黄風魔王の秘策!
阿修羅の危機に現れたのは、因縁ある好敵手。
黄風魔王だった。
僕は阿修羅
僕と東華帝君の戦いに割って入るのは、過去に僕と互角に戦った事がある黄風魔王だった。
「どうして君が」
「君を殺すのは僕だと言ったはずだ。そのために今はあの邪魔者を始末する」
「蛇神族との戦いでも手を貸してくれたが、僕の事が好きなのか?残念だけど、僕には法子がいるから君の気持にはこたえられない」
「何故そうなる?僕には僕の目的が他にある。そのために先ずは目の前の敵を倒す」
黄風魔王は拳を向けると、東華帝君が剣を同じく黄風魔王に向けて相対する。
「無粋な下等種よ。お前は妖怪と人間との混血種か?中途半端な魔物風情がわざわざ自ら死に来たか」
「死ぬのはお前の方だ」
東華帝君は踏み出すと同時に剣を振り下ろし、振り払うと、黄風魔王は紙一重で躱して拳を突き出して応戦する。
その拳を剣で受け止め、弾く東華帝君の腕は痺れていた。
「多少、力があるようだが、カミシニの血の前では無力。直に力尽きよう」
そう。カミシニの血能力は神族だけでなく類する妖気や魔気等も打ち消し無効化させる。
対するには始祖神の持つ膨大な神力で消耗しながらも戦う戦法、さらに太陽神の加護を得た武器を使用する事。そして同じく禁忌の血を持つ蛇神や龍神族の力。
そして僕達や法子の持つ金色の魔眼の能力。
だから黄風魔王がたとえ強くても長くは保たない。
黄風魔王が拳を構えると、その手に瘴気が凝縮していく。
(あれは僕と戦った時に使った猛毒の拳か?)
「真・黄砂強風の拳」
瘴気が凝縮した拳は触れた者を塵と変える。
「毒手だと?このカミシニの血は神を死滅させる猛毒のようなもの。たかだか毒の攻撃など恐れるに足らず」
が、黄風魔王と東華帝君が触れ合う瞬間、凄まじい反撥力が互いを仰け反らせた。
お互いの能力が渦を巻き竜巻が起こる。
「コヤツの毒手は、まさか?」
東華帝君が戸惑う中、黄風魔王が解答する。
「僕の真・黄砂強風の猛毒とは、怨念、憎悪を呪詛として凝縮し、生ある全てを塵と変える。お前達カミシニの血は俺の術と同種の何かなのだろう」
それは誰も知られぬカミシニの血の秘密。
その呪血は、呪詛が生み出した産物だと言うのか?
「ふふふっ。面白い。始祖の力を持ち、天敵であるカミシニの能力を得て、その王となった事で無敵だと思っていた俺が知らぬ能力。この世にはまだ未知の能力が溢れておるのだな。そうか。しかしやはり俺の相手には不足なのだな」
「何だと!」
東華帝君の身体から血蒸気が噴き出すと、その視界が赤く閉ざされていく。
(まさか特殊血界か!)
東華帝君の能力は、己に敵意を持つ者の心を歪ませ、敵対心を失わせ傀儡とする。
「!!」
黄風魔王の動きが止まり、攻撃の手を止めると、力の放出が消えて立ち止まった。
黄風魔王までも傀儡になれば、この僕達を襲って来るに違いない。
「クッ!」
僕は戦闘に控えて立ち上がろうとするが、まだ完全に回復はしていなかった。
外傷よりも体内の損傷が大きい。
吐血しながら立ち上がる僕を見て、東華帝君はゆっくりと黄風魔王に近付き命じた。
「あの者を始末して来い」
すると黄風魔王は手に猛毒を籠めて、
「!!」
東華帝君に向けて手刀を繰り出していた。
「なぁ、何だと!?俺の能力が効かぬと言うのか?この者は!」
だが黄風魔王は無言で襲いかかる。
(術が効いてないわけではない。黄風魔王はただ目の前に存在する者に攻撃しているだけ)
黄風魔王は生ある全てを消し去る生者根絶を目的とし、自らも滅びようとした魔王。
だから敵が誰とか関係ない。
近付けば僕にも襲いかかるだろうし、その場に近くにいたから東華帝君に攻撃をしているに過ぎないに違いない。
「この者、心を持たぬと言うのか!」
この僕でさえ、大切な法子に手を伸ばしたと言うのに。
やはり只者ではないな黄風魔王。
「見境なしか。仕方あるまい」
東華帝君は血界を解くと、鞘から剣を抜刀する。
躱した黄風魔王は不快な感じに苛つく。
「幻術にでもかけられた気分だ」
黄風魔王は構えを取り、拳を握る。
黄風魔王は拳闘士。
その拳は世界を塵と化す。
敵として戦うなら恐ろしいが、目的も分からず味方とは言えないが。
僕は立ち上がると、黄風魔王の隣に立つ。
「目的は知らないけれど、奴を倒すのに力を借りさせて貰うよ。黄風魔王」
「本来なら一人で充分だと言いたいが、そうも言えないようだ。僕の足を引っ張るなよ。阿修羅」
「そのつもりだよ」
僕と黄風魔王の共同戦に、東華帝君は余裕を見せる。
その笑みは多少、濁っていた。
「この俺が覇権を握るため、俺の手で世界を滅ぼす祭りと受け取ろう」
その時、凄まじい力が東華帝君を中心に波紋の如く広がって、静寂が覆った。
この東華帝君、まだ力を隠し持っていたのか。
僕と黄風魔王はどちらともなく飛び出すと、同時に東華帝君に向けて攻撃を仕掛けた。
左右からの攻撃に対して東華帝君は微動だにせずに剣さばきのみで受け流す。
僕達二人の同時攻撃でも倒せないのか?
