脱出!迫るタミネタの恐怖!
姜子牙の身を確保したのは、現代に生きる普通の人間の若者達だった。
そして東京ビッグ・バン・サイトに現れた化け物。
そこに見知らぬ学ラン姿の少年が現れたのだ。
東京ビッグ・バン・サイトに現れた化け物。
それは過去の世界より、姜子牙の持つ忌眼を取り戻すために現れたのだ。
タミネタ。
捕食した人間を喰らう鉱物系の化け物。
現代に抵抗出来る手段はあるのか?
先に警察が到着した。
警棒では動きを止める事はもちろん、焼け石に水であった。発砲許可がおりて拳銃を構えた警察官が撃つが、最初はタミネタの身体にヒビを付けたはず。しかし直ぐに傷は塞がり、警察官達に向かって襲いかかる。
その後、遅れて自衛隊や特殊部隊が現れた。
この日本には不釣り合いなランチャーや、離れた場所からのライフルの狙い撃ち。
そして更には戦車まで持ち込まれる事態にまでなった。
ヘリコプターから報道される中、タミネタに砲撃が始まった。
しかしタミネタは動きを止めずに、その場にいる自衛隊はもちろん、手にした瓦礫を上空に放り投げて報道のヘリコプターを墜落させたのだ。
もう誰にも止められるはずない。
そんな中、恭介が逃げる際にすれ違った少年はタミネタに向かって歩いていく。
どこかの学校の制服なのだろうか?
とても気になり、印象に残った。
逃げる人間達とは真逆に歩む少年に気付いた恭介が振り返ると、引き返そうとした恭介に対してカスミが叫んで止める。
「恭介!無理よ!もう行ったら駄目よ!」
恭介は引き返そうとした足を止め、考え直す。
確かに引き返したら無駄死にだ。
それは確実。
それに今は、自分だけでなく仲間達を逃がさないといけない。
仕方ない。そう自分に言い聞かせた。
「恭介!逃げよう!お願い!」
「う、ああ。そうするしかないな」
その時、浜辺が望遠で反対方向に向かって行った少年の写真を撮っていた。
「あいつ、あの制服見たことある。いや、それより逃げないと」
恭介は浜辺とカスミと共にこの場から逃げ出していた。
そして近くにまで来た少年にタミネタも気付く。
「え、餌が近付いて来た?変な奴だ。構わない」
タミネタが少年に向かって膨れ上がった太い腕を振り下ろす。
完全に潰されたと誰もが思っただろう。
「ペチャンコになって、血をすする」
が、タミネタは動きを止めた。
「!!」
タミネタの振り下ろされた腕が持ち上がり、その下から少年が立ち上がって来たのだ。
「とんだ化け物だな。けど、俺も暇じゃないから速攻に片付けさせて貰うぜ」
と、少年は拳に力を籠めてタミネタの腹部目掛けてぶん殴ったのだ。
「ぐはぁ!!」
めり込まれる拳がタミネタの腹部を陥没させて、後退りさせた。
そして同じく殴った拳を振る少年も、
「いってぇ〜。何て頑丈なんだ?この化け物は!けど、もう数発殴ってやれば」
少年が拳を振り上げたその時、足下のアスファルトが膨れ上がり少年の足を沈めて動きを止めたのだ。身動きが出来ずにジタバタする少年はタミネタの接近になすすべがなかった。
「くっ、油断したぜ」
「お前、ただの人間ではないな。この自分の糧となり、力を貰う」
タミネタの頭が膨れ上がり巨大な口になって少年を飲み込もうとする。
「油断大敵ですよ!佐伯さん!空海様のご子息がだらしないですわよ」
すると銀色に輝く液体が伸びて来てタミネタの口に絡みつき閉じさせると、少年の足下のアスファルトにも伸びて来て、貫き砕く。
「有り難うな。朱美!」
彼女は神の転生者、丹生朱水。
そして少年の名は、空海の息子。
佐伯勇斗であった。
そして佐伯勇斗もまた、神の転生者であった。
「上等!今度は油断しないぜ!」
勇斗は指を絡めて真言を唱える。
「オン・アミリティ・ソワカ・明王変化唯我独尊!」
背後に現れたのは魔神。
悪鬼のような形相で二匹の蛇を絡みつかせた魔神の名は軍茶利明王と言った。
そして明王と合身した事で、人の身で神の力を得たのだ。
「これ以上騒ぎが大きくなったら面倒くさい。一気に畳み込むぞ」
「もう手遅れです」
勇斗と朱美が攻撃を仕掛けると、タミネタは動きを止めていた。
(人間の養分が足りない。あの二体に勝つには力足りない・・・)
直後、地面が陥没してその姿が沈むようにアムリタはその場から消えたのだ。
「マジか?くそぉ!逃げられた」
「空海師匠にどやされるわ〜」
と、タミネタを取り逃がしてしまったのだ。
(まだ近くに存在感じる。鍵を持つターゲット。キョ、キョ、キョウシガ)
タミネタは地中を掘りながら、その向かう先は姜子牙に向かっていた。
その頃、走って逃げて来た恭介は先に逃げて待機していた浜田とカスミ、真壁と合流してワゴン車でこの場を脱出していた。
皆、震える身体に、今起きたばかりの悪夢に誰一人口を開かなかった。
そして最初に口を開いたのは恭介だった。
「高尾。アイツ、やっぱり」
先に様子を見に行った高尾とは連絡が付かずにいた。携帯もならないし、繋がらない。どうにか逃げていてくれることを願っていた。
「本当になんて日だ!」
最高の一日が、最悪の一日となった。
それでも今、こうやって逃げて来れたのは運が良かったとしか言えない。
「う、嘘だろ」
それは運転していた真壁だった。
「どうした?真壁。何かあったか?」
恭介が運転する真壁の視界の先を見た時、二人は身体が硬直して恐怖に震えた。
まだ終わってはいなかった。
前方の道路が盛り上がって事故が起こっていた。そして、その盛り上がりが自分達に向かって迫って来ていたのだ。
「ハンドル!ハンドル!ハンドルきれぇー!」
咄嗟に恭介が運転を変わってハンドルをきり、迫る盛り上がりを躱して走行すると、事故車を避けながら走り去る。
「こんな町中でレーシングかよ!」
すると後方を見る浜辺が叫ぶ。
「化け物が追って来てるぞ!何なんだよ!どうして僕達に向かって追いかけて来るんだよ!意味がわかんない」
確かにそうだった。
どうして追って来る?
自分達を追って来る理由なんて何処に?
まさか東京ビッグ・バン・サイトに来た来客全てを追って?
そんなはずない。
あの混乱の中、四方八方に逃げた連中は無数にいるはず。
それが自分達だけを追う理由になんて説明つかない。
だったら他に理由が?
その時、恭介は後ろの座席で黙って下を向いて座っている姜子牙に気付いた。
(ま、まさか?姜子牙が理由なのか?あの化け物は姜子牙を追って来ているのか?)
冷や汗をかく恭介は青褪めていた。
(姜子牙、お前は何者なのだよ?)
しかし、タミネタは刻一刻と恭介達に迫っていたのだ。
次回予告
逃げる恭介達。
そして、逃げたタミネタ。
姜子牙をめぐる逃走劇が始まった。




