来る!きっと来る!?タミネタ接近!
タミネタが迫る中、恭介達の行動が狭まってくる。
もう逃げ場がないのか?
彼は突然口に出した。
「あいつが来る」
「!!」
今まで黙って惚けていた姜子牙の口に出したのは、何かが近付いて来ているとの事。
恭介達は理解していた。
もう、後戻り出来ないと言うこと。
化け物がまた、刻一刻と自分達の近くにまで接近している事に。
「逃げるぞ!」
「でも、何処に?」
「そんなの、わかるか!けど、とにかく直ぐに離れないと殺されちまうよ!」
恭介は混乱する皆に指示する。
「やはり車は必要だ。駐車場に行って置いてある車で移動だ」
「お兄ちゃん達、また出掛けるの?」
そうだった。
このアパートには真がいた。
このまま残して大丈夫なのか?
もしかしたら化け物が自分達を直接追って来ないで、このアパートに来たら?
「真!お前も一緒に出るぞ!」
「僕も?」
「そうだ。それから俺が車を持ってくるから、それまでに皆は必要な荷物を揃えていてくれ!十分だ!終わったら直ぐにアパート前に出ろよ!」
「分かった」
恭介が部屋を出ると同時に皆も慌てて荷物を詰め込む。
「ハァハァ!ハァハァ!」
恭介は盗んだ車を置いた場所に着くと、そこに警察官が一人、車の扉を開けて見ている姿を見て慌てて隠れた。
(マジかよ!盗難車だからバレたのか?それとも無断駐車していたからか?これじゃ足がないぞ。どうする)
それより、警察に化け物の接近を伝えた方が良いのか?
信じて貰えるはずない。
それに警察では頼りにならない。
お台場と同じく皆殺しに合うだけだ。
しかし俺達に出来る事なんて何もないのではないか?
なら、駄目元で力になって貰う方が多少なりとも解決策があるのでは?
そう思い、恭介は車を覗く警察官に近付こうとした時だった。
「んっ!?」
そこで恭介は慌てて隠れ、息を潜む。
「マジかよ!そんな、嘘だろ」
警官の姿が形を変えていく。
頭が変形して石の塊となり、そして別の人間の頭になり、体型も変わっていく。
それはリュックにポスターを差し込んだヲタクの姿となって、手にした女のコのフィギュアに語りかける。
「ねぇ〜姜くんいないね?それに群れてた人間達もいないよ?どう思う?早く捕まえてお家に帰ろう」
恭介は音を立てずに、その場から隠れて逃げ出した。
「間違いない!あの化け物だ!死んでなかったんだな。何か気持ち悪くなっていたけど、あの化け物がもう近くに来てたんだ。仕方ない」
恭介は左右を見て、車の行き来している場所に出て飛び出した。
「嘘だろ!!」
車を運転していた男が飛び出して来た恭介を輓いてしまい、慌てて車から降りると、倒れている恭介に手を伸ばす。
「すまないな」
「えっ?」
強い衝撃が走り、運転していた男は気を失うと、恭介は立ち上がってまだエンジンのかかっている車に乗り込み動かした。
「完全に犯罪だな。これ」
そして、仲間達のいる場所に走らせた。
恭介がいない間、カスミが姜子牙と真の手を取り誘導していた。
「なぁ?カスミ。本当に良いのか?俺達。あの化け物は姜子牙を追って来ているのだろ?だったら俺達が関わる事が意味あるのか?命を、命をかけてまでよ」
「真壁君。本気で言っているの?姜子牙君を見捨てて私達だけ逃げるってことなの?」
睨むカスミに真壁は怯んで答えた。
「そんな顔をするなよ。俺だって恐い。死ぬかもしれないんだぜ?それに俺はカスミにも真にも、それに恭介に浜田にも死んで欲しくないから。皆、かけがえのない友達だから」
「有り難う。けど、それだけじゃないの」
「それだけじゃないって何だよ?」
カスミは姜子牙の手を握りながら、その顔を見つめて答えたのは、
「私、姜子牙を他人に思えないの。まるで昔から知っているような。そんなはずないのに。まるで・・・」
そう続けようとした時、突然三人に向かって人影が近付いて来たのだ。
「皆!荷物は持ち込んだ?」
公園に集まっていた三人に遅れて浜田がやって来た。
浜田のアパートも近くにあり、別行動をとっていたのだ。
カメラを首にかけた浜田は、忘れ物だと重々しいリュックを背負って来た。
中身は恐らく宝物のレアグッズだろう。
「浜田君たら、急がないと化け物が来ちゃうのよ。もう少し緊張感持ってよ」
「でも、お宝を置いて来たら、死ぬに死ねないよ。俺は・・・」
「何を馬鹿な事言っているのよ!呆れた。何?どうしたの?浜田君?」
すると浜田が立ち止まったまま動かなくなり、そして顔を上げて答える。
「死んでも、死に、きれないよ」
その口元から血が垂れ流れ、その腹部から何かが貫いていたのだ。
「ゴホッ」
吐血して動かなくなった浜田を見て、カスミは信じられない表情から血の気が引き、悲鳴を上げていた。
「きゃあああああ!嫌ぁああ!」
友人の浜田の死に、取り乱したカスミの手を引っ張ったのは真壁だった。
「逃げるぞ!もう来やがった。ちくしょー!浜田を殺しやがった」
しかし真壁はカスミだけでなく、弟の真と足手まといの姜子牙もいたら逃げるに逃げられないと覚悟した。
「目的発見。射程距離15メートル。姜子牙を抹殺し、その鍵を西王母様に届ける。届ける。届ける。届ける。邪魔者排除」
タミネタがカスミ達に狙いを定めたその時だった。背後から車が突っ込んで来たのだ。
それは恭介が乗った車だった。
「このまま輓いてやるー!」
車は凄い音してタミネタに衝突すると、恭介は計画していたようにシートベルトを外して外に飛び出していた。
同時に爆音と共に車が炎を噴き出して爆発したのだ。
「来る途中で灯油を積んで来たんだ。そのまま燃えて消えちまえ」
しかし黒焦げになったタミネタは炎の中からごそごそと動きだすと、恭介は、
「やっぱり死なないか」
カスミ達と合流し、誘導するように走って逃げたのだ。
「皆、立ち止まったら死ぬぞ!逃げろ!」
どれくらい経ったのか?
