百眼仙魔の呪縛!?
妲己は天界に操られ、そして血に染まる。
我は妲己じゃ。
あの時の我は、洗脳されて与えられた力を使うだけの人形じゃった。
我に与えられた力とは封じられし倶利伽羅の王が持つ忌眼の力。
移植された忌眼は、我の能力を跳ね上げただけでなく、カミシニと呼ばれる血の力をも操れるようになった。
己の血の強度を変質させる事で鋼以上の武器や鎧と変え、生き物の手足のように自在に操り、更には神族の能力を無効化させる。
正に神を超える能力じゃった。
「驚いた。血中濃度が三百の数値を超えておるぞ。これが忌眼体蝕者か」
血中濃度とはカミシニの血の濃度。
濃度が濃いほど、その能力は力を増す。
当時の比較するカミシニがおらんから分からぬが、血中濃度三百越えは覚醒した倶利伽羅の王の能力値だと言われておる。
我に与えられた最初の仕事は、魔眼能力者の殲滅じゃった。
魔眼とは異能力を発揮する力で、本来神が持つ能力とは異なる世界の能力だと言う。
この力を放って置けば、後々神を脅かすと判断されたのじゃ。
そして魔眼能力を産まれながらに持つ種族。
三つ目眼一族の国が標的となった。
その地の王は百眼仙魔と呼ばれる妖仙魔王。
「他愛もない。我がほろぼしてやろう」
我は場外に出ると、我に忠実な妖狐一族が既に戦闘の準備を終えていた。
「お前達、我に付いてまいれ!」
「おぉおおお!」
妖狐一族は獣神族の中でも秀でた能力を持ち合わせていた。
このまま放置して置くのは惜しいと、我は一族を従えていた。
そう言えば、我が国へ帰還した時、失踪した我に向かって無防備に近付く父親と母親の首を跳ねたのを思い出す。
他愛もない。
妖狐一族の王であった父を始末した事で、我が新たな王となった。
歯向かう兄弟は全て切り捨てた。
不思議と何も感じなかった。
「うふふふ」
その後、既に幾つかの一族を根絶やしにした妾の名声と脅威は世の中にしれわたっていた。当然、神族の陰謀に使われているなど誰も信じまい。狂気の妲己が己の力を過信し、侵略行為をしていると誰もが思ったに違いない。
「行くのじゃ!」
狐火を纏う妖狐の戦士が、額に第三の眼を持つ一族に攻撃を仕掛けて、襲い掛かる。
「こ、このぉ!」
三つ目一族もまた力のある一族。
その力は妖狐一族にひけをとらない。
互いに拮抗する戦いが繰り広げられ、果てない長き時間を費やす。
「やはり我が一網打尽にするしかなかろう」
我が立ち上がったその時、
「ぬっ!!」
突如、上空が闇に覆われると、無数の眼が現れて、その瞳が見開かれた。
「先に腰をあげたか!百眼仙魔」
上空より降り注ぐ怪光線。
その瞳に写る敵を根絶やしにする。
怪光線にその身を焼かれる我が兵である妖狐一族の屍の中、我にも怪光線が襲う。
「日焼け止めでも持って来るべきだったようじゃ」
我に触れる前に怪光線消滅する。
それは我から立ち込める赤い障気のせい。
カミシニの血が蒸気となって、神気だけでなく、妖気や能力を無効化させておるのじゃ。
「さて、そろそろ狩りの時間じゃな」
我は上空に無数とある瞳の中より、その本体を見つけると、
「妖狐焔・血染め」
舞い上がる血の粉が上空へと消える。
その直後、
「ウガァアアアア!」
悲鳴をあげた老人が上空より落下して来ると、地面に衝突する前に掌から風圧を放って落下の勢いから免れた。同時に上空に広がっていた眼が全て消えた。
「どうやら隠れんぼは我の勝ちのようじゃ。お前が百眼仙魔じゃな」
上空に現れたのは額に第三の眼を持つ巨大な老人の顔。
「お、おのれ!神族!今まで尽くしてやったわしを切り捨てるつもりか!」
「知らんわ。我は目の前の獲物を狩るのみ」
「ならばお前を始末した後、わしは天界の所業を全て世に知らしめる」
「よくは知らんが、そう言う性根だから狙われたのだろう?愚かよの~」
「愚かなのはお前の方じゃ!狐の女」
「!!」
百眼仙魔の瞳が真っ赤に光輝くと、我は全身に重さを感じ、急降下するように落下する。
