呪いを解くために・・・
鈴鹿山に入り込んだ二人の僧侶の前に、
謎の少年が現れたのだ。
この少年は何者?
それは呪われし少年の物語。
その少年は生きるために鬼となった。
その少年は京都で名高いヤクザの跡取り。
いずれ親の跡を継ぎ立派?立派なヤクザになるはずだった。
だけど?
「うわぁあああ!」
深夜深く少年は目覚めると、目の前に現れた何かに向かって叫びながら手にした刀を振り回す。
「はぁ…はぁ…」
血眼になって、恐怖する少年は震えながら刀を振るう。その姿を見た父親の組長は部下に命じて大人しくさせようとするが、狂気と化した少年は部下達をも斬りつけたのだ。
「我が子は狂ったのか?」
父親は部下に麻酔銃を用意させ、暴れる我が子を撃たせた。その夜、死者は七人だったが、全て父親によって揉み消された。
そして我が子は地下に特別に作った牢屋に手足を手錠で拘束され幽閉された。
1日、時間毎に食事を持って行く者達は先ず地下の牢屋に近付くごとに異常に冷えきっている事を肌で感じる。そして耳にするのだ?牢屋の中でブツブツと独り言を呟く少年が「来るな?来るな?僕を奪うな!僕を奪うな!」と怯え、そして暗闇の中で、まるで獣のような唸り声が少年の周りから聞こえて来るのを?部下達は恐怖に逃げるように走り出した。
残された少年は呻き声をあげながら、見えない闇の中を睨み付けたまま…
少年は解っていた。
眠ってはいけない。油断もしてはいけない。気を張っていなければならない!
さもなければ、自分は目に見えない狂暴な力によって八つ裂きにされる事を!
目には見えないけれど気配は感じる?闇の中から自分を狙う気配に!
恐怖の中で、少年は少年とは思えぬ強靭的な精神力で眠らずに、気配に対して攻撃的な殺気を放っていた。気を抜けば必ず自分自身がナニかによって一瞬で殺されると本能的に理解していたからだ。
そこに父親が呪法師と呼ばれる者達を連れて我が子の前に現れた。
「生きておるな?お前は儂の跡取りだ!死んではならぬ。よってお前にかけられた呪いを解くためにこの者達を連れて来てやったぞ」
父親の指示に呪法師達は少年の周りに儀式の準備を始める。呪いをかけた者に返す術返しを行おうとしていたのだ。数人の呪術者達が同時に怪しげな呪術道具を使い儀式は始まった。
父親の組長に呪術者のリーダーらしき男が説明する。彼らは多額の金銭でのみ動く裏の世界の呪術者集団。
「御子息様は何者かの呪術により呪われておるのです。その呪いを解きさえすれば必ず!」
「出来るか?」
「もちろんでございます。我らは日本でも随一の…」
言いかけた時、突然呪術者の一人が苦しみ出した。何事かと駆け寄ろうとした者は何か強い力で吹き飛ばされて壁に直撃して死んだ。
「呪いが強すぎる?何だ?この呪詛の正体は!?」
慌てる呪術者集団は力を込めて呪術返しの念を強めるが、逆に呪いが強まり押し潰されるように苦しみながら生き絶えていく。
「クゥ!」
リーダーの男は己自身が印を結び、その正体を突き止めようと念波を放ったその直後、闇の中から鬼女の面が浮き上がったのだ!
「あれは…まさか!!」
呪術者のリーダーはその正体が何かに気付き、震え始める。
「何がわかったのだ!呪いをかけている者がわかったのか?言え!」
組長に胸を掴まれたリーダーの男は呟く。
「我々は手を出してはいけない者に手を出してしまった…あの鬼女の正体は…」
「正体は?」
「鈴鹿山の鬼女!御子息様は決して逃れられぬ…」
その言葉を言いきる前に口から血を流し、組長の前で死んだのだ。
組長が手を離すと呪術者のリーダーは崩れ落ち、すでに呪術者集団は一人残らず死んでいた。
「終わりだ…」
諦めかけた時、死んだ呪術者の懐から紙が落ちる?
「?」
組長はその紙を手に取ると、中には何も書かれてはいない真っ白な紙。それが目の前で真っ赤な血で文書が勝手に書かれていく??
これには呪いをかけた術者の正体が記されていく。
呪いをかけたのは鈴鹿山の鬼女と呼ばれる呪術者であり、その者は現在裏世界で勢力を上げているらしい。邪魔な組織の幹部や関係者を呪術で殺しては排除していると記される。
更に、呪術者が持って来ていた箱を開けるように書かれていた。
箱の中には一本の護身刀が入っていた。
最後に、この護身刀で鬼女を斬らぬかぎり呪いから解放される事はないと。
組長はその刀を手に取ろうとしたが、
「アツッ!」
触れた指先が火傷したのだ。それは他の誰に持たせようとしても同じだった。
この刀を持って鬼女を斬る?そんな事が出来る者は?
