魔眼を造りし者
妲己が百眼仙魔を討った。
しかしこの任務はまだ終わったわけではなかった。
私は眼力白刃。
私の父、百眼仙魔が妲己なる輩に討たれ、その残虐なる行為は我々国民にも及んだ。
数時間前まで平和だったはずなのに。
目の前で崩壊する城。
私は恐怖に震えた。
「逃げるのです!」
「あ、姉上」
私は腕を引かれて城の奥底から隠し通路を通り脱出を試みていた。
この通路は強力な結界で守られ、入り口も封鎖して来た。
この通路を抜ければ生き延びられると信じて、我々は列を作り歩く。
数百人はいる。
数千はいた三つ目一族が、襲撃僅かで滅びの危機にあった。
「大変です。姫様。何者かが我らの通るこの通路に入り込んだもようです」
「それは本当ですか?あの妲己が?」
「いえ。私の眼には」
魔眼を持つ三つ目の戦士は第三の眼を開くと光輝き、遠く離れた場所から追って来ている者の姿を捉えた。千里眼とは異なる能力。
魔眼を発動しているのだ。
我らの一族は魔眼なる能力を持つ特別な一族であり、第三の眼には特殊な能力を宿している。
その能力は個々で異なり、その個性から神にも匹敵する力を持つのだ。
しかしこの力が原因で、我らの一族は命を狙われているに違いない。
神々が恐れる魔眼の力を持つ我ら一族を根絶やしにする目的。
「我らが食い止めましょう。姫様は先にお逃げ下さい。貴女が生きて延びさえすれば、いくらでもやり直せるのだから」
「お気をつけて」
「はっ!」
場所は変わる。
この隠し通路を単独で向かって来ている者がいた。
その者は確実に迫っていた。
「ほぉ。儂の接近に気づいたか?気配を消していたと言うのに。それも魔眼の力ってわけだな?三つ目の者共」
すると三つ目の戦士が侵入者に向かって声をかけた。
「お前は何者か!」
その問いに侵入者は一息し、答えた。
「まだ馴染みはないが、新たに我が師より命名されたわしの名を教えてやろう」
その者は手にした宝貝を腰から抜くと、
「わしの名は太公望!いずれ世に広がる名じゃが、その頃にはお前達はおらんがな」
抜かれたのは鞭。
まるで雷のごとき雷鳴が響くと、その場にいた三つ目の戦士は頭上から両断される。
「やはり敵だ!油断するな!」
生き残った三つ目の戦士は魔眼を発動させると、その妖気が格段と上がり、動きが加速する。
「魔眼の戦士か。しかしわしの眼とどっちが凄いか試してやろうか」
太公望は一度瞼を綴じ、再び見開くと右目が銀色に光輝きこの一帯を覆う。
「奴も魔眼所持者か?しかし何て禍々しい力を発するのだ」
が、その直後、その場にいる三つ目の戦士達の動きが鈍り、まるで重りを持たされたかのようにその場に立ち止まり息をきらす。
「く、苦しい・・・」
全身が痺れ、寒気を感じる。
その理由は太公望の右目から放たれる能力により、その身から水蒸気のような赤い蒸気が理由だった。
「あれは血か?奴の身体から発しているものは?アレが我らの力を削っていると言うのか?」
太公望は得意気になって答える。
「これが忌眼。お前達一族が研究し、追い求めた魔眼の究極の姿かもしれないぞ」
「何だと!?」
「因みに儂のこの眼は忌眼と呼ばれし神をも殺す賜物だ」
直後、三つ目の戦士の一人の眼が破裂し、その者は干からびるように消滅した。
「忌眼発動時に存在を保ち続けることが出来なかったのであろう。しかし案するな。お前達も直ぐに追わせてやろう」
「!!」
破裂するように消滅していく三つ目の戦士達。
まるで一方的な虐殺だった。
返り討ちにした太公望は顔を背け呟く。
「悪いとは思うよ。恨みたければ恨んでくれ。しかしあの者の信頼を得るためには必要なのだ。少なくともわしはこのような手段しか思い付かんのだ」
太公望はこの度の指令について思い出していた
。三つ目一族を危険視し、その理由。
「三つ目一族からは魔眼を造り出せる秘術を持つ者が存在すると言う。その者を始末する事が任務」
魔眼の能力には強化や特殊な能力を秘められている。
中には世界の理をも変革する力を持つ魔眼が存在すると言われている。
そのようなものを神族以外に持たせる事は脅威になりかねないと思ったのだろう。
「これから先、邪魔になる可能性があれば早急に摘むべきと判断されたか」