恭介は仲間達を見回す。
「真壁、カスミ、真に姜子牙。大丈夫だな。全員いる。全員・・・あれ?浜田は?」
「恭介・・・」
カスミは涙を流して、泣きじゃくる。
「浜田君が!浜田君が!私がもっと本気で急がせていたら、浜田君は死ななかったはずなのに」
浜田はカスミの幼馴染で、目の前で死んだ姿を思い出して叫ぶように泣いた。
「カスミ・・・」
恭介も、真壁も泣いていた。
「お兄ちゃん達。何がどうなっているの?化け物だよね?あれ?化け物が出たんだよね」
「真。あぁ。化け物だよ。だからお前は俺達と一緒にいたら駄目だ!お前まで巻き添えになる必要ない」
真壁は弟の真の頭を撫でると、強く抱きしめて皆に言った。
「此処から先は俺と恭介で逃げる。だからカスミは真を連れて別行動だ」
その決断に恭介は頷くと、
「どうするつもりだ?」
「俺達がいくら逃げても、いずれ化け物に捕まっちまう。だから」
「あの神様って奴らに会いに行くんだな?」
「そうだ。もう俺達のキャパ超えてる。奴らが俺達にとって敵か味方か分からないけど、もうこれしかないよ」
「そうだな。カスミ!真!此処からは分かれて逃げよう」
恭介と真壁の提案に、カスミと真は驚いた顔で見て、直ぐに答える。
「駄目よ!二人共死ぬつもりなのね?私達を逃がすために」
「俺達は死ぬつもりはないよ。カスミ」
しかしカスミは首を振った。
「ごめんなさい。それは聞けない。私、恭介が死んだら生きていけない。恭介がいないと私は生きていても仕方ないよ」
「カスミ・・・」
カスミは昔、女子高で虐めにあっていた。
それは悲惨な学園生活だった。
そしてついに耐えられずに、電車のホームから飛び降りようとした。
「待てよ!」
その時、手首を掴んで危機一髪助けたのが、恭介だった。
恭介はカスミの話を聞いて、答えた。
「そんなら学校辞めちまえよ。死ぬくらい辛いなら、学校に行く必要ないだろ?まぁ、中退した俺だから言えるけどよ、死ぬ気になれば生きていける。頑張れば笑える人生おくれると思うんだ。もし一人で駄目でも、俺も一緒になってお前が笑えるように背中を押してやるぜ」
恭介にとっては、見過ごせなかっただけかもしれないが、カスミは救われた。
それからカスミは学校を中退し、虐められてコスプレイヤーになったユーチュービーとして、レビューしたのだった。
「私達は一緒に生きるのよ」
「カスミ」
そんな二人を真壁はヤレヤレと笑っていた。
(もう二人付き合っちまえよ。見てるこっちの方がたまらんよ。ん?)
すると真が兄の服を引っ張り答える。
その目は涙目で真剣な顔だった。
「僕も兄ちゃんがいなくなったら、生きていけない。僕には兄ちゃんしかいないから」
「真・・・」
そして、残された四人は再び先に向かった。
目的の場所は、東京ビックバンサイトで助けてくれた少年の着ていた学ランが、見覚えある事に気づいたから。
「あの制服は確か妙應学園のだよな。あの進学校のさ?」
「あの新設して間もない有名高のな」
今どき珍しい学ラン。
そして腕章に妙應学園のマークがあった事に、コスプレイヤーのカスミが気づいていたのだ。
「浜田君が逃げてる間際に撮った写真に、あの彼の姿が残っていたのよ。スマホに転送されていたのを見直したら、やっぱり間違いないわ。妙應学園の制服よ」
「なら、静岡だよな」
そして恭介は、再び車を盗難した。
今度はコンビニ近くでたむろっていたヤンキーの前を歩いてみせる。
直ぐにイチャモン付けられ(狙って)た後に四人ほどボコって、彼らの乗っていた車を奪ったのだ。その後は、再び逃走劇だった。
次回予告
静岡にある妙應学園に恭介はナビをセットする。
当然、高速に乗る。
下道なら、止まれば捕まる。
これから先は、片道切符だった。




