生死と父子!連鎖の復讐!
文王は紂王を討つため、我が子の仇を取るために甦った。
そして殷郊もまた戦う意味があった。
私の名は殷郊。
私の父親は偉大にて真王。
しかし私は呪われし忌み嫌われし子。
祟りを呼びし者。
そんな私を父上は当然愛してはくれなかった。
父上は私から目を背け、一度足りとも我が子として見てくれなかった。
そう。
私は災いと祟りを呼ぶ。
私は城に封じられ、必要な時にのみ呼び出され、そして力を使った。
私の力は生気を吸う力だった。
滅ぼす国や賢人の前に現れ、触れた全ての生気を吸う。
国は枯れ、人は塵と化す。
そのような私に近付く者は存在しない。
しかし私は恨まない。
父上は私にとって、父上なのだから。
私に使い道があるなら使えば良いです。
そんな私に聞仲が教えてくれたのだ。
父上は真王。
王たる者は、下民とは違うのだ。
親子の絆など、形ではない。
目に見える優しさなど、求めはしない。
私は私を律した。
それはカミシニとして甦った今も同じ。
私は父上を支え、真王を担ぐ家臣。
「ウォおおおお!」
生前の生気を奪う力は、同種の生気を奪うカミシニの特性からみればあって無いような能力だと思った。しかし倶利伽羅にこそ選ばれなかったが、この城の五人の王に次ぐ力をいち早く手に入れる事が出来た。
私は首に掛けた無数の髑髏を足下に散らばせ、金鐘を鳴らす。
「木星毒吸引」
私は三面六臂の姿で掌から血が滴り落ち、足元の髑髏を染めると特殊血界が発動した。
「なぁ!?」
私を中心に吸引する力が部屋中に置かれた物を吸い込んでいく。
文王は私の身体に引き寄せられる事に抗って剣を床に突き抜けていた。
(何だ?奴の能力か?)
「そのような能力で引き寄せては躱しきれまい?串刺しになるが良い!」
文王は左手を袖に入れると、手裏剣を手にして私に向けて投げつける。
「火竜鏢」
燃え盛る手裏剣は私に向かって来たが、手裏剣は私の手の届く距離に近付いた所で粉々に粉砕して消滅した。
「!!」
この私の能力は単に引き寄せるだけではない。
私の間合いには圧縮した無数の私の血瘴が長高速で飛び回っていて、接近する物体に触れた途端、生命力を枯らし消滅させているのだ。
「私に近付くモノは全て消えて無くなる。私に触れる全て。この呪いは私だけでなく近寄る全てを巻き込む災厄。これご私の星の定め。貴様も我が身に触れ、消えが良い!」
そう。
私には誰も近付けない。
ち、父上さえも
「!!」
が、私の目の間に文王が無謀にも飛び込んで来たのだ。
「馬鹿者め!無駄だと思いやけっぱちになったか?望み通り塵に消えよ!」
「どうだかな!」
文王の行動は、やけっぱちでも無く、他に策があったわけでも無かった。
心が身体を突き動かしたのだ。
目の前の敵である私に対して、命の駆け引きをしているにもかかわらず、
「俺がお前に触れ、その命を断とう!」
「無駄だ!」
飛び込んで来た文王は私の血界に吸い込まれ、逃げる事はもう不可能。
私の間合いに入れば、その命は完全に塵と消えるのだ。
「この七星の剣は星をも砕く!お前の呪われし星の定めをも、この剣で打ち砕く」
文王が完全に間合いに消えた。
その瞬間、星が無数に散らばり広がって行くのが見えた。
だが、閃光を飲み込む私の血瘴が覆っていく。
そして文王の姿が消えていく。
(終わりだ・・・)
私の血瘴が視界を隠したその時、
「!!」
閃光が血瘴を貫き、砕きながら、内部から崩壊したのだ。
「この七星の剣は星をも砕くと言ったはずだ!」
砕かれた私の血界を貫き、閃光が私の四肢を貫き、倒れ込んだ所に文王が踏みつけ押さえ込む。文王の眼には殺意が込められていた。
我が子を奪われ、その仇を討つ悲願の為にここまで強くなれるものなのか?
