阿修羅!法子の悲しみを力に変えろ!
東華帝君と阿修羅の一騎打ち。
そして、サクヤ龍王と玉面乙女は瀕死の状態だった。
僕は阿修羅
法子を守るのは僕の役目だ。
始祖神の力と倶利伽羅の王の力を持ち合わせた東華帝君。
その力は間違いなく、この僕が相手した中でも強敵・・・
(関係ない。法子に害する者は全て)
僕は拳を握ってゆっくりと向ける。
「この俺を前にして、格の差を見抜けぬほど力無きとは思わないが?」
「お前が何者であろうと、敵であることには変わりない」
東華帝君は僕を見縊っていた。
が、関係ない。
さっきは油断して不覚をとったが、この僕もまだ本気を出してはいないのだから。
「今度は遅れを取らない」
僕の全身の気が隅々まで廻り力が漲る。
力の解放は段階がある。
しかし今回は一気に段階を破る。
「怒号の面・虚運天」
僕は右手に燃える黒炎を圧縮し仮面にして、顔面に当てると、今までとは別次元の力が解放された。荒ぶる攻撃な黒き闘気が解放された。
「!!」
その圧に東華帝君は爆風に眉をひそめた。
「凄まじい力。お前、始祖の力を宿しているな?何者だ」
「僕は阿修羅、法子を守る者」
その直後、僕の手刀が東華帝君の眼前に迫った。
「!!」
僕の攻撃に東華帝君は身を僅かに逸して躱す。
が、その次々に僕の手刀は東華帝君の顔面ばかりを集中的に繰り出していた。
「この俺に向けられたお前の荒魂が、まるで嵐のように吹き荒れているな」
「!!」
「しかし神をも超えし俺に天災など恐れるに足らず」
僕は貫く手刀の手首を掴まれ、更に振り上げられた蹴りで腹部に衝撃を受けた。
吐血する僕に、
「穢らわしい」
東華帝君は僕の腕を捻り、転ばせ折ったのだ。
「ぐぁあ!」
そしてそのまま捻り、
「させない」
僕は倒れた状態で東華帝君の顔面目掛け蹴り上げると空を切った。
「この俺の顔面を狙うとは不埒な。何処までも小賢しい」
しかし東華帝君の表情には怒りの感情が見て取れなかった。
無表情で、何を考えているか分からない奴だ。
その時、孫悟空が僕によく表情が無くて何を考えているか分からないと言っていたけど、あの東華帝君に比べたら分かると思う。
僕は折れた腕を抑えながら、東華帝君の次の動きに集中する。
隙を見せれば、今度は腕一本では済まないだろう。
「阿修羅と言ったな」
「何?」
「お前、この俺の配下になれ」
「!!」
突然、何を言っているのだ?
「この俺の配下の八仙は欠員が出ている。新たな充員が必要だと思った。お前なら役に立てそうだ。そうしろ」
「僕は法子以外の者に従うつもりはない」
「そうか、あの娘か」
東華帝君は法子の方に目を向けると、
「なら消せば良いな」
「!!」
法子に向けて、指先から血球を飛ばしたのだ。
法子は躱す余裕なく、その額に穴があく。
そう嫌な予感がした時、
「させるか!芭蕉扇」
寸前で芭蕉扇で血球体を弾き返したのは、
「鉄扇」
僕は安堵した。
同時に怒りの感情が僕を動かした。
「法子に手を出したな、お前!許さない、許さないぞ」
僕の瞳が金色に光り輝き、強烈な覇気が波紋の如き広がっていく。
仮面の能力は確かに三段階。
通常の面から今の怒号の面。
そして最後の仮面が最終形態へと変形した。
「无面・虚運天」
その面は無想無双の力。
己の魂を力に変える。
それは僕の持つ最大限の解放。
かつて覇王エデンを相手に出した限り。
その変化に東華帝君は鳥肌が立つ。
「ぬっ?」
(この俺に鳥肌が?そんなまさか?あの者が俺の障害となると本能が告げるのか?)