二倍?いや、三倍は強く感じる。
たとえどのような敵であろうと、この僕の手を法子に向けさせた事は万死に値する。
黄風魔王が接近して呪毒の拳を繰り出して、僕が遠距離から矢を射り援護する。
黄風魔王の拳闘技は一瞬で相手の間合いに入り込み、繰り出す拳と蹴りは閃光の如く。
以前に戦った時よりも洗練されていて、そして恐ろしくも感じる。
次に戦う事があれば前回のように簡単ではないだろう。
今は味方である事が心強く思う。
それにしても、
「どうした?その程度か?魔王とは」
黄風魔王の繰り出す鋭い拳を、笑みを見せながら剣で受け流す東華帝君には余裕があった。
しかも隙を見て狙う僕の射る矢をも弾く。
「そろそろ終わらせて貰うぞ」
振り上げた剣が黄風魔王の胸を斬る。
「グッ!」
そして間合いに入り腹部に剣を突き出した。
「させない!」
咄嗟に入り込む僕は弓矢を手放して、腰に掛けている新たな宝具を手に掴み突進した。
「三鈷杵」
両端が三つに分かれた打撃用の宝具武器。
三鈷杵を突き出し東華帝君の剣を弾いて防ぐと、僕は割って入るように東華帝君に攻撃する。
傷口を掴んで血止めをする黄風魔王は、
「余計な事を」
そして立ち上がると、構えを取る。
「阿修羅、巻き添えを喰らいたくなければ避けるのだな」
黄風魔王を中心に黄砂が巻き起こり拳に竜巻が集中する。
「三昧神風」
繰り出された拳から竜巻が僕と東華帝君に向けて放たれると、寸前で僕は飛び退き躱した。
東華帝君は剣を盾に受け止めるが、竜巻が覆う。
全ての黄砂は猛毒の石礫。
それが竜巻の中で全身を貫く。
「ぬぉおおおお!」
流石の東華帝君も竜巻から逃れるために剣に力を籠めて垂直斬りで裂いて難を逃れる。
が、その脱出を狙い定めたように黄風魔王は次の手を繰り出していた。
「真・虎穴」
それは一直線に突き出した真空の筒。
東華帝君は直撃をくらい胸を貫かれ風穴が開いた。
「がハァ!」
今のは手応えがあった。
確実に仕留めたと思える決定打。
「甘く見ていたぞ。この俺にこのような風穴を開けてくれたのだからな。だが、相手が悪かったな?この俺は・・・」
東華帝君の胸に開いた風穴から見える血が生き物のように粘りつき、傷口を埋めるようにふさがっていく。そう、カミシニは不死身なのだ。
だが、これも想定内。
「動けない間に仕留めるまでだ!」
僕は飛び込むと、近づけさせないように剣を振り払った東華帝君の手首を蹴り上げる。
そして至近距離から上段二本の腕が東華帝君の手首を掴み上げ、残る二本の腕が力を籠めた。
「阿修羅・闘炎激!」
直撃が東華帝君の胸を撃つ。
内部から黒炎が燃え盛り、東華帝君の体内が高熱を帯びながら苦痛を感じる。
「ぬぅううううう!!」
それでも東華帝君の血が絡みあいながら再生を行いつつ、復活しようと試みていた。
「このまま片付けるぞ!」
黄風魔王が加わりながら突風を吹き起こすと、僕の炎を外から高熱を押し留めながら覆っていく。
「いくぞぉおお!」
「分かった!」
互いの能力が融合し、東華帝君の再生を阻止する。
このまま消滅させるだけだ。
肉体が徐々に削られていく東華帝君は、それでも口元は笑みを残していた。
「この俺を足止め出来る程度は力があったようだ。しかし教えなければなるまい。身の程知らずに格の違いというものを」
「!!」
その時、東華帝君の血が硬化していき纏う鎧がより禍々しく変化して修復されていく。
更に僕と黄風魔王の攻撃が跳ね除けられた。
「ぐわぁああ!」
吹き飛ばされる僕と黄風魔王は両腕を交差させながら耐えるが、東華帝君から放たれる威圧に押し潰されそうになる。
