心配をよそに法子さんは笑みを見せていた。
まるで負けるなんて、ひとかけらも考えていないように。
(どうして?)
すると法子さんは背後の私に言った。
「エリスの言葉に耳を貸さないで。私達は既に勝ちルートの上にいるのよ。そのピースは既に私の手の内にあるのだから」
「それって?」
法子さんは、肩に乗せた私の手に、自分の手を乗せて教えてくれた。
「忘れたの?エリスは桜ちゃんの負の心を力にしているの。だから、桜ちゃんが強く、自分を信じれば弱まるはずよ!」
「そんな・・・」
自分の事をしんじるなんて、出来ないわ。
しかもこの状況で、直ぐになんて、無理。
闇の力が徐々に濃く、迫って来ていた。
「自分を信じるって難しいけれど、そうね。なりたい自分をイメージしてみて?なりたい自分に、自分の姿を重ねてみて?桜ちゃんはどんな自分になりたい?」
「なりたい自分?」
それは、こんな状況で悠長な問いかけにも思えた。
けれど、その答えは簡単に出せた。
そして、言葉に自然と出していたの。
「私は、法子さんみたいに自分を信じられる私になりたい!」
「照れるけれど、良い答えよ!」
その時、私の魂が強く震えて、今まで締め付けていた迷いが吹き飛んだの。
法子さんのように!
その思いは力となり、エリスの闇を押し返したの。
「なっ、力がき、消えていく。そ、そんな!?」
「邪神エリス!あんたの負けよ!桜ちゃんは、あんたが思うより強かったのよ!」
法子さんの掌から闇を消し去る閃光が一気に噴き出して放たれると、邪神エリスの闇を押し返しながら消し去っていく。
「あ、アンタ何なのよ~ぎゃああああ!!!」
断末魔と共に消えるエリスと共に、私の中の世界が消えていく。
「!!」
瞼がゆっくりと開かれると、眩しい光から人影が私を覆い、そして抱きしめた。
「さくらーー!」
「朱雀?」
私の前には、涙を流して私を見詰める朱雀がいた。
そして玄武に白虎、蒼龍まで。
「た、ただいま」
「本当に桜なんだよな?桜!」
「うん。正真正銘の私。ごめんね。心配させて、本当にごめんなさい」
「謝らないでくれ。お前をエリスに奪われたのは、俺達の失態。謝るのは俺達の方だ」
すると、私は法子さんを見て、
「本当に有り難うございます。法子さん」
「感謝なんて水臭いわ。もう友達でしょ?友達を守るのに理由なんてないわ」
「法子さん」
そして、私はもう一人の彼を見る。
「玉龍さん。でしたよね?」
「あ、は、はい」
「あの、私と貴方は?」
私と同じ魂を感じ、他人ではないと本能的に感じられたから、気になっていたの。
「僕は、貴女の姉弟らしいです。と、言っても貴女にとっては、前世なのですが」
「私の前世の姉弟?」
突然聞いた発言に驚きはしたけれど、嘘だとも、間違いとも思わなかった。
それだけ私と玉龍さんは、同じ魂とも思えるほど、見た目の姿まで同じだったから。
「う~ん。美少年と美少女。ごちそうさまです!二人とも~」
と、法子さんがほんわかさせた時だった。
突然、法子さんの表情が険しくなったの。
「あ、あんたは」
その視界の先に、一人の女神が立っていた。
「お前達、エリスをどうした?まさかエリスを消したとは言わせないぞ!」
「エリスなら桜ちゃんから追い出してやったわ。アンタもヒュプノス神の兄弟ね?アンタも私達と戦うつもり?」
「信じられない。許せない。お前達はこの義憤のネメシスが生き地獄を与えた後に、これ以上ない無惨な死を与えてやる」
「あんたに出来るかしら?この私達全員を相手に勝てると思ってるの?」
「ふはははは!既に私はお前達の仲間を三人仕留めている。大柄の男に鬼神の男、それにまだ若い制服姿の小僧よ」
「えっ?」
このネメシスが殺めた相手って、まさか私と同じ守護者の仁王さんと、坂上田村麻呂さんじゃ?それに学生服の人って?
その時、法子さんが呟いたの。
「ゆ、勇斗?」
その名に、ネメシスは反応するかのように笑いだしたの。
「そうよ!確かそんな名前だったわ。この私を相手に何を血迷ったのか、女だと知った途端に攻撃の手を止め、自爆した小僧よ!お前の関係者か?奴は跡形もなく消滅しよったわ!あははは」
ネメシスの高笑いに怒りを感じる私でしたが、その時、何か鳥肌が全身を襲ったの。
それはネメシスからではなく、
「法子さん?」
私は法子さんの変化に全身が凍てつくように身動きが取れなくなったのです。
次回予告
法子に起きた変化?それは?