「面白い。この俺の相手になる程の者がこの世に存在するとは、実に面白い」
東華帝君は、
「この超越した俺の本気を見せて、それでも立ち向かう心が折れぬか試してみたい」
東華帝君の身体から噴き出す血蒸気が全身を覆うと、その中より深紅の鎧が出現する。
「血咒の忌鎧装」
倶利伽羅の王が持つ戦闘形態。
つまり本気なのだな。
僕の本能が、目の前の東華帝君に痺れる。
震える身体は恐怖か?
いや、これは僕の戦闘本能。
魔神族の中でも阿修羅一族は、戦闘神族だと聞いた事がある。
僕は阿修羅神族の生き残りで、その血は強者に呼応して強くなれると。
関係ない!
この僕は法子の敵を葬る剣!
「お前を滅ぼす阿修羅だ!」
僕と東華帝君は同時に飛び出して衝突し、この戦場を中心に幾度と弾きあう。
その戦いを見ていた鉄扇は、
「チッ!薄らしか見て取れないわ。やはり阿修羅は驚異よ」
「でも、頼もしいわ」
私は阿修羅の戦いを見て、身震いしていた。
法子の護衛は二人に任せるよ。
僕は僕の仕事をする。
そしてこの戦いにこの戦場に残った女戦士達も僕と東華帝君の戦いに目をやっていた。
それは九天玄女と瑤姫だった。
「あれが西王母さんが言ってた東華帝君ね」
「どう?倒せそうかしら?」
「そうね。全回復して、絶好調で戦ってみて、う…ん。五分か、半殺しにされるかな」
「やけに弱気ね?」
「素直な感想よ。けど、今は勝てないってだけだから」
そして法子のもとに避難していた剛力魔王と竜吉公主が、東華帝君によって傷付いたサクヤ龍王と玉面乙女の治癒を行っていた。
「サクヤ姉さん!絶対に死なせないぞ!」
蛟魔王は実の姉のサクヤ龍王の傷が致命的である事に気付きながらも、その背中より貫かれた傷を塞ごうとしていた。
「まだ私を、姉と言ってくれるの?乙姫」
「当たり前だ!たとえ敵になろうが、お前は私の姉である事は変わらない!」
すると左の忌眼と右目を抉られて失った玉面乙女が、地面をたどりながら探す。
「さ、サクヤ?何処?何処なの?恐いよ。何も見えないよ。妾、暗闇は恐いよ」
えぐり取られた左の眼球だけでなく、その毒に右目も侵されて視力を失っていた。
涙を流す彼女に、鉄扇は無言で玉面乙女の手を取り、蛟魔王に確認する。
「そうしてやってくれ」
蛟魔王の言葉に鉄扇は頷くと、その手をサクヤ龍王の手の上に置いた。
「玉面、感じるわ」
サクヤ龍王は己の死を受け入れていた。
カミシニとして甦り、不死に近い再生力を持っているが、その血の高潔種である倶利伽羅の王の攻撃の前には血の再生力は働かない。
全身に広がる滅びに、サクヤ龍王は託そうとしていた。
「玉面・・・」
「さ、サクヤなの?妾、目が見えないよ」
「だ、大丈夫。私、貴女と約束をしていたわよね。貴女に世界を見せてあげるって。暗闇に怯え恐怖する世界じゃなく、心穏やかな平和で、落ち着ける世界を・・・」
最後の力を振り絞ったサクヤ龍王の瞳が光り輝くと、その光が触れ合う手を辿りながら玉面乙女へと移っていき、その瞼から失われたはずの眼球が再生して光が戻っていく。
「あ、見えるの。妾の目が見えるの。ねぇ、サクヤ?ほら!」
が、その視界に映るのは、もう動かないサクヤ龍王の姿だった。
「さ、サクヤ?サクヤ、サクヤァー!」
サクヤ龍王の死に顔は穏やかだった。
二人の妹に看取られた最期だった。
その悲しみの涙に、サクヤ龍王の亡骸を抱きしめる蛟魔王もまた涙していた。
悲しみが伝わってくる。
皆の悲しみを、法子が胸を苦しめている。
その元凶は、お前だ!
東華帝君、お前は僕が討つ!
次回予告
阿修羅の本気は東華帝君に通用するのか?
最強と最凶が衝突する!




