東華帝君襲来!阿修羅!法子のために戦う闘神!
東華帝君の襲撃に玉面とサクヤ龍王が襲われた。
しかし窮地に現れたのは、結解の外に残してきた阿修羅だった。
僕は阿修羅。
それは法子達が仙女院国へと入った後の話。
この仙女院国には特殊な結界が張られていて、男は入れない縛りがあった。
どれだけ攻撃して外側から入ろうと試みても無駄だった。
「阿修羅、無駄だぜ!俺様もこの結界には手も足も出なかったからな〜」
「でも法子の身に何かあったら」
先に強い力を持ったカミシニが三人侵入した事に気付いたからだ。
「確かにヤバ目の奴だったが、その後に蛟魔王の奴が入って行ったろ?蛟魔王なら心配ねぇよ!」
「・・・・・・」
それでも胸騒ぎがした。
もし法子の身に何かあったらと思うと。
「話は代わるが、八怪の方が心配だぜ」
「八怪か」
八怪は僕達が仙界に侵入した際に、人界との間にある門を守るために単身残った。
この仙界のカミシニ相手でも困難なのに、王を失い生き残った人界に残っているカミシニ達が仙界へと押し寄せて来たら一溜りもないから、八怪は門の扉の前で食い止めているのだ。
「法子達が戻って来るまで時間はあるからか。とりあえず牛角魔王に八怪の救援に向かって貰ったが、どっちもこっちも手が足りねぇぜ!まったく!」
「そのために俺様も残ったのだぞ!」
それは紅孩児だった。
「父上が救援に行ってくれたのだ!問題なしだぞ!孫悟空」
「そうだな。信じるぜ。とりあえず俺様達は法子を信じて待つだけだ!」
そう言う孫悟空も内心、穏やかではない。
「法子・・・」
それからどのくらい経っただろうか?
僕達は、この仙女院国に向かって来るナニカの気配を感じて警戒した。
これは気を感じたのではなく、殺意。
僕達の危険感知が何かを知らせた。
「何かとんでもない奴が迫っているぜ!孫悟空!」
「紅孩児。俺様も気付いたぞ!気を感じないからカミシニだと思うが、この圧迫感は何だ?これが倶利伽羅の王って奴か?」
倶利伽羅の王とは、神を殺す能力を持ったカミシニの中の最上位の者達。
人間界ではナタクと生き残った姜子牙が戦ったのだ。
その姜子牙は今、友を失い、自我を失い心を閉ざしてしまった。
沙悟浄は未だ放心状態の姜子牙を連れて隠れ家に待機している。
法子に頼まれ、今の状態で姜子牙を戦場に連れて来るのは危険だと判断したから。
「来るぞ!」
その時、僕達の頭上に浮かぶ何者かが空中から見下ろして止まっていた。
そして、
「!!」
凄まじい力が仙女院国の結界目掛けて放たれた。
僕達が立つ足元が揺れて、陥没するように崩れ落ちていく。
しかし仙女院国の結界はそれでも傷一つつかない。
「西王母の作り出した結界か。この俺の力を持ってしても破壊出来ぬとは大したものだ」
すると頭上から見下ろすカミシニは僕達の存在に気付くと、
「外から入れぬのであれば、中から出てきて貰おうか。その前にウヌらは見覚えがある」
「!!」
気付くと、その者の姿が消えて、僕達の背後に現れると、足下から血で作られた大槍が無数に突き出された。
「お前ら、飛び上がれぇー!」
孫悟空の合図で飛び上がる僕と紅孩児は、そいつに対して掌から火炎放射を放つ。
炎に巻き込まれた男だったが、徐々に炎は消失していく。
やはりカミシニに神炎は無力か。
しかしこれは目くらましだった。
男の背後から飛び出した孫悟空が拳を突き出して攻撃を仕掛け、同時に僕と紅孩児が前方から同時攻撃を仕掛けていた。
「下等な者共。誰を相手にしておる」
その直後、僕達は鳥肌が立った。
「!!」
その男の振り払う手刀から血が飛び散ると、それは猛毒となって迫る僕達を直撃した。
「うぐぅわああ!」
全身を焼くほどの猛毒が襲い、そして力が抜けるように消耗して動けなくなった。
「愚か者共め」
その時、苦しみながら孫悟空が答える。
「てめぇの臭い、嗅いだことがあるぞ!お前、八仙の呂洞賓だな」
呂洞賓とは、牛角魔王が戦った八仙の剣士。
しかしあの時とは桁違いの存在感がある別の何かに感じた。
「ふふふ。この俺は呂洞賓だった者。しかしそれは仮初めの姿。この姿こそ真の姿だ。冥土の土産に教えてやろう。俺の名は東華帝君。始祖神が転生し、倶利伽羅の王となったこの世の全てを支配せし絶対無比の真王である」
「!!」
神族の最上位である始祖神が転生してカミシニとなり、倶利伽羅の王となっただと?
