忌歪血界!?
趙公明の倶利伽羅忌獣変化を前に姜子牙は打つ手が尽きる。
しかし諦めは、死なのだ。
私の前に立つ趙公明の変貌。
先程までの聖人たる風貌とは打って変わって、まるで獲物を狙う獣のようなギラついた眼で私を見ていた。
倶利伽羅忌獣変化?
自分の従獣を己に取り込み、まさに合体と言うべきか?いや?喰らったのだ!
そして私と四不象とは異なるパワーアップを遂げたのだと言うのか?
(ご主人、申し訳ございません)
四不象が謝る意味が分かった。
「気にするな。四不象よ。今のあの者に勝てるなんて考えてはおらん。ただ無駄死にはしたくはない。短い間柄だが、世話になったな。お前はお前の真の主なる太公望の元へ帰るが良い」
しかし四不象は拒否した。
(ご主人様を残して行くなどあり得ませんよ。最期までお供します)
「お、お前!そうか、ならば付き合ってくれ!私と最後の最後まで抗おう!微かな希望を信じて二人共々生き残るために!その際は、」
(美味しいお酒を飲みましょ)
「そうだな」
私は再び、落下している打神鞭を念力で呼び戻して握ると、雷を放電させる。
「たぁ〜いこぉ〜ぼぉ!今からお前をミンチにしてやるぞぉー!」
趙公明が吼えると大地が震撼した。
一瞬で私の間合いに入り込み、そして喉元を掴んで吊るし上げる。
「うごぉおお!コノぉ!コノぉ!」
自由な腕や足で蹴り、殴るが微動だにしない趙公明は完全に桁違いだった。
「喉元潰して黙らせてやる」
「グッ」
息が止まり、締め付けられた指先が食い込んでいく。
「!!」
その時、私の目の前で微かな希望が見えたのだ。
死を覚悟したその直後、無防備の趙公明の側頭部に強烈な一撃が直撃し、頭を揺らされ私を締める指が緩むと、私はその隙に両腕で手首を掴んで強引に脱出に成功したのだ。
「ごほぉ!ごほっ!」
咳き込みながら、私は私に腕を伸ばす者の腕を掴み立ち上がる。
「助かったよ」
「お互い様だ。姜子牙が時間を作ってくれたから、趙公明の血界から脱出出来たのだからな」
私が戦っている最中、黄天下はナタクと力を合わせて趙公明の呪縛からの脱出に成功していた。
ナタクは黄天下の力を温存させるために金色の魔眼の力を使い、黄天下の呪縛のみを破壊して自分は力尽きて残ったのだと言う。
「ナタクの為にも勝って戻るぞ!」
「鏡を見てないが分かるぞ。さっきまで死相が出てた私の顔から、きれいさっぱり完全に消えおったわ!」
参入した黄天下と私を見て趙公明はニヤニヤしていた。
「獲物が一匹増えようが、どちみち生かして置くつもりはなかった。構わん!構わん!今直ぐに二人共肉塊にしてやる」
趙公明が飛び出した時、今度は見極めて躱せた。
さっきは身体が強張り、何処かで緊張があったのだろう。
しかし今は身体が軽くなった気分だ。
コレが仲間がいる安心なのだな。
私は打神鞭を振り回し援護しながら黄天下の接近戦を有利に運ばせる。
「今度は負けない!趙公明よ!俺の本気はお前を越える!」
「お前の事も記憶にある。我らが国と、我が友聞仲の期待を裏切り、道を違えた愚かな黄飛虎の倅」
「俺の父親は愚かではない!立派の武人として、真の王たる資質を持った父だ!この黄天下がソレを証明してやる!」
黄天下の腕が真っ赤に染まると、倶利伽羅の字が紋様となって浮かび出る。
「黄飛虎の腕か?そのような中途半端な倶利伽羅の力で、真の倶利伽羅である俺に敵うと思うな!」
黄天下の凄まじい破壊力を持つ拳を全て弾き返す趙公明は正に最強。
