狂い堕ちる玉面。妾が欲しかったのは・・・
玉面の支えであったサクヤが目の前で死に、彼女には何も残らない。
妾は玉面魔王。
妾は魔王の称号を手に入れ自由奔放に生きていた。
今までの過去を払拭するために。
しかし地上界での世界情勢が動き出す。
美猴王が地上制覇に動き出し、そこにあの方がいたの。
妾を救った王子様。
牛角魔王様。
妾の魔王城に来訪者が来た。
蛟魔王から先に書状が届いていたため来る事は知ってはいた。
そこに牛角魔王の弟の蚩尤もいたが、どうでも良いわ。
妾は考えていた。
身の振り方を。
このまま仲間になれば、妾は天界軍と鉢合わせし、いずれ戦争に駆り立てられるに違いない。
敗北すれば、妾は再び地獄に引き戻されるかもしれない。
妾は水晶に映し出される牛角様を見つめる。
妾に迷いはなかった。
サクヤを失い、唯一残された妾の恩人。
牛角様。
妾は牛角様の誘いを受けて美猴王の軍に身を置いた。
妾は牛角様と共に戦場を暴れた。
やがて美猴王子率いる水簾洞闘賊団は地上制覇を達成した。
そして次はついに天界制覇へと動く。
天界は確かに妾にとってトラウマ。
牛角様と一緒にいたい理由もある。
心は穏やかではなかった。
けれど刻まれた私の傷を払拭するために、そしてサクヤの命を道具のように弄んだ天界を許せない。妾の心は決した。
天界への進軍。
最初は驚くほど順調に進んだ。
それでも最上層に向けて、更に戦闘は激しくなり、仲間と言えた同志が散っていった。
そして、あの日が来た。
妾達は天界最上階に向けての最終決戦。
美猴王や牛角様、蛟達は天界の猛者との一騎打ちに向けて戦い、妾は蚩尤や剛力魔王と共に中央神殿への内部から侵入した。
そこで、妾達の動きに勘付いた武神が現れ、その進軍を止められた。
まだ若い武神により、仲間達はなすすべなく討たれていく。
次々に命を落とす中、その剣先は妾に向けられた。
死!!
死を覚悟した。
しかし蚩尤が妾を庇いながら、天界から地上へと飛び降り、命からがら逃げ出せた。
その後、美猴王は戦死し、妾達の戦いは全てを失い、終わったのだ。
戦争後、牛角様の生存の安否も分からず、再び死を感じた妾は暫く外に出られず、引きこもった。
そして時は再び動く。
天界より牛角様が地上界へと戻って来たのじゃ。
噂を聞いた妾はその日、外に出た。
引きこもっていたため、その情報はかなり遅くに届き、妾は共に喜ぶ蚩尤
(牛角様が生きておられる)
が、そこで妾は愕然とした。
妾の前に立ち塞がる新たな悲劇。
牛角様は地上界に降りた後、夫婦になっていた。
あの魔神族の女、羅刹女の出現によって。
羅刹女は恐ろしく強く、あの蛟魔王をも倒し、牛角様でさえ敵わなかったと聞いた。
この妾も相手にならなかった。
妾は時を待った。
羅刹女の配下にくだり、その側近につけるまでに。
恨めしかった。
いずれ妾が寝首をかき、始末してやる。
が、羅刹女には蝎子精と呼ばれる女軍師と義妹の鉄扇が邪魔だった。
いつもべったり、くっついて機会がない。
そこで妾は、蚩尤に相談を持ちかけた。
蚩尤もまた牛角様に対して失望していた。
所詮小者の蚩尤では牛角様は討てやしない。
しかし一騒動起こしてくれれば、妾が羅刹女を必ず仕留めてやるわ。
そのため、妾は蚩尤を手懐けるために奴の好意を餌に妾の身体を預け抱かせてやった。
事をなすためには、何でもしてやるわ。
時が来た。
蚩尤が牛角様を誘導している間に妾は羅刹女に特殊な毒をもって弱らせ、そして殺した。
全て妾の思い通り。
これで牛角様は妾の男になるはずだわ。
が、羅刹女を失った牛角様は、その犯人をその手で始末するために復讐の鬼となった。
何故?何故、その女がそんなに必要なの?
妾では駄目なの?
どうして妾を必要としてくれないの?
妾はまた、失ったと言うの?
妾は天空城で一人を過ごす。
下僕の昆虫共に身の回りを世話させ、そして外界から隠れ潜む。
(やはり妾は、一人なのじゃ・・・)
また時が経つ。
妾は地上界で噂になっていた人間の僧侶とお供の話を聞いて、興味を抱いた。
そのお供が天上界で死んだ美猴王の転生者であったから。
聞くに、その僧侶を喰らえば不死と強大無比なる力を手に入れられると耳にした。
しかも僧侶は瀕死の状態で、美猴王の転生者も昔ほどの力がないと聞いた。
(面白い話じゃ)
妾はもう何も求めぬ。
じゃが死にたくはない。
もう何も奪わせぬし、誰も信じぬ。
そのためには力が欲しい。
力が必要じゃ!
妾は計画を立てて、その僧侶を手に入れた。
運良くお供は弱小の妖怪のみ。
簡単な仕事だった。
しかしそこに現れた。
羅刹女の仇と妾を討ちに来た愚か者が。
羅刹女の義妹の鉄扇と側近だった蝎子精。
妾の前では力及ばぬ身の程知らず。
そう思っていたのに・・・
妾は討たれた。
敗れた。
敗北したのじゃ。
えっ?嘘じゃ?
嘘なら早く目が覚めて欲しい。
痛い、痛いのじゃ。
何じゃ?苦しくて苦しくて仕方ない。
全身が力抜けて動けない。
毒か?猛毒に侵されている?
待つのじゃ!
妾は死にとうない!
まだ何も得られてないのじゃ!
まだ、妾は、妾は・・・
視界が消えて、自分の存在が消えていく。
魂がとけるように消えて逝く。
妾は何がしたかった?
誰かを苦しめたかった?
苦しめられたから、誰かを同じ目に合わせたかった?
違う、違うの。
「わ、妾は、わ、私は!」
欲しかった。
私を抱きしめて欲しかった。
誰にも、誰にも愛されて、いなぃまま、まだ死にたくなぃ
「・・・・・・」
途切れた記憶は全て消去された。
そして再び甦った私は、まだ若かりし姿で忌眼を持つカミシニとして再生した。
記憶はない。
ただ欲に忠実な化け物として。
忌眼を収める器として。
誰か、妾を助けて
お願い
もう痛いことしないで
もう、苦しくしないで
もう、傷つけないで
お願い
私を、助けて、
私を捨てないで
誰か、私の手を繋いで・・・
次回予告
瀕死の玉面を前に法子と、復讐を誓う鉄扇の判断は?