「呪縛か?」
全身に絡む蛇に拘束され、地面に衝突する寸前、我は口から狐火を吹く。
大地を熔岩に変え、我はそのまま燃え盛る炎の中にその身が消えた。
「馬鹿め!自らの炎に焼かれおった」
が、異変が起きる。
燃え盛る大地が盛り上がって上空に浮かぶ百眼仙魔の顔面を炎の渦に閉じ込めたのじゃ。
「こ、これは?」
「狐火は幻視を見せるのじゃよ」
「この呪術の王たるわしに幻覚を見せおったのか!この獣風情が!」
「この我を見下した地点で、お前の力量も知れたものよ」
百眼仙魔は炎の渦の中より飛び出して来ると、その本体は全身に火傷を負っていた。
「おのれ~!ゆ、許さんぞ!お前の頭をもぎ取り、天界の者達へ突き返してやるぞ!」
百眼仙魔はその第三の瞳に再び妖気を籠めると、全身に無数の眼が出現して同時に見開く。
「百眼直心針」
「!!」
その瞳に見られた時、我は全身に痛みを受ける。
まるで焼き付くような針を全身の神経に突き刺された感覚じゃった。
「ご、こぶっ!」
吐血する我の姿を見て勝利を確信した百眼仙魔は高笑いをした。
「躱す事も逃れる事も出来ぬ死滅の魔眼じゃ!わしの眼に写った全ての生ある物体は無数の針に全身を貫かれるのじゃ!」
しかし我は血まみれになりながらも倒れずにいた。
「立ったまま尽きたか?」
しかしユラユラと我は身体を動かしながら一歩一歩と前進していた。
「ば、馬鹿な!?生きていられるはずない」
「並みの者ならな。じゃが、我は痛みには慣れておる。この程度の痛みは四六時中嫌と言うほど味わった・・・」
その時、我の瞳が銀色に光輝き、身体から流れる血が蒸気のように身を覆う。
その禍々しい血は地面を枯らし、その地を汚すように大地の気を淀ます。
「そのような、あり得ぬ。お前の魔眼、いや!その瞳は!ありえ・・・ま、まさか!?そうか、お前は忌眼体蝕者か!」
百眼仙魔は忌眼体蝕者の名を知っていた。
封じられし忌神の瞳を宿した神族の持つ切り札なる存在を造り出した事を。
そして自分自身もその計画に多少なりとも関わった事を思い出したのだ。
「お前は、あの時の片割れか!」
「何を言っておる?」
「忘れたのなら思い出させてやろう。何せお前の記憶を消したのは儂じゃからな」
「わけのわからん事を」
我は忌眼の力を解放すると、その八本の尾が伸びて百眼仙魔の身体を貫く。
「呆気なかったのぉ?呪術の王とは大層過ぎた名声のようじゃな?」
「そうか?ふふひひひ。確かにこの儂の力ではお前には及ばんじゃろう。なにせ儂の魔眼の力は全てその忌眼の前では無力。それほどの至宝なのじゃ。しかしこの儂は呪術の王!この命を捧げ、お前には相当の死よりも苦しみ、生きている事を悔やむ道を歩ませてやろう」
「気持ち悪い奴。その口黙らせてやろう!」
直後、我の視界から百眼仙魔の身体は塵も残さず消滅した。
が、その塵は妾の目の前で瞳と化した。
「う、失せよ!」
が、我は頭を締め付けられる激痛に悲鳴をあげた。
(今、何かされたのか?何をされた?)
我の忌眼解放時の前では奴の魔眼は能力を失い、無力と化す。
だから我に術をかける事など不可能なのじゃ。
(しかし我は間違いなく何かをされた)
激痛が襲い、底知れぬ不安が胸元を鷲掴みにされたかのように締め付けた。
「妲己様!」
我の様子の変化に案じた妖狐の兵が近づくと、我は構わずに。
「我に触れるなぁーーー!」
呪われし我の飛び散る血が近付いた仲間達を消滅させた。
そして我は額を押さえながら暴れた。
三つ目一族だけでなく、同胞すら残さずに手当たり次第に目に見える者を手にかけた。
暴走。
後に知る事になる。
百眼仙魔は我に術をかけたのではなく、解いたのだと。
かける事は不可能でも、一度かけた術を解く事は出来たのだ。
奴が我にかけた記憶の改竄を元に戻したのじゃ。
次回予告
妲己が己の呪縛に苦しんでいた時、もう一つの戦いがあった。




