仙女院国崩壊!剛力魔王の剣!?
玉面乙女の暴走に対して、法子は新たな力を手に入れた。
この力で何とかなるのか?
私は法子よ〜!
もう言葉が出ない。
私達は地獄にでも転送されたの?
仙女院国は、私達が戦っていた塔戦場から溢れ出した血の雨により全てが失われていく。
この地で安息の生活していた天女達は、この血の雨を浴びた者から滅びていく。
皮膚に血が触れ、体内に染み込むと同時に身体の中で熱を感じ、皮膚に水膨れが広がり身体全体を覆うと、破裂して血溜まりとなる。
次々と破裂していく天女達。
「こんな事って・・・」
私は意を決して飛び出そうとするけれど蛟魔王さんに腕を掴まれ止められる。
「飛び出せばお前も死ぬぞ!あれはもう止められない」
「黙って見ていられないわ」
「無駄死にだ!」
「そんな・・・」
そんな私にサクヤ龍王さんが助言してくれた。
「私の念波を国中に送るわ。せめて生き残っている者達は外に出て血を浴びないように身を潜めるように伝えられる」
「なら急がないと」
「私一人では無理。貴女達の力を貸しなさい」
「私に出来る事なら何でもするわ!」
サクヤ龍王さんは頷くと、蛟魔王さんと私の手を繋ぎ、自分に同調するように伝える。
「意識を集中させるのね・・・」
私は目を綴じて、集中する。
あ、そう言えば孫悟空達は何しているのかしら?沙悟浄は鉄扇ちゃんを心配しているだろうし、心配と言えば八怪は一人残って仙界から人間界への侵入を塞いでいるのよね。
あ、阿修羅は今頃私の事を案じて駄々こねていないかしら?
「集中しなさい!」
「はっ!ごめんなさ〜い」
サクヤ龍王さんと蛟魔王さんは既に同調を済ませ、私を待っていたの。
「ところで何故、私が選ばれたのかしら?集中しなさいと言われたら雑念籠もるもんよ!テスト勉強中に掃除するタイプよ!私!」
するとサクヤ龍王さんは私に告げる。
「貴女は巫女の血統。しかも人族とは思えない程の高位種の」
「えっ?そうなの?」
そう言えば私のお母さんは、総本山の座主で、巫女様だったのよね。
「私に同じ力あるのかしら?」
そう疑心暗鬼の中で、私は手にした白鐸の杖を見て考えたの。
「これは便利だから良いわよね」
私は白鐸の杖に思い描く。
「伝」
その文字は伝えるの「伝」だったの。
「私の力を同調させて、サクヤ龍王さんの能力に上乗せするわ」
「!!」
その時、荒波の如く押し寄せる荷重に押し潰される事を耐えたサクヤ龍王は驚愕する。
(何なの?この桁違いの力は?底が全く見えないわ・・・この娘、危険だ)
そこに蛟魔王さんが思考に入り込む。
「サクヤ姉さん。余計な事は考えるのは得策ではないよ。少なくとも法子に手を出せば私が妨害する」
「安心なさい。今はこの仙女院国に住む仙女達を救う事を優先します」
そしてサクヤ龍王さんは私と蛟魔王さんの巫女の力を加えて送り放った。
「以心伝心の波紋!」
それは強制的にこの一帯に生存者に己の思考を同調させる。
仙女院国に生存する全ての天女達が、突如脳に直接入って来た念波に耳を傾ける。
「お聞きなさい!命欲しければ天より降る赤い血には決して触れてはなりません。神仙のみならずカミシニの皆もです!」
その念波を受け取った仙女達は慌てながら室内へと逃げ込み、降る血雨を避ける。
「死んでしまった者達には悪いことをしたわ。けれど少しでも助かって・・・」
が、事は更に酷くなる。
「えっ!!」
突如、塔戦場が崩壊して噴水のように流れ落ちるのは雨と言うより、滝。
その濁流が地表に叩きつけられ、渦を巻きながら広がっていく。
「そんな!」
室内へと逃げ込んだ者達は安堵出来る事無く、押し寄せて来た濁流に飲まれて消えていく。それはもう逃げ場なき血の池地獄。
「と、止めないと・・・」
でも、どうやって?