太公望は笑みを見せると、呟いた。
「この儂も、いくら飼い慣らされていると言っても、いつまで置いておいて貰えるか」
そして先に向かった。
「!!」
隠し通路の先を向かい、仲間達の死を感じた三つ目の姫は、
「逃げる事は叶いませんか。恐らく追手の狙いは・・・」
姫は私に告げる。
「白刃。私達は生き残りはしないでしょう。戦い挑んだとしても返り討ちに合う事は火を見るより明らか。しかし決して屈したりはしません。父は私達に逃げるように命じて単独で戦場に赴きました。だからその命をかけてくださった父の意思を残さねばなりません」
「姉上?ならばどうすると?」
「私達は抗います。この命を使い、あの者達に刃を突きつけてやるのです!」
先導していた姉上の意を理解した三つ目の民は、その場に立ち止まり、印を結ぶ。
「時間がありません。貴方も始めるのです!魔眼の儀式を」
「魔眼の儀式!」
一族の私が魔眼の儀式を知らぬはずはなかった。
そしてこの儀式を行える者は一族で一人だけ。
父上より一族の記憶の全てを授かりし後継者の姉上のみ。
「幾千の時を超え、我らの魂は滅びる事無し。捧げたる我らの命を糧に、万能たる無限の力を与えよ」
姉上の言霊が響くと、印を結び唱えていた一族の者達が苦しみだし、踞ると、その身体から白い靄が抜け出す。
「れ、霊魂か!」
霊魂が抜け出た器は人形のように崩れるようにその場に倒れていく。
そして宙に無数の魂が浮かびながら漂った。
異様な光景。
そこに現れたのだ。
追手が!!
「まさか一族共々道連れに心中とはな」
太公望がこの状況を理解していたかのように姉上を見て叫ぶ。
「お主が魔眼の造り手か!」
「もう遅いわ!」
姉上は掌を開くと、一族皆の魂が弾けるようにこの場から飛び去り消えた。
「我が一族の魂は宿る。そして新たな器に寄生し、その力を解放するのです」
「なるほど。魔眼の正体は意思を持った魂を媒介にした錬魂術か。飛び散った魂は寄生した者の魂と同調し、やがて力を解放する」
「その通り。しかも今となっては追う事は勿論、捕まえる事は叶わぬ。魔眼は理を覆し、神を凌駕する力となろう。そしてその矛先はお前達神族へ向けられると知れ」
「構わぬ。神族が討たれようが、お前達一族が滅びようが儂にはいっこうに構わぬ。しかし仕事は終えさせて貰うぞ」
「!!」
直後、太公望から抜かれた打神鞭が姉上の首を落とし、地面に転がった。
「うわぁあああ!姉上ぇええ!」
唯一生き残った私は姉上の変わり果てた身体を抱え、落下した頭を抱き締める。
「生き残りか。一族と共に心中を避けたか?それは生への執着か?まぁ、どうでも良い。儂の仕事は終えた。お前は一族の墓碑でも立ててやると良い。そして身を隠して生きていくのだな。もし生存が知れれば再び討伐者が現れよう」
「ぬぅああ」
私を殺さず、太公望は立ち去った。
私は唯一、生き残った生存者。
この憎しみを糧に、いつか必ず復讐を誓う。
時は経ち、私は魘されながら目覚める。
「嫌な夢を見た・・・」
私は今、生きている。
飛び散った同士の魂をかき集めて身に宿し、その力を我が物にして。
父上と同じく百眼の能力を持ちし私は・・・
百眼魔王
太公望の眼が私の顔に近付き、まるで脳をかき混ぜるかのような感覚に襲われる。
洗脳?違う。
植え付けているのだ。
恐怖を!
生かされたいなら逆らうな。
何も考えず、忠実な下僕へとなれ。
一族の復讐など愚かだと。
「良いな?お前は第二の生を楽しく過ごしておれ」
私は頷くと、その場に崩れるように意識を無くして倒れた。
その後、今の私は過去の記憶と洗脳は解かれた。
この私を主従させ、洗脳をとき、この私の前にいる男によって。
その者は私が唯一認めた男。
くそムカつくが、私の恩人。
「次は何処に向かうつもりだ?金禅子よ」
「時は進んでいる。あの日に向かって」
「?」
「お前は俺の進む道に従えば良い。いずれ来る時に、俺達は動き出す」
意味は分からない。
金禅子はまだ語らぬから。
この私の復讐のために、この男に従う事で念願がかなうなら・・・
その時への道しるべに向かうだけよ。
次回予告
妲己は記憶を取り戻す。
そして新たな運命の歯車の中へと落ちていく。
 




