覚醒!?義憤(ぎふん)のネメシス神!
孫悟空を道連れにタナトス神が自滅した。
これは、この戦いをさらに過酷にする。
その戦いは一瞬だった。
孫悟空との戦いで、タナトス神が自爆をはかったことで、神側が劣性になった。
さらには総本山の坂上田村麻呂と仁王もオネイロス神とモロス神を倒した事で、ヒュプノス神は動揺していたのだ。
「あり得ぬ。神が人ごときに敗れるなど、あってはならぬ事だ・・・」
そして残されたヒュプノス神に、坂上田村麻呂と仁王が追い討ちをかけようと攻撃を仕掛けるが、ヒュプノス神は神圧を放ち二人の攻撃を受け流す。
「調子づくなよ。我が兄弟の仇は私がとろう」
「やれるまのなら、やってみろ!お前も俺のサヤハの剣の錆びにしてやる」
坂上田村麻呂がヒュプノス神に攻撃を仕掛けるタイミングを目配せで仁王に合図をした時だった。
「ぐうぅ!」
「!!」
坂上田村麻呂の背後にいた仁王が唇から血を垂らし、そして気付く。
仁王の胸が背中から手刀で貫かれている事に。
「先ずは一匹だ」
その者は手刀を抜くと同時に、坂上田村麻呂に手刀を振り払うと、その斬激が坂上田村麻呂の受け止める剣をすり抜けるように傷をつけた。
「うっ、(致命傷は躱せた。いつの間に背後に?)それより仁王!」
仁王は立ったまま絶命していた。
「クソォオオオ!」
激怒する坂上田村麻呂だったが、目の前の敵は坂上田村麻呂に向かって、
「お前の怒りなど小さき事。俺は兄弟をお前達に奪われたのだ。血を分けた兄弟を手にかけたお前達に、俺は必ず復讐する」
その神の名は、ネメシス神。
義憤のネメシス。
「俺は今、この怒りを己の身で抑えておく事が出来ない。今にも爆発しそうだ。ヒュプノス、この場は俺に任せて目的を果たせ!お前の分の怒りも、俺が果たしてやる」
「ネメシスか。良かろう。お前に託そう。私は目的を優先する」
二人の神の会話に坂上田村麻呂は割って入り剣を向ける。
「てめぇら!勝手に何を決めてやがる。どちらもなくても逃がしはしねぇーよ!」
「お前ごときを始末したところで、この悲しみと怒りは鎮まりはしないが吐き出させて貰うぞ」
「返り討ちにしてやる!お前らが俺達総本山は勿論、この世に生きる者達の災いのくせに、怒りを口にするとは片腹痛いぜ!」
ネメシス神は、最初結界を破壊し、座主を救出した丹生朱美の前に現れた3神の1神だった。
そこに座主直属の蛇神の戦士、大河愚地と黒神夜斗が救援に現れたのだ。
オイジュス神とモモス神を相手に奮闘する大河愚地と黒神夜斗。
そして座主と丹生朱美の前には、ネメシス神が迫っていた。
「座主様。ここは私が」
「いや、私が戦おう。君は結界を破壊するために、神力を使い果たしているだろ」
「しかし座主様の身体は」
「案ずるな」
座主は拷問の上、結界に己の霊力を奪われ消耗していた。立っている事も不思議なくらいに。それでも戦おうとする座主に、
「私も戦いますわ。これでも神の転生者ですから」
「そうか、すまぬ」
二人が戦闘態勢に入った時だった。
「ぬっ!?」
ネメシスは身震いし、空を見上げると感知能力で戦場を見渡した。
オネイロス神とモロス神の気配が消えた上に、更にはリーダー格のタナトス神の気配が消えた瞬間、
「あ、アァアア!」
魂が揺らされ、立っていられなくなるような苦しさに、意識が飛びそうになる。
しかし落ち着くと同時に、
「復讐」
ネメシス神の異変に残されたオイジュス神とモモス神も気付き、
「ついにネメシスが目覚めたか・・・」
「ネメシス。あの者が覚醒するのは我ら神聖なる血の繋がる兄弟に万が一の事が起きた時のみ。しかし目覚めた以上、ネメシスは我ら兄弟で遥かに強き神となる」
「この戦い、勝敗が決したな」
するとネメシス神の姿が消え、その姿は離れた戦場に出現していた。
「誰一人許さぬ」
そして気配なく、背後から仁王の身体を貫き、命を奪ったのだ。
「次はお前だ」
ネメシス神の殺気の圧は坂上田村麻呂の身体を震わせた。
「ザケルナ!殺気の塊かお前は?この俺を殺すつもりなら、覚悟しろよ!」
坂上田村麻呂もネメシスの圧倒的な力は感じ取っていた。その強さは、ヒュプノス神とタナトス神が合体した神と同等に思えた。
「俺の能力は兄弟の中で呪われている。大切な者を失い初めて力を発揮するのだからな。我が兄弟の死を受け止め、俺はお前達人間を根絶やしにし、復讐を果たす」
「させねぇーよ!」
