甦りし伯邑考!?恵まれた力!
文王の死は、伯邑考を蘇らせた。
真の伯邑考とは?
私は殷郊。
私は、文王との一騎打ちの最中、あの者に情けをかけられ命を救われてしまった。
その事への怒りと恥ずかしめから、私は文王にトドメを刺した・・・はずだった。
私の目の前で朽ちていく文王の身体が裏返り、そこにもう一人の存在が現れた。
その者の名は伯邑考。
文王の息子であり、我が父、紂王に命を奪われ、その肉を父親である文王に食させられた悲運な運命を辿りし者。
「二重人格?違うな。まさか同じ器に二人のカミシニが共存していたとは。しかもあの伯邑考が甦るとは」
生前、父親がその身体を食した事が何らかの理由なのか?
それとも他に何か?
だが、父上にあだなすのであれば、誰であろうと討ち取る。
「お前の父親同様、この私がお前を始末してやるぞ!伯邑考!」
「そうか。なら早く来なさい」
「カミシニとして甦ったばかりのお前に何が出来る?まだ血の使い方も分からないであろう?」
私は己の手を向けると、血管が皮膚を突き破り血が噴き出して伯邑考に向かって伸びていく。
「串刺しにして、お前の血を吸い出してやろう」
伸びていく血は触手のように動き、伯邑考を囲むと突き出した槍のように襲いかかる。
「!!」
私の攻撃に対して伯邑考は残像が消え隠れしながら躱し、その手に持つ剣を一周回す。
斬られた私の血が粉々になり、そして崩壊は本体の私のもとにまで広がって来る。
「クッ!」
私は伸ばした血管を自ら切り落として食い止めると、床に落ちてバタバタしながら塵となって消えた。
「カミシニの能力を使い熟せるのか?目覚めたばかりで?」
「父上の中で見ていたからな。力の使い方は一度見れば覚えられるものだ」
「!!」
カミシニの能力を見て分かる?
しかも目覚めたばかりで使いこなすと言うのか?
確かに血は手足のように己の意思で凝固させ武器にさせたりも出来るものだ。
しかし奴が使ったのは侵蝕の力。
相手の血を取り入れ、自らの栄養としただけでなく、崩壊をも与えた。
私の特殊能力なのだぞ?
「まさか私の能力を真似たと言うのか?そんな馬鹿な!」
私は聞いた事があった。
かつて何故、父上が伯邑考を味方に取り込みたかったのか?
それは伯邑考が噂名高い才を持つ者だったからだと。
仙術を学びもせずに見たものをその場で使いこなし、文武両道の強者だった。
その実力は聞仲や趙公明と並ぶほど。
だからこそ手に入れられぬなら、敵に回る事だけは阻止せねばならない。
早急に手を討つ必要があり、毒殺させたのだ。
「しかし過去の才能は過去のまま!この私はカミシニとしても、その能力もお前の才能を上回っているぞ!」
私は両手を差し出して能力を発動する。
足元から無数の骸骨が浮かび上がると、私の血界陣が発動したのだ。
「木星毒吸引」
まるで全てを飲み込む穴のように、私に向かって吸引し、そして間合いに入れば塵と化す。
決して逃れられぬ。
「愚かな。その能力は既に見ている。私に二度はない」
「!!」
た、確かに私の能力は文王に破られた。
しかし今度は私の全力を使う。
私の周りに浮かぶ血漿の拡散が広がり、間合いを広げていく。
吸い込むだけでなく、前方からも逃げ場をも奪いさる。
「挟み撃ちだ!」
だが、伯邑考はこの状況に慌てる事もなく、数度頷いた後、私に答えたのだ。
「殷郊よ。お前の限界はもう見極めた。如何に足掻こうと私に勝つ事は不可能だ。お前には勝つ器ではないのだからな。お前は欠点ばかりで、それ以上でもそれ以下でもない」
「な、何を言って?私に何が足りぬと言うのだ!それとも私を動揺させているつもりか?残念だな!私は私の役目を全うする」
だが、伯邑考は憐れむように私を見た。
「お前の境遇は確かに憐れではある。しかしお前は何処かで紂王が見守っていると、認めてくれると信じているのだろ?」
「な、何を当然?」
「そのような甘えは足枷だ。そう。王たる器には必要な条件がある。その一つは揺るぎない強き意思の力。そして真の絶望を知った者だ」
「だから何を言っているー!」
怒りに叫ぶ私は更に力を解放し、この空間は私を中心に全て塵と消えようとしていた。
「教えてやろう。真の絶望と、揺るぎない意思がカミシニを進化させると言う事を!」
「!!」
そんな馬鹿なと思った。
伯邑考の身体から濃厚な血蒸気が噴き出し全身を覆うと、
その中より伯邑考は深紅の鎧を纏い立っていたのだ。
「そ、その鎧は、ま、まさか?」
その鎧の名は、
「血咒の忌鎧装」
倶利伽羅の王が纏う鎧。
「父上を殺し、この私に絶望を与えてくれたお前を、私の最初の餌食になる栄誉を与えてやろう。そしてお前の次は生前の私を肉塊にした紂王へ、その礼を返してやろう」
「ありえぬ。お前が倶利伽羅に進化するなんて、そんな馬鹿な事があってたまるか!」
「現実を受け入れよ。その身をもって」
次の瞬間、
「あっ」
私の六本の腕が足元に落下した。
それは伯邑考が振り上げた七星の剣の振り。
そして血が噴き出すと同時に私の血界が歪み消えようとしていた。
「冷静さを欠いて能力が途絶えるか」
その時には伯邑考は私の間合いに入り、星屑のような光が視界を遮ると、次に闇が訪れた。
「うぐぅわあ!」
それは私の三面が剥がされるように斬られたのだ。
顔面が熱く、目が開かぬ。
「せめて、道連れに」
が、伯邑考は既に私の間合いから消えていた。
「父上の情けを仇で返したお前に情をかけるつもりはない。そして紂王を始末する前菜にお前の命を狩らせて貰うぞ」
「!!」
全身に星屑が入り込む感じがした。
見えない筈の視界が無数の光に覆われ、そして私の体内で一つ一つ爆発した。
「星屑の爆血」
無数の激痛が全身を襲った。
いくら生命力の強いカミシニと言えど、死に至るまで永く永く感じるほどに。
(そうか、私を苦しませて殺すつもりか)
その後、私が息絶えるまでどのくらいかかったのだろう・・・
次回予告
先を急いでいた姜子牙。
その先に紂王がいるのか?




