どっちが好きなの?迷う正義くん?
正義の前に現れたのは、自分が心を寄せている美奈であった。
まさか、美奈も化け物に?
その時、正義は?
私は法子、
私の目の前でアータル神を宿した正義くんと、その友人だった?者達が蚩尤鬼人となって道を塞いでいたの。だけど…
蚩尤鬼人は化け物の力を得ただけの人間?
それとも人間の記憶を持って化け物が演じているの?
人か化け物か?振り出しに戻る。
「正義くん、私は…」
泣きそうな顔の美奈さんが見つめている。本当に化け物なの?あの美奈さんには感情があるように見えるわ?あの感情は間違いなく…
美奈さんは私達に自分が化け物になった経緯を話始めたの。
化け物になった彰くんを正義くんが倒した後、美奈さんは総本山の護衛に守られながら自分の家に着いた。確かに失った友人達への悲しみは重かった。
帰宅した後、血にまみれた制服を脱いで風呂に入る。シャワーを浴びながら美奈さんは胸が熱くなったの。
「正義くん…」
彰くんも隆くんも、横内さんももういない。頼れるのはもう正義くんしかいない。同時に今まで秘めていた気持ちが彼女を熱くさせ決意させたの。
「明日、正義くんに…」
その時、風呂の外に脱ぎ置かれた血だらけの制服が異様な動きをする?
その直後、風呂場の中で暴れる音がして、シャワーから大量の血が排水口から流れていったの。
「あの日、私は人である事を終えたの…だけど目覚めた時、私は新たに生まれ変わったのよ!」
「美奈…」
美奈さんは自らの腕に爪を立てて傷を付ける。流れる血を見て正義くんは駆け寄り、
「止めるんだ!美奈!自分を傷付けるな!」
「正義くん…私、化け物になっちゃった…私…」
泣きそうな美奈さんを抱き締める正義くんも涙を流していた。
「ごめん…美奈…僕のせいだ…最後まで君を守りきれなかった…」
「それでも、こうやってまた会えた…正義くん?化け物になってしまった私でも受け入れてくれるの?」
「当たり前だよ!僕は美奈を!」
「正義くん!」
その二人の姿を見ていた私は気付いたの?正義くんの腕から落ちる紅色の宝石を?その宝石がひとりでに浮いて私に向かって飛んで来たの!私は右手でキャッチして、手にした宝石を見て思ったの…
「高値で売れる?」
《馬鹿者!何をマジな顔で言うてるかぁ!?》
えっ?それはアータル神の声だった。この宝石はアータル神の魂?魂が宝石に封じられてるの?
「私には分からないわ…あの美奈さんは本当に化け物なの?それとも?」
《馬鹿者!お前まで騙されるな!あれはもう人間にあらず!れっきとした化け物だ!》
「でも!私が言いたいのは中身の方よ?あの美奈さんって娘は人間らしいわ?それともあれも騙しているって言うの?」
《言葉は真実にあらず!》
「それは決めつけ?敵だから?でも例外だってあるんじゃないの?」
《あの者には…魂の色がない!魂こそ命であり、存在の証なのだ!》
「魂が存在の証?」
正義くんは美奈さんに質問する?
「それより?」
「隆くんと横内さんの事でしょ?」
そこには二人のやり取りを黙って見ていた隆くんと横内さんがいたの。
「正義!俺も横内も生まれ変わったんだよ!」
「隆?本当に?」
「俺も驚いたよ…死んだ記憶があるのに、気付いたらこうやって生きてたんだからな?」
「私もだよ?正義」
そこに美奈さんが悲しい顔で伝える。
「だけど彰さんは…」
「僕が殺したんだね」
そこで正義くんは自分自身のしでかした重大さに気付いてしまう。
友人殺し…
「正義!お前は美奈を救っていたんだろ?彰には悪いけど、もし俺でも同じ事をしたと思うぜ」
「私達も化け物みたいになってさ?それでも今は自分自身は人間だって自覚あるけど、正義を誰も責めないよ?」
隆くんも横内さんも正義くんを庇い励ました。
「皆…」
そんな彼等を見ていた私はもう何もわからないでいたの。これはこれで良かったのじゃないかって?
