孫悟空死す??
法子達に起きた大問題。
それは、この戦いに出遅れた理由。
私は法子よ。
そう、あの日。
私達が仙界で西王母と戦った後の事。
私達は命からがら生き延びて、あの爆発の中を脱出出来たの。
「う、うんん」
私は意識朦朧としながらも、皆の安否を確かめる。
だって、皆は・・・
爆発の最中、私を守るように囲んで、魔眼を解放させて爆発の威力を遮ってくれたのだから。
見ると孫悟空、阿修羅、八怪に沙悟浄、鉄扇ちゃん、玉龍君が傷付きながら私の傍に倒れていたの。そして私の声に反応して動き出す。
「良かった。皆、無事ね」
すると阿修羅が空を見上げる。
「どうしたの?」
「法子、下がって
「えっ?」
すると雲に乗ったカミシニ達が私達に向かって飛び降りて来たの。
「へへへ。見つけたぞ!西王母様の命令でお前達を生かしては返さん」
それは西王母が仕向けた追っ手だった。
しかも全員カミシニ。
「恐らくは仙界の者達がカミシニ化した連中だろうな」
「まだ残っていたのね」
この崑崙山にいた仙人達はカミシニの襲撃を受けて、その大半が消された。
しかし、生き残った一部はカミシニ化して八仙同様、西王母の配下となっていたの。
「まさか西王母達と戦った後に残党に襲われるなんて思わなかったわ」
すると八怪が前に出て釘鈀を構える。
「問題ないらよ!オラが蹴散らすら!」
そして孫悟空と阿修羅も同時に構えると、その覇気が波紋を広げて砂ぼこりを立てる。
「も~う。皆して法子ばかり。まぁ~私は河童ちゃんがいれば良いのだけどね」
「鉄扇ちゃ~ん、抱きつかないでくださいよ~今は戦いの最中ですよ~」
「そうね、だったら早々に片付けるわ」
鉄扇ちゃんが芭蕉扇を広げると、雷が上空から振り、その中心に化け物が出現する。
「鵺!あんたも戦いなさい」
「へ、へいですにゃよ!」
鉄扇ちゃんの使い魔で、雷を操る鵺はカミシニ達に向かって雷撃を放つも、その雷は衝突する前に消滅した。
カミシニの前では、神力はもちろん聖獣の力も無効化されてしまうの。
「変換よ!鵺」
「本当にやるんですかにゃ?」
「言う通りにしなさい」
「分かったにゃよ!」
すると雷雲が上空を覆っていく。
「今よ河童ちゃん!」
「はい!」
沙悟浄は手にした針を投げつけると、カミシニの身体に当たった。
「何だこりゃ?痛くも痒くもねぇぞ」
その攻撃は針を刺されたような程度。
相手を倒すなんて出来ないわ。
何をするつもりなの?あの二人?
「見てなさい!奴らカミシニは神力は通用しなくても、自然から発する衝撃は無効化出来ないのよ」
「えっ?」
鉄扇ちゃんが扇を振り下ろすと、上空に集まった暗雲から雷が落ち、沙悟浄が投げた針に向かって直撃する。
つまりあの針は避雷針ね!
「うぎゃあああ!」
カミシニ達は突然の攻撃に一度は怯むけれど、その化け物染みた再生力で火傷した身体が元に戻っていく。
「こんなもの俺達カミシニに通用するか」
が、見上げた眼前に
「だから直接ぶん殴る!」
孫悟空の拳が直撃する。
「ウガァア!」
カミシニはその攻撃を受けた場所から塵となって消滅していく。
「フゥー」
孫悟空の瞳は金色に光輝き、その魔眼の力はカミシニの身体を崩壊させる事が出来る。
カミシニに対抗出来る唯一の手段。
そして私達は全員、
「皆、もうひと踏ん張りよ!」
私、阿修羅、八怪、沙悟浄、鉄扇ちゃんの瞳が金色に光輝き、魔眼を解放させた。
そうよ、私達はこの奇跡の魔眼所持者なの!
