和解の条件!?
紂王の言葉を聞いた姜子牙の選択。
その返答が世界の運命を握るのか?
私は姜子牙だよ。
私は紂王に、妲己なる伝説の妖狐と仙界大戦が起きた真実を聞かされた。
聞くこと全てが今の私には雲の上の話で、だから何が出来るというわけではなかった。
無関係だし。
そう思う反面、この話の登場人物に妲己と紂王以外に主要人物が私と同姓同名の太公望の存在。しかも太公望の名前が、嘗ては姜子牙だっただなんて縁がどうこうと言うには出来すぎておるのだ。
「混乱するのも無理はあるまい」
「えっ?」
私は紂王の眼を見て気付いた。
「私の心の中を読んでおるのか?これは下手な事を考えられればないか」
「余は全てを見透す眼を持つ。そして妲己と太公望の忌眼を一度はこの身に備えた事で、新たな忌眼を開眼させた。嘗ての真王から奪いし借り物ではない余自身が開眼させた忌眼をな」
「!!」
さてさて、私は改めて警戒する。
「紂王よ。そなたは私をどうするつもりなのだ?侵入者として始末するつもりなら、長話をした意味がわからぬ。それに其方の話に出てきた太公望は、この私と何かしら繋がりがあると言う事は、今日までの長旅で知っておる。太公望の身代わりとして私をいたぶるつもりなら、先ずは本人捕まえてからにしてくれんか?この私も困っておるのでな」
紂王は私を見て頷くと、その本意を話し出したのだ。
「この余はカミシニとして再び生を手に入れた。しかも前世とは比べ物にならぬ手に余る程の超越した力を持ってな」
「う、うむ」
「余は何の為に甦った?余が目覚めたこの世界には、余が最も望む妲己がおらぬ。この世界は既に滅びかけ、人口も減り、我らのようなカミシニなる異形が跋扈する世界。この世界で余が行う政治は何だ?この力を持ち、世界を支配するか?それとも妲己を苦しめた天界を滅ぼすか?」
「ど、どうするつもりなのだ?」
紂王は悲しげな目で笑った。
「何もかも全てが虚しい」
「紂王?」
「天界を滅ぼすにも、余は妲己の喜ぶ顔が見たかった。その妲己がおらぬのに、何の為に余は滅ぼす必要がある?復讐か?つまらぬ。わからぬ!余はこの先の未来を動かす力を持ち合わせながら、その意味を見いだせずにおるのだ」
「つまり私らは争わなくても良いのか?」
紂王は目の前に置かれたコップを手に取り、飲み干す。
「姜子牙よ。余は妲己をこの魔眼を持って探し尽くした。しかしその気配は勿論、その消息が全くといって掴めぬ。例え強力な封印の中にいようと見つけられるこの魔眼を持ってしてもだ。うちひしがれたよ。再び甦っても、妲己のいない世に何の未練もないと言うのに。そんな時だよ。余がお主の存在を見つけたのはな」
「!!」
「この世で唯一、妲己を知り、この余の知らぬ妲己を知るお前に余は興味を持ったのだ。前世では憎き敵であったが、同じ女を愛したお前なら、この胸の渇きを潤わせてくれると信じてな」
「それは、つ、つまり?」
「この余にお前の知る妲己の話を聞かせるのだ。お前の記憶に残る妲己の全てを語れ!さすれば褒美として余は無駄な殺生は行わぬ。どうだ?お前にとっては藁から手を伸ばす程の提案であろう?」
「!!」
な、何てこったい~
これは平和への提案なのか?
争わずに済む手段を紂王から投げられたのか?
しかし私、妲己の事など知らぬ。
完全に太公望と、私を同一視しているのでは?
これはヤバい。ヤバいのでは?
万が一、この私が妲己の事など全く知らぬと口を滑らせれば、紂王は間違いなく世界を滅ぼすために動き出すだろう。
(嘘っぱちで物語を作るか?しかしペテンにかけられるのか?紂王を?)
冷や汗が濁流のように背中を流れる。
(さっきの話から組み立てられるか?妲己の人生を事細かく?無理だ。知らぬ者をどう語れと?こうなれば本物の太公望を見つけ出した方が良くないか?)
