人か化け物か?正義の判断!!
正義はアータル神の力を借りて襲われた学校を救った。
しかし先に逃がしたはずの美奈に危険が迫っていた!?
正義くんは美奈さんを探していた。
「美奈ぁー!何処ー!?」
駆け回る正義くんは辺りを見回している。
「アータル!美奈は何処に行ったんだよ?さっきまで気配したのに解らなくなったよ?」
正義くんは内にいるアータルに呼び掛ける。
《…例の化け物が近くにいるせいか、化け物の障気が乙女の気を覆ってしまったようだ》
「化け物の居場所は解らないの?その障気って探れないの?」
《無理なんだ。あの化け物は気ってもんがない上に、神の探知にかからない特殊な化け物なのだ!》
「それじゃ…美奈はもう?」
《馬鹿者!諦めるな!考えろ?あの化け物はお前の友の記憶を持っている。そこに答えがあるはずだ!》
「彰くんの記憶を持ってるって?そもそもあの化け物って何なんだよ?」
《詳しくは長くなるから省くが、あの化け物は人間に寄生し、人間の記憶のみを奪った化け物なのだ!》
「記憶のみ?それじゃ?」
《言葉通り。記憶のみ!化け物は化け物!良いか?惑わされるな?あの化け物はお前の…》
「待って?解った…彰くんのいる場所が!」
《何だと?何処だ?》
「それは…」
正義くんが向かった場所は自分達が幼い頃に隠れ家にしていた場所だった。彰くんと横内さんは中学に入ってから友達になって、正義くんと隆くん、美奈さんは自分達の隠れ家に案内した事があったの。
場所は使われていない廃墟アパートで、幽霊屋敷とか言われている場所だった。そこに彼等は集まっては自由に使っていたの。と、言うのも元々は隆くんのお爺さんの持ちアパートだったから出来たわけなの。
そこには今、
「彰くん…よね?」
美奈さんの目の前には彰くんが立っていたの。しかも先程まで化け物の姿をしていたのに、このアパートに到着するなり人の姿に戻っていたの。
「見た通り彰だよ?他に何に見えるんだ?美奈?」
「………」
「恐がる事はないよ?少し話をしたくてさ?どうだろう…提案なんだけど、ならないか?」
「ならないか?って何に?」
「それは、解ってるんだろ?美奈は頭良いからな?」
「嫌よ!私は彰くんみたいにはならないわ!それに私は…」
「正義の奴が助けに来てくれるって信じてるってわけだ?」
美奈さんは強い眼差しで頷くと、
「さっきも来てくれた!正義くんは私にとって最高のヒーローよ!」
「ヒーローね?確かに正義の奴はド真面目な良い子ちゃんだよ。けどな?本当にヒーローなら、アイツは俺が死ぬ前にも現れて助けてくれたんじゃないか?」
「えっ?」
彰くんは語る。
あの日、正義くん達が宿泊先のホテルを脱け出して例の石柱のある寺に行ったあの日、ホテルに戻って来た正義くん達は見付からないように部屋の各々の二段ベッドに入ったの。そこで、彰くんは突然暗闇の中で何かに押さえ込まれたの!?
「グッ!」
暗闇の中で身動きが出来なく。声すら出せなかった。まるで熊か何かに押さえ込まれ、その状態で少しずつ身体に痛みが生じたの。生きたまま食べられる痛みが!暗闇の中で涙だけが流れ、身体中の力が抜けていく。意識が遠退き痛みが麻痺していく中で、隣のベッドには正義くんが眠っていた。
「俺が死ぬ時にどうして正義は平然と寝ていたんだ?何がヒーローだ?今頃ヒーローだと?フザケルナ!」
美奈さんは声が出なく、あの日、彰くんが襲われていた事を知り衝撃で涙が溢れる。
「嘘よ!翌日に化け物が現れた時に助けてくれたじゃない?」
「助けた?あっ?違うよ?あれは助けたんじゃなくて、お前達を横取りされたくなかったんだ!」
「!!」
「お前達はいつまでも僕の中にいて欲しいから…」
「それってどういう?」
「美奈に面白い事を教えてやるよ?」
「面白い…事?」
「その前に、もう一人の客が必要だよな?俺達の友人を招き入れたから」
その直後、部屋のドアが開いて正義くんが二人の前に入って来たの!
「美奈?無事か?」
「正義くん!」
正義くんは美奈さんの安全を確かめた後、隣にいる彰くんを見る。
「彰くん…なのか?それとも?」
「俺は彰だよ!正義?ただ、人間を超越した力を与えられた特別な存在になったな?」
「特別な存在?学校を襲った化け物になった事が?」
「化け物か?確かに見た目は化け物かもしれない。けど、俺は間違いなく彰だよ!正義!」
「………」
正義くんは疑心暗鬼のまま美奈さんを自分の後ろにして彰くんに話し掛ける。
本当に彰くんなのか?
