駆け抜け逃げ延びろ!生き残るために!
正義くんの学校の修学旅行先で起きた事件の始まり。
それが化け物の猟奇殺人の始まりだった。
突如、修学旅行先で起きた地獄のような出来事。
そこに真坂 正義君は居合わせてしまったの。
更に目の前で友人の横内 智恵子さんが化け物に殺され、逃げ迷う正義君は離れ離れになっていた永野彰くん、坂本隆くん、永井美奈さんと合流したの。
「そうか、横内が…」
悔しがる隆くんに、彰くんは「それでも正義が無事だったのは救いだ」と繋げる。美奈さんは泣いたままだった。正義君もまた目の前で横内さんを襲われて茫然としたまま。
「僕のせいだ…僕が代わりに死ねば…」
自分を責める正義君に、隆くんは正義くんの首を掴み言う。
「お前に何が出来たって言うんだよ!横内には悪いが…お前は横内の犠牲で生き残れたんだ!だから、馬鹿な事を言うな!」
「た…隆?」
四人は教師達がいた最初の部屋に隠れていたの。
「灯台もと暗しだな?奴等もまさか自分達の部屋に隠れているなんて思うまい」
彰くんの考えは的中し、化け物はここには来なかったの。
「他のクラスの連中はどうなったんだろうね?」
「解らねぇよ…」
「とにかく逃げる手段を考えよう!」
けど、誰も策が思い付かなかった時、正義君が答えたの。
「ここに来る途中、他に逃げてるクラスメートが携帯をかけようとしていたけど、電波が繋がらなかったように見えたよ。先生が言っていた見えない壁のせいかもしれない。でも公衆電話なら?」
「ホテルのは無理でも外のなら大丈夫かもな?けど公衆電話なんかあったか?」
「それならホテルの隣のお土産屋で見たわ?」
「そこに見えない壁ってのが無ければ良いけど、他に手段はなさそうだね」
四人は作戦を立てる。
この場合、電話をかける者と、化け物を寄せ付けない者、囮が必要になる。
「僕がやるよ!」
「正義?」
「別に自暴自棄になった訳じゃないよ?そもそも作戦を立てたのは僕だし…それに逃げる手段もある」
「えっ!?」
無我夢中で正義君は逃げている間、襲われたクラスメート達の死体を目にして来たの。そこで気付いた事があったの。
「整髪剤や匂いの強い物を好まない…かもしれない」
それは、食べ残されていた残骸が告げていたの。
「整髪料か?育毛剤とかでも良いか?」
生憎、この部屋は教師達の部屋で、そういうのが幾つかあったの。
「正義?死ぬなよ?」
彰くんは美奈さんをサポートするために一緒に行動する事になり、隆くんは、
「正義、俺にも半分よこせよ?俺も囮やるからよ!」
「隆?」
「知ってるだろ?俺は鬼ごっこで捕まった事がなかったのをよ?」
「命懸けの鬼ごっこだよ?」
「馬鹿!お前がカッコつけてるのに、俺が脅えて何もしないわけないだろ?」
そして四人は作戦に出る。
先ずは階段を降りて、外に出る。そして土産屋に駆け込むだけ!万が一化け物が現れたら正義くんと隆くんが引き付け、美奈さんと彰くんが電話をする。
先生の財布からコインを何枚か抜いて準備し、身体中に整髪料やスプレー缶を縛りつける。
「こういうのもあった方が良いよな?」
隆くんは鋏とカッターをしまう。そして四人は行動に移したの。四人は理解していた。行動しなきゃ脅えながら化け物に見付かって殺されるだけだと…それなら何かやらなきゃ死に損になるのだと。
四人は部屋を出ると恐る恐る警戒しながら土産屋に向かう。階段を降りなければ下には付けない。しかし階段には必ず化け物は待ち構えているに違いない。
そこでホテルの四階から防災用のロープを使って外から逃げる手段を考えた。
「恐いわ…」
今いるのは四階。男子達でも困難なのだから、唯一女子の美奈さんは生きた心地がしなかったと思う。
身体中に安全ロープを縛りつけ、四人はゆっくりゆっくりと降りていく。
たまに生き残っていた生徒が化け物に見付かって悲鳴が聞こえたりもして、その恐怖は堪らない。
「美奈!大丈夫…僕が傍にいるから!もう少しだから、頑張って!」
正義君は自分自身も体力も力もあるわけじゃなかったけれど、涙を流しながらロープを握る美奈さんの手の上に自分の手を置き元気付ける。
「正義…」
幼なじみの二人は互いの事をよく知っている。だからこそ勇気がわいてきた。
「生きて、またお父さんとお母さんに会いたいよ…」
「会えるさ!だから、負けないで!そしたら僕が美奈を必ずおじさん、おばさんの所に送り届けるから!」
「うん!」
二人は互いに励まし合いながら、先に降りた彰くんと隆に追い付き、地上に降りれたの。
「さて、ここからが大変だぞ?」
ホテルの周りを遠回りしながら土産屋に向かう。その途中、化け物は必ず現れるはず!ロープを降りている途中、生徒の悲鳴の位置と数から四体はまだホテルにいると解った。
「お前、よくそんな事を冷静に分析出来たよな?俺はいっぱいいっぱいだったぜ?」
「自分でも驚いているけど、何故か頭がハイになって余計に回ってる感じなんだ…変だよね?」
「いや、助かる。その情報から修学旅行に来た教師は六人、つまり二人の居場所が不明なんだよな?」
「まだホテルの中にいれば良いのだけど…」
「でも、逃げた生徒が見当たらないから、恐らく一体は外にいるはずだよ!」
唾を飲み込む。
そして四人は二人一組で距離を開けながら土産屋を目指す。先を進むのは正義くんと隆くん。
出来る事なら出会せないまま、やり過ごせたかった。
しかし、化け物が一体ホテルの表玄関に待ち構えていたの。
「きっと裏の出口にもう一体いるはずだ…なら、二体が一緒にならないように別の場所に移動させるしかない」
「どうやって?走ったって追い付かれるぜ?」
「そう思って、幾つか罠を仕込んでおいたよ」
「えっ!?」
正義くんはホテルの中にいた時に何かを一人で作っていたの?そして四人は互いに手を重ねる。
「誰も死ぬなよ?」
彰くんの言葉に他の三人も頷く。生きて必ず帰ると!
