夢と死の誘い!タプヒュトスと孫悟空大決戦!
総本山、総決戦!
力と力、能力と能力の戦いが繰り広げられる。
総本山では各場での死闘が繰り広げられていた。
その戦場に、踏み込む集団がいた。
「座主様の気配は確実に感じたのだな?」
「間違いありません。座主様は御尊名です」
「神族の襲来に、総本山の精鋭がなす術もなく座主様を奪われ、我らは散り散りになりながらも生きながらえた。この命、この時のために有る」
その者達はヒュプノス神達の襲撃で総本山を追われた者達であった。
座主が結界から解かれた事で、察知能力のある者が仲間達に伝達し、集ったのだ。
「既に守護者と先に向かった聖太子と四聖獣の戦士達が神々と交戦中との事。また空海様の救援者が加わっていると報告が。それから」
「噂の妖怪を連れた少女と、神力が通じぬ少年だな。敵か味方か分からぬうちは、油断は出来ぬ」
「先ずは座主様を救出するためにも、この場をきり抜ける」
彼らの前には侵入者に対し面白おかしく笑みを見せて見下ろす女神がいた。
怪しくも不気味な女神だった。
戦場で死をもたらす女神・ケール。
しかしこの状況は、人間側にとって大きな援軍であり、好転する状況だった。
ヒュプノス神の兄弟は12神に、ヒュプノス神の使途が3神。
そして安倍晴明。
神々の分散は必要不可欠。
「ならば私達が食い止めます」
先頭に立つ娘は、その相棒の若い男性とケールを見上げる。
「行くよ、九郎」
「任せろ。俺が道を開く!」
彼女の名は百瀬恵。
そして若者の名は天野九郎。
弁慶と源義経の転生者であった。
「我が手に百魂の剣を与えよ」
天野九郎が彼女の胸に手を翳すと、胸の辺りから光輝き剣が出現する。
彼女は己の魂に百本の魔剣を封じ、百瀬恵はその魔剣を使う能力を持つ。
「百魂刀・紅蓮」
振り払う刀から紅蓮の炎が火柱を上げてケールを飲み込むように覆い隠すと、仲間達は瞬時に飛び出して総本山の中へと侵入して行く。
「あそこにいるのは!」
そこでは異様な空間で、まるでサーカスのような世界観が覆っていた。
巨大な像や、ライオン。
それに空中ブランコでピエロ達が手招きをしながら見下ろしていた。
そして大玉の上に乗ったピエロが転がせながら向かって来ると、
「また来客様達でございますか。今は店員オーバーでして、このまま早急に退場して頂きたく思います。クスクス」
すると玉に乗ったピエロの姿が分身のように増えていくと、同時にお手玉を投げつける。
「!!」
お手玉は爆発して、総本山の戦士達は足を食い止められると、その中の一人が前に出る。
マスク姿の若い娘。
マスクを取って指をくるっと回すと、
「いや~お手玉の爆発に巻き込まれちゃ~う!」
その途端、お手玉が何もなかったかのように足下に転がり爆発せずに落下する。
何が起きたのか?
