新たな戦場の地。東京ビッグ・バン・サイト!
まさか姜子牙が法子の世界に来ていたなんて。
しかも姜子牙は今、その心を閉ざしていた。
その地は盛り上がっていた。
長い行列。
待ちに待った今日。
東京ビッグ・バン・サイトにはコミケを目的に10万人を超えるヲタと呼ばれる猛者が集い、盛大に開かれていた。
自分達が作成した同人誌の即売会。
そしてコスプレの撮影会。
そんな中に、彼はいた。
目的がこの場にあったわけではない。
ただ連れて来られただけ。
姜子牙はこの世界に辿り着き、さ迷っていた。
傍から見れば、街中を平然とコスプレ衣装で歩いているように見えた。
ワゴン車の窓から外を眺めていた若者は、姜子牙に目についた。
彼は明日のコミケに集まったグループの一人。
そこに姜子牙が警察に囲まれ事情聴取され、何も答えずに連れて行かれるところを見ていられずに割って入ったのだ。
「お巡りさんすみませーん。うちらの連れが面倒かけてすみません」
「ちょっと明日のコミケに気が早まってしまってね。コイツ。全然怪しい奴じゃないんです。だから見逃してくださいよ?」
と、代わりに受け答えして姜子牙の手を取り仲間のいるワゴン車に連れて行く。
そして無言の姜子牙に、
「お前も明日の東京ビッグバン・サイト行くのだろ?だったら同士だ!だから礼なんていらないぞ」
姜子牙は無言だった。
「何で何も答えないの?この彼、言葉聞けないとか?まさか病気とかじゃないの?」
「カスミちゃん。そんな奴がコスプレ着て東京タワーの前でお巡りさんに補導なんてされてなくないか?きっとシャイなんだよ」
「シャイな奴がコスプレして歩かないよ」
と、盛り上がっていた。
「俺は恭介。このサークルメンバーのリーダーな。サークル運営」
「私はカスミ。好きなコスプレは魔法少女とか、ゲームの格闘美少女キャラかな」
「俺は撮り専な。カスミちゃんの全てをこのカメラに残し、世の中に広める役目を持つ伝道師。浜田」
「で、車を運転しているのが真壁。それから眠っているのが高尾。二人の同人誌はかなり胸熱だぜ!」
すると高尾が飛び起きて語りだす。
「駄目でしょ!読む前に話したら!BL美少年の二人が魔物退治しながら、お互いの疲弊した身体を癒やしていくラブロマンスバトル!僕の名作はかなり人気でるぞ〜」
「で、運転している真壁が絵を担当」
と、そしてカスミが姜子牙の手を握り質問する。「君の名前は?」その言葉に、
「き、姜子牙」
と、呟いた。
5人組は顔を見合わせて、爆笑していた。
「クールでシャイな奴かと思えば、徹底した役作りな。姜子牙ってアレ?西遊記とかの中国の神話だよな?アニメで観たことある」
「違う違う。封神演義だよ!そこの主人公の名前が太公望で、その前に姜子牙って名前だったはず。僕の記憶だと」
と、彼らに連れられ姜子牙は東京ビッグ・バン・サイトに向かったのだった。
「なぁ?コンビニ行くか?」
「飲み物よろ!」
「俺はコーヒーな。後はポテチ」
「お前は?えっと、姜子牙?」
しかし姜子牙は答えない。
意味を理解出来ない上に、言葉が分からない。
それでも彼ら会話が交わされる言葉が頭に入るうちに、次第に言葉のメカニズムを解読し、やがて言語を理解していった。
それでも言葉を発しないのは、姜子牙の心が完全に閉ざされてしまっていたから。
「ほれ」
すると恭介が姜子牙の口にパンを押し込ませ食べさせると、咽た。
「恭介!無理に食べさせないの。飲み物飲んで?大丈夫?お茶だから」
そこにカスミがペットボトルの口を開けて飲ませてくれた。
気付くと姜子牙は言われるがまま食事を手にしていた。
姜子牙はカスミに優しくされる姜子牙に嫉妬しながら、
「飯を食わないと力が出ないぞ?俺は工事現場で働いてるから体力と元気には自信あるからな。お前、ひょろっとしているから筋肉付けろよ」
ワイワイガヤガヤした会話。
姜子牙の閉ざされていた心には雑音でしかなかった。
そして彼らは車中泊をした後、朝早くから東京ビッグ・バン・サイトにて準備を始める。
真壁と高尾は同人誌を車から降ろし、恭介が手伝っていた。
カスミはコスプレに着替え、浜田はカメラの準備していた。
そして姜子牙は空を眺めていた。
過去の戦場で見た空と同じ。
しかし、この生温い平和の世界もまた空は同じく広がる青が続く。
しかしこ東京ビッグ・バン・サイトから感じられる数万の猛者達から感じられる強い思念や闘気にも似たソレは、戦場で感じられるモノと大差無かった。
戦いが始まろうとしているのか・・・
そして始まりの鐘がなる。
「何の衣装ですか?リアルですね?お願いしま〜す」
気付くと、姜子牙は囲まれて写真を撮られていた。
そんな様子を負けじとカスミが人を集めて写真を撮られ、浜田も撮りまくっていた。
明日には写真集を出す予定だ。
同人誌の方も行列だった。
BLと魔物退治のバトル要素。
過去作の人気もあり、既に用意していたダンボールが一箱空になった。
まさに戦場。
東京ビッグ・バン・サイトは戦場だった。
そんな平和な戦場に、奴が現れるまで。
西王母が送った刺客。
この世界には場違いな存在。
そして存在してはならない異物。
「この世界は何だ?餌がうじゃうじゃおる。手当たり次第ではないか」
その異物的存在は意思を持つ鉱石だった。
工事現場で人間を喰らい、意思と人間の姿を手に入れ知能も持ち合わせていた。
知能がある事から、見た目の容姿を良いと思われる人間の姿に変えていた。
それが移動に都合が良かったからだ。
そして己をこう名付けた。
「タミネタ」
タミネタは人間の女をトイレに連れ込み、恐怖して動けなくなったところを頭から喰らい飲み込んだ。
場所が変わること、昼休憩時に恭介に連絡が入った。
それは職場からだった。
「はい、俺。何?何か問題なんかあった?まさかな〜俺は絶対に今日は休むって決めてるから仕事には行かないぞ?えっ?違う?何を慌ててるんだよ?えっ?嘘だろ」
自分が休暇を取っていて現場で大惨事が起こり、現場監督を努めていた父親が亡くなったとの報告だった。
「俺、帰るわ・・・」
恭介が青褪めていると、仲間達が心配なって集まる。
同時に悲鳴が広がった。
この後、この東京ビッグ・バン・サイトに起こる惨劇が、姜子牙と恭介達を襲うことになるとは誰も予想出来なかった。
次回予告
姜子牙に迫る刺客タミネタ。
そして一般人である恭介達の運命は?