正義くんは確かめるように彰くんに思い出話を振ってみた。初めて会った時の話や五人で語った生来の事、それに二人しか知らないはずの秘密の話。
彰くんもまた懐かしむように返答し、逆に話題を振ってきた。
正義くんは戸惑っていた。目の前にいる相手は自分が良く知る友達であり、見た目だけでなく仕草や態度まで他の何者にも見えなかったから。
「彰くん、君は何をしたいんだ?美奈を連れて、僕まで呼び寄せ?」
「何がしたいかって?そうだなぁ…俺達って友達だよな?」
「うん」
「だから、お前達にも俺と同じになって、いつまでも一緒にいたいんだ!横内や隆は残念な事をしたけど…うん。せめてお前達は俺と一緒にいてくれ!友達として、いつまでも!」
「!!」
その言葉は正義くんには重かった。
『友達として、いつまでも…』
「本当に彰くんなんだな?君は?」
「もちろんさ!そうだな?なら、教えてやるよ?俺が何者なのかを!」
彰くんはそこで、蚩尤鬼人誕生の説明をし始めたの。
ホテルに戻った後、彰くんはベッドの上に潜んでいた化け物によって襲われたの。本来ならそこで終わりだったはず。
けど、蚩尤鬼人の中には更に上の化け物がいて、それを蚩尤鬼王と呼ぶらしいの。その蚩尤鬼王は餌にした人間の中で気にいった者を同族に変異させる能力があるって言うの。
その条件が…
「強い生への執着」
そこには恨みや妬み、やり残した事の大きさによって決まる。その値が限界を超えた時に、人は蚩尤鬼王の血を得て化け物へと転生するって…
「強い生への執着?それが彰くんを化け物にしたって事なのかい?」
「そうさ…俺の生への執着は…」
その理由を聞いた正義くんと美奈さんは涙が溢れ出したの。
「お前達ともっと一緒にいたかった…」
仲間を一番大切にするのはいつも彰くんだった。リーダーでもあり、同い年なのに兄のような存在。悩みの相談はいつも彰くんにしていた。家族や他の友人には話せない事でも何でも話せたの。美奈さんが唯一、正義くんへの恋心を相談していた相手も彰くんであり、逆に正義くんも美奈さんへ募る思いを相談していた。
「彰くん…」
「だからさ?お前達も俺と一緒になろう!確かに見た目は化け物で人間じゃなくなってしまうけど、これからも一緒にいられるんだから!」
「彰くん…」
すると正義くんは美奈さんに振り返り笑顔を見せると、彰くんに向かって答えたの。
「彰くん。僕が君と一緒になるよ?だから美奈は人間のままでいさせてくれないかな?」
「正義くん?何を?」
話を聞いていた美奈さんが正義くんの言葉を信じられない顔で言う。
「正義くん!まさか本当に化け物になるつもりなの?ダメよ!確かに彰さんには悪いけど、私は彰さんは化け物になろうと友達でいるから!正義くんだってそうでしょ?」
「美奈…」
二人の会話に今度は彰くんが割り込む。
「二人とも何か勘違いしていないか?」
彰くんの姿が少しずつ化け物へと変わっていく。
「あのさ?寂しいんだよ?俺はよ?自分だけ化け物になってよ?お前らは人間のまま…何か村八分にされた感じだよ」
「だから僕が!!」
《騙されるな!》
三人のやり取りに割って入って来たのは、正義くんの中にいるアータルの声だった。しかもその声は他の者にも聞こえたの。
「誰なの?今の声?」
「美奈、訳あって僕の中に神様が居候してるんだ。彼はアータル、僕達を救ってくれた」
「それ、本当なの?」
けど、正義くんの神憑りな力を目の当たりにした美奈さんは信じられたの。
《正義よ?その友人だった者はもうもぬけの殻だ!惑わされるでない!》
「もぬけの殻?どういう意味なんだよ?アータル?」
《そこに魂が存在せんからだ!》
「魂?」
アータル神の言い分はこうね?人、いえ神から魔の者にも魂は存在する。魂こそがその者の存在の証明であって、その全てだと。
「魂って、あの人魂とかのだよね?魂が存在の証明って?でも…しかし、あの彰くんに魂がないなんて?じゃあ何だって言うんだ?」
《あれはお前の友人の記憶と姿を奪い、寄生した別の生き物。化け物の他ない》
「!!」
《友人の記憶を使って惑わしているのだ!》
彰くんが二人の会話に割り込む。
「騙されるな!そんな何者か解らないような神の名を語る者より、長く付き合って来た俺の言葉を信じろよ!正義!」
美奈さんが全く話の内容に付いていけずに呟く。
「正義くんの中に神様がいるってのと、彰くんの中に化け物が寄生してるって何が違うのか私には解らないわ…」
《馬鹿者!寄生した化け物と一緒にするでない!私は神様なのだぞ!》
「す、すみません!」
「美奈ぁ~」
と、二人の間で判断に迷う正義くんだったが、そこに美奈さんのふとした言葉がキッカケとなる。
「違い…か…」
(僕はアータルが中にいても自分の意識は残っている。彰くんは?仮に彰くんが化け物の力を手に入れていただけなら彰くんの意思のままだし、僕達のように意識が二つあるなら人格は別にある。それに化け物が彰くんの記憶を持っているだけなら、また話が変わってくる)
正義くんは彰くんに問う。
「彰くん?教えてくれ!僕が彰くんと同じになった後、彰くんは何をしたいんだ?ただ今のまま一緒にいれば良いのかい?人のいない地で身を潜んで暮らせば良いのかい?」
彰くんは正義くんの言葉に平然と回答する。
「そんなのは決まっているだろ?お前達と一緒に…」
「!!」
正義くん顔を伏せると、覚悟して言った。
「解ったよ…君を信じる。僕は…」
正義くんは彰くんのもとにゆっくりと歩く。
「正義くん!」
美奈さんが止める言葉を無視して、彰くんは笑みを見せて向かって来る正義くんを迎え入れるように両手を差し出した。
「彰くん…」
すると正義くんの姿が炎に包まれ、その姿がアータルへと変わったの!
「僕はもう迷わない!」
「正義、お前!!」
アータル神と姿を変えた正義くんは炎を発する大剣を彰くんへ向けて構えたの。
次回予告
決断した正義の決断!
正義はアータル神の力を借りて戦う!