そこにもう一人、山伏装束の高校生男子が代わって代弁する。
「コイツは天の邪鬼。言霊使いだ。コイツの言霊は全ての理を否定する」
言霊使いの天の邪鬼の彼女は、その言葉が全て反対方向に左右する。
「出鱈目な能力者だが、神と戦うには最高の味方だぞ。ちなみに内気で危ない能力なので俺が代わりに説明してやった。そして忘れてはいけないながこの俺。俺は烏天狗の黒木天。夢は芸人か実況アナウンサー!声優やYouTuberもオッケーの見ての通り、いずれ印税で食っていく男だ!」
派手に説明した黒木は、空に縛られ宙吊り姿になっている聖太子に気付いた。
「で、何やってんの?先輩!」
すると頭上に聖徳太子の転生者の聖太子が身体を縛られて捕まっていた。
「やぁ~やっぱり神様3人相手に私一人では手に余ったわ~」
「仕方ないっすね!先輩」
黒木は飛び上がると、背中から烏のような翼が生えて飛行すると、捕まっていた太子を救出した。その状況に、モルペウスにポベトール、パンタソス。
ヒュプノスの子とも言われる夢神の使徒達は焦りを見せていた。
「わんさか。逃げた人間達が戻って来たぞ」
「直ぐに戻り、大丈夫であると思うがヒュプノス神様のお助けに行かねばならぬと言うのに厄介だ」
「人間共め!虫のようにわきおって!」
総本山の戦士達の救援により、戦況が変わっていく中で、本戦も激しい戦いが繰り広げられていた。
「ウォオオオ!執金剛神変化唯我独尊!」
執金剛神とは二体の金剛力士が一つになった姿。
右手に『阿』の文字が浮かび上がり、左手に『吽』の文字が浮かび上がる。
「阿!ナマサマンダバ・サラナン・トラダリセイ・マカロシヤナキャナセサルバダタアギャタネン・クロソワカ!」
「吽!ナマサマンダバ・サラナン・ケイアビモキャ・マカハラセンダキャナヤキンジラヤ・サマセ・サマセ・マナサンマラ・ソワカ!」
「ヴァジュラダラ!オン・ウーン・ソワカ!」
仁王の身体に風神と雷神が吸収されると、その破壊力は一撃必殺。
繰り出される拳が、モロス神の造り出した幻を消し飛ばすと、本体をも吹き飛ばした。
そして坂上田村麻呂の背後に三体の鬼神が出現する。
『大獄丸』『悪路王』『八面大王』
「きっちりケリを付けてやるぜ!鬼神変化唯我独尊!」
三体の鬼神が坂上田村麻呂と合神すると、手にしたサヤハの剣で斬り伏せる。
振り払われた空間が両断され、その先にいたオネイロス神に命中して弾き飛ばす。
「ウガァアアア!」
兄弟神達の様子に、タナトスとヒュプノス神は怒りを隠せずにいた。
「余所見しているとは余裕だな!お前の相手はこの私だ!」
アータルが燃え盛る炎の剣を手に突進すると、追いかけるように、
「この俺様を忘れて貰っては困るぜ!この俺様が一番目立ってやるぜ!」
孫悟空が如意棒を伸ばして、タナトス神とヒュプノス神の合間をかちわると、そこにアータルが斬りかかる。
「この我ら神に楯突くなど許される事は有り得ぬ。お前達を死に誘うぞ」
タナトス神の掌から死を連想する黒き障気が噴き出すと、アータルは剣に聖なる光を込めて輝かす。
「我が主神。聖なるアフラマズラ様よ!我が正義の剣に神聖なる力を与えたまえ」
アータルの光は、タナトス神の障気と衝突すると、両者の力が互いに弾けて消えた。
その閃光の中を、孫悟空が飛び込んでタナトス神とヒュプノス神の二人に飛び蹴りを食らわせ、二人の顔に傷をつけた。
「お前らが誰に喧嘩を売ったのか思い知らせてやるぜ!この俺様は天も泣いてチビる最強最悪の妖魔王様なのだぞ!」
が、そこに孫悟空の頭が蹴られる。
「何をする?アータル?」
「仲間であろうと、邪悪の者には天罰を等しく与える。許せ」
「なんだぉおお!お前も一回蹴らせろ!」
と、何処もかしこも大混戦だった。
「ウヌヌ。まさか下等な神族もどきの分際で、正式なる我ら最高神の種族に楯突くだけでも万死に値するというのに。許せぬ!許せぬ!許せぬ!許せぬ!許せぬ!許せぬ!」
ヒュプノス神は怒りに満ちると、同調するかのようにタナトス神の神気が高まる。
『我ら兄弟の相乗神力の力を見せてやろう』
ヒュプノス神とタナトス神の姿が重なるように合わさると、その身体が一つとなる。
その直後、一帯の空気が凍り付いた。
『ワタシはタナトスであり、ヒュプノス。敢えて一体となりし、我が名はタプヒュトス』
そして掌を掌握した時、アータルが青ざめて胸を抑え苦しみだす。
「ウッ!」
「おい!どうした?アータル?」
そしてそのまま動かなくなったのだ。
「おいおい!」
孫悟空はアータルを抱き抱えると、
「!!」
アータルに生気がなく生き耐えていた。
「馬鹿な!アータルが死んだ?こんな簡単に?お前!何をした!」
叫ぶ孫悟空に、タプヒュトスは再び同じく孫悟空に向けて掌を握ろうとする。
「うっ!?」
孫悟空はその時、全身が凍り付くような感覚に襲われ、血の気が引く感じがした。
(も、もっていかれる??)
