紂王と妲己!
紂王が語るは封神大戦と呼ばれる戦争の前、
そこに現れた者との邂逅が引き金となった。
余は紂王。
それは余がまだ力無き人であった出来事。
余は人の王の子息として、絶対的な未来を約束はされていた。
この殷国三十代王と呼ばれる宿命。
余は優れ、末子であって、余は兄達が平伏す才能を持ち合わせたのだ。
後、この余が殷国を牛耳る事は間違いなかろう。
誰も余には逆らえぬ。
何故なら余は神に愛されし申し子なのだから。
そんな時、忠臣が余に妻をと娘を連れて参った。
私は一目見て興味が薄れる。
確かに美しく、気品は良いとされよう。
しかし物足りない。
この余を満たす魂の揺れを感じぬ。
そんな時、余は馬上し一人城を出て湖を走らせていた。
「何も感じぬ。余は満たされぬ」
全てを与えられし、選ばれし人間。
その時、余は夜空が光り、轟音が後から聞こえて落馬した。
転げながらも怪我一つなく身を起こすと、湖の畔に雷が落ちたのだと把握し、その状況を見て時が止まった。
「あ、アレは?」
その場に見たのは、人影?
人なのか?
その場に倒れしは娘だった。
人と言い切れぬのは、それほど美しく、惑わしい光り輝く魔性の娘。
その者は人でもなければ、ましてや天女でもない異形の女人であった。
「これは余に与えられし至高の褒美か?神が余の為に捧げる献上品なのだな」
余は娘を背負い、人里へと入る。
そして宿を借りて部屋に何者も入れさせぬようにと金を与えた。
「う~ん、うん、あっ」
娘が起きたようだ。
そしてその寝顔を見ている余に気付き、
「美しい麗人よ。妾を救ったのはお前か?」
「うむ。そうだ」
落ち着いた喋り口調に、透き通った声。
余は一目で心を奪われた。
「どうやら追手はおらんようだな。長居は出来ぬゆえ、我は立ち去ろう。命の恩人であるお前にも迷惑をかけるわけにはいかんのでな」
立ち上がった娘を見て、余は固まる。
その娘は妖の者。
九本の美しき尾を持つ妖狐であった。
「待つが良い。追手だと?お前を追う者達など、この余が返り討ちにしてやろう」
「自信ありげだな?人間よ」
「余はこう見えても、多少腕には自信があると思っておる」
「そうか、ならその自信は逃げ足に使うと良い。相手はお前が思うような小者ではないのだから」
「無礼な!その者達は何者だ?隣国の腕の立つ武人とて、斬り伏せる」
だが、次の言葉に余も口が塞がる。
「我を狙うは神々だよ」
「か、神!?」
余は神に追われし妖狐との遭遇に心を奮わせ、そしてこれから始まる未来に武者震いしていた。
「妖狐よ?余はお前を手に入れる。お前を余の妻にすると決めた」
「お主はウツケか?人が妖狐の我を妻にと?それに我への追手はどうする?お前達人間が手を出せぬ境界に、自ら足を踏み込むつもりか?自殺願望甚だしいわ」
「お前も余を見くびるなよ」
「面白いな。人間。お前は何と言う?」
「余の名はチュウオウ。この人間の国の王だ!お前こそ名を名乗るのだな?妖狐の娘」
「我の名は妲己。この世界に放り込まれた厄災の片割れよ」
全てが謎に包まれた妖狐妲己との邂逅。
これが余にとって、運命を変えた日。
それから余は妲己を国に連れ帰った。
妲己には人の姿に化けさせ、そして余は妲己を正式に妻にしたと告げた。
確かに苦言をていする臣下はいたが、この余に真っ向から逆らえる者はいない。
「さて、妲己。話すが良い。全て話して、この余が怯むかどうか試すのも余興ではないか?」
「良かろう。妾の話を聞いて逃げるも良い。このまま捨てるのも良い。その前に」
「何だ?」
妲己は印を結び壁際に指を向けると、壁に人影が浮かび出して姿が見え始める。
この部屋に侵入者?
気配なく、この部屋に入り込むほどの者が忍び込むとは!
「その話、この俺にも聞かせて貰いたい」
「お、お前は聞仲!」
聞仲とは余の側近にて、この殷国最強を誇る武人であった。
「この寝室に入り込むとは無礼だぞ!聞仲」
「無礼承知の上。しかしチュウオウ様の傍らにいる女は只者ではありません。この俺と同格、それ以上の力を感じる。放っては置けません。話次第では俺がその者を斬る」
「聞仲」
この余に唯一、口を挟める存在。
「そうだな。これから始まる戦にはお前の力は必要不可欠だ。此度の無礼は許そう」
「有り難き慈悲、痛み入ります」
その話を聞いて、妲己も聞仲への警戒を解くと、余の顔を窺う。
「この者の名は聞仲。信じて良い。そして必ず余とお前の力となるだろう」
そして聞仲にも目を向ける。
「先ずは話を聞いてからだな」
「ハッ!」
妲己は、ベットの上で楽な姿勢で語る。
自分が何者で、この地上に来た理由。
そして今、この世界が起きている状況について、知られざる陰謀の全てを。
次回予告
妲己は語る。
仙界大戦が起きた理由。
そして自らに起きた悲惨な過去・・・




