大混乱!?東京ビッグ・バン・サイト!
法子と孫悟空以外に過去の世界から来たのは姜子牙。
そして、西王母が送った刺客が。
ここは世界の中心。
いや、猛者が集う聖地。
東京ビッグ・バン・サイト
同人誌、コスプレと言った見物が十万人以上の猛者を動員し、賑わう最高の一大イベント。
東京ビッグ・バン・サイト。
そこに過去の世界から巻き込まれて現世に現れた姜子牙と、彼を保護した恭介と仲間達もそこにいた。しかも姜子牙は今、全ての事に上の空で、心が崩壊している状態だった。
そこに今、予期せぬ出来事が起ころうとしていた。
人の姿をした奇怪なモノが東京ビッグ・バン・サイトに出現し、人混みにまみれ何も知らない人を人目のない倉庫に連れ込み喰らう化け物。頭蓋骨を噛み砕く音と、血飛沫が広がった。
そこに道具を片付けに来た係の若い男が目撃し、信じられない光景に身動きが止まる。
「見たな?」
腰を抜かす係の男の額が何かに貫かれて、ゆっくりとその場に倒れて動かなくなる。
「この世界の人間を養分にして、俺は知能を上げた。此処は東京ビッグ・バン・サイトと呼ばれる人間達が群がる夢の国。一つ一つは小さくとも、これほど腐るほど得られるエネルギーは俺を進化させる」
タミネタは過去の世界から送り込まれた事で、エネルギーの殆どを使い果たし、この世界で自給自足する必要があった。
そこで人間達の生命エネルギーを蓄え、知能と力を吸収して補充していたのだ。
タミネタの目的は、この未来の世界に送り込まれた姜子牙の右目に嵌め込まれた忌眼と呼ばれる鍵を西王母のもとに持ち帰ることであった。
「まだ足りぬ・・・」
タミネタは外にいる人間達を捕食するために外に出たのだ。
その姿は海坊主のような異形。
タミネタが現れた時、そこにいた人間達は驚きつつ、また面白がって集まってきた。
「よく出来たコスプレだ。笑える」
そんな悠長な言葉を発して、スマホで写そうとした時、その若者の下半身より上がタミネタにより飲み込まれていた。その状況を茫然と見ていた者達は信じられない様子で、恐怖に動けなくなる。タミネタはそんな人間達をただ無作為に掴み上げて潰した。
「これ、現実?テレビとかじゃ?」
悲鳴があちらこちらで広がった。
タミネタを中心に逃げ惑う人間達。
「化け物だぁー!」
そんな言葉は誰も信じられない。
好奇心で覗いて立ち止まった者から順に餌食になり、次第に東京ビッグ・バン・サイトは超パニックになった。
こんな時、誰も押さない、駆けない、喋らないの鉄則は守れなかった。
駆けつけた警察が、救援を要請している最中に、状況は更に悪化していく。
そんな騒ぎ声を恭介達も気付いた。
「何か外が騒がしいな」
「盛り上がっているな〜今年は」
「でも、何か変じゃない?」
恭介と真壁が顔を見合わせると、真壁が「俺が外見てくるから準備の方よろしくな。ついでに何か飲み物買ってくるわ」
「頼むな」
と、外に出ていく真壁の後ろ姿を恭介とカスミは何か胸騒ぎしつつ、見送る。
もう二度と見る事はない友人の背中を。
そして姜子牙はその二人の前で何も言葉を発せず、その場に座ったまま天井を見ていた。
すると発砲する音が響き渡る。
それは警察が異常者の大量殺人発生の現場に到着し、タミネタに向かって発砲したのだ。
それが合図となって、警察達が信じられない化け物の存在に初めて拳銃を生きた者に向けて撃っていた。いや?生き物なのか?
