阿修羅!法子の命を絶つ?
阿修羅と東華帝君。
その勝負の行方は?
僕は阿修羅。
金色の魔眼の力を使った遠距離攻撃。
しかし東華帝君の能力は、桁違い。
始祖と倶利伽羅王を超越した支配者。
だけど、関係ない。
何者であろうと、法子の敵は僕が倒すだけ。
「身の程を教えてやろう」
東華帝君が剣を振り下ろす。
「!!」
斬撃が眼前に迫り、僕は寸前で躱す。
攻撃の手を止めねば斬られていた。
そして直ぐさま弓と矢に手をかける。
「修羅連弓
燃え盛る金色の矢が射られ、東華帝君の眉間に触れる瞬間、その場から東華帝君の姿が消えた。
「!!」
鳥肌が立つ。
僕の背後に現れた東華帝君が抜いた剣が僕の首筋に迫った。
僕の戦闘本能が無意識に感知し、身を捻り躱しながら蹴りを繰り出して抵抗する。
しかしその蹴りも空を切る。
(殺気が感じられない)
東華帝君は僕への攻撃に一切の迷いがない。
まるで心のない攻撃?
カミシニは気を持たず、動きを感知する手段が目で見るしかない。
僕の本能が死を感知し、無意識で躱せたが、一瞬の迷いが僕の命を絶つ。
(フッ。僕らしくない。この命は法子のためにある)
僕は意識を高める。
東華帝君の攻撃を受けてでも、刺し違えてでも、目の前の敵を討ち果たす。
そう覚悟した時、東華帝君は僕の変化に動きをとめて攻撃の手を止めた。
「刺し違えるつもりだな。愚かな。この俺と刺し違えられると思っているとは」
「!!」
その時、僕は動けなくなった。
(何が起きた?)
身体が動かない。
僕の意識が肉体から引き離された感覚。
そして見た。
僕の姿を!?
僕の身体は東華帝君との戦闘を中断して、ゆっくりと法子の方へと降りていく。
「あ、阿修羅、どうしたの?」
法子の戸惑う姿に、僕の身体はゆっくりと弓を構え、その矢先を向けたのだ。
(や、止めろ!)
僕は洗脳をされたのか?
何かの術を?
そんなことはどうでも良い!
僕が、僕の手で法子を殺すなんて、あってはならない!
しかし見えているだけで、僕の意思とは関係なく身体が法子を手に掛けようとしていた。
「絶対支配権・操られし傀儡人形」
それは東華帝君の血界術だった。
倶利伽羅王には特殊能力があると聞いた。
この東華帝君の血界術とは?
「阿修羅と言ったな。教えてやろう。この俺の能力は、絶対降伏の能力。俺の能力の前では何者も逆らうこと叶わず。俺の意のままに動く傀儡となる。お前はこの俺の配下として使ってやろう。手始めにそうだな。お前が守ろうとしていたあの者を、その手で始末するが良い」
僕の矢が法子に向けて射られようとした時、法子の背後から飛び出した蛟魔王が弓を蹴り軌道を変えると、その矢は法子の肩をかすめた。出血する法子に僕は激昂した。
「ぐぉおおおおおお!」
しかし肉体は僕の意識から完全に隔てられ、邪魔した蛟魔王を片腕で殴りつける。
「ぐわぁ!」
そして眼前に写る法子に手を伸ばした。
や、止めろ!止めろ!止めろ!
「あ、阿修羅?」
その時、法子は見た。
僕の目から血の涙が流れている事に。
そして、操られている事を察した。
「させないよ!」
庇うように、僕に向けて攻撃してきたのは、鉄扇だった。
「あんた操られてるの?ちょっとしっかりしなさいよ!」
鉄扇は黒い芭蕉扇を抜くと、打ち下ろすように扇ぐ。
「!!」
それは重力を操る芭蕉扇だった。
足下が陥没して身動きを止めるつもりか。
それは八仙の何仙姑が使用していた重力を操る芭蕉扇。
しかし僕の歩みは止まらなかった。
邪魔する鉄扇の胸ぐらを掴むと、そのまま地面に叩きつけたのだ。
「鉄扇ちゃーん!」
心配する法子だったが、僕の手は囲むように法子の首にかけられていた。
「あ、阿修羅!」
その光景を見ていた東華帝君は命じる。
「その首を俺に献上せよ」
その手に力がこもる。
僕の力なら、首をへし折るなんて容易い事。
このままでは、法子が死ぬ?