でも…
《騙されるな!正義よ!お前は私のパートナーなのだぞ!!》
アータル神の声はもう正義くんには届かなかったの。
《あの、馬鹿者!》
「馬鹿はないんじゃない?仕方ないよ?親友なんでしょ?」
《お前も馬鹿者だ!あのままでは、また心に傷を付けるではないか…また耐えねばならぬではないか…また一から涙を押さえ込まねばならぬではないか…》
「!!」
アータル神は正義くんの事を本気で心配していたの。今日まで共に同じ魂の中で苦しむ正義くんを支えていたのだから。
「だけど…どうして皆はここに現れたの?」
「決まってるだろ?正義を迎えに来たんだよ!」
頷く美奈さんと横内さん。
「僕を迎えに?」
「私達は化け物の血で縛られているけど、今宵、化け物の王様が現れるんですって!」
「化け物の王?」
「そう。私達の始祖なんだって?私達蚩尤鬼人の王が現れれば、人間達は誰も生き残れないわ!」
「!!」
正義くんは拳を握ると、
「だったら王は僕が倒す!僕が倒して見せる!そしたら皆は解放されるんだろ?なぁ?」
「無理よ…王には誰も敵わないわ…何せ王は不死の王なのだから」
「そんなの、戦ってみないとわからないじゃんか!」
「それよりも、もっと確実に解放される手段があるの!」
「手段って?」
「私達を今仕切っているのは歪善様なの。歪善様は仰有ったわ?今、この地に侵入した連中を皆殺しにすれば、その後は自由だって?そしたらまた私達は一緒にいられるのよ?ねぇ?」
それって、つまり総本山の皆を殺すって事でしょ?
「そんなのって…」
「大丈夫。直ぐに終わるわ?そのために私達はアイツを始末します!」
「えっ?」
美奈さん達は私を見ていた。まるで獲物を狙うように?
私に鳥肌が立つ。
「待って!」
そこに正義くんが割って入る。
「駄目だ!そんな事をしたら!人間なら…人間ならそんな事をしたら!」
「じゃあ、どうしたら?逆らったら私達が化け物達に始末されるのよ!」
「それは…」
迷う正義くんに、美奈さんは真面目な顔で言った。
「私達と、あの娘?どっちが大事なの?」
「それは…」
「あの娘の事が好きなの?」
「えっ?あ、いや?そうじゃなくて…えっと、彼女は今日会ったばかりだし…そういうんじゃなくて?美奈?」
「まさか一目惚れなの?」
「だ~から~そういうんじゃなくてさ!」
「私と彼女、どっちが好きなの?」
「ちょっと~!!」
って、完全に話は三角関係のもつれみたいになっていたの。そのやり取りに隆くんと横内さんも参加する。
「正義!俺はお前なら美奈を任せられるって信じて譲ってやるんだぞ!俺の失恋を無駄にするなよ?」
「男ならハッキリしなさい?浮わついた気持ちじゃ美奈は任せられないわ!」
「だからだからだからだからだからだから!」
何だろう…
私は彼等のやり取りを見て楽しく見ていた。自分が恋愛の当事者扱いされてるのは置いておいて、彼等のやり取りが微笑ましかった。
「どうするつもり?私は遊びだったの?やっぱり若い下級生の娘が良いの?」
「違うって言ってるだろ?隆からも何か言ってよ!」
「俺が美奈を貰っても良いのか?」
「うわぁああ!」
「男らしく決めな?」
もう、正義くんは泣きそうな顔になりつつ、それでも何故か楽しそうに見えた。
「だったら証明してよ?正義くん」
「証明って?」
美奈さんは手首に傷を付けると血が垂れる。
「解ったわ…彼女を殺さなくても良いわ。だけど私の血を飲んで?この血を飲めば、正義くんもこっち側になれるわ?」
「!!」
「決めて?」
正義くんは一呼吸すると美奈さんに近付く。
待って?あの血を飲めば正義くんは化け物になっちゃう?良いの?止めないで?