同時に本能的に、拒否した。
「ウォオオオ!」
気合いと同時に孫悟空に纏わり付く死の感じが弾かれると、タプヒュトスは懸念する。
「我が死の誘いを己の意思で弾くだと」
「と、当然だ!はぁはぁ。お前、これでアータルを・・・許せねぇ!」
「どう許せぬと言うのだ?お前は私の間合いにいるそれだけで命が削られている事に気付いているのだろう」
「はぁはぁ」
孫悟空はまだ全身に漂う死の香りに意識がもっていかれそうになっていた。
このタプヒュトスの近くに存在する者は全て、まるで夢に誘われるかのように死にもっていかれるのだ。
「ざ、残念だったな?はぁはぁ。この俺様が相手じゃなければ、楽勝だったかもな。けどよ?この俺様が目の前にいる地点で、お前はすでにつんでいるんだぜ!」
「世迷い言を」
孫悟空は動かぬアータルを横にすると、
「助けてやれなくて悪かったな。けど、俺様が仇を取ってやるから」
そしてタプヒュトスに拳を向けた。
「世迷い言かどうか、見せてやるぜ!この俺様が最強だってことをなぁー!」
孫悟空が全神妖気を解放させ高めると、大地が震えるように揺れ、そして孫悟空の圧に足下が陥没した。
「この時代に来て良かったぜ。再びお前達と共に戦えるなんてな!だから力を貸してくれ!聖獣の王達よぉーー!」
孫悟空の叫びに呼応するかのように、この戦いを見守っていた四人の人影達が互いに頷き、戦っている孫悟空に向けて念じる。
(俺達の主は桜だ。その桜を救ってくれ!)
(何者か分からぬお前からは、俺達の魂が揺さぶられた。お前なら俺達を導いてくれると信じさせる)
(孫悟空と言ったな。お前になら俺達の力を預ける事が出来る。頼む)
(俺達の力を、使ってくれー!孫悟空!)
それは桜を守護する四人の戦士達だった。
その四人から、孫悟空に向けて己の魂の力が解き放たれて囲む。
青龍、朱雀、白虎、玄武の聖獣。
「四聖獣変化唯我独尊!」
孫悟空の真言に四体の聖獣が孫悟空と合神した。孫悟空の身体が光輝き、四聖獣の鎧が纏われると、その神圧は大地だけでなく雲を割き、天を揺るがす。
その馬鹿げた力に、坂上田村麻呂と仁王も戦闘の手を止め見上げてしまった。
「あの猿妖怪、マジかよ」
「半信半疑だったが、孫悟空と名乗っていたが、本当に伝説の大妖怪だったようだな」
孫悟空の手にする如意棒が黄金に光輝き、その一振りはタプヒュトスの身体を貫通させた。貫通させたはずのタプヒュトスの身体が目の前から消えると、孫悟空の背後から巨大な鎌が振り払われた。
「瞬間移動でも出来るのかよ!」
孫悟空は如意棒で受け止めると、その衝撃に腕が痺れた。
いや?この死の鎌に触れた事で、力だけでなく魂まで吸い出されそうな感覚に震えた。
「どうだ。私の攻撃の直撃を避けて受け止めたとしても何度耐えられるか。お前の命は」
「ヘヘヘェ。心配はいらねぇよ。その前にお前は俺様によって倒されてしまうのだからな。そう長くは時間かけねぇよ!」
孫悟空も油断してはいなかった。
その証拠に、
「!!」
タプヒュトスは孫悟空の聖獣変化だけでなく、その眼光に全身が震えた。
「そ、その輝きは、まさか」
タプヒュトスが見た孫悟空の瞳は金色に光輝き、魔眼が覚醒していたのだ。
