ヒュプノス神の使徒!
ゴルフ場にヒュプノス神が何やら魔法陣を張っている。
それは人間達の魂魄をエネルギーにして、邪神エリスを復活させる儀式だった。
私は法子よ。
私と太子くんはヒュプノスの行動を覗き見ながら、突撃するタイミングを見計らっていたの。
ヒュプノスは何やら魔法陣のような物を張りめぐらせ、何かを召喚させようとしているようなの。
「もう止める?今すぐ止める?どう止める?」
「待ってください。法子さん。ヒュプノスの魔法陣に下手に足を踏み込めば、排除する結界が発動して何が起きるか全く分からないですよ」
「だからといって見てるだけじゃ後の祭りよ」
「分かってますよ!自分も見てるだけじゃないから。ちゃんと計画練ってますからね!」
「どうするつもり?」
「あの魔法陣の組み換えを変更させて、ヒュプノス神の目的を破綻させます。そのために魔法陣の組み換えをですね〜え〜アレがこうなって、それから」
「私、邪魔しないように黙っているわ」
「すみませんが、そのようにお願いします」
その時だった。
『お前達虫けらにヒュプノス様の邪魔はさせん』
「!!」
何者かの声が私と太子くんに向けて背後から聞こえて来たの。
そして恐る恐る振り向くと、そこにヒュプノスの使徒が私達を品定めするように一人立っていたの。
「あ、見つかちゃったわ」
「そのようですね」
頬から冷や汗をかく太子くんは覚悟を決めると、掌を返して指を立てて、マジックのようにトランプが出現する。
そのトランプをばら撒くと私と太子くんを覆い隠し、私は陰陽師の格好に、太子くんは朱華で彩色された教科書に載っているような衣装を纏う。
「ほんまもんの聖徳太子らしくなったわね」
「実際に聖徳太子の転生者ですから。こう見えても。それより油断は禁物です!法子さん!」
「了解よ」
この空間は夢世界と繋がっているようで、戦闘モードに入った私達の姿は最も魂に定着した衣装のが力を最大限に発揮出来るの。
つまり着慣れた好きなコーディネートの方が戦闘服って感じでテンションが上がるわけよ。
「この空間だと何が起こってもおかしくないですから。気を引き締めてください」
「さっそく来たわよ!」
目の前に現れた使徒は両掌を下に向けると、黒い影が無数に出現して私達に向かって来たの。
「何なの?アレは!」
「夢影獣ですね!」
影は獣のような狼のような四本足で牙を剥いて襲って来たの。
「ひゃあ!」
私は掌から金の錫杖を構成させて獣をぶん殴り躱すと、後ろから噛み付く夢影獣を錫杖で噛み付かせ受け止め、蹴る。
そして次々に襲って来る夢影獣に向けて首にかけた数珠を手にして振り回して投げつける。
「数珠炸裂弾!」
私の数珠は夢影獣を貫くけど、穴を開けたまま突っ込んで来てどうしようもなくなる。
「何よ?実体がないの?」
「お任せを!」
「えっ?太子くん?」
太子くんは足下で魔法陣を描くと、印を結びながら秘術の名を叫んだの。
「拳法十七錠(けんぽうじゅうななじょう」
太子くんが拳を打ち込むと、襲い掛かって来た夢影獣の身体に輝く錠が固定し、鎖が伸びて絡み付き拘束する。
「私の拳法十七錠は、触れた相手の身体に錠を打ち込む事で夢力を失わせる拘束が出来るんですよ」
次々と夢影獣を拘束していく太子くんは、この夢世界では本当に頼りになるのよね。
けど、全然減らないわ。
それもそのはず、影から次々と出現する夢影獣。
「良いでしょう。ならば取って置き見せてあげますよ!」
太子くんは足を踏み込むと、足下の魔法陣が広がっていく。
そして全ての夢影獣達の足下をまで達すると、
上空から十二色の玉が降りて来て夢影獣達を囲む。
拘束された夢影獣達は逃げる事が出来なかった。
「あの玉は夢影獣を封印する」
太子君が掌を挙げると玉はぐるぐる周りながら煙を噴き出す。
『完囲獣荷戒』
※カンイジュウニカイ
魔法陣から放たれた十二色の玉が夢影獣達を消滅させていく。
「私の完囲獣荷戒は夢世界を閉ざす力。夢世界のありとあらゆる現象を消す力さ」
が、太子くんの視界がボヤケて蹌踉めく。
夢世界の戦いはイメージの力。
つまり精神力の勝負なの。
太子くんの奥義は夢世界でも強制的遮断能力。
相手の精神力を上回る程、消耗が激しいようなの。
まして相手は神族。
そして太子くんは片手を壁に付けて倒れるのを堪える。
「こんなところで倒れるわけには」
「太子くーーん!」
「えっ?」
太子くんに向かってクレーン車が鉄球を振り回し直撃した。
寄りかかる壁ごと、吹き飛ぶ太子くんは血を吐き転がりながら動かなくなる。
まさか死んで?
すると倒れた太子くんが顔を上げて私に向かって首をふる。
「い、生きていますよ。法子さん。けど、身体がう、動かない。一体、何が?」
クレーン車、パワーショベル、ブルドーザーと、工事現場の車両が迫って来る。
その車両の上に立つ使徒がいた。
「ようやく奴らの正体が分かった。動物たちを操っているのがベートール。それにパンタソスは非生物を操ると聞いたことがある。確かに奴らはヒュプノス神の使徒だったはず」
けれど太子くんは痛みに動けずにいた。
夢世界での痛みは魂の消耗。
痛みが消える事は魂が失われた時。
これは現実世界に戻ったとしても痛みが残るの。
下手すると、そのまま死ぬ事もあるの。
「私が何とかしないと」
私は太子くんの前に駆け寄り、構える。
こうなったら私の全力見せてあげるんだから!
「えっ?」
すると私は足下に何かが絡みつき身体に巻き付いたの。
それは標識ロープと呼ばれる黒と黄色の縄だった。
「な、何?これ?頑丈で切れないわ」
これはパンタソスの否生物を操る能力だった。
「こ、これ!ちょっとヤバくない??」
その時だった。
「助けは必要か?」
「えっ?」
背後から振り下ろす武器が私に巻き付く縄を切り裂くと、私に笑みを見せたのは?
「孫悟空!」
「待たせたな?俺様が来たからには心配ねぇぜ!」
孫悟空が間一髪で助けに来てくれたの。
こうなれば恐いものないわ!
「孫悟空、遅いわよ!相手は二人。そしてその先に親玉がいるわ。そいつら全員、ぶっ飛ばして!」
「あ〜任せておけ!」
「ところで田村麻呂さんと仁王さんは?」
「俺様にかかれば相手じゃね~」
その時、頭上から声が響いたの。
それは女の子の声だった。
「離れなさい!賤しき者!」
頭上から振り下ろされた金色の光線が私と孫悟空に向かって放たれると、孫悟空に命中して悲鳴をあげる。
「うぎゃあああ!」
「孫悟空!」
そして私は見たの。
その光線を放った相手の姿を。
彼女は!
総本山を守護者・黄龍の巫女!
そんなこんな。
次回予告
黄龍の巫女の放った光に焼かれる孫悟空。
まさか、孫悟空が負けるなんて。




