剛力魔王!誇り願闘(がんとう)!
始祖の瑤姫を前に法子と剛力魔王は追い詰められていた。
しかし猛攻は続く。
私は剛力魔王。
私は死んだのか?
二度目の死を体験するのか?
剛利羅一族の族長の娘として私は産まれた。
女である事は枷であったが、誰にも見下ろされないように一族繁栄のために己を鍛え、磨き上げてきた。
いつしかこの私は一族の全ての戦士が認める存在になり、他部族からも私の名は広まり、実力相応の魔王としての称号も得た。
地上全土で最強の魔王達が戦争を始め、この私も戦士達を引き連れ戦場に出た。
しかし世界は広かった。
私達の一族は眼力魔王なる魔眼の一族の生き残りであった魔王を相手に敗北し、私と弟の怪力魔王以外の一族仲間達は殺された。
更に洗脳された私と怪力は眼力魔王の手下として使われ、己の意思を封じられたのだ。
そんな私と怪力を救ってくれたのが、美猴王と牛角魔王だった。
洗脳が解けて己を取り戻した私と怪力は己の意思で美猴王の軍に入り、その手腕をふるい、そして私は、美猴王を筆頭に水廉洞闘賊団の将軍の一人として地上界、天上界を舞台に戦ったのだ。
それが戦士としての生涯。
私は天界の武神に討たれた。
圧倒的な力を前に、私は己の実力を出しきったにもかかわらず。
だから殺された事には恨みも怒りもない。
しかし仲間達がどうなったかだけが気がかりであり、
唯一の心残り。
唯一の・・・
(牛角、私は、お前を、愛していた)
告げられなかった想い。
せめて言葉にしたかった。
この私が愛した男に。
だが、全てが手遅れ。
私の意識は消えてゆき、その存在が途絶えた。
これが死なのだ。
「!!」
その時、私は己の存在を感じた。
視界は見渡す限りの霧か雲の中に覆われ、移動する事も叶わなかったが、己の存在を感じた。
私は剛力魔王なのだと。
私の意識が私を認識する。
しかし指一つ動かない?
いや、今の私に肉体は存在していなかった。
不思議な現象。
これは幽体?魂の状態なのか?
その時、私の意識に声が聞こえた。
「姉者!」
「剛力殿、我もいますぞ」
念波のように脳に響き、その相手の主が弟の怪力魔王と、戦友の刀剣魔王だと解った。
「お前、達、無事か」
私の問い掛けに、
「無事なのか?この状態が理解出来ぬゆえ、何とも言えませぬが」
「確かにな。しかし姉貴と刀剣魔王と合流出来て良かったぞ。俺は」
「我達は、死んだはず。なのに」
それから時間が経った。
どれくらい経ったか解らなかった。
途方にくれる私達は、言葉を交わして、己の存在が消えぬように維持した。
もし再び眠りにつけば、今度こそ闇に落ちて、二度と目覚められない恐怖があった。
やがて意識を維持する限界に来た時、
「お前達は試練を乗り越えた。死してもその強靭な魂を私は望んでおる」
その声の主に私達は抗う事が許されなかった。
全てを支配された上に甘い誘いが投げられたのだ。
「どうだ?お前達には新たな肉体と命を与えてやろう。悔やみながら終えた生前の時を再び与えてやるぞ」
「!!」
その言葉に私達はすがった。
嘘偽りはない。
本能が告げた。
再び生き返られるなら、取り戻したい。
今度こそ・・・
「!!」
直後、私達は嘗てない激痛を全身に感じた。
神経を全て針で貫かれ、猛毒が廻る感覚。
「ウギャアアアアアア」
穴と言う穴から血を流しながら、その痛みに快感を感じてもいたのだ。
何故なら、痛みこそ生なのだから。
どれくらい経ったのか?