「救世の魔眼だと言うのか?まさかお前のような下等な獣神ごときが・・・」
タプヒュトスの脳裏に過ったのは、太古の昔に己達を退かせた神々の存在。
そこに救世の魔眼が関与し、自分達兄弟神達を封じた上に、母神をも討たれたのだ。
「許さぬ、その魔眼持ちし者は生かしてはおけぬ!」
「うるせぇよ!つべこべ言ってねぇで、やれるもんならやってみやがれ!」
互いの全力が衝突し、お互いの身体に殺傷能力のある攻撃的な衝撃が襲った。
「命を削られているのに何故そこまで戦える!?いや、我が能力を受け流しているのか?」
「死臭がプンプンするぜ。それに命を削る連中との戦いには予習済みだぜ」
「何を言っている?」
「黙って、やられちまえ!」
交差する鎌と如意棒の合間を孫悟空の蹴りあげが、タプヒュトスの顎に直撃した。
「ウヌゥ」
よろめくタプヒュトスに間髪いれず、孫悟空が追い討ちをかける。
「!!」
追い込んだ孫悟空のはずが、その懐に飛び込んで来たタプヒュトスが死を纏う掌打を孫悟空の心臓を掴むように胸に触れた。
「終わりだ!その命、枯れ果てよ」
が、孫悟空はニヤリと笑む。
「言ったろ?お前のような能力任せの相手との戦いは慣れてると言ったろ」
「!!」
タプヒュトスの掌から孫悟空の生命力が吸い出された時、孫悟空の姿が消えた。
それは分身?
そして本体の孫悟空の姿を見失ったタプヒュトスの目の前に、孫悟空の姿が何体も出現しては翻弄する。
「馬鹿にしているのか!子供だましだ。全て消し去れば良いことだ!」
タプヒュトスの鎌が孫悟空の分身を次々と消していく中で、孫悟空の分身達は呟く。
「子供だましってのはな、使い所次第でどんな陽動よりも、効果あるんだぜ!」
「!!」
怒りに大鎌を大振りになった後の手首を見逃さなかった孫悟空が掴み、捻るようにへし折ったのだ。
「うがぁ、ァアア!」
「お前は確かに恐るべき強さだ。認めてやるぜ。しかしその敗因は、強すぎる能力のために怠った体術が雑魚なんだよ!」
孫悟空は掴んだ腕で動きを封じ、残された片腕に力を込めた。
(爺ちゃん、使わせて貰うぜ!)
「美空裏業天!透幻響」
その奥義は師である須菩提菩薩の一撃必殺の拳。
同時に負担も大きい諸刃の剣。
しかし、その拳は決して防御不可能。
使い所さえ誤らねば、
「グァアアアアアア!」
必ず敵を滅する。
勝った!
と、打ち込んだ孫悟空も実感した。
何せ、手応えの感触が確実にあったから。
しかし孫悟空が貫いたのは、タナトス神。
(そんな馬鹿な!?まさか!)
孫悟空は完全に裏をつかれた。
打ち込んだ寸前にタプヒュトス神の身体が元のタナトス神とヒュプノス神に分かれたのだ。それは、タナトス神の判断だった。
「兄よ。この私を残すために己を犠牲にしたのか?」
「ヒュプノスよ、後はお前が引き継げ。俺の命を糧に、必ず目覚めさせるのだ!」
「か、必ずや」
すると、タナトス神は最後の力を振り絞ると、己を貫いた孫悟空の腕を掴み、
「共に死に誘おう」
「は、離せぇ!こんちくしょー!」
ヒュプノス神を残し、タナトスは孫悟空もろとも自爆したのだった。
次回予告
邪神エリスと法子。
法子は邪神エリスから桜の身体を取り戻せるのか?