「そんな事、させてたまるかぁー!」
が、僕の意識は完全に肉体と切り離されていた。
切り離されて?何処に?
それに僕はどうやって今起きている事を見ていると言うのだ?
その時、僕は気付いた。
倶利伽羅の王の能力について。
その情報は全てナタクから孫悟空が聞いた内容で、能力は倶利伽羅王千差万別だと言う。
まだ能力について解明されていはいないが、その根源は歪ませる能力。
何かを歪ませる能力?
なら、この僕の状況も歪ませられている?
何を歪ませていると言うのだ?
考えろ!
この状況を覆すなら、考えるしかない。
そうでなければ、僕が一番大切にしている法子を、この僕が手にかけるなんて。
そんな思いと相反する・・・相反する?
(そうか!)
僕は歪ませられていた。
(そうか、僕の意思を歪ませたと言うのか)
この能力は恐ろしく危険だ。
何故なら、東華帝君に反抗する者全てが思いと反対の行動を取り、敵対出来なくなる。
誰も抗えない能力なのだから。
そして自分が一番守ろうとする相手を始末する。
(けど、相手が悪かったな)
僕は真言を唱えた。
「ノウマク・サマンダ・ボダナン・ラタンラタト・バラン・タン」
荒ぶる魂が鎮まっていく。
台風のように暴れていた魂が涼風の如く。
そして僕の心が消える。
「!!」
その変化に気付いたのは東華帝君だった。
「どういう事だ?奴に何が起きた?」
法子の首を締める手が擦り抜けるように消えて、法子は膝から落ちて、解放された事で詰まっていた気道から咳をする。
僕はどうなったのか。
心を閉ざし、無となる。
まるで機械的に一度インプットされた東華帝君を倒す事のみ実行する。
まるで存在すら消えて、心も消えた僕を歪ます事はもちろん、縛る事は出来ない。
「馬鹿な。己を無の境地に、お前が!」
その時、背後から攻撃を受けたのだ。
「ナヌ!?」
咄嗟に剣を振り払うが、その剣は空を斬り、何かが擦り抜けるように自分の懐に入る。
「!!」
強い衝撃波が全身を襲い、弾き飛ばされながら大地に力むように踏みとどまるも、その攻撃の相手を判断出来ずにいた。
「間違いなく俺は攻撃された。誰に?いや、間違いなくあの者だろう。この俺の能力を破り、俺に敵意をもって攻撃してきたのか」
無の境地。
東華帝君は僕の動きどころか、姿すら捉える事が出来ずにいた。
僕は東華帝君の間合いに完全に入り、その拳を突きだす。
完全に東華帝君は反応ていない。
「クッ!」
命が奪われるような嫌な感じに東華帝君は出遅れて、反射的に前方に向け剣を突き上げる。
「ウググ」
あと少しで東華帝君を倒せるその直後、僕の身体が悲鳴をあげた。
筋肉が軋み、神経が切れる痛みと全身から血が噴き出した。
僕の肉体が無の境地に耐えられず、限界を起こして元に戻ってしまった。
その致命的な隙が命取りだった。
「どうやら無理な力に肉体が限界に達したようだな」
東華帝君の剣が僕の心臓を捉える。
(斬られる!)
躱せない。身体が止まらない。
ならば、この身を挺して敵を討ち果たす。
相討ち覚悟の攻撃。
(法子、ごめん)
その瞬間、僕の手刀が別の誰かに掴まれ何者かに投げ飛ばされると、突き出された東華帝君の剣に対して潜り抜け、その手から異様な力が炸裂した。
「何だぁー!お前は!?」
突然現れた者に東華帝君は全身に衝撃を受けて膝をつくと、その者の姿を睨みつける。
「お前は何者だ?その者との一騎討ちを邪魔立てするとは無粋ではないか」
すると、
「その阿修羅を倒すのは僕の役目だ。お前こそ後から現れておいて邪魔だ」
僕は口から血を吐きつつ、僕を投げ飛ばした相手を見て驚愕した。
「どうして、君が・・・」
その彼は、かつて僕が戦った魔王。
「黄風魔王!」
僕の戦いは終わらない。
次回予告
突如現れたのは黄風魔王であった。
その目的は?
敵か味方か?




