正真正銘、絶対無敵の正義の女子高生よ!
勇斗とネメシスの戦い。
勇斗は守護者を倒すほどのネメシスに勝利する事が出来るのか?
俺は佐伯勇斗。
どうやら覚悟を決めなきゃな。
相手は神そのもの。
この戦いは、命を懸ける場所を自分で決める戦いだと分かっている。
世界の命運を決める戦いなのだ。
俺はこの戦場に出向く前に、空海親父には最期の別れを告げて来ていた。
言葉は多くは交わさなかったが、この戦いの意味は語らずとも理解している。
それを知った上で、俺はこの戦場に参加する覚悟を決めて来たのだから。
「行ってくる」
「勇斗!」
何かを躊躇う親父に俺は背中越しに答えた。
「わかっている。この戦いがどれほど重要なのかと。そして俺が帰れない事も」
「・・・・・・すまぬ。お前に託すしかない運命に、俺は己の力量に悔やむ」
「親父は親父の責務を果してくれ。じゃあな」
(親父、育ててくれて有難う)
そして俺は己の運命を知りながらも、この戦場に来た。
ネメシス神は総本山の四人の守護者。
仁王、坂上田村麻呂と倒している。
少なくとも、俺が本来太刀打ち出来る相手ではない。
なら、どうする?
「ここが俺の命を懸ける場所なのだな」
俺はネメシス神の前に立った時、既に蛇に睨まれたように全身が硬直した。
それでも奮い立たせる。
少なくとも、この戦場で散った仁王さん、坂上田村麻呂さん以上の戦力はいない。
この俺しか止められない。
「上等だ」
俺は意識を高める。
明王神の転生者である俺は神力を使い、己の神を具現化出来る。
だが、それだけでは目の前のネメシス神には勝てないようだ。
なら、どうする?
少なくとも俺には可能なのだ。
いかに強敵であっても倒すための手段。
いや、力を持っている。
「オン・アミリティ・ハッタ」
ただし、これは簡単ではない。
命を懸ける。
これは言葉通りの意味。
「チャクラギア開放!」
チャクラとは気の流れ。
エネルギーの流れを意味する。
人体には七つのチャクラが存在することは知られているが、神の領域には更なる高みがある。
それは八つの神のチャクラの開放。
この15のチャクラを全て開いた時、それは無限に近い神域に踏み込む。
ただしその領域に足を踏み込めば、莫大な力を使うと共に己の存在を捧げるに等しい。
対価の力。
「己を捧げて力を得るとは愚かな」
「愚かだと?ふざけるな。お前達が古の神である事は認めよう。だが、この地上に生きる人間を滅ぼして良い理由にはならない!俺は神の転生者だが、人として生きた人間でもあるんだ。少なくとも俺は人間を滅ぼしたりはしない!守るべき存在だと思っている」
俺は赤子から幼少時、少年時の思い出が走馬燈のように過ぎっていく。
「愚かな。人間に組みして、神である誇りを失いし愚神が!」
俺のチャクラが燃えるように全身を廻る。
血管?神経?魂が全身を焼き付くすように熱く、そして底知れぬ力が今にも爆発しそうで、抑えている事が辛いくらいだった。
(一発が、俺の限界か)
この力の代償は俺の命。
一度火をつけた以上、もう後戻り出来ない。
十五のチャクラは開き、力の解放は無限力と化す
ただし俺が手綱を引っ張っていられる間、力の解放は放っては置けない。
俺の魂が尽きるまで。
この力は守るべきモノまで破壊する力。
だから俺が責任を取る。
覚悟は出来ている。
「このネメシスの力にて消え失せよ」
ネメシスの神力が爆発的に跳ね上がり、俺に向けて押し寄せる。
「!!」
が、俺の命をかけた一撃は、ネメシスの押し寄せる力を貫きながら前進した。
「この俺の魂をぶちこむぜぇーー!」
ネメシスが纏う鎧が俺の力に耐えられずに砕け散りながら、露になった肉体が見えた。
生身で受ければ、神とて一溜りもない。
「俺と心中して貰うぜ!!」
俺の全身全霊の一撃が放たれた。
閃光の気柱が大地から天を貫いたのだった。
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場所は変わる事、法子もまた邪神エリスとの戦いに苦戦していた。
黄龍の巫女である桜の身体を手に入れたエリスは、その龍の力を使い攻撃してきた。
私は法子よ。
も~う!
やりづらいったら、ありゃしないわ!
桜ちゃんの身体を傷付けないで、どうやって寄生した邪神エリスを倒せば良いのよ!
