始まりの予感?戦いへの再寝!
新生殷国の紂王を倒した事で人間界のカミシニの恐怖は収拾したかに思えた。
私は法子よ!
もうね?本当に、うん。
色々あったのよ。
私達が地上に降りる前から、人間界を支配していた紂王に反乱を起こしたのはナタクと共に戦う二人の若者。
姜子牙
彼らはカミシニと、その力を宿した魔眼みたいな能力の忌眼を持って戦っていたの。
彼らの功績は本当に称賛出来るわ。
天界軍ですら手も足も出なかったカミシニ大国でもある新生殷国を、私達の救援があった事を踏まえても、実質三人で壊滅させたのだから。
けれど、その代償は大きかったの。
黄天下君は、姜子牙二人は親友で、そして主従していた絆があったの。
主従とは、姜子牙を地上界の王にする夢があったのだと。
あのナタクが言うには、
「黄天下はカミシニだ。奴が王になればチュウオウ同様天界に安泰はないだろう。それでも俺は、そんな未来もあってよかったと思ってしまった。あの二人なら、もしかしたら」
「ナタク」
ナタクが他人を認めるなんて、しかもカミシニ相手に、驚く事だった。
しかし黄天下君の死に、姜子牙君はご飯も喉を通さないで、ずっと寝たきりだったの。
今は、うん。
誰も慰める言葉が見つからなかったの。
本当に感謝したいわ。
彼らの戦いあってこその平和。
ナタクが言うには、
「これで地上界に蔓延るカミシニは実質全滅したと言えよう」
「どういう事?」
ナタクが言うには、この地上界に存在するカミシニは紂王の血を盃として受けて忠誠していたの。その見返りは安泰と力。
紂王の血はカミシニの能力を引き上げ、限界を破り覚醒させる効力がある。
これは倶利伽羅の主従の儀式で、盃を受けた者は決して逆らえない。
もし反旗を翻せば、その身の血が蒸発して消滅してしまうから。
そして何より、紂王が死ぬ事あれば、
主従したカミシニは全て後を追うように消滅すると言うの。
「つまり、残るカミシニは」
「そうだな。仙界に潜む者達だ」
「西王母と玉面乙女ね」
私達が当初に戦っていたカミシニ達。
仙界を支配していたのは始祖神西王母なの。
しかしナタクは私に告げた。
「我々が戦うべき相手は、もはや西王母ではない。お前達が天界にいる間に情勢は変わったようだ」
「へっ?」
それはナタクが先に出会った竜吉公女さんからの情報なの。
その情報で仙界は、新たな王が西王母をくだして、支配したと言うの。
しかもその王の目的は、世界征服だと。
天界、人間界、仙界、更には龍神界からありとあらゆる世界の侵略なのだと。
「何々?何でそうなっているのよ?ナタク!」
「俺に言うな」
私は混乱する状況を整理して、
「なら私達の戦う相手は、その新たなカミシニの王ってわけね?」
「そうだな。期待しているぞ」
「えっ?ナタクも力を貸してくれるんじゃないの?逃がさないわよ!」
「俺は別行動を取らせて貰う。別件であの男を頼まれたからな」
「あの男?」
するとナタクから信じられない話を聞かされたの。
それは二郎真君さんの事だったの。
「う、うそ?何言っているのよ?ナタク」
ナタクが私に告げたのは、二郎真君さんが長く消息不明なのだと言うの。
しかも私達と別れて直ぐ。
「そんな前から?何があったの!」
ナタクは答えなかった。
「あの男は生きている。それを確かめるために俺は奴がいる場所へ向かう必要がある」
「待ってよ!だったら私達だって二郎真君さんを探すの優先するわ!」
「そう時間は猶予を与えてくれはしない」
「どういう事?」
「紂王が討たれた事を知れば、仙界の者達は今すぐにでも地上界へ侵略に入って来よう。仙界と地上の狭間の門は、今や開いたままだからな」
「!!」
「迷う事はない。二郎真君の事は俺に任せろ。その代わり、」
ナタクは姜子牙君を見ると、
「分かったわ。彼は私達が責任もって任されるわ。だからナタクもお願いね」
「あぁ」
ナタクの足下が炎を噴出させ浮かぶと、遠く離れた方角へ飛んで行ったの。
「ふぅ~どうやら私達もゆっくりは出来ないみたいね」
私は孫悟空達にナタクから聞いた話を整理して聞かせると、直ぐにでも旅の支度をするように頼んだの。
「準備出来たら起こしてね?」
「なぬ?法子は?」
「寝るわ!」
そして私は一休みするの。
だってだってだって、こんなにいっぺんに沢山驚き展開の情報を言われたって、直ぐには頭が整理できないわよ。だから落ち着かせるために、ちょっと寝ます。
「いや~相変わらず俺様達使いの荒い法子だぜ。まったく!」
「そう言わないで、孫悟空」
「阿修羅は甘いぞ?つけあがっている法子に一度ガツンと言ってや・・・」
「無理だろ?」
「うるへぇ~」
「寝てるところを邪魔したら、ただじゃすみませんからね~」
沙悟浄の言葉に全員ゾッとしていた。
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場所は変わる。
その者達は紂王が討たれるより前に国を出ていた。
「どうやら紂王は討たれたようです」
「そうですか。それでも黄天下を殺したなら、彼にしては上出来だよ」
それは申公豹。
申公豹は紂王の配下でありながら、その主従の血に消滅を免れていた。
「紂王の倶利伽羅の血を薄めてやれば、上書きすれば良い事。別の倶利伽羅の王の血でね」
「それもこれも全て貴方のお陰ですよ。へへへ。命拾いしたぜ」
そのカミシニの男の名は王魔。
四魔性の一人であり、遅れてカミシニになった男。
しかしその場には一人しかいなかった。
「お前もお前だよ。我が身可愛さに義兄弟を手にかけるのだからな。その生への執着心なければ今、この場にいなかった」
「俺はな、まだ生き足りねぇ。何年も何年も時の牢獄に幽閉されていたのだからな」
王魔は紂王が討たれた時、その身が朽ち始める事に恐怖した。
他の四魔将達ももがき苦しむ中で、救済が入ったのだ。
その者から差し出されたのは一つの杯。
生き残れるのは一人のみ。
迷いはなかった。
取り合う義兄弟達を手にかけ、そして杯の中にある液体を飲み干した時、身体の崩壊は収まり新たな力を手に入れたのだ。
「お前が、俺の新たな王なのだな。まさかお前が倶利伽羅の王の一人とは思っても見なかったぜ」
その者は倶利伽羅王の器。
「申公豹」
申公豹は生き残りし部下達を引き連れ、この崩壊した新生殷国から消えていった。
新たな脅威の存在。
しかし、この戦いの中で生き抜いた者がもう一人別にいた。
その者は、崩壊していく身体を強靭な意思で繋ぎ止め、その場に倒れていた趙公明の肉体をその身に吸収して再生した。
「紂王様。貴方の意思はこの俺が引き継ぐ。この世の全てを破壊し、俺が新たな世界を作りあげるのだ」
その者、最強の武人聞仲!
聞仲は生きていたのだ。
法子達の戦いは、更に激しさを増す戦いに身を投じるのだった。
次回予告
法子達の新たな戦いの次なる場所は?




