これは夢?現実?サーモバリック爆弾?
新たな神の出現。
それは死をつかさどるタナトス神であった。
私は法子よ。
私達の連携でヒュプノス神兄弟三神を拘束し封印する寸前だったのに、そこにまたまた新たな神が現れたの。
私達が張った結界は壊され、ヒュプノス神達も自由になってしまうし。
そして私達に手をくだそうとした直後、もう駄目ぇ〜って思った時に現れたのは孫悟空だったの。しかも坂之上田村麻呂さんと仁王さんまで登場とか助かるわ~。
一触即発の中で、私の声援が響く。
「孫悟空〜!やっちゃって!」
「任せろや!」
孫悟空がタナトスの手首を強く握り締めると同時に頭上から無数の影が迫り、孫悟空を貫いた。
「愚かな。身の程知らずが相手の力量も分からずに手を出した事を悔やみ死ね」
串刺しになった孫悟空の姿が倒れると、タナトスの背後から孫悟空がする。
「お前の方だろ?身の程知らずはよ!」
「!!」
孫悟空の繰り出した拳を寸前で躱したタナトスは倒れている孫悟空の姿が分身だと気付く。
「貴様、何者だ?」
「俺様に名を聞くなら、先に名乗るのが礼儀だろ?」
「良かろう。私の名は」
「待った!ここは早い者勝ちだぜ!俺様の名前は聖天大聖・孫悟空様だ!よく覚えておけ!ちなみにお前の名はどうでも良いぞ?何せ、この俺様に倒される奴の名はど〜でも良いからな!」
孫悟空は拳を繰り出し、タナトスは紙一重で躱す。
タナトスの攻撃は瘴気を帯びており、最小限の接触で受け流していた孫悟空の皮膚が徐々に腫れ上がっている事に気付いた。
「チッ」
孫悟空も気付いていた。
タナトスに触れた場所から力が抜けている事に。
「この俺に触れたら並大抵の者は肉体どころか魂までも消滅してしまうのにな。凄まじい存在力だ。しかも奇妙な事に俺との戦いに馴れているように感じる」
「あんまり褒めても手加減してやんねぇぞ」
孫悟空は最小限にタナトスと触れる事を徹底していたのは、同じく触れる事で命を削る神殺しのカミシニとの戦い方が身体に染み込んでいたからだと思う。
そしてヒュプノス神を相手に田村麻呂さんは苦戦を強いられていたの。
「目に見える全てが偽りか。悪酔いしそうだぜ。全くよ!」
田村麻呂さんが見えている視界は上も下もない世界で平衡感覚を乱され、異形な姿をした化け物が襲い掛かって来ていたの。
これは全て幻覚か?
いえ、ヒュプノス神の創り出した世界は全て非現実であって現実でもある。
闇が覆い、足下から上半身へと氷に覆われて全身を凍てつかせる。
この世界で怪我をしたり凍傷ですら死ぬことになればリアルに全て直結するのだから。
対して田村麻呂さんは瞼を綴じて意識を集中し、間合いに迫る全てに剣を合わせていた。
「ぐぅおおおお!」
吐き出す覇気が全身の氷を蒸発させ、ヒュプノス神の位置目掛けてサヤハの剣を振るうと、ヒュプノス神の頬が斬れて血が垂れ落ちたの。
「この神である私の身体に傷を、血を流させたな!許さん、許さんぞ!人間!」
「この俺を始末したいのなら、直接来るのだな?その時がお前の最期だがな」
そしてオネイロス神もまたヒュプノス神と同じく夢世界を操る力を持ち、仁王さんの目の前に戦車が出現して大砲を撃っ来ていた。
騒音が鳴り響く中で、仁王さんは迫る大砲の玉を全て空手の受け身で受け流しては、その後方で爆発する。
「いつまで保つか見ものだな」
「貴様を倒すまでだ」
すると今度は空中から戦闘機が銃撃して来て、仁王さんはその場から飛び退き躱すと、空中目掛けて睨みつけていた。
「やはりお二方は強いです。同じ守護者である私には彼等のように戦えない」
ショックを受ける桜さんに、私は首を振って伝えたの。
「桜さんにはあの二人には出来ない事があると思うの。適材適所ってやつよ」
「法子さん、有難う」
そして私は太子くんと顔を見合わし頷くと、二人して応援に徹したの。
たとえ喉がかれても、負けないで応援するから頑張ってちょうだい!