しかし奴にダメージを与えられるのは黄天下の拳しかあらん。
「この私を忘れるな!」
私の打神鞭が枝分かれすると、まるで突き出した雷槍のように襲いかかる。
「ふん!ふん!ふん!」
拳を払うように打神鞭を弾き、間合いに入ろうとする黄天下を寄せ付けない。
「お前ら二人とも目障りだぁー!」
趙公明が突き出した掌が黄天下の顔面を掴み上げると、握り潰そうとする。
「させるか!」
額から血を流しながらも掴む腕に自分の腕を絡めて折ろうとする黄天下に、堪らず地面に叩きつけた。
「離せ!このガキがぁ!」
何度も地面に叩きつける趙公明に血を流しながらしがみ付く黄天下は狙う。
「離すなよ!」
「絶対に離しはしない!行ったれぇー」
そこに突っ込む私が打神鞭を伸ばした槍で突き出したのだ。
「忌眼・打血雷槍!」
忌眼の力で私の腕から流れる血が打神鞭を硬直させた槍が、
「ごホぉ!」
趙公明の胸を貫き、地面にまで貫通した。
「終わりだぁ!趙公明!」
「ふふふふ」
「なっ!?」
不敵に笑う趙公明は痛みを感じていなかったのだ。
そして私と黄天下を掴みながら、
「かち割れろ!」
私と黄天下の額を衝突させた。
「うがぁ!」
何度も衝突され、額は割れ、血だらけの私と黄天下は意識が朦朧としていた。
そして放り投げられ、趙公明の足下に転がる私らは痙攣して動けずにいた。
「終わりにしてやろう。この俺をここ迄手こずらせた事は褒めてやる。だが、俺がお前達をこの場で狩り、これから始まる仙界との最終抗争への狼煙にしてやろう。俺がぁ!俺が!うぐぅ!」
だが、趙公明の身体が内部から膨張する。
そして苦しみ出したのだ。
「な、何が?コレは?」
趙公明は気付く。
それは自らの身体に残る傷。
それは指が一本突き刺さった程度であった。
しかしそれは点穴?
「い、痛みを感じぬから、ハァハァ。隙が出来たのだぞ・・・」
私は動けぬまま、先程の攻撃の中で一矢報いていたのだ。
「て、点穴なんて、実戦で実践したのは初めてだったぞ。もう指一本しか動かせなかったのでな。ハァハァ。どさくさまぎれに、やってやったわ!」
点穴とは身体に点在する経絡秘孔であり、その点在するツボを正確に刺激する事で身体活動を良くも悪くも乱す事が出来るのだ。
本来なら健康回復に使うために覚えたのだが、点穴を乱した事で趙公明の身体を流れる血流が暴発した。正直、ここ迄効果あるとは思わなかったが、倶利伽羅の力を制御しきれていない今の趙公明には有効だったのだ。
「うっ」
しかし、遅かった。
もう私には戦う力は残ってはいなかった。
もう限界だった。
「悪あがきをしやがってぇー!もう終わりだ!もう嫌だ!ストレスだ!限界だ!早々に片付け、俺は聞仲の元に帰る!そして何事もなかったかのように茶を啜り、お前らの事は笑い話にして過去の話にしてやるのだぁー!」
激昂する趙公明が私に迫って来る。
(終わりか・・・)
覚悟した。
もう何一つ抵抗出来ない。
意識が遠退く。
『諦めるには早過ぎるではないか?お前はカミシニを終わらすために生まれて来たのだろ?』
えっ?だ、誰だ?
お前は誰だ?
いや?私は知っている。
この声?
確か、そう。青魔礼との戦いの時に聞こえた声?
いや?もっと前に?
もっと過去に?いつ?いつだ?
駄目だ、頭が回らない。
意識が遠のいていく・・・
その時、私は無意識に呟いていた。
「忌歪血界」
直後、私を中心に世界が歪む。
次回予告
忌歪血界とは?
法子「何なのかな?」




