逃げ延びた先に待つ救済する少年と少女
タミネタが迫る中、一般人である恭介達は逃げ延びられるのか?
俺は恭介。
俺達は静岡にある妙應学園に向かっていた。
そこの学校に通う少年。
彼なら、もしかしたら俺達を救ってくれるかもしれないと信じて。
深夜に高速を乗り、スピードを止めずに走った。
運良く混んでいなかった事が幸いしたが、当然パトカーに追われもした。
しかし、後方から追って来たタミネタに襲われてしまった。
「うわぁあああああ」
俺達の車は転倒し、ガードレールに衝突した。
命からがら車内から這いずり出て、置き捨てられていた車に乗り移り逃げた。
タミネタの前にはパトカーがサイレンを鳴らして道を塞いだが、直ぐに悲鳴が聞こえた。
警察が囮になったと言えば、心苦しいが、彼らが時間を稼いでくれたおかげで俺達は逃げ延びる事が出来た。
「警察の人達、大丈夫かな」
「かすみ。今は自分達が生き延びる事だけを考えよう」
俺には責任があった。
仲間達を俺の勝手な正義感から巻き添えにしてしまった事。
正義感?違う。これは俺のためでもあった。
誰からの救済も貰えずに、そんな人生を恨んだ時期もあった。
他者からの差し伸べられる手を望んだが、掴もうとする手は全て空を切り、そして孤独となった。腐ってしまっても良かった。
ミカンになるにはじゅうぶんだったから。
しかし俺は、俺の中の良心を貫いた。
俺だけじゃない。
不幸な人間なんてごまんといる。
差し伸べられない連中なんて腐る程いるんだ。
差し伸べない連中、世の中を恨んで腐るより、俺は手に届く腐りかけの連中と手を繋ぎ、そして杭留まろう。
仲間がいれば、世界は変わる。
一人だから、孤独だからネガティブになるんだ。
もっと繋がろう。
そうすれば俺は俺を嫌いにならないでいられる。
そして、俺はヲタクになった。
ヲタクの世界は未知だった。
最初は抵抗あったが、刑務所で知り合った奴に漫画を見せられて興味を持ち、出所してからアニメでその漫画をみて、気づいたらグッズを買い、そのアニメの中の人のイベントに参加しているうちに、同じ趣味の連中と語り合っていたら、俺の中の世界は広がっていた。
当然、務所あがりと知って離れる連中もいたが、今いる仲間達は知った上で俺のそばにいてくれる貴重な親友達。
「誰も死なせない」
そして俺は姜子牙を見た。
全ては姜子牙を拾ったから始まった悪夢。
しかし俺は、この姜子牙を見捨てられない。
正義感だけでない。
コイツを見捨てたら、俺は俺に手を差し伸べなかった世界と同じになる。
俺は、差し伸べる事で昔の俺を救えるような気がしている。
うん。そうなんだが、この姜子牙を見ていると、それだけじゃない気がする。
まるで、もっと昔から知っているような。
そんな不思議な感覚があったから。
それから俺達はナビを頼りに静岡の妙應学園の近くにまで到着していた。
寝ずの運転でかなり寝不足状態だが、そんな事を言っている余裕はなかった。
学校は既に授業が始まっていた。
「かすみ?」
かすみは、学校を見て寂しげな表情をしていた。
それは彼女が過去のイジメ体験で不登校になり、学園生活が送れなかった寂しさと気付くと、俺もまた同じような境遇だけに、ただ彼女の肩に手を置くしか出来なかった。
「お~い!恭介!」
真壁と、弟の真がコンビニから朝食の弁当やパンを買って来てくれた。
「学校が終わるまで、例の彼を探すのは無理だろう。だから今は飯食って体力つけようぜ」
「そうだな。サンキュー」
近くの公園で俺達は食事をしながらも、タミネタからの警戒だけは解かずにいた。
もし近づいて来たら、直ぐに分かる。
姜子牙が危険を感知すると、言葉ではなく、「あ〜あ〜」って声ならぬ声を発するからだ。
「本当に不思議な奴だ。何者なんだよ?マジに」
何者であってでも見捨てる事はしない。
高尾や、浜辺。
この事件が始まって死んだ友人。
ここで見放したら、それこそ奴らの死が無駄死にになってしまうから。
放課後、俺達は再び妙應学園で出待ちした。
とにかく例の彼に会わなければ、この場所に来た意味がない。それに彼は間違いなく、普通じゃない。化け物相手に戦える俺達の知らない世界の人間。
「ねぇ?恭介。彼じゃない?」
「えっ?」
カスミが指さした先に見えたのは、間違いなく東京ビッグバンサイトに現れた少年だった。
「俺が話をつけてくる。皆は待っていてくれ」
俺は校門を出ようとする彼の前を塞ぐと、
「悪いんだが、少し話がしたいんだ」
「・・・・・・」
「いや!怪しい者じゃないぞ?誘拐とか、そういうのじゃないし、そうだ!前に会ったよな?東京ビッグバンサイトでお前に助けられたんだよ!お前だろ?あの時の少年は」
すると彼は俺に目配せで付いてこいと伝えると、俺達は従うように付いていった。
「あの〜」
「何も言わなくて良いです。貴方達が来る事は知っていた。それに例の化け物がまだ追って来ているのだろ?」
「えっ?あ、うん。そうだ」
「学校の前でそんな話されたら、明日から普通に学校通えなくなるのだけどさ」
「す、すまない。それで助けてくれるのか?もう他に頼める相手がいないんだ。警察も化け物相手じゃ何も出来ない」
「言ったろ?お前達が来る事は知っていたと。俺達がお前達をかくまってやる」
「あ、ありがとう」
少し生意気だが、もう猫の手も、見知らぬ神様にもすがりたい今、彼に頼るしかなかった。
彼が連れて来た場所は、山の上にある小さな神社だった。
すると高校生くらいの女の子が姿を現す。
「遅いわよ!何?そのお兄さん達が空海様が言っていた例の?」
「そうみたいだ。正確には、後ろの彼だな」
二人の視線は、俺達の後ろに黙って着いてきていた姜子牙の姿を物色するように見ていた。
「この世界に存在してはならない異なる世界の住人か」
えっ?
耳を疑る言葉が聞こえたぞ?
この世界に存在してはならないが異なる世界の住人?
それって姜子牙の事か?
「私は丹生朱美。皆さんは?」
「あぁ、すまない。俺は恭介。彼女はカスミ。それに真壁と弟の真。それから・・・姜子牙」
「とにかく貴方達を丁重に扱うように言われているから、中で落ち着いて良いですわ」
そして俺達は神社の中に運ばれた。
一時の休息。
死にものぐるいで逃げて来て、初めて落ち着けた感じがした。
カスミはシャワーを借りて、真は眠りこけていた。
「疲れていたんだろうな」
「そうだな」
俺と真壁は、保護してくれた二人の前に座る。
少年の名は勇斗君。
少女の名は朱美さん。
「教えてくれないか?俺達は何に巻き込まれてしまったんだ?それに、姜子牙の事を何か知らないか?」
そこで俺達は聞かされた。
俺達は今、世界の命運の渦中に放り込まれていたのだと。
そして姜子牙が、別の世界から来て、あの化け物もまた別の世界から現れた事を知る。
全てはフィクションではなく現実なのだと。
その時、離れた場所で爆音が聞こえて、少しすると地震のような揺れが起きた。
「思っていたより早かったわね」
「!!」
直ぐに理解した。
あのタミネタが此処まで追って来たのだと。
次回予告
タミネタの前に勇斗が挑む。
神の力を持つ少年は、タミネタを倒せるのか?




