決断!最後のチャンス?
玉面乙女の暴走は止まってはいない。
生き抜くため、守るため、法子達は?
私は法子!
戦っていた私達に、生き残った女仙達は仙女院国を覆う結界の壁すれすれにまで飛んで飛行しつつ、下方から勢いよく飛んで来る水流を躱していたの。
あの水流は玉面乙女の血。
つまりカミシニの血。
触れたりしたら、皮膚を侵蝕し、肉を腐らせ、骨を熔かして消滅させる。
又、あの血は生き物のように動くので、何とか躱した仙女が安堵した途端、
「あっ」
口が開いた蛇のように仙女を飲み込んだ。
「まだなの?いつまでも保たないわよ!」
「後、十分だって言ったわ。死にたくなかったら、自分の身は自分で守ることね。私だって手一杯なのですわ」
瑤姫は羅針盤を操作させながら、この仙女院国の結界に穴を開こうとしている。
手負いの私達は瑤姫を玉面乙女の無差別攻撃から守りながら、その時を待っていたの。
「拉致があかないわ。後、十分の間に全滅よ」
蛟魔王さん、九天玄女さん、瑤姫、剛力魔王さんが結界の下層をかち割ってくれたおかげで、玉面乙女の溜まり溜まった血の海は結界外へ流れ落ちて勢いは減ったとはいえ、それも時間の問題なの。玉面乙女は自分の血を糸状に張り巡らせて蜘蛛の巣のように作り、その中心で私達を見上げていた。
「やっぱり甘々なのよ!あんな奴は殺してしまうべきなのよ!生かしておいてなるもんか!玉面乙女を生け捕りにしようとして何人死ねば気がすむのよ!」
鉄扇ちゃんの叫びにサクヤ龍王さんが顔を背け、辛そうな顔をする。
「確かに西王母の頼みとはいえ、あの化け物を放って置けば、外の世界も危ういな」
冷静に状況が最悪だと理解した上で九天玄女さんは玉面乙女を放っておけないと頷く。
けど、その本意は息を切らせながらも、まだ強い相手と戦う目をしていた。
頼もしいけれど、何て戦闘狂なのかしら。
「だが、我々ももう体力が残ってはいない。玉面を黙らせる程の力は残っていないぞ」
蛟魔王さんは既に黄龍の变化は解けて、大量の汗を流していた。
しかしそれは、この場にいる全員同じ。
私だって、精魂尽きてしまったわ。
すると九天玄女さんは体力の限界にもかかわらず、その身を翻して戦闘態勢に入る。
まだ戦えるの?彼女?
何て底なしなのよ?
「この私だって限界はあるわ。でも、この状況で諦めるくらいなら、最後まで戦いたい。だから反則行為をさせてもらいます」
反則行為??反則って?
「この場にいる全員が助かるのは諦めました。だから運無き者は糧になって、運良く生き残れた者は感謝を持ちなさい」
な、何を?
すると九天玄女さんは印を結び唱えると、その身から強い波動が波紋のように広がっていく。
するとその波動を受けた天女達が苦しみ出して、落下していくの。
「何をしているのよ?ねぇ!」
「貴女も生き残りたいなら黙っていなさい。これは苦肉の策なの」
「えっ?」
するとこの場に生き残る全員から力が抜けていき、光が九天玄女さんの頭上に集まっていく。
「この場にいる全員の力を私に集めます。生き残りたくば堪えなさい!強い意思で踏ん張りなさい!諦めは死よ」
九天玄女さんの声は全ての生存者に響き渡る。
そして抜けていく力を堪え、意識を保とうと抗う。
それでも落下する天女達を横目に九天玄女さんは険しい顔をしていた。
「西王母さん。貴方の頼みで生かして置くつもりだった玉面乙女。残念だけどもう見過ごせません。私のこの拳で葬るわ」
そして頭上に失われた腕を挙げると、光が集まりながら腕を再生していく。
「私の力を満たしなさい!」
頭上に集まった巨大な光の球体が九天玄女さんに向かって降りてくる。
(確かにこの状況は絶体絶命だと思う。けど、皆の命を奪うのは嫌)
この場には私達が戦っていた事すら知らない非戦闘民もいるし、よく見れば幼い天女もいる。怯えながら、苦しみながら、それでも大切な仲間を、家族を支え合い、お互いに手を結びながら堪える姿に私は涙が出てきた。
「こんなのは却下よ!」
そして意を決して飛び出した私は、白鐸の杖に念を込め、頭上に向けて回しながら叫ぶ。
「返却するわ!だから一人たりとも死なないで!」
私の杖から強い力が空を歪ませると、九天玄女さんの集めた皆の力が拡散して元に戻っていく。
「何をやっているの!馬鹿なのですか!このままでは全滅なのですよ」
激怒する九天玄女さんに私は答える。
「馬鹿で結構よ。けど、私の馬鹿は傲慢あっての行動よ」
「意味が分かりません!貴女の行動が多少なりとも生き残れる機会を消したのよ」
「それも却下よ!私はもう誰も死なせない。この場にいる全員を助けてみせる」
「どうやって?何か策があると言うの?」
「策なんてないわ!あるのは嫌なことは嫌!それだけ!」
九天玄女さんは思った。
(本当に頭が変になったの?)
けれど私の思いは本物だった。
私の強い思いが、空だったはずの霊力を回復させ、更に漲らせていく。
「!!」
私の金色の魔眼が強烈な光を放ち、その強い眼差しが止めようとする九天玄女さんを制したの。
そして玉面乙女に向かって私は単独で飛び出していた。
その背中を見送るしか出来ない九天玄女さんは完全に意表を突かれたの。
(何なのですか?あの娘は、本当に底が見えないわ。理解不能です。けれど何故か私の本能が彼女を信じてしまっている。変です)
その時、この状況下でもう一人、強い意思をもって飛び出した者がいたの。
「懲りない娘ね。もう一度私の拳で黙らせるしかないようね」
九天玄女さんは後方より飛び出して来た相手の道を塞ごうとした時、その者の動きを捉えられずに腹部に拳を打たれてもだえ苦しむ。
「ぐはぁ!」
そして通り過ぎる彼女を目に、その飛躍する力に驚愕した。
その者は私と同じく金色の魔眼を放ち、一直線に玉面乙女に向かっていた。
そして私と同時に、玉面乙女を中心とした血溜まり血解の中へと飛び込んだの。
「えっ?どうして・・・」
それは鉄扇ちゃん。
鉄扇ちゃんはこの機会を逃さないように、義姉羅刹女さんの仇を討つために、最後の復讐の機会をうかがっていたの。
そんなこんな。
次回予告
法子と鉄扇。
玉面乙女を討つ復讐のために戦う鉄扇に法子は?
そして玉面乙女を止められるのか?