焦る私を見て紂王が貫くような眼で見ている。
目を合わせられん。
「あ、あのな」
私が何かを口に出そうとした時だった。
「いや~妲己って、あの女狐っすよね?あの女は普段から口が悪くて、怒らすとめちゃくちゃ恐いくせに、夜中になると、いつもメソメソ泣いているんですよ~」
「はっ?四不象?お前、何を?」
「私、いつも嫉妬してたんすよ!太公望様の夜の相手に眠るもんだから、この私はいつも追い出されるのですから~」
「お、おい!ちょっと待て待て!」
四不象は、目の前に妲己がいない事を言いように、嘗ての腹いせをぶちかますように喋り出したのだ。そんな四不象の止まらぬ妲己への愚痴話の中で、私は背筋が凍りつく。
「ち、紂王?」
振り向けなかった。
恐かった。
それはそうだよな。
嘗ての男に抱かれた話を聞かされた上に、愛する女への侮辱。
四不象よ、お前の口が災いで世界が終わるかもしれんと言うのに、吐き出し終えてスッキリした顔をしとるでないよ。
「で、ご主人様!言ってやってください!この私との強い絆は本物で、妲己とは結局、一時凌ぎの性の捌け口だったと!」
「お、おい!言い過ぎだぞ!」
「確かに若いご主人様も、そのくらいの遊び心があったとしても、この私はいつまでも忠誠を尽くしますからね~ふむ!」
(お、終わた。世界が終わたぞ。四不象よ)
すると黙っていた紂王が四不象に向かって質問したのだ。
「おい、獣よ。お前は妲己の居場所を知っておるのか?」
「えっ?あ~知ってますよ」
(へっ?)
私は割り込むように四不象の肩を掴み問い質す。
「お前は!妲己の居場所知っておったのか?何処だ!何処におる?妲己さえ連れてこれば、この場が落ち着くてないか!」
「そりゃ~無理ですよ~」
「何故じゃ??」
すると四不象は誰も知らぬ話を、この場で話したのだ。
「妲己はですね。力を弱らせ、その命を長らえる為にご主人様が封じていたのではないですか?」
「な、何を?それはつまり?太公望が妲己に何かしたのか?」
「そしたら変な連中に遺跡の決壊が壊されて、そこに封じていた魔物共々逃げ出したんですよね。で、そのどさくさに紛れて妲己の奴は、人間の男と消えたのではないですか~」
「人間の男と何処に消えたと言うのだ?妲己は?」
「あれは確か~未来へと繋がる穴の中に、強力な魔物と共に、人間の男と消えたって」
「なっ?なっ?なっ?何ぃ~??」
まさか人間の男と駆け落ち?
「所詮はアバズレだったのですよ~あはは」
「笑い事ではないぞ!」
「私が言いたい事はですね?ご主人様も紂王さんも、そんなアバズレと縁が切れて良かったって事なんですよ~あはは!良か♪良か♪」
「お~ま~え~」
空気読めないの?
馬鹿なの?
わざとなの?
それだけじゃない。
私はもう理解出来る頭がパニクっていた。
この戦争の発端であった妲己を太公望がかくまっていて?それを見ず知らずの人間が拐って?未来の穴とやらに消えたと?どれもこれも理解不能だわ!
しかしそれ以上に、混乱し、そして感情の波が激しく動揺しているのは間違いなく紂王の方だった。そして震えるような声で言った。
「も、もう生きている事に何も未練もない。この余は、消え去りたい。だがその前にやらねばならない。安心するが良い。もう誰も余のように悩み苦しみ悲しむ事も考える事もないよう余と共にこの世界を道連れにする。お前たちとも短い付き合いだったな」
「うわぁ~!」
直後、解放された紂王の力が溢れるように噴き出し部屋中を覆っていく。
が、その直後、紂王の背後から飛び出して来た者が剣を抜いていた。
「この隙を待っていた」
「!!」
あ、あの者は間違いない。
突如、紂王に向かって斬りかかった者。
「姫伯邑考!!」
次回予告
姫伯邑考の乱入は、この戦いを変えるのか?
そして姜子牙の運命は?




