黄天下!覚醒の扉!
黄飛虎の想いを受け止め、
黄天下は自分の道を歩き出す。
俺は黄天下。
俺は父上の柵から、自分自身の夢を再確認し、己を見つめ直した。
「真王になる事は今や俺の成すべき目的なんだ!」
俺は俺の為に戦う!
覚醒した俺は右腕の倶利伽羅の力に振り回される事なく使い熟し、そればかりか全身に倶利伽羅の力が宿る。
「ウォオオオオオ!」
俺の血管から血が噴き出して凝固し、俺の身体を覆う血鎧が装着された。
「血咒の忌鎧装」
倶利伽羅の王の持つ洗練された血鎧。
同時に飛躍的に力が跳ね上がる。
「まるで蛹が羽化したようだ。先程迄の格下の者と侮っていれば、倒されるのは俺の方だ。良かろう。今よりお前を一人の武人として扱おう」
張奎から発する気配が変わる。
押し潰すような力が俺の動きを止めるが、俺は拳を振り払い消し去る。
「斬刀断層・破壊!」
俺に斬り掛かる張奎の剣が幾度と空を斬り襲うが、俺も両拳で弾き、間合いに入り拳を突出す。互いに相手の攻撃を躱し、受け止め、弾く。
「聖獣変化をしている俺と互角だと?黄天下!お前は完全に父親を超えたぞ!」
「父上を超えなければ俺は俺の夢を掴めない。その為に俺はお前をも超える」
俺の戦う意思が力を与えてくれているようだ。
溢れるような倶利伽羅の力を俺は完全に制御し、最大限に使い熟す。
「灼熱手刀斬!」
燃え盛る炎は手刀を熱しながら振り払われると、躱した張奎の背後を熔解させながら削る。
「ふぅぅ」
張奎は手刀が掠った鎧の箇所が熔けた事に、心踊る。
「命の削り合いか!黄飛虎とお前、武人として二度も生死を賭けた戦いが出来る事に悦びを感じるぞ!」
俺も張奎の剣技を躱しながら綱渡りの緊張感に胸が熱くなる。
「もっと熱く、熱く!熱くなれ!」
「俺はお前を倒し、我が妻高蘭英を手にかけた姜子牙の首を獲る!」
互いに接近した間合いでこんしんの攻撃を繰り出し、紙一重で躱し、命の駆け引きが緊張感を増していく。互いに負けられない意地と決意。
退けぬ戦いだった。
「お前は確かに強くなった。お前の成長は驚異に値する。素質だけなら俺をも凌駕する。羨ましいくらいだぞ。しかし遅すぎた!今の俺とお前とでは、まだ差があったな」
張奎は俺の攻撃の接近を寄せ付けないように剣を盾にして受け止め、手離すと同時に後方に飛び退いた。
「倶利伽羅の力は己の力を飛躍的に跳ね上げるだけではない。それ特有の特殊能力を持ち合わせているのだ」
張奎は新たに自らの血で作った剣で手首を斬ると、垂れる血が地面から広がりながら俺の足下を囲み出す。
「何だ?コレは?」
張奎は答える。
「これぞ趙公明殿より学びし俺だけの能力。俺の血の領域に入りし者全てを葬る地獄の血界」
印を結び、
「倶利伽羅縛呪地獄」
まるで血の沼。
俺の足元が沈み、踏ん張る事も叶わずに抜き出す事が出来ない。
沈んだ身体に激痛が走る。
恐らく、力の無いカミシニならこの沼に身体を奪われただけで全身が溶かされてしまうだろう。
もし倶利伽羅の力に覚醒していなければ、俺も既に形も残さず消滅していた。
焼き付くような激痛が走る。
締め付けられ、皮膚が溶ける感覚。
「諦めよ。お前にこの俺の血界を抜け出す事は勿論、生き残るすべはない。もしお前が俺達と共に道を歩んでいれば、お前特有の血解を持ち得ただろう」
倶利伽羅の王が持つ特有の血解だと?
もし俺にもそのような力があれば、この状況をどうにか出来たのか?
