玉面の救い!
サクヤ龍王の死、玉面は目の当たりにした。
それは、彼女を・・・
わ、私は玉面。
私は水精霊族が産み出した異端。
不死に近い再生力を持たされ、同族が持ち得る能力を遥かに超えた化物。
他種族への牽制のために生み出された兵器。
生を受けた時、同族によりも忌み嫌われ、死の間際を感じるほどの痛みを与えられていた。私の泪は同族の怪我を癒やす霊薬に効き、それもまた私を苦しめた。
そんな私を救ったのは神族。
幽閉されていた私を救い出して、外の世界へと連れ出してくれた。
救われる?
そんな甘い期待は直ぐに壊れた。
私は神族の実験に使われたモルモットに選ばれた。
私は神族を殺す忌まわしい血を投与され、その後は全身の神経が引き千切られるような激痛に悲鳴をあげた。
地獄。
死んだ方がマシと思える。
私の水を操る優れた力と異常な再生力が、神をも殺す猛毒の血が全身を廻る事を調整しながら耐え抜き、生を繋ぎ止める。
死んだ方がマシと言った私は、死ぬ事に強い恐怖を感じ生への執着に縋った。
そして藁にもすがる思いで生き長らえた。
私と同じく実験体にされた者達は一人残らず死に、ずっと孤独だった。
死にたいのに死ねない。
生への執着が、私を苦しめたのよ。
そんな時、新たに連れて来られた者達の中に、私と同じく生き抜いた者が現れた。
私は痙攣する身体を起こしながら、同じく苦しみ痙攣しながら生き抜いた相手を見た。
その者は龍神族の少女。
私より少し年上に思える。
名をサクヤ。
彼女は全身を襲う猛毒に耐え、同じ死の恐怖を味わいながらも、あかの他人の私に優しくしてくれた。初めて味わった温もり。
私は初めて痛み以外の涙を流していた。
私は愛を知ったの。
唯一の心の支えが出来た。
サクヤは言った。
「必ずこのクソみたいな地獄から二人一緒に抜け出そう」って。
同じ地獄のような痛みと苦しみを味わいながら、いつか必ず生きて自由になるために。
それからまた時が流れた。
私とサクヤの他に、新たに二人の実験体が生き残っていた。
妲己と太公望だった。
二人はカミシニの猛毒に耐える精神力と、類まれ無い才能を持っていた。
私にはない強き者達。
そこで選別が始まった。
「いや、いや、行かないで」
忌まわしい血を受け入れられた器として生き残れたのは、私の他にサクヤ、太公望、妲己。
その中から選別が始まり、最初に外されたのがサクヤ。
私の唯一の支え。
それが奪われた。
「か、返して」
「ぎょくめーーん!」
しかし私達を兵器にする組織には逆らう事の出来なかった。
私とサクヤは引き離された。
サクヤは記憶を消され、龍神界へと戻されたと聞いた。
そして残された三人。
臆病な私と違い、妲己と太公望は優秀。
私は当然、外された。
(でも私も記憶を消されて、サクヤと同じように自由になれるの?)
都合が良いわ。
こんな記憶、捨てちゃいたい。
消し去ってしまいたい!
私は運ばれた。
記憶を消されて、地上界に捨てられるのね。
早く自由になりたい。
すると声が聞こえた。
「この実験体は適合者であるが、他の二人に比べて精神力が乏しい。いや、あの二人が異常な数値を出しているのだな」
「ならこの実験体はどうする?先の龍神の実験体と同じく記憶を消して、感染兵器に使うか?」
感染兵器って何?
話はサクヤの使い道。
記憶を消され、龍神界へと返されたサクヤは、その身の呪いは失われたわけでもなかったの。
つまりカミシニの血が徐々に感染し、龍神界を内から滅ぼす。
それがサクヤが解き放たれた理由。
そして私は?
使い道のない私の出来る事は?
「あの二人の活力剤に使用しよう」
えっ?それはどういう意味?
私は全身に無数の管を刺され、全身の血を吸い出される。
「ギャァァァ!」
枯れ果てていく身体から、カミシニの血のみが奪われていく。
私は根こそぎ失っていく。
そして意識が消えかけた時、私は本当の死を覚悟した。
(な、何?)
その時、地面が揺れて研究所が崩落する。
(何が起きたと言うの?)
この研究所が何者か達によって襲撃に合っていた。
それは魔王の襲撃。
この地を侵略する太古の始祖の一族。
その筆頭が、この結界に阻まれた空間に気付き、立ち入った際に研究所を破壊した。
「この研究所が何かは知らないが、大量の血と魂を感じる。いけすかない」
倒れている唯一の生き残りだった私は、その者によって救われた。
既にカミシニの力を失い、弱体化した私は捕らわれていた囚人に過ぎなかった。
消耗し、今にも死にかけていた震える私の手を取り、あの方は、
「治癒を施してやれ」
そう言って私を救ってくれた。
「兄上、その娘は?」
「拐われたのだろう。この研究所は全て跡形なく破壊しろ。そして関わる者を尋問せよ」
その方こそ、後の牛角魔王。
私は既に、この時に出会っていた。
死にかけていた私は牛角魔王の下で療養させて貰い、枯れ果てるほどの肉体の消耗が抑えられ、何とか命を繋ぎ止められた。
立ち上がれる程になると、私は外に出て世界を肌身に感じて喜びに涙を流していた。
「うっ、うっうっ」
幸運な事にカミシニの血は全て抜けきっていた。
恐らく私の力は全て残された妲己と太公望に移植されたのだろう。
それでも持ち前の再生力が私を辛うじて生かしたのは、奇跡にも近かった。
私は杖をつき、旅に出る事を伝えた。
「本当に行くのか?この俺の保護下にいれば、再び拐われることはなかろう」
私は口を聞けない代わりに文字を書いて伝え、そして頭を下げた。
私の出向く先は、そう。
龍神界にいるサクヤのもとへ
私は一人、地上界を彷徨う。
龍神界と地上界にて勃発した戦争に、サクヤの名を聞いたから。
戦場を転々し、幾度と巻き込まれ、襲われそうになったり、死にかけもした。
それでも私はサクヤを探した。
私が唯一信じられる唯一の家族(義姉)なのだから。
そして私はついにその足取りから、サクヤが戦っている戦場に辿り着いた。
戦場にのこのこ足を踏み入れる私に襲いかかる者達を払い除けながら。
「サクヤ、何処?何処なの?私が来たのよ」
サクヤに会えば、会えさえすれば、私達は本当の意味で救われるの。
自由になれるの。
駆け回り、そして私は見つけた。
戦場の中心で、氷結の魔王と対峙して戦うサクヤの姿が見えた。
私は急ぎ足で走っていた。
「!!」
その時、前方で閃光が炸裂し、戦場一帯が凍てつく氷に覆われた。
な、何が起きたと言うの?
私は凍てつく氷に全身を震わせながら、その理由を目の当たりにした時、私は
「イヤァ…いやぁあああああ!」
私の目に写るサクヤは、氷結の棺桶の中で命尽きた姿だった。
その時、私の何かが壊れる音がした。
次回予告
玉面は全てを失った。
何も残らない彼女の運命が狂い出していく




