張奎!目覚めし記憶と血!?
黄天下を倒した張奎。
その男もまた倶利伽羅の王の器だった。
俺は張奎。
俺は気付くと、何もない大地に大の字になって気を失っていた。
「あ、あぁあ」
起き上がると、記憶の混乱に陥り、自分が何者なのか分からないでいた。
「俺は何者なのだ?」
微かに記憶している事は、光か闇か分からない空間で俺は俺で無くなり、無数の存在と一つになっていたような感覚だった。そして俺を包む世界に亀裂が入ったかと思うと、俺の存在含む、無数の存在が亀裂の外へと飛び出して散り散りに飛び去ったのだ。
そして気付けば俺は此処にいた。
俺は辺りを見渡して歩き出した。
俺が何者で、何が起きたかを知るために動き出さねばならなかった。
どれだけ歩いたのか?俺は国の入口に辿り着くと、その門番達に槍を突き付けられて追っ払われたのだ。
「関所の通行手形が無ければ入れさせはせぬ。死にたくなければ消えろ」
だが俺は何か強い意思に引き寄せられるかのように城の中へと足を進めていた。
「おのれ!怪しい奴!」
兵士達は俺に剣で斬りかかるも、直前で木っ端微塵に塵と消えた。
「!!」
今のは俺がやったのか?
確かに俺は迫る兵士に対して攻撃な圧を込めたのは間違いない。
しかしだからと言って、人間が一人塵に消えるなんて?
すると恐れて逃げる兵士に、俺は掌を向けて握ると、その者は崩れるようにその場に倒れる。
見ると心臓が抜き取られ、俺の手の上にあったのだ。
「あ、ぁあ」
無意識に俺は目の前にいたモノを狩ったのだ。
更に俺は空腹だった。
目覚めてから今まで何も口にしていなかったから。
しかし人間の心臓なんてと、迷う心とは別に身体は求め欲し、その心臓を口にして貪り食う。その血が全身を廻った時、俺は生きていると感じた。
「お、俺は化け物にでもなってしまったのか?俺は何なのだ?」
俺は俺が分からない。
に、人間ではないのか?
その時、俺は目眩と同時に酷い頭痛に蹲り、そして動悸が激しくなる。
記憶が俺の脳を流れる血液とともに廻る。
「!!」
俺の脳裏に浮かんだのは名前だった。
不思議とそれは自分の名だと分かり、俺は俺の名を知った。
「ち、張奎。これが俺の名前か?俺の名は張奎」
それから俺は門番を始末して国に入ると、宿を探した。
金は殺した兵士の衣服にあったのを拝借し、その衣も頂いた。
宿に入り、俺は死んだように眠った。
夢を見た。
俺が剣を手に、勇猛果敢に戦い、そして一国の主として君臨していたのだ。
しかしその末路、俺は殺された。
「ぐわぁああ!」
飛び起きた俺は汗を大量に流していた。
「ハァハァハァ。お、俺は一度死んだのか?なら今の俺は一体?」
その時、外から騒がしい物音と数人の男達の声が聞こえ、女の悲鳴が聞こえた。
「何だ?騒ぎか?」
俺は外を覗くと、数人の男達が一人の女を囲んでいた。
「逃げた女楼を捕らえに来たのか?」
女楼だと思ったのは、その女が上物の美しさで、追って来た男達は腕の立ちそうな連中だった。そこに騒ぎに出て来た野次馬達が顔を出して外に出て来たのだ。
次第にざわつく中、
「虫けらが集まり出したぞ?」
「丁度良い。腹を空かせていたのだからな。腹ごしらえするか」
「そうだな」
男達は周りを見回すと、その腕を刀で切り出したのだ。
「何だ?トチ狂ったか?」
次の瞬間、奴らの血が生き物のように動き出し、蛇のように伸びて野次馬達に絡みつく。
「何だ、これは?あ、ぎゃあああああ!」
そして野次馬達の血液を吸い出したのだ。
干からびていく連中を俺は信じられない顔で驚愕していると、奴らの血が俺に向かって伸びて来たのだ。
「俺にもかよ!」
俺は部屋から外に飛び出すと、鞘から剣を抜いて構える。
「何だか知らないが俺を巻き込んだ事を後悔するのだな」
突然現れた俺に、女は驚くようにして目を離せずにいた。
「やっと出会えた」
「?」
女の言葉に意味は分からなかったが、その前に化け物連中から気を抜けずにいた。
再び向かって来る奴らの血が触手のように伸びて来て来ると、
「ぐはっ!」
受け止めた剣が割れるように粉砕した。
そして無防備になった俺は短剣を抜いて構え直す。
「何だ?奴らの血は?生きているようだ。それに硬いのか?コイツらは何だ?人間じゃないのか?人の姿をした化け物なのか?」
すると女が答える。
「あの者達はカミシニです。魔性の血を持つ異形種」
「カミシニだと?」
聞き慣れない言葉だった。
そこに男達が襲い掛かって来たのだ。
俺は短剣を構えて受けて立とうとすると、背後から守ってやっている女が俺に迫り、そして短剣を奪い取ったのだ。
「お前、何をする?」
「こうするのよ!」
女は俺の腕を短剣で傷付けると、片腕から血が流れる。
「なっー?!?!」
まさかグルなのか?この女?
「その血を感じて使うのよ!血は貴方!貴方は血そのもの!一部なのよ!」
「血が俺?意味が尚更わからない」
が、俺の腕から流れ落ちる血の臭いが鼻についた時、まるで俺の手足が増えたような感覚になったのだ。手?足?指?神経が広がり、まるで流れ落ちた俺の血に意識が繋がっているようだ。
「こんなことって」
そこに斬りかかる男達に俺は寸前で躱して腕を上げた。
(くそ!剣が欲しい)
そう願った時、俺の目の前に、
「こ、コレは!?」
俺の流れる血が浮き上がり、凝固しながら剣へと変化したのだ。
「俺の血が剣になりやがったぞ?」
その時、俺が気付いた俺自身について女が答えたのだ。
「貴方も彼らと同様のカミシニ。神を殺す血を持つ特別な存在なのです!」
「お、俺が特別?」
だが、考えるより先に俺は俺自身の血で作り出した剣を手に取ると、襲い掛かる連中を一刀両断に振り払っていた。
「アガぁ!」
胴体を両断された男は、白目を向き死んだかと思えば、再び目を見開き俺に腕を伸ばして来た。
「しぶとい化け物め!」
俺は剣を上下左右に振り払い、振り下ろすと細切れになって塵と消えた。
「他の連中もここまでやらなければ倒せないのか。仕方ない!」
俺は逃げる連中を追いかけ、そして一人残らず斬り殺した。
「ハァハァ」
息を切らす俺に女は隣に寄り添うに立つと、俺の手を取り握る。
「何のつもりだ?女!」
「やはり貴方様は私の探し求めていたご主人様なのですね」
女の手は血に染まり、俺の流れる血と混ざり合う事で記憶が流れるように入って来た。
そして俺は女の名を呼んだのだ。
「張奎様。探し求めておりました」
俺は目の前の女を知っていた。
生前のこの女と俺は間違いなく夫婦だった。
「お前、高蘭英なのだな」
「はい。主様」
この日、俺はカミシニである第二の生を受けた事を知ったのだ。
次回予告
張奎の目覚め。
新たな生を手に入れ、妻である高蘭英と国を作る。