その時、
「親父…俺にその刀をよこしてくれ!」
「お前?」
それは地下の牢に入ってから会話を一切しなかった息子だった。
「その光る刀を俺によこしてくれ!親父!」
「光る刀?」
息子には刀が光って見えているようなのだ。この刀は護身刀であると同時に護神刀であるらしく、力有る者には常人には違って見えるらしい。息子は特別な力を持っていると言うのか?そもそも刀を振り回し、狂った息子に刀を持たせて良いものか?また暴れ出したらと考え迷う父親に、
「親父!俺にかけられた呪いは俺自身がケリをつけてやる!自分のケツモ拭けなきゃ親父の組を継ぐ資格ねぇだろ!」
その言葉に父親である組長は、息子を地下牢から出して手錠を外し護身刀を手渡したのだ。
「ありがとうよ」
「大丈夫なのか?」
「あぁ…この刀のお陰か?頭がスッキリしているようだ。もう暴れたりはしねぇよ?…それより!」
「うむ」
組長は呪術者が残した情報から、呪いをかけた者を調べさせた。裏世界の情報網から直ぐにわかった。
「鈴鹿山に俺を苦しめた張本人がいるんだな?ソイツを斬って全て方がつくんだな!」
まだ15歳の少年は獣のような目付きで刀を手にし、鈴鹿山に組の者を連れて向かったのだ。
黒ベンツから銃を持った男達が降りて来て、組長の息子を護衛する。
「お前ら?この先にいる化け物女をぶっ殺すぞ!」
「はい!若頭!」
少年は焦っていた。
実は、少年が地下の牢屋から出ようとすると、再び呪いが重く、全身に麻痺を生じたのだ。
「くっ!ここから出られなければ、はぁはぁ・・・」
そんな状態の少年の肩に温かい手が置かれる。
「安心しろ?お前はお前の仕事をしろ!お前の呪いは儂が引き受けてやろう」
「えっ?」
父親は胸を開き、呪術師より先に受け取っていた術札を自分の胸に貼り付ける。
すると息子にかかっていた呪いが父親へとふりかかったのだ。
青ざめ、苦しみだす父親は、それでも威厳を持って息子に伝える。
「お前なら、出来る!儂の息子だからな?」
父親は最初から息子の呪いを引き受ける覚悟をしていて、万が一に備えて
呪術者達から呪いの転換の札を受け取っていたのだ。
「親父・・・」
少年は組の男達を連れて鈴鹿山の一本道に足を踏み入れる。
そして侵入したその時!
「ば、化け物!?」
ざわめく男達の前に突如道を塞ぐように鬼達が地面から抜け出て来たのだ。更に大木から落下して来た鬼が男達にのしかかかる。
悲鳴をあげて、騒乱と化した現場にて少年だけが冷静を保っていた。そう、長く暗闇の中で鬼を対峙しながら生き延びた精神力がそうさせたのだ。
「怯むな!銃を使え!」
男達は少年の言葉に銃を手に鬼達に向けて発砲する。
「うわぁああああ!」
だが、鬼達は身体に銃弾を受けても微動だにしない。
噛み付かれ、腕を引きちぎられ、頭を潰され、男達が次々と死んでいく中で…
「止めやがれー!」
少年は刀を手に駆け出すと鬼に向かって斬りかかる。鈍い音と感触を感じると、目の前の鬼が血を噴き出して倒れる。
「殺れる?この刀なら化け物を殺れるぞ!」
確信したと同時に鬼に向かって恐れる事なく斬りかかる少年。幼少より武芸を父親から叩きこまれ腕には自信があった。だろうが化け物を相手に通じるはずない?なのにも関わらず身体が化け物を倒すすべを知っているかの如く動かしていたのだ。
「化け物だろうが関係ねぇ!俺を縛る野郎は誰であろうと、ぶった斬る!」
それからどれくらい経っただろうか?
殴り込みに連れて来た男達を全て死に、刀を手に息を切らしながら生き残っていたのは少年だけだった。
少年は鬼を斬りながら何か別の記憶が頭の中を廻っていた?血の匂いに、肉を断つ感触、こんなのは初めてのはずなのに、昔に確かに同じ経験?体験?記憶が蘇って来ていた。
その記憶の中の自分の姿は大人びていて、平安時代の衣を纏っていた。その自分らしき男は目の前に現れた人とも獣とも思えぬ化け物を相手に弓や刀を手に滅していく狩人であり、英雄だったのだ。
数々の伝説を残した男は自分とどういう関係が?
少年は誰かに名前を呼ばれたように感じる?
「坂ノ上田村磨呂様」
しかし、少年は首を振って否定する。
「俺は坂ノ上田村磨呂なんて奴じゃねぇ!俺は…坂上タムラ!坂上タムラだぁー!!」
鬼の血を浴びた少年はそれこそ鬼神のごとき強さであったが、そこにガラの悪い二人の密教僧が姿を現したのだ。
「奴らも俺の敵か?だったら、容赦するか!」
少年の前に現れた僧侶は何者なのか?少年を呪う者の正体とは?
そして、この少年は何者なのか?
次話にて明かされ…
えっ?もう解ってる?
そっか…
次回予告
二人の僧侶と呪われた少年の邂逅。
そして鈴鹿山に待つ者とは?