するとアータル神が呟く。
《本当に彼の友人達の真の言葉なら止めやしない…けど!》
アータル神の紅色の宝石がひとりでに飛んで行き、正義くんを止めるように強烈な光を発光して止めたの!
「!!」
寸前で立ち止まる正義くんに、発光するアータル神は伝える。
《正義よ!既に解っているのだろう?短い間であったが私はお前の心に触れ、楽しかったぞ!》
瞬間、アータル神の紅色の宝石が美奈さんによって砕かれ消えたの?
「あっ!!」
正義くんは茫然としながら涙が流れる。
「…美奈?何故?」
「だって、コイツは私達を引き離そうとしたから!私から正義くんを奪おうとするから!」
「彼もまた僕の友達だったのに…」
「私達のが付き合いは長いわ!正義くんの友達は私達だけなの!だから、お願い!私達と一緒に!」
差し出す手から血が流れて飲むように訴える。
その様子を見ていた私もまた心が揺れたの。
霧に覆われた私の過去の記憶の中で、幼い私の手を引っ張り、あやしてくれていた…そんな人がいた?
その姿が何故かアータル神と被った時、私の口から無意識に真言が唱えられたの。
「オン・カカカ・ビサンマエイ・ソワカ!」
それは地蔵菩薩真言。
直後、私を中心に白い温かい光が辺りを覆い、正義くんだけでなく美奈さんや隆くん、横内さんを飲み込む。そこで正義くんは見たの!!
「美奈?なのか?」
「そうよ?だから早く私の血を飲んで?」
だけど、正義くんの視線の先は目の前にいる美奈さんの先を見ていたの?
そこにはボヤけるような何かが揺らぎながら微かに人の姿に見え始める。
そこには四人の姿が?
それは美奈さん、彰くん、隆くんに横内さんの姿になったの。
あれは…
魂?死んだ正義くんの友達の魂なの?
魂の彼女達は涙を流しながら正義くんに立ち止まるように声にない声を叫んでいたの!
「そうか…皆は、ずっと僕の傍にいてくれたんだね?ずっと見ていてくれたんだね?」
「騙されるな!あんなの幻術か何かよ!正義くん!私を信じて!」
化け物の説得はもう正義くんには聞こえてはいなかった。
「僕は君達を守りきれなかった…だけど、君達は僕を今まで見守っていてくれたんだね?だったら…僕はもう立ち止まらない!」
その直後、正義くんの右手の甲が熱くなって突然発火したの!それは神々しい神炎と化して全身を覆い、再び正義くんの姿がアータル神へと変わったの!
「…これは?」
正義くんの心に声が再び聞こえて来たの?
《お前の正義の魂が消えかけていた私を再び目覚めさせてくれた!礼を言うぞ!》
それは死んだと思われたアータル神の声だったの。
「アータル?生きていたんだね?」
《様を付けろと言ってるだろ?生きていたようだ!いや、お前と法子の強い思いが引き戻してくれたのだ!》
「そうか…なら、また僕と一緒に戦ってくれるかい?」
《当然だ!それが、》
『ジャスティスだぁー!』
正義くんが敵になったと同時に、化け物達は
「この糞虫が!」
本来の化け物の姿へと変わったの!
「法子よ!ここは私が引き受ける。お前はお前の友を必ず守りきるのだ!」
私はハッと気付く。
私は守らなきゃいけない友達がいる!
「うん!任せるわ?アータルに正義くん!」
私は再び駆け出すと道を塞ぐ化け物に、アータル神の神炎が阻む。
「お前達は私が葬る!私の友人の仇だからな!」
そして私は再び校舎へと駆け出したの。
そんなこんな。
次回予告
正義とアータル神は美奈の姿をした化け物と戦う中、
法子もまた走り出す!




