ナタクの限界値!?
ナタクの危機に竜吉公主が現れた。
その救援に再び戦局は変わる。
俺はナタク。
俺は羅宣との戦いに苦戦し、さらに劉環が現れた事で完全に勝機を失われていたかに思えた。第五仙血を二人倒すのは、今の俺にはまだ苦であった。
せめて魔眼の力を全開に引き出し、そして時間制限さえ無ければ勝ち目はあるのだが、泣き言を言っても仕方ない。
それに、もしこの場に法子がいれば、恐らく口に出して泣き言を叫び、スッキリした後に何事もなかったかのように巨大な敵を相手に抗うのだろうが、俺にはそんな単純な思考は持ち合わせてはいない。勝つか負けるか、どのような状況でも転機があれば、掴むまでの事。
そんな俺の危機に加勢に現れたのは過去に消息不明となっていた竜吉公主であった。
竜吉公主は、前最高神である玉皇大帝の神具である七星剣に嵌められていた七星の宝玉を武器にしていた。
「やれるかい?ナタク?」
「当然だ」
俺は立ち上がると、静かに呼気を吐く。
そして新たに吸い込むと同時に自分自身の身体に流れる魔眼の限界値を計る。
攻撃と防御合わせて残るは20%。
本来なら戦いを終え生き残った後の力の温存も考慮するが、今は必要ない。
俺は竜吉公主を見る。
「後の事を考えずに戦えるなら、余力を残さずに戦いに専念出来る」
すると俺と竜吉公主に対して羅宣と劉環が新たな獲物を狩る算段をしていた。
「俺がやる」
「いや、俺だ!」
「いやいや、俺だろ?」
「お前、この場合は俺だと思うぞ」
「なら!」
二人は顔を見合わせると、
「ご一緒に!」
意気投合した。
二人は仲が良いようだな。
「さて、俺達の血炎で奴らを焦がしてやろうぜ」
「跡形も無くな」
二人を中心に血蒸気が噴き出して燃え盛る炎が一帯の温度を上げ、そして俺と竜吉公主を閉じ込めていく。
「私達を逃さないつもりなのね」
「今度は頭上も塞がれたな」
そして俺は告げた。
「今より俺は全力を出す。後のことは任せるぞ?竜吉公主」
「や〜ね?お姉さんに任せて。ナタクも二郎真君も私から見たら弟みたいなものよ。だからお姉さんに頼って思いっきりカッコいい姿見せてくれれば良いわよ」
「フン!」
俺は瞼を綴じて魔眼の力の流れを全身に廻らせる。
そして限界値の、更に先。
俺を・・・超える。
「天賦変化唯我独尊・大羅仙」
俺の身体に雷が走り、その姿が変わる。
三頭、八本の腕。
そして宙に浮かぶ七つの光る珠が、俺の両眼と同じ働きをし、視野を広めた。
「ふぅ〜〜〜〜〜!!」
吐き出した青雲が上空へと広がる。
「何だ?奴の変化は?」
「まだ、あのような力を隠し持っていたのかぁ!油断するなよ!」
「おぅ!」
二人が身構えた時、
俺は静かに呟いた。
「超神速抜刀・震撼」
踏み込んだ足下から魔眼から発する光に呼応するかのように雷鳴が暗雲を覆い雷光が激雨のように地上に降り注ぐ。
天地が震撼した。
同時に俺達の逃げ場を塞ぐために覆われていた奴らの炎の壁を一撃で打ち消した。
「うごぉおお!何なのだ?この雷は?」
「ち、力が奪われるようだ!」
全身が降り注ぐ雷に打たれ、弾くにも纏わりつく雷流が身体を麻痺させていく。
「!!」
その時、悪寒と同時に自分達の間合いに入っていた俺の存在に気付いた時、戦慄が走り身体が強張った。まるでスローモーションのように俺の剣が抜かれていく。
意味が分からなかった。
羅宣も劉環も俺の動きが見えていた。
見えていたにも拘わらず、動けずにいた。
強張っていた緊張?違う。
ソレはこの雷撃空間の中で、自分自身の神経が異常に研ぎ澄まされていた。
しかし強引に引き上げられた神経は意識のみを先行させ、肉体が置いていかれてしまうロスが生じた。唯一俺だけが動ける領域。
超神速の俺だけが意識と肉体を一致させられる存在。
「うぉのぉれぇーー!」
何も抵抗出来ないまま俺の剣が羅宣と劉環を斬り払った。
「!!」
その中で劉環は微かに身体を強引に動かしたのだ。
そしてその力の全てを羅宣に向けて突き放すと、羅宣は蹌踉めきながら身体を俺に斬られたが、急所は逸れた。
しかし、もう一刀は確実に劉環の身体を両断し、その身体が塵となって消滅させた。
「お、ぉぉお!」
仲間を斬られ消滅していく姿を見た羅宣であったが、急所こそ逸れこそしたが深手を負い、息を切らせながら怒りと悲しみの中で俺を睨んでいた。
「許さぬ、我が友を、よくも!」
しかし動けぬまま、蹌踉めきながら俺に刀を向けるが力が入らないでいた。
だが俺も全ての力を使い果たしていた。
魔眼の力は消え、負荷のかかった身体にヒビが入っていく。
「ここで退いたら、劉環の奴に申し訳ない。せめて一撃、ナタク!お前を俺の手で殺してやるぞぉおおおお!」
が、背後に出現して存在に気が逸れた。
「わ、忘れて、い、た」
「お前の敗北は私のような美女に見向きをしなかった事よね」
竜吉公主は、その手から放った七つの珠が至近距離から羅宣を直撃したのだ。
「七星に輝き、塵と消えよ!」
「うぎゃああああ!」
羅宣の身体は塵となり、崩れるように消滅した。
「竜吉公主、助かった」
「ナタク、お前の力があっての勝利よ」
そこで俺は立っていられず崩れるように倒れると、抱き起こされるように竜吉公主が支えた。
「ナタク、意識が消える前に一つだけ聞いておくれ」
「な、なんだ・・・?」
「お前には話して置かないといけない事があるのよ。それは・・・」
その話を聞いて、俺はその話の続きを知りたかったが、まるで途絶えるように意識が飛んだ。
「はっ!!」
気付くと俺は治癒されていた。
俺の宝貝から、予備の身体のパーツと交換され、回復の治癒が施されていたが、そこには既に竜吉公主の姿は無かった。
竜吉公主が残した話しの内容はとても気になったが、今の俺には先にやらねばならない事が残っていた。
「姜子牙、黄天下。お前達、まさか死んではいないだろうな。もう少しお前達の子守りをしてやらねばなるまい」
俺の戦いは加速していた。
次回予告
黄天下は新たな追手と交戦していた。
己が真王になるために負けられない。
法子「王様になるって大変そうねぇ~」