「何を戯言を!この俺様は妖魔王が転生して妖怪になった石猿で、あの我が儘な法子の世話を焼く偉い奴だぞ!参ったか!このやろ!」
孫悟空、何か気持ちは分かるけど、うん。
その張り合い方は残念だよ?
僕達は傷ついた身体で立ち上がった。
僕達は東華帝君を囲むと、警戒しながら意識を高めていく。
(コイツを法子に近寄らせては危険だ。必ず障害になるなら、今、ここで討ち倒す)
すると僕と孫悟空の瞳が金色に光り輝く。
「金色の魔眼」
僕達の魔眼はカミシニ達に通用する。
魔眼覚醒状態でなら、あの血の呪いを払い除けて、直接奴にダメージを与えられる。
「愚かなる湧き出た神族の末裔よ」
直後、東華帝君を中心に広がる大地と上空を覆う球体の中に閉ざされた。
まるで結界の中のようだった。
「お前達は俺の世界で滅っせよ」
それは東華帝君の持つ特殊能力。
倶利伽羅の王が己の特性で持つ唯一能力。
「歪世界」
「!!」
これは東華帝君が創り出した歪まされた空間で、この中では東華帝君の意思なく外界へ出られない。そして、血解の中に閉じ込められた者はカミシニの血に溺れ、その身を熔かされ消滅する。
そして戦っていた僕と孫悟空、紅孩児はこの世界から消えていた。
その場には東華帝君のみが残されていた。
これが、結末。
東華帝君は、完全に始末したと思っていた僕を見て、興味を抱く。
「確実に始末したと思っていた。お前はどうやって抜け出たのだ?申せ」
その問いに、僕は答えなかった。
何故なら、僕にも分からなかったから。
あの時、僕と孫悟空は抜け出すために金色の魔眼の力で縮小する結界の壁を押し留めようとしたが、全く歯が立たなかった。
このまま消滅されてたまるものか!
絶対絶命の中、紅孩児が僕と孫悟空に叫ぶ。
「二人共、俺様の手を取れぇー!」
「!!」
僕と孫悟空は迷う事なく伸ばした手が紅孩児の両手に触れたと同時に、東華帝君の血界は完全に閉ざされて何も残さずに消失した。
そして僕達は気付くと、少し離れた安全な場所に倒れていた。
「俺様達はどうなったんだ?」
孫悟空も頭がクラクラする中で、恐らく僕達が抜け出せた張本人の紅孩児に聞いた。
しかし紅孩児は頭を捻らせ、
「よく分かんねぇ〜や」と、笑って答えた。
「とにかく俺様達をコケにしてくれた東華帝君を、今度はぶっ倒してやるぞ!」
意気込む孫悟空だったが、膝が震えて動けずに前倒れした。
「なぁ?俺様どうなった?」
戸惑う孫悟空に僕は答えた。
「恐らく魔眼の使いすぎだよ。孫悟空はそれでなくても限界に近かったのだから無理は駄目だよ」
「くそぉ!」
そして紅孩児も手を上げて答える。
「何か俺様も力が抜けて立てないのだけど」
「マジか?」
恐らく紅孩児は何らかの能力で東華帝君の血界から僕達を抜け出させるために、魔眼の力を使いきったのだと思う。
「こうなったら、頼めるよな?阿修羅」
孫悟空の眼差しは僕を見ていた。
僕は立ち上がると、
「当然だよ」
「俺様と紅孩児は体力が戻り次第直ぐに向かう。それまで頼むぜ!」
僕は頷くと、再び塔戦場に向かって駆け出していた。
(あの結界派厄介だ。再び閉じ込められないように、アイツを倒す)
僕は意識を高めると、その覇気に答えるように東華帝君もまた力を解き放つ。
「二度はない。生き延びた命を無駄に捨てるのも良し。お前が相手にしているのが、この世界の支配者である事を教えてやろう」
誰であろうと、法子に手を出す者は全て、この僕が排除する。
僕は背後に庇う法子に向けて背中越しに言葉をかける。
「法子、僕に命じて」
「えっ?」
「僕は法子を守るために、法子のために戦う。そして法子のためになら、どんな奴にも絶対に負けない」
法子は僕の言葉に耳が赤くなった。
(あのカミシニは、きっと途轍もなく厄介極まりない相手だと思う。
だけど私は阿修羅を信じるわ。
阿修羅の言葉には強い意思と信頼出来るだけの重さが伝わった。
阿修羅は絶対に負けない。
だって、阿修羅は私を裏切らないから)
「阿修羅、あんな奴!ぶっ倒してやって!」
法子の応援に僕は軽く笑むと、静かに答えた。
「任されたよ。僕があいつを必ず倒す」
僕は拳を握ると、その掌に漆黒の炎が噴き出して凝縮し、仮面となる。
仮面を被った時、僕は絶対に負けない法子のためだけに戦う闘神となる。
次回予告
阿修羅と東華帝君の一騎打ち。
究極の戦いが始まろうとしていた。