とにかくこの状況を食い止めないと。
私は一人地表に向かって降りると、
「白鐸、聞こえてる?」
(主、何なりと)
「この状況を食い止める方法はある?あるかないか教えて」
(残念ですが現状ありません)
「そうよね。けど状況を遅らせる手段はあるわよね?」
(面白い主だ。少なくとも彼女達の力を最大限に使わせて貰えれば可能)
「良い答えよ。何なら私にその手段を手っ取り早く、分かりやすく、教えて」
私は白鐸の策を受け取ると、
「皆!私に力を貸して!」
「!!」
それは私からサクヤ龍王さんに逆流する念話が、繋がれ全員に届いたの。
「そんな馬鹿げた策を本当に?」
サクヤ龍王は蛟魔王の顔を見ると、蛟魔王は私が本気だと頷き返す。
「西王母様から任された仙女院国が崩壊するじゃないのよ!」
「瑤姫、既に半壊。それが崩壊になろうと時間の問題じゃなくて?」
「九天玄女、乗るのね?」
「あの娘の行動は面白い。このまま黙って見ているより、私は行動したいわ」
「片腕を潰され、それでもまだ暴れたりないなんて本当に恐いわ。貴女」
「そう褒めるな」
「・・・」
九天玄女は残る皆を見て、
「竜吉公主はさがりなさい。もう立っているのも限界でしょ?」
「わ、私は!」
「強がるな。今ここで死ぬわけにいかないのでしょ?それでも私達が失敗したら、その時は命を使って何かしてね」
「先生」
竜吉公主さんは頭を下げ、その場から遠退いていく。
「それからお前!また勝手な真似をされたら困るのでな。この場で私を相手にもう一戦するつもりないなら、さがっていろ!」
「クッ!」
それは鉄扇ちゃんにだった。
九天玄女は本気だった。
さっきは鉄扇ちゃんの独断で計画を狂わせられた事が許せないのかも。
「勝手にしなさい!」
そして鉄扇ちゃんもその場から飛び退く。
残されたのは私と蛟魔王さん、サクヤ龍王さんに剛力魔王さん、九天玄女さんと瑤姫。
そして私は念話で全員に策を届ける。
「私の策は簡単よ!」
「!!」
私の策、白鐸の策とは?
「この仙女院国を二つに割るのよ!」
今も血の湖が徐々に広がるなかで、私は白鐸の杖を前に向けて輝かせる。
「止!」
もう止められる量は等に超えている。
それでも時間稼ぎぐらいなら。
後は、四人に任せるわ!
私の隣にはサクヤ龍王さんが伝達のために残ると、既に私に言われたポイントに向けて蛟魔王さん、剛力魔王さん、九天玄女さんと瑤姫が四方向へと向かって駆けだす。
「この仙女院国には国を支える4本の柱があるの。同時に結解の役目も果たしているわ。その柱を破壊すれば、国が崩れ落ちるはずよ」
私の念に瑤姫は思う。
「どうして彼女がそんな事を知っているのよ。本当に大丈夫なの?」
瑤姫は西王母に国を任されて、その意味を理解し、知っていた。
それを部外者の私が知っている事に不審がる。
それよりも、この仙女院国を割るだなんてと、
信じ難い内容なのに身体が導かれるようにその意思に逆らうことなく走る。
「失敗したら怒るわよ」
そして四箇所に着いた四人は、その残る力を最大限にまで高めたの。
同時に私も白澤の杖にありったけの止める力を発動させた。
押し寄せる濁流が嘘のように固まる。
まるで時が止まったかのように。
(一分よ・・・私の限界は!だから、急いでよ!)
最初に動いたのは瑤姫だった。
「鵬覇炎上」
瑤姫の身体が燃え盛り、大地が熔解しながら盛り上がるように炎上した巨大な爆炎弾が頭上に現れると、その爆炎弾を前方の大地に向けて落とした。
衝突と同時に、今まで隠されていた結界が耐えられずに表に現れ、亀裂が入りながら崩壊していき、消滅したの。
そして尻餅をつく瑤姫は、
「限界だわ〜あの人間の娘、この私をここまで使っておいて駄目でしたなんて言わせないわよ」
恐い怖い〜
そして九天玄女さんもまた飛び上がり、残る左拳を大地に向けて殴りつけた。
「連覇の拳」
その一撃は一度に千の拳が連なって見えた。
残存が重なり、一つの拳となる。
その破壊力は掛け算では計り知れない。
そして蛟魔王さんが唸る。
全身が黄金に光り輝き、黄龍王の力が高まると、爪を立て、突き放つ。
放たれた双頭の黄龍が左右から交差した直後、閃光が放ち、その一帯が波紋を広げながら消し飛ぶと、例の隠し結界が浮かび上がり消えていく。
この二人は本当に底が知れないわ。
残るは一つ。
そこには剛力魔王さんが一人膝を付いて息を切らしていた。
他の化け物級の女戦士と比べれば、彼女達が桁違い。
剛力魔王さんは十分に強いのに。
この結界を破壊するには足りないと言うの?