私達は圧倒したわ。
この力を万能と考えていたから。
けれど、そうじゃなかったの。
「えっ?」
突然、足が重くなって、視界がボヤける。
何が起きたか分からなかった。
この状態は私だけじゃなく、他の皆も同様に膝が震えて、その場に倒れこむ。
「指が震えるわ」
そんな私達に容赦なくカミシニ達は襲い掛かって来た。
私達は負けじと抗うにも、その時には金色の魔眼は発動しないで、完全に危機的状況になっていたのよ。
「突然動きが悪くなったぞ、コイツら!殺れるんじゃないか?」
「そうだな。恐れるに足らん」
完全に相手に調子つかせてしまったよう。
私達は気力を振り絞るけれど、まるで今までの反動が来たかのように身体が重いの。
「法子には手を出させない」
そんな状態でも阿修羅は立ち上がって、漆黒の炎を纏って受けて立とうとする。
「くぅ、ウォオオ!」
しかしカミシニ達は恐れる事なく阿修羅に向かって襲い掛かって来たの。
拳を放ち、蹴りを繰り出し、炎を放射させて翻弄するけれど、その黒き炎はカミシニに触れた途端に消失し、構わずに飛び込んで来ると阿修羅にしがみつく。
「ぐぅうううわああ!」
抗う阿修羅の力が抜けていくのがわかる。
全身から纏う炎が徐々に消えて、神気が弱まっていく。
「阿修羅!八怪、沙悟浄、お願い!」
近くにいた二人に救援を頼むと、二人は飛び出して阿修羅にしがみつくカミシニに武器を振り下ろして叩きつける。
「釘鈀!」
「降妖宝杖!」
二人の神具はカミシニに攻撃を繰り出しても破壊はされなかった。
本来、神具もまたカミシニの力の前では粉々になったり、棒切れのように使い物にならないはずなのだけど、孫悟空の如意棒と二人の武器は龍神界の特注らしく、威力こそ弱まるけれど破壊される事はなかったの。
「うぅぅ」
殴り飛ばされたカミシニ達から解放された阿修羅は崩れるように膝をつく。
けれど阿修羅は何かを言おうと、伝えようとしていた。
(な、何?)
それは私に向けての視線。
「!!」
すると地面が盛り上がり、私は何者かに足を掴まれて持ち上げられたの。
「きゃああああ!へ、変態!」
私は片足を掴まれ宙吊りにされると、その視線の先には大柄なカミシニが気持ち悪そうな顔で私を見ていた。
「変態!離しなさいよ!」
私は身を捻り、自由の足で蹴りを繰り出すけれど、そのカミシニは蚊に刺された程度にしか感じていなかった。
(ヤバッ)
そう思った時、私の身体が浮き、地面に向けて叩きつけられたの。
「ガハッ!」
血を吐いて弱まる私を見た皆の顔が青ざめる。
そして怒りがこみ上げて、叫ぶ。
「何しやがったぁああ!」
それは孫悟空。
その怒りの形相に、まだ私の足を掴んでいたカミシニの動きが怯み止まると、次の瞬間胸元に風穴が開いていた。
「虎穴!」
それは真空を作り出して穿孔させる奥義。
これは神気を使わずとも、破壊力のある黄風魔王や虎先鋒の必殺技。
「ウゴォ」
私の足を手離した瞬間、そのカミシニの前髪が孫悟空に鷲掴みにされる。
「簡単には死なせねぇぞ、コラァ!」
久しぶりに見る孫悟空のキレた状態。
そして地面に向けて強烈に叩きつけると、その顔面は血を噴き出しながら潰れる。
痙攣を起こすカミシニに、孫悟空はも切るように首を引き抜いたの。
「次に死にたい奴はどいつだ!」
睨み付ける孫悟空に、カミシニ達は一瞬怯んだけれど、直ぐに笑みを見せて囲み出す。
何?あの孫悟空に恐怖しないの?