「想像以上の化け物のようだ。ならば仕方ない」
「黄風魔王?何か手が残っているのかい?」
「使いたくなかったがな」
「!!」
油断していた。
いや、東華帝君に対しては警戒し、どのような攻撃にも対処出来るようにしていたはずだった。
しかし、まさか、
「どういうつもりだ。今更、俺を相手にした事を後悔し寝返ると言うつもりか?」
東華帝君は目の前に起きた事に、力を収める。
「グッ、ググ、何を!?」
黄風魔王が振り返りざまに僕の胸に毒手を突き付けたのだ。
僕はまさかの行動に無防備に毒手を受けてしまった。
触れた場所から広がり変色する肌に鳥肌立つ。
同時に全身に痺れを感じて膝に力入らずに倒れてしまった。
「愚かな。その者と協力すれば、もう少し長生き出来ただろう。俺への貢ぎにしようと考えたのだろうが、俺はお前を殺す」
「もともとこの阿修羅は僕にとっていずれ倒すべき敵であり、味方と言うわけでもない。だからこのような形を取る事は不本意ではなかった」
「この俺に殺される前に、せめて直接自らの手で因縁のある男を殺したのか。何処までも愚かな。ならばもう心残りはあるまい」
「・・・・・・」
くそぉ!信じた僕が間違いだった。
このままでは法子を守れない。
「うっ、くっ、」
身体が猛毒に侵され動けない。
東華帝君は黄風魔王に剣を向けると、黄風魔王は確信をもって答える。
「三分あれば充分だろう」
「それはお前程度の力で俺を倒せると言う傲りか?何処までも格の違いを理解出来ぬのだな。ならば死して理解するが良い」
東華帝君の剣先端が揺れた時、
「ぐはぁ!」
黄風魔王の右肩と左脇が斬られた。
(僕に見切れない斬撃か)
攻撃を受けながらも黄風魔王は拳に力を込めると障気が拳に集中し、竜巻が起こる。
広がる竜巻の中心(黄風魔王の拳)に真空が集まる。
すると引っ張られた東華帝君がその中心に迫った時、その拳は放たれた。
「旋空虎穴」
打ち込まれた拳は一撃必殺。
その拳は東華帝君の胸を貫通させた。
しかしだった。
「学習していないのか?愚か者め!カミシニである、いや、倶利伽羅の王である俺を相手でなければ倒せるほどの拳は見事だ。しかし胸を貫通させた程度で俺が死なぬとまだ理解出来ていなかったようだな」
「・・・・・・」
確かに強力な一撃必殺の拳。
しかし東華帝君には通用しないのは分かった。
東華帝君は見下ろすように黄風魔王を見下ろすと、
「そろそろ三分だな。この時間で死ぬのはお前の方であったな」
「僕は時間を稼いだに過ぎん」
「何を世迷言を」
東華帝君は手にした剣を振り下ろすと、その斬撃は黄風魔王の身体を斬り裂いた。
血まみれで倒れる黄風魔王に興味を失った東華帝君は、
「まだこの近辺に生き残った小虫がうようよいるようだ。面倒だ。人思いに一掃してやろう」
その視界の先には玉面乙女とサクヤ龍王を庇う法子と蛟魔王が防御を張りながら構えていた。
東華帝君の剣が血蒸気を噴き出すと異様な寒気が走る。
「蹴散らしてやろう」
その剣を振り払おうとしたその時、
「何ぃ!」
強い力が接近して東華帝君の顔面目掛けて殴り飛ばした。
倒れ込む東華帝君は、焼けただれる左頬を掴みながら、その相手を睨みつけた。
(この俺が接近を許しただと?何者だ)
が、その拳の主は東華帝君を睨みつけ立っていた。
「お前、死んだのではなかったのか!」
そこに立つのは、この僕。
「他所見をするな。お前を倒すのは僕だ!」
僕の戦いは終わらない。
次回予告
黄風魔王の猛毒に侵された阿修羅は何故、立ち上がれたのか?