瞼が開き視界がぼんやり広がった。
「ここ、は?」
私は何も衣を纏わず、己の肌から感じる生身の感触が生を実感させた。
「姉者よ!」
声の方向には怪力魔王と刀剣魔王が同じく生を手に入れ起き上がっていた。
否?この場には私達だけでなく、恐らく同様に命を与えられた者達が何人もいた。
老若男女問わず
そして私達にあの声の主が問い掛ける。
「お前達はまだ生を取り戻せたわけではない。この私の思い一つで無に戻せる」
その言葉に全身が凍った。
恐らく、一度死んだ者なら同じ思いだ。
二度と死にたくないと。
そして声の主は私達に条件を与えた。
その条件とは、金色の魔眼を持つ者達を始末する事であった。
もともと戦場では用心棒や傭兵をしていた。
容易いと思った。
しかしその魔眼所持者の姿が浮かび出された時、その中に見知った者の姿があった。
「美猴王!」
さらに同じく魔眼所持者であろう赤毛の少年の隣には、あの牛角魔王がいた。
(そ、そんな・・・)
その時、
「生き返らせてくれた事には感謝するが、お前が何者か知らないが、この俺は何者の支配は受けん!先ずは姿を現せよ」
その者の持つ力は私達よりも強かっただろう。
しかしその者が言葉を言い終える前に血飛沫が飛び散り、消滅した。
「抗うなら元の闇へと戻ればよい」
この場にいる全員が、自分自身の命を人質にされたのだ。
私は怪力魔王と刀剣魔王に無言で伝えた。
(今は従うふりをするぞ)
頷く二人は続いて映し出す魔眼所持者の姿を見せた。
誰一人声を発する事は無かった。
異論を唱えれば、そこまでだと本能的に気付いていたから。
すると美猴王の姿を見て涙を流す鬼人の娘もいた。
(美猴王の関係者か?)
「では、早速お前達には最後の試練を与えよう。次に目覚めた時、本当の命を与えられているだろう」
「!?」
その時、再び視界は閉ざされる。
赤い霧が覆われ、その正面に何者かが自分を見て、笑みを見せていた。
「だ、誰、だ」
そして霧の奥から姿を現した者の姿を見て、私は言葉を失い、そして肩を掴まれて何かが全身の中に溶け込む感じがした。
「!!」
先程とは比べ物にならない激痛。
声が出ない。
痛みを超えて、何も感じなくなった。
それからどのくらいの時が経ったか解らなかった。
次に目を覚ました時、私は大地が割れ、その大地に埋もれていた。
「死!?」
いや、私は生きている。
私が復活してどれくらい経ったのだろうか?
何も覚えてはいない。
私は何をしていたのだ?
すると記憶が流れ込んだ。
私の身体は何か別の意思に操られ、嘗ての仲間達と戦い、そして敗れたのだ。
私と同じく怪力魔王も刀剣魔王も甦っていたが、意識を奪われたまま命を落とした。
悔やまれるだろう。
せっかく甦ったにもかかわらず、戦友と戦わされ、本意を伝えられないまま二度目の死を与えられたのだから。
私だけ意識を取り戻せた理由はわからない。
頭を打ったからか?
理由はどうでも良い。
「わ、私は、生きる。二人の、分も」
私は意識を取り戻すと、生への執着が己の血を活性化させていた。
全身の筋肉が震え、血流が沸騰しそうだった。
そんな私に対して、私と戦っていた瑤姫は仕止めるために近付いて来ていた。
「起きてぇー剛力さーん!」
法子の叫ぶ声が聞こえた。
そして私には伝えるべき相手に、もう一度言葉にして伝えたい。
戦士として生きた私が女として、一人の男を認め惚れ込んだ。
たとえ妻子がいたとしても構わない。
別に愛した女がいても、子供がいても構わない。
二度と後悔はしたくない。
私の瞼が開いた時、全身の血が沸騰するかのように熱くなり、拳が硬化していく。
「私、闘う。お前、倒して」
「!?」
炎を噴き出し業火の拳を突きつける瑤姫より先に、私の突き出された拳が炸裂した。
「爆血剛拳」
爆発するかのような衝撃を起こして、目の前に立った瑤姫を捉えた。
「ま、まだそのような力を!」
直撃を受けた瑤姫は血を吐きながら吹き飛び、壁際に直撃したのだ。
「ウギャ!」
動かない瑤姫を見て、
「剛力さん!凄いわ!」
法子が駆け寄って来た。
「フフ、もう、動く、無理」
その時、法子は気付いていなかった。
倒したとばかりに思った瑤姫が誇りを傷付けられ、怒りの形相で迫り、炎の拳を振り上げ、法子の背後にまで飛び出して来ていたのだから。
「の、法・・・!!」
私は庇うように飛び出していた。
「剛力さん?」
身代わりになるつもりだった。
身体が無意識に動いていた。
しかし私は別の強い力で引き戻され、そして法子も救われていた。
瑤姫の拳は直撃すると、その勢いは拡散して跳ね返る。
「よく戦っていた。しかし私にも見せ場を貰いたいものだ」
「お前、誰だ!くそ!」
瑤姫は立ち上がると、繰り出される炎の拳は次々と強固な盾によって弾かれていた。
その救援者は少なくとも私が知る限り、最強の女戦士。この私が勝てない女。
そして法子が叫んでいた。
「蛟魔王さん!!」
蛟魔王さんが、戦場に立つ。
って、いつからいたのかしら?
そんなこんな。
次回予告
まさかの蛟魔王参戦に頼れる味方!
始祖の瑤姫を相手に蛟魔王の力は通用するのか?