「身体が嘘のように軽く、力が湧き出るわ!アハハハハ!」
一撃でも直接攻撃を受けたら、一溜りもないわ。
それでも、私だって幾度と死線を潜り抜けてきたわけじゃないのよ。
紙一重でエリスの放つ鎌のような斬撃を躱す。
相手の呼吸に合わせて、相手の微かな筋肉の動きや、視線を観察し、先読みしながら最小限の動きで躱しつつ、反撃のタイミングを見計らっていた。
極限の針詰めた緊張感。
私は、狙っていた。
桜ちゃんの身体に寄生しているエリスの魂を引き離すためには、直接身体に触れて除霊、この場合は除神と言うのかしら?
その除神で肉体からおい出す。
もし、これで駄目なら打つ手ないわ。
「ふぅあーーーーー!!」
エリスの突き出した杖が私の頬を掠める。
それでも私は退かずに前に出ると、
「合気」
掴みむために伸ばした手が空を切る。
「えっ?」
「無駄よ!お前の魂胆は見え見えよ!私はお前の動きを見切ったのだから」
エリスの動きは私の動体視力を上回り、残像を掴ませられたの。
そしてエリスは私目掛けて、大技を繰り出して来たのよ。
「龍光護大掌」
光の龍の光線が私の全身を打つ。
「グッ」
雨のように全身を襲う痛みに、私は気のガードをしながらもダメージを受けて、崩れるように膝をついて倒れたの。
「あっ・・・」
嘘?今のはまずかったわ。
全身が言うこときかないみたい。
立ち上がらないと、次の攻撃にそなえないと、殺られる!
「人間ごときが生意気なのよ。このまま楽には死なせないわ。全身を切り刻み、痛みを味合わせて死なせてあげる」
「このドS!」
けど、どうしたら?
このまま死んだら、今まで何のために頑張って来たのよ、私は!
まだ私はやり残した事があるのよ。
過去の世界に残して来た仲間達も心配だし、私のいた世界にも帰らないといけない。
こんな場所で、死んでなんてやらないわ!
「終わりよ!消え去りなさい」
「!!」
迫るエリスの振り下ろされた杖が、私の腹部を突き刺した。
そう思った。
「何処に消えたの!?」
エリスの杖は私の消えた地面を突き刺していた。
そして周りを見回すと、
「待たせてしまって、申し訳ありません。法子さん」
「えっ?」
私もやられたかと思った瞬間、誰かに引っ張られて寸前で助けられたの。
その声を聞いた時に、私は安堵した。
私を抱き抱えて立つ少年。
銀髪に、龍神の角が見える。
そして剣を構えた彼は、
「玉龍君!」
「法子さん!会えて良かったです!」
「玉龍君もこの世界に?」
「はい。いろいろあってはぐれてしまいましたが、この世界で法子さんを探して回っていました。本当に出会えて良かった・・・」
涙ぐむ玉龍君は、私と孫悟空が西王母の造り出した穴の中へ吸い込まれた時に、誰よりも速く飛び込んでいたの。
けれど時の穴の中で、私と孫悟空を追いかけて出た先は、この異なる未来世界。
当然、右も左も分からない中で、私の気配を追って探してくれていたの。
「孫悟空さんも無事です」
「えっ?」
聞くに孫悟空はヒュプノス神とタナトス神との戦いで、自爆するタナトス神に巻き込まれた所を、神速を使った玉龍君が寸前で救出したと言うの。
「ここは僕が戦います。あの邪悪な女神から、何故か僕と同じ力を感じますから」
「いえ、二人で戦うわ!彼女はこの世界の黄龍の巫女。邪心エリスに身体を奪われているのよ」
「黄龍の巫女?それって」
私は頷くと、玉龍君と印を結ぶ。
「行くわよ!麒麟変化唯我独尊」
すると私の中に玉龍君が重なりながら消えていくと、私の傷が嘘のように塞がっていく。
そして光が私の身体を覆いながら、麒麟の鎧が纏われたの。
「お前は、何なの?何なのよ!人間がどうしてそんな力を持っているのよ!」
「教えてあげないわ。ただ一つ言える事は、あんたが相手しているこの私は、正真正銘、絶対無敵の正義の女子高生よ!」
玉龍君の助っ人で私は息を吹き返し、そして邪心エリスに颯爽と戦い、必ず桜ちゃんを取り戻してみせるわ。
そんなこんな。
そして、法子達が戦っている戦場から離れた裏高野の洞窟の中で、空海は息子である勇斗の魂が途絶えた事を察して涙していた。
そこに、何かの気配を感じて振り向き警戒した。
「何者だ!」
そこに現れた影の正体に空海は驚愕した。
『この奥に役行者がいるはず。会わせて貰いたい』
一体、誰が空海の前に現れたのか?
その者の出現は、法子達の戦いにどう絡むのか?
次話へと続くのであった。
次回予告
邪神エリスと法子の戦いはどうなる?
そして、戦場を揺るがす大どんでん返しが起こる。