拳銃の弾はタミネタの身体を貫いていたが、やがて皮膚の硬直と共に体内に吸収されては何事もないように警察に襲いかかる。
「じ、自衛隊を要請、いや、特殊部隊を」
「避難誘導を、あっ」
警察達もパニックっていた。
一瞬の判断の遅れが己の命を失わせた。
彼らもまたタミネタの前では捕食される餌に過ぎない。
彼らの武器は役に立たないのだ。
サイレンの音が響き渡った時、警察が同人誌即売のブースに現れて誘導を始めた。
「何ごとだよ!えっ?化け物?何だよ!それ!」
「それより携帯が繋がらねぇ!」
騒ぎの中、待機していた恭介と高尾はこの騒ぎに戸惑う。
座り込んだままの姜子牙を起こして立ち上がらせ、腕を引っ張り外に出ると、そこはもう大惨事になっていた。
「なんなん?」
「それよりカスミと浜田はまだコスプレブースじゃないか?俺、連れて来る!」
「おい!恭介!待てよ!」
「浜田。お前は姜子牙を安全な場所に連れて行ってくれ!車で待機して、俺達が戻って来たらこの場から離れよう」
「分かった」
そして恭介は止める警察を振り切り、逆方向のコスプレブースに駆けていった。
コスプレブースは今、惨劇の状況にじごくえずとなっていた。
壊れたカメラが血まみれになって転がり、肉へんが散らばっていた。
そして脅えるカスミと浜田が、目の前に現れた化け物を見上げて震えていた。
「か、カスミ。逃げなきゃ」
「で、でも動けないよ」
二人は屍が転がるブースの中心で、恐怖に足がすくみ、悪夢のような目の前の惨劇に足腰が立たずにいた。
「え、餌、二匹」
タミネタが二人を視界に入れると、その腕が伸びて向かって来る。
「きゃああああ!」
「うわぁあああ!」
二人の悲鳴が響いた時、タミネタは突然後頭部に衝撃を受けて動きが止まる。
タミネタの背後から飛び上がった恭介が、転がっていた木刀で思いっきり殴りつけたからだ。
「う、腕が痛っええ」
恭介の痺れる腕が握る木刀は簡単に折れて使い物にならずに放り投げると、二人に向かって叫ぶ。
「立って、逃げろぉー!こいつは俺が相手するからよ!」
「恭介!」
二人は顔を見合わせると、肩を借りて逃げる。
このままでは恭介を見殺しにしてしまうかもしれないと思うが、下手をしたら足手まといにしかならないと気付いたから。
「ば、化け物!俺が相手してやるから、こっち見ろ!」
すると恭介はタミネタの顔面に、手にしたスプレー缶を向けて射出した。
それは塗装に使う缶だった。
「!!!」
タミネタは突然視界を奪われ、太い腕を振り回して暴れると、恭介は振り回される腕を躱して二人が逃げた別方向に走る。
「追って来やがれぇー!化け物」
タミネタは視界は見えずとも、恭介の足音に向かって追って行く。
「やべぇ!やべぇ!カッコつけたは良いが、マジに恐いよ!これぇー!」
恭介は転がる屍を踏み越えながら逃げる。
迫るタミネタに振り返る余裕なんて無かった。
がむしゃらに走り、そして先方にまだ高校生くらいの少年が立ち止まり立っていた。
この惨劇の現況が向かって来る事に気付くと、ゆっくりと方向を変えて足を向けた。
そして逃げて来た恭介とすれ違うと、
「おい!お前、逃げろ!」
「お兄さん。よく生きて逃げて来たな。後は俺に任せな」
「えっ?」
恭介は振り返る事は出来ずに、彼の声が頭に残ると、まさか厨二病なのかと不安になったが、立ち止まれば命がない恐怖に走り去る。
そしてタミネタに向かって、残った少年は拳を向けて呟いた。
「空海の親父に頼まれて来てみれば、見た事もない化け物だが関係ねぇ!俺がシメテやるよ。この佐伯勇斗がな!上等!」
彼は飛び上がり拳をタミネタの額に殴り付けると、その動きが轟音を立てて止まった。
その状況に恭介は言葉を失い立ち止まっていた。
「何だこれ?俺は夢を見ているのか?」
人外のタミネタに怯むことなく戦う少年は?
次回予告
人外の化け物であるタミネタに戦いを挑む少年は一体?