「行くぞ!正義?怖じけてないか?」
「大丈夫だよ!」
「そうか?」
隆くんは普段弱虫の正義くんが頼もしく感じた。
「GO!!」
二人は走ると、わざと化け物に気付くように、
「うわぁあ!化け物だ!」
化け物が自分達に気付いた事を見届けると、二人は方向転換し逃げる。
「餌ぁ?餌、見付けた!」
化け物は二人を追って動き出した。そして姿が見えなくなったのを確かめた彰くんと美奈さんは走って土産屋に飛び込んだの。
「無事に入れたようだ」
「うん」
二人はコインを公衆電話に入れると110番にかける。「繋がった!」そしてホテルに起きた事を説明…しなかった。
所詮、子供の言葉なんて警察が信じてはくれないと知っていた正義くんに言われていたの。
「学校の先生が刃物を持って生徒を襲っているんです!」
警察は話を聞くと、直ぐに向かうと答えたの。更に二人は消防署や救急車も呼び、更に電話帳の至る番号をかけたの。
これが上手くいけば、騒ぎが大事になってこのホテルで何が起きているか気付くに違いない!そしたら事態解決に向かうはず。と!
そして正義くんと隆くんは化け物に追われていたの。異様な動きで、まるで獲物を追い詰めるように迫る中で、二人は一心不乱に逃げていた。
「次を右だ!」
「違う。左に、隆!」
「えっ?」
隆くんは正義くんを信じて左に曲がると、正義くんが背負っていた鞄から何かを取り出して投げつけて来たの?それは両先端に重りを付けた縄?
縄は回転しながら飛んでいき、隆くんの背後に迫っていた化け物の足に絡み付かせて転ばせた。
「マジかよ?正義!ナイスだよ!」
けど、化け物は縄を力任せに引きちぎり、再び立ち上がろうとする。
「ヤベッ!」
二人は振り返り走り出そうとした時、驚異的なジャンプ力で二人を飛び越して目の前に現れたの。
「うわぁあ!」
叫ぶ隆くんに、正義くんは鞄から取り出した毛髪スプレーを化け物に向けてかけたの。化け物は突然の反撃に鼻をつまみもがく。
「成る程!正義、でかした!」
「行こう!」
二人は化け物から離れて逃げていく。その時、サイレンの音がしたの。
「彰くん達が上手くやったようだ!」
「のようだな?」
その後、結界は壊れ、警察官だけでなく武装した密教僧達が入って来て化け物達を殲滅したの。
「あの人達は?」
既に救出されていた彰くんと美奈さんと合流した正義くんと隆くんは、
「無事だったんだ…」
と、へたりこむ。
この化け物事件はニュースにはならなかった。修学旅行に来ていた教員と生徒達が大量殺人にあったのに…
それから正義くん達は保護管理下で治療を受ける事になる。あんな事件の後だから精神的に疾患を生じてもおかしくないからと。
治療後、正義くんは部屋から出ると、そこに陰陽師の格好をした人が向かって来て伝える。
「君は見込まれたようだ」
「えっ?」
意味も解らないまま、正義くんは自宅療養を許されたの。
半年後…
正義くんは新しい学校へ転校する事になった。あの怪奇事件の事は口外しない事を条件に。
新しい学校には…
「隆?彰くん?美奈!」
三人も同じ学校に転入して来たの。恐らく見知った友人が傍にいる事で安心を与えるため。他にもあの事件で生き残った生徒達が他の学校へ転校したらしい。生き残ったのは32人だと言う。生き残っても恐怖体験から日常生活が送れないで療養している生徒も半数以上いるとか。
新たな学園生活が始まる。
そんなこんな。
次回予告
正義くんは生き残った。
だけど、それは苦しみの始まりでもあった。
そんな正義くんに?