けれどそれはカミシニが、
「この俺の頭を返せよ!猿野郎」
それは今、孫悟空が殺したはずのカミシニだった。
しかしその貫通した胸元は中で無数の血管が絡みながら結ばれ塞がり、失われた頭には血液の塊が形を成しながら再生する。
「俺達は簡単には死なねぇのよ。八仙達を苦しめたと聞いて警戒していたが、大したことないな?」
「そうかよ」
「!!」
すると孫悟空の手には固形物が握られていた。
それは目の前のカミシニの心臓。
「ぐはぁ!い、いつの間に?げ、げへへ」
吐血するけれど、心臓を抜かれたくらいでは焦りをあまり見せていない。
「心臓だろうが、直ぐに再生する俺達カミシニには何も恐いものはないぞ」
「そうかよ」
その時、孫悟空の瞼が開き、そのエメラルドグリーンの瞳が金色に光輝いたの。
そして掌に金色のオーラが纏われると、その心臓は塵と消える。
「お、おごぉおおおお」
同時に再生中のカミシニの心臓が止まり、血を噴き出しながら悶える。
「何も恐くないか?そうか、そうか」
孫悟空は苦しみもがくカミシニの頭を踏みつけると、その足に金色のオーラが纏われ、力を込めると鈍い音と共に潰れた。
消滅していく大柄なカミシニの消滅を目の当たりにした他のカミシニは、初めて目の前の孫悟空に対して震える。
「お前ら、覚悟はしなくて良いぞ。俺様は慈悲はしねぇ。そして容赦もな」
孫悟空は全身から金色のオーラを噴き出させ、飛び出すと同時に拳や蹴りを一撃一撃でカミシニの追手を消滅させていく。
「ウォオオ!」
雄叫びが戦場を震わせた。
本来、私は無駄な殺生を許さなかった。
けれど、万が一相手が私にとって心底悪で、大切な者を殺める可能性がある場合に限り、許していたの。その判断は、皆を信じて。
けれど今の孫悟空は、私を傷付けられて見境いない状態だった。
もし阿修羅が先に力を奪われていなければ、阿修羅も手がつけられなくなっていたかも。
「猿に先を越されたらな」
八怪は冷静に私を守るように、その場に待機して、沙悟浄が阿修羅に肩を貸していた。
「法子、大丈夫?」
「う、うん。心配してくれて有り難う。鉄扇ちゃん」
「どうやら孫悟空に任せていれば決着つきそうね?」
「う、うん」
「どうしたのよ?何か言いたげね?」
「・・・」
私は一度、考えて言葉にする。
「こんなに殺生を簡単に許して良いのかって思って」
「馬鹿なの?あんたも知っているでしょ?情けをかけて油断したら、自分が殺されるかもしれないのよ。それよりも、自分の大切な者が代わりに殺されるかもしれないの!私はもうまっぴらよ!そんなの!」
「鉄扇ちゃん」
鉄扇ちゃんは一度、沙悟浄を失いそうになった。
それに恩人でも有り、義姉の羅刹女さん。
そして親友とも思えた姉弟子の蝎子精さんに、好敵手でもあった白骨乙女さんを蛇神族との戦いで失っていたから。
「分かっているわ。この戦いはそういう覚悟が必要なんだって」
私は複雑な気持ちで孫悟空の戦いを見守る。
逃げ惑うカミシニを容赦なく倒す孫悟空。
胸が苦しい・・・
けれど、私は孫悟空の戦う姿を見て、異変に気付いたの。
「ねぇ、沙悟浄?孫悟空何か変じゃない?」
「えっ?孫悟空兄貴がですか?」
「あの猿はいつも変らよ」
八怪は軽く長そうとした時、孫悟空の異変の理由を理解したの。
「さ、猿!アイツ、力が抜けていないらか?しかも確かに変ら。外傷はないはずなのに、消耗が激し過ぎるら」
私は八怪の目を見ると、八怪は頷くと同時に孫悟空の救援に飛び出していた。
そして同時に倒れる孫悟空を片腕で受け止めると、残ったカミシニを睨みつけ威嚇する。
「西王母の奴に伝えるら。オラ達は必ずもう一度お前の前に出向いてやるら。それまで黙って待っているらよ」
すると脅えて震えていた残りのカミシニ達は悲鳴をあげて逃げ帰ったの。
私達が駆け寄ると、孫悟空は冷たくなって動かなかった。
「嘘でしょ?何?変な冗談は止めてよ!孫悟空!ちょっと!」
その様子に阿修羅が沙悟浄の手のこうに手を起き、
「僕の事は良いよ。それより」
「分かりました!」
動かない孫悟空に沙悟浄が孫悟空に治癒の力を注ぎこむけれど、全く動かない。
「いったい、何が起きたのよ!起きなさい!孫悟空ぅー!」
その時、私は無意識に腕があさっての方に突き出され、何かを掴んだ感じがしたの。
「えっ?」
私自身、私の行動の意味が分からなかった。
私は何をしたの?
何を掴んでいるの?
私の手には目に見えるモノは何もなかった。
ただ、感触がする。
それはまるで蜘蛛の糸のような重さのない感触が、まるで大切な何かのように思えた。
その時、上空より声が響いたの。
「その手を決して離すでないぞ!」
「えっ?」
見上げると、誰かが飛行雲から飛び降りて来ると、私達の前に着地したの。
「う、嘘?何で貴方が?」
その人は、太白金星さんだったの。
けれど太白金星さんは、今は私達の敵?
なのよね?
そんなこんな。
次回予告
太白金星が語る孫悟空の死の理由。
そして、孫悟空は本当に死んだのか?
全ては太白金星が知る。