タナトス神の身体から死の瘴気が漏れ出し、まるで気のように操りながら孫悟空の身体に巻きつけると、動きを拘束する。
「グッ、う、動けねぇ〜ぞ!」
「口だけだったようだな。直ぐに済む。お前は己が死んだ事にも気づかずに死を迎える。安心しろ!直ぐにお前の仲間達も死が迎えに来よう」
「そうかよ!でもな?この俺様が死ぬとかホラを吹いてるんじゃねぇぞ!コラァー!」
その時、孫悟空の瞳が金色に光り輝き、タナトス神の瘴気を吹き飛ばし消し去ったの。
「何ぃ!?」
「死ぬのはお前の方だぜぇー!」
孫悟空が飛び出し拳を振るうと、タナトス神はその勢いに弾かれてしまう。
優勢に勝機が見えかけていた。
しかしその時だったの。
「な、何かが来る?」
それは予感にも近かった。
私達のいるこの戦場に何かが近付いている。
しかも、恐らく、良くない事になる。
今のこの状況より?
神様と戦っている以上に何が起きる?
私だけでなく桜ちゃんもソレに気付く。
全身を震えさせ、私の顔を見て言う。
「法子さん。とても嫌な感じがして仕方ありません。この場から離れないといけないような恐い感じがするの」
「私も同じ予感を感じているわ」
顔を見合わせた時、太子くんが恐る恐る私達に告げたの。
「も、もしかして二人が感じているのはアレじゃないでしょうか?」
「えっ?」
太子くんは空を指差して、上空高くから降りて来る光を教えてくれた。
ソレは軍事用の飛行機から落とされたの。
「アレは何?特に力を感じないわよ?」
「アレは恐らく無機物だからだと思います。きっとあれは・・・」
「えっ?何で?嘘?」
太子くんが答えたソレの名は。
サーモバリック爆弾だった。
「爆弾?どうりで気を感じないわけだわで、爆弾がどうしてこの場に落とされるの?」
「そんな呑気な事を言っている場合じゃありませんよ!あの爆弾は世界最強の真空爆弾と言って、爆発したらこのゴルフ場だけでなく尋常じゃない被害を起こすのですよ!」
「太子くん。詳しいわね?さすが男の子ね」
「だぁ〜かぁ〜らぁ!」
この状況、孫悟空達も戦いに集中して気づいていないみたい。このままじゃ、爆発して私達はもちろん関係ない人達まで被害が出る。
「私達が何とかするしかないじゃない」
「でも、どうやって??」
すると桜さんが私と太子くんに答えたの。
「私が何とかしてみます」
「出来るの?桜ちゃん?」
桜ちゃんは頷きはしなかった。
つまり一か八かのつもりね。
「私達に出来る事はある?」
「太子さんは私と一緒に魔法陣を描いてください!そして法子さんは爆撃の余波を抑える術札をこのゴルフ場一帯に張ってください」
「分かったわ!」
事は至急。
私は印を結んで右の手甲を挙げると光り輝く術札が拡散して四方八方に飛び散っていく。
「魔法陣張り終えました!桜さん!」
「太子さん。有り難うございます」
すると桜さんは印を結び、地脈の流れを感じていたの。その流れを自分を中心に弧を描くように魔法陣に集めると、
「龍脈操封術・天昇龍派」
桜さんを中心に地脈から溢れる気が金色に光る龍の姿となって天高く、急降下する爆弾に向かって上昇したの。
「!!」
閃光が光り輝いた。
夜空が一瞬、昼間のように明るくなり、その後は凄まじい爆風が私達を襲ったの。
「うっ、くっ、きゃあああ!」
私達は爆風に巻き込まれて散り散りになってしまった。
皆は?大丈夫なの?
ちゃんと生きていてよ!
そんなこんな。
次回予告
まさかの爆撃に、法子達の生死は?
そして過去の世界に戻る手段はあるのか?
脱線は規格外の展開へと広がる。