これが本当の親子の思いなのか?
私が得られなかった、羨む絆。
(ち、父上)
死を覚悟した。
文王の剣が私の身体を貫くその時、
「なっ!?」
文王の剣が私の眼前で止まったのだ。
(何故?)
それは文王にとっても、自分の意思が心に揺れ動かせられた事に動揺していた。
(殷郊の死を覚悟した顔を見た時、過ぎってしまった。伯邑考が死ぬ時の顔が・・・浮かぶなんてな。く、クソォ)
それは父親として子を殺す事への躊躇。
それが仇の息子だったとしても。
「愚かな!この私に情をかけたつもりか!」
私は躊躇しなかった。
それどころか、憐れみを与えられ事に恥ずべき怒りを感じたのだ。
「注血漿」
突き出した両掌が文王の胸を打撃し、弾き飛ばす。
「う、うごぉおおお!」
その場に倒れ動かぬ文王は致命傷を負ったのだ。
直打した胸元から痣が広がり黒い塵となって広がっていく。
「戦いの最中に無用な気を起こした事がお前の敗因だ。私は父上のためにも勝たねばならないのだからな!」
文王の耳にはもう私の声は届いてはいなかった。
痛みも死への恐怖も無かった。
「お、俺は息子の魂を探した。
この世に新たな生を手に入れたのなら、息子にも再び巡り合い、謝罪したかった。
私の弱さと罪、あの日の判断を。
歩き、歩いて、探し、探して放浪した。
見つからなかった。
息子の魂は、封神されずに尽きたのか?
この私の懺悔を聞き届ける事なく、この二度目の生を、お前に謝罪出来ないまま、何の為に私は生き返ったのだ?何故、私が生き返ったのだ!
お前ではなく、私が・・・」
既に視界は闇に、死を待つだけだった。
「ひ、一目、お前に会い、謝罪したかった」
その時、声が聞こえる。
それは微かな声。
文王にしか聞こえぬ声であった。
(父上、私は全て聞いていた。
貴方の判断は国を残した。
貴方の行いは民を生かせたのだ。
誰も貴方の行いを避難する者はいない。
私は貴方の悲しみと傷みを見ていた。
感じていた。貴方の中で)
(伯邑考?伯邑考なのか?本当に?)
文王は涙を流していた。
死の直前、奇跡が起きたのか?
それは一時の邂逅。
すると文王は笑みを見せ、その命が完全に尽きたのだ。
私は文王の死を確信した。
複雑な勝利であった。
敵であり、復讐する相手の息子である私に情をかけられるとは。
だが、もう決着をついたのだ。
「何かうわ言のように喋っていたようだが、これで侵入者は一人片付けた。まだ侵入者は残っているはずだ。一刻も早く始末せねば」
私が振り返るその時、
「!!」
私は再び振り向いた。
何故なら、私の視線の先には息絶えたはずの文王が再び立ち上がってきていたから。
胸の崩壊はまだ続いていた。
にもかかわらず?
「馬鹿な!死人として舞い戻ったか!」
すると文王の身体が塵に消えていく胸元から血が噴き出し、身体が裏返る!?
「な、何が起きていると言うのだ?」
そして、そこには立っていた。
傷一つ消えた文王の姿が。
そして私に答えたのだ。
「我が父を殺したお前は仇と言えよう。そしてお前の父親には切っても切れぬ恨みがある。この私もまた復讐すべき敵・紂王!この、伯邑考が討ち果たす」
「伯邑考だと?」
それは正真正銘の伯邑考だった。
かつて才鬼の至高と呼ばれし武人。
それが父親である文王の身体を媒体にして、この世に舞い戻ったのだ。
次回予告
伯邑考の復活。
その者、殷郊を前に文王の復讐を果たせるのか?