この俺にもし、そのような力があったなら、今、出せなくていつ出すのだ!
「ウォおおおおおおお!」
「無理だ。諦めよ!ふん!」
張奎は両手を合わせ握ると、俺を覆う血の沼が被さるように埋め尽くした。
音もなく無の世界。
このまま俺を無に返すつもりなのか。
(俺は・・・)
だが、俺はまだ諦めてはいなかった。
俺は拳を胸に当てて叩き続ける。
死を前にして、俺の胸は熱く、焦がされるような熱さだった。
「俺一人の命なら俺は諦めていたかもしれない。父上から託された未来、姜子牙と誓いあった未来、そして俺が夢見るこの世界の未来をまだ見ていない!俺は、俺は世界を掴む真王となるのだぁー!」
鼓舞する思いが俺に幻覚を見せた。
それは扉だった。
(はっ!!)
見上げるような扉がゆっくりと開き、その中から腕が伸びて来て俺の身体を貫くと、俺の血中濃度が異常に流れる度に全身を廻る血が熱く沸騰していく。
俺の強い思いが、俺の心臓を燃やす。
「倶利伽羅心臓」
戦場に鼓動が鐘のように響き渡る。
ドクン、ドクン、ドクンと。
「何だ?この鼓動は?」
張奎は戦場を響渡る鼓音に辺りを見回す。
しかしその現況が自身が閉じ込め、始末したはずの俺だと察する。
「まさか!開いたと言うのか?倶利伽羅の二弾界への扉を!」
その扉とは俺が見た扉なのか?
「まさか俺と同じ域に達したと?ならば俺とお前との決着は技量の差しかあるまい!」
鳴り響く鼓動に対して、張奎もまた掌を強く叩くと、その波紋が広がる。
「血界相殺」
互いの特殊能力が空間を歪ませながら亀裂をお越し、割れるように消える。
「ちょうけーーい!」
血の沼から飛び出した俺の拳は熔岩に焼かれた塊のような高熱を帯びていた。
また張奎もまた剣に全ての倶利伽羅の力を剣へと込めると、血中濃度が増して変形する。
拳と剣!
互いの渾身の一撃が繰り出された。
「ウォオオオ!貫けぇー!」
俺の拳は加速し、閃光の槍のように張奎の顔面を捉えた。
「!!」
兜が溶解し、張奎の顔面が消失した。
「フォオオオオオオ!」
が、張奎は体勢を沈ませて躱したのだ。
「終わりだぁー!」
振り払われた張奎の剣は線を描くように俺の右腕を切断させて、消滅させた。
「これでお前に打つ手は失われた」
失われた利き腕、そして二撃目が俺の首と心臓を貫く。
「たとえ失うモノが大きくとも、俺は俺の王道を貫き通す!」
「!!」
張奎は寸前で動きが止まる。
何故なら俺に達する前に自身の剣が粉々に粉砕し消えたのだから。
(まさか黄天下の腕を斬った事で剣が耐えられずに粉砕したと言うのか?)
だが、ここで勝敗が決まる。
張奎が新たな剣を作り出す前に俺は残された左腕を突き出していた。
「ごふっ!」
拳は張奎の胸を貫いた。
その一撃は張奎の背中が破裂し、熔岩のような血が噴き出した。
「まさか俺を討つほどまでに強くなったか。見事だ。俺はお前に敗北した事に無念は感じていない。お前は強き武人だ!あの黄飛虎を超える王の器だ」
貫かれた胸部から消滅していく張奎は自分を討った俺を見た後、ゆっくりと天を見て呟く。
「高蘭英よ。今、俺も逝くぞ。待っていてくれ」
そして完全に消滅したのだ。
勝利した俺は力尽き、膝をつく。
「ハァ、ハァ。あの張奎に勝ったぞ!姜子牙!今、行くからな。しかしもう完全に空っぽだ。動けやしねぇ」
俺は俺の進む道(王道)に、ついに足を踏み出せたのだった。
次回予告
先を向かった姜子牙。
姜子牙の前に現れた者は、まさかの!?