坂上田村麻呂が斬りかかるが、その刀はネメシス神を覆う神圧の壁に止められた。
「お前も直ぐに消してやる」
ネメシスが坂上田村麻呂に向けて手刀を向けたその時、
「俺は総本山の一角。ただでは死なん!」
ネメシスの手刀が坂上田村麻呂の胸を貫いたと同時に、坂上田村麻呂は刀の向きを変えて振り下ろしていた。
「ぬっ!」
「ただでは死なぬと言っただろ?へへっ」
崩れ落ちる坂上田村麻呂は、自らの胸に突き刺さっているネメシスの右腕を斬り落としたのだ。
「見苦しくも抗うか!だが、終わりだ」
「グハァ!」
ネメシスは残る左手を握りしめると、坂上田村麻呂は全身を締め付けられる。
「俺を倒したからと言って勝ったと思うなよ。俺が繋いだ傷は、やがてお前を倒すだろうな!安心して逝けるぜ」
その言葉を最後に力尽き、坂上田村麻呂は戦場に散ったのだった。
「この俺の腕を持って行くとは。人間ごときが足掻くとこの神を傷付けるとはな。真に恐ろしきは油断。この神であるネメシスが油断さえしなければ、このような失態はなかったはず!良かろう。これは自身への枷として、お前から頂こう」
ネメシス神は死した坂上田村麻呂の右腕を切り落とす。そして自らの腕に押し付け繋げると、自らの腕のように動かして握り、開いて確かめた。
「お前の右腕は貰ってやる。人間の腕を私が使うなどと、本当に穢らわしい。これが俺の油断への、屈辱への戒めにしよう」
ネメシス神は空を見上げると、この戦場に残る戦いの気を感じとる。
「まだ戦いは続いているようだ。他の兄弟も苦戦しているようだな。ならば俺が全て終わらせてやろう。先ずは先に残して来た座主の始末だ。奴らの頭を叩き統率を失わせる。そして、そうだな。人間共に座主の首を見せつけ、絶望を与えてやる。それでも我ら兄弟の血を絶やした事は許せぬ」
だが、ネメシス神は背後からの殺気に気付き立ち止まる。
「虫が自ら死にに来たか?」
「させねぇ」
ネメシス神の背後に現れたのは、先の戦場から一人抜けて来た勇斗だった。
「力の強い波動に向かって来てみれば、お前か?」
勇斗は、そこに仁王と坂上田村麻呂が倒された姿を見て呟く。
「お前か?お前がやったのか?許せねぇ」
「許さないだと?お前が俺に何か出来るのか?それより勘違いするな。許さぬのは俺の方だ!お前ら人間が神にたてつき、更には神殺しなる大罪は決して許さぬ!」
「上等だぁー!」
『オン・アミリティ・ソワカ!明王変化唯我独尊・軍茶利明王』
勇斗の姿が明王へと変化する。
両手を交差させ、チャクラを練り力を高める。
「このネメシスを相手に早死にしたければ来れば良い。時間はかかるまい」
が、ネメシスは視界の正面に飛び出して来た勇斗の踏み込みに反応が遅れる。
「!!」
突き出された拳は寸前で躱したネメシス神の頬を裂き、血が噴き出した。
片腕で押えながら、ネメシス神は蹴りを繰り出すも、勇斗は突き出した拳を引き寄せ肘で受け止めたのだ。
「この俺の蹴りを止めるか」
「蹴りだけじゃねぇよ。お前は俺が倒す」
二人は互いに拳と蹴りの衝突を繰り返し、互いに退かずに踏みとどまる。
意地と意地の激しき戦い。
「うぉおおおおおお!」
「生意気なぁーーー!」
ネメシス神の力はタナトスの魂を吸収し、皿には兄弟達の魂を糧に能力が爆上がりする。
そのようなネメシスを相手に、勇斗は互角以上の戦いを繰り広げる。
(何なんだ?コイツは!異神の力を使っているようだが、この力の根源は一体?)
その時、ネメシスは気付く。
「まさか、お前は開いているのか?開いたのか!禁忌の力を!!」
「安心しろ。一度きりだ。たった一度、お前をどうにかするために使わせて貰う」
「己の命を代価にか?」
「・・・」
その禁忌の力とは?
そして代価と引き換えとは?
「上等だ。お前は見過ごせない。俺の今の力では倒せるとも思えない。なら、俺の命をかけて一時の力に手を伸ばし縋ってでも、倒す必要があると判断したまでだ!」
勇斗は腰にかけた金剛杵を手に構えると、己の体内からわきだす力を全身に廻らせる。すると髪が炎のように逆立って焔髻となり、背中から力が噴き出すように炎が火焔光背となりて、力が解放した。
「オン アミリテイ ウン パッタ・チャクラギア回流」
勇斗の決死の戦いは、ネメシス神を倒せるのか?
次回予告
勇斗とネメシス神の戦いは、更に過酷にヒートアップする。
この戦いの行方は?
そして法子と黄龍姫の桜の身体を奪った邪神エリスとの戦いも繰り広げられてした。