誰か救援を!
そう私が伝えようとした時、蛟魔王さんが私に念を送って来たの。
「あの剛力魔王って女は、嘗ては私ら孫悟空の義兄弟達6人と対をなす実力者だ。それに、あの女は一人じゃない」
「えっ?一人じゃないって?どういう事?」
「あの女は誇り高いからな。一対一の戦いでは出さなかったが、私とサクヤ姉の戦いから、キッカケは掴んでいるはずさ」
「なおさら分からないわよ〜」
と、私は意識を剛力魔王さんに向けると、剛力魔王さんは自らの拳で破壊出来ない結界に苦渋の決断をしたの。
「私の血、中で眠る、お前、貸して、くれ」
すると剛力魔王さんの拳から垂れる血が浮かび上がり、そして眼前に血の剣が出現する。
〈承知!我、この魂と力は愛する貴女に捧げたのだから〉
その剣を躊躇いながら、掴む剛力魔王さんはその剣の名を呼んだの。
「刀剣魔王」
それは剛力魔王さんを愛していた仲間の魔王だったの。
カミシニとして剛力魔王さんと共に蘇った刀剣魔王さんは、死んだ後も剛力魔王さんの血の中に宿っていたの。
そもそも剛力魔王さんは闘拳士と言うわけでもなく、過去は牛角魔王さんとの一騎討ちでは二つの大斧を持っていたとか。
けれど剛力魔王さんの剛力に耐えられる武器がそう見付からず、素手で戦っていたとか。
今、目の前に浮かぶ刀剣魔王さんの化身である武器は、間違いなく耐えうると思う。
その剣は女性が持つには大型で、振り回すのは勿論、持ち上げるのも難ある曲者。
しかし剛力魔王さんなら扱えるはずよ!
けど何故、剛力魔王さんは躊躇う理由があったのかしら?
蛟魔王さんは誇りとか言ってたけれど、拳の戦いへの誇りでないとしたら?
「刀剣魔王は剛力魔王を慕っていた。その命を捧げるほどにな。その現身であるその剣を手にすると言う事は・・・」
「女として、刀剣魔王さんを受け入れるって意味なの??」
「そんな大層な事ではないのだが、本人はそう思っているのだろうな」
「刀剣魔王さんの事は嫌いなの?」
「いや、牛角の奴を慕う思いに、二股をかけるような決断は、剛力魔王にとっては遠からずって事だろうな」
「お、乙女ね〜」
そんな私と蛟魔王さんの念話は繋がっている全員に伝わっていたの。
「お、お前、達、だ、黙って、いろ!」
赤面しながら怒り形相の剛力魔王さんに私達は口を塞いで黙った。
「私、お前、手にする。それは、お前を少なからず、嫌いじゃ、ないから」
そして手にした大剣を軽々と振り回すと、その筋肉が盛り上がり、腹筋が絞まる。
「刀剣剛斬」
その一撃は大地を斬り裂き、結界をも斬り裂いた。
剛力魔王さんの一撃が最後の仕上げだったの。
更に大地を割るように亀裂が広がっていき仙女院国が割れた。
「!!」
そして割れた大地は底のない大穴になっていた。
それはこの仙女院国が無の空間に西王母の創り出し浮かべた世界だから。
それこそ何者も立ち入らせない世界創造。
「とんでもないわね」
けれど、その足下に風穴が開けば、噴き出した玉面乙女の濁流の血が流れ込むように沈んでいったの。
「今よ!」
そのタイミングで私はこの世界に生き残った全ての仙女に念を送ったの。
沈んでいく母屋の屋根上に残っていた仙女達がまるで無数の蝶々が羽ばたくように宙へと飛び立つ。そして私は感動したの。
まだ、まだ数千、数万の仙女が生き残っていたのだから。
「さて、本当の戦いはこれからよ!」
割れた世界の中心に渦を巻きながら沈む玉面乙女の血。
しかし血の湖の中止から浮かび上がる人影があった。
その姿は、玉面乙女だった。
ここらで決着といくわよ!
そんなこんな。
次回予告
押し寄せる洪水は食い止めたが、本体の玉面乙女がまだ残っていた。




