剣と盾!打倒、余元!
ナタクが余化を倒した。
しかし余化の師である余元と戦うのは?
私は姜子牙だ!
私と黄天下は苦戦していた。
こちらは二人がかりであるのに、相手は一人で我らを翻弄する。
凄まじい剣技は研ぎ澄まされ、ナタクと剣技相手の防御を学んでいなければ、今頃首が撥ねられていたに違いない。
「しかし間合いでは私の打神鞭のが有利だぞぉー!」
振り払い、接近を拒む打神鞭の攻撃と防御を潜り抜ける余元は手にした剣を突き出して来ると一気に私の間合いに入り込み、一気に急所の心臓に迫る。
「危ない!姜子牙!」
寸前で黄天下が地面を殴り、炎が噴き出して余元の接近を阻んだのだ。
「助かった!」
危なかった。
この余元は魔家四将の青礼青より強いぞ?
奴が第五仙血に近い能力者と言っていたから、この余元は間違いなく第五仙血。
格上相手、二人がかりでも辛い~
「!!」
その時、この場にいる我々は本能的に気付く。
今、強き力を持つ者が倒された感覚がした。
我々が感じる事が出来るのは同じカミシニのみ。
つまりナタクが余化を倒したに違いないぞ!
「まさか俺の愛弟子、余化があの天界神に討たれた?有り得ん!」
余元は愛弟子であった余化の実力を信じていたため、倒された事を信じられずにいた。
「この目で見なければ信じられぬ。直ぐに確かめるためにお前達と遊んでいる暇は無くなった。消えろ!」
余元から繰り出された抜刀が、私と黄天下に迫る。
今までとは勢いも圧も違う。
今の今まで手を抜かれていたのか?
「姜子牙!俺に任せろ!」
「黄天下?」
黄天下は前に飛び出し、右手に意識をたかめると、血管が浮き上がり発火する。
「うぉおおおおお!」
打ち出す拳は迫る斬撃を殴り止めると、その勢いをそのまま余元に跳ね返した。
「どうやら多少は出来るようだ!」
多少?
少なくとも黄天下の成長は見違える。
第三仙血から第四仙血へ覚醒したのは知っているが、それだけじゃない。
戦いの中で、傍にいて実感するほど急成長しているのが分かる。
黄飛虎の形見の腕だけでなく、黄天下自身の成長が著しい。
確かに父親の死が引き金にはなったが、本来の戦いのセンスあってのものなのだ。
「うぉお!ぉおぉお!」
黄天下は燃え盛る炎の拳で余元の振るう剣を弾き返しながら、間合いを詰めた戦闘が行われていた。余元の踏み込む間合いに、黄天下が先に踏み込み拳を振るうと、容易に斬り込めずにいた。
「戦い慣れているな?階級仙血は劣っていようが、この俺と五分で立ち合うお前の実力は見事としか言えぬ。多くの死線を潜り抜けたのだろう?しかし俺もまた力を求め、最強を望む漢としてお前に敗れるわけにはいかぬ!」
余元は振り払う剣を左右に振り回すと、噴き出す鮮血が龍と大虎を出現させる。
「竜虎如意・操牙!」
そして命ある獣の如く黄天下に向かって襲い掛かって来たのだ。
「うぐぅわあああ!」
前方の余元だけでなく左右から襲い掛かる二匹の獣に防御出来ずに後退した時、
「突き進め!獣は私が飼いならす!」
この私が打神鞭を奮い、左右の龍と大虎に打撃を与えて動きを止めたのだ。
「ありがたい!なら、俺は迷わず突き進む!」
黄天下は正面の余元に向かって拳を付き出すと、余元も剣を盾にして受け止める。
「あの忌眼の者もいた事を侮っていた」
同時に、
「忌眼・雷血打!」
私の打神鞭が二匹の獣を消滅させた。
「どうやら俺も最大奥義を持ってお前達を仕留めるしかなさそうだ!」
余元は突然剣の受け止める力を緩ませると、黄天下は体制を崩されよたつき、その隙に余元は後方に飛び退く。振り上げた腕から噴き出す血が上空に噴射されると、その血飛沫は全て浮遊する鮮血の剣へと変化して漂う。
「今よりお前達はこの空を覆う剣の雨の中で、なすすべなくその身を串刺しにされ、細切れとなるだろう!覚悟せよ」
余元は振り上げた剣を私と黄天下に向けて振り下ろしたのだ。
「化血神刀・無限飛金剣」
すると上空の剣が雨のように降り注ぐ。
「くそぉ!全て殴り落とす!」
黄天下が拳圧の炎で防御するも、降り注ぐ剣の猛襲は自分の身体を掠め、傷を負わせていく。
そしてその連打で拳を振るい防御が間に合わなくなるに連れて、斬られた掠り傷から血が噴き出し、自分の顔にかかって視界を隠した。
「し、しまった!」
拭う余裕はなかった。
拳を止めれば串刺しになるのだから。
しかし剣の攻撃はそれ以上無く、止んだ状態になったのだ。
(何が?)
その時、気付く。
自分の周りを球状に防御の壁が降り注ぐ剣の攻撃から身を守っている事に。
振り向く黄天下は気付く。
「うぬぅおおおおお!」
ソレは打神鞭を無数の動きで振り払い、無数の剣の雨を全て弾き返し、守っている私の姿だった。
「黄天下ぁ!お前は前だけ見ていろ!お前の進む王道の妨害は全て私が打ち払う!私がお前の難攻不落の盾となってやるぞ!」
「姜子牙、お前!」
黄天下は頷くと拳を握りしめ笑みを見せて集中する。
「お前が難攻不落の盾ならば、俺が王の剣となって、道を切り開く!」
すると黄天下の拳が真紅に染まると龍の紋様が浮かび上がる。
「ま、まさか!ソレは倶利伽羅の印」
「ウォおおお!」
燃え盛り噴き出す炎が縮み出すと、真っ赤に染まる拳に高熱が集中する。
「俺は強い!父上に追い付き、追い越す男になる!鼓舞しろ!俺!俺は負けん」
黄天下は気力と意思の強さを鼓舞力として己の力を高める。
「ぐぅおおおおおおお!熱血の拳ぃ!」
黄天下の連続攻撃は止むなく余元を追い詰めていくと、
「ヌゥううう!凄まじい闘気!迫力が増したな?お前!」
余元は剣に念じて再び龍と大虎を出現させて襲わせる。
「血襲獣・龍虎如意!」
「熱血の拳!」
「!!」
勢いの止まらない黄天下の拳は向かって来る龍と大虎に突進し、一撃の拳で蒸発させ、そのまま余元に殴りかかる。
「終わりだぁああ!」
黄天下の拳が余元の首元に直撃した。
「ふふふ」
「!!」
黄天下の拳は余元の首元に直撃したにも拘らず、余元は平然と顔を向け剣を振るって来たのだ。
「うぉっと!」
身体を翻し躱した黄天下は己の拳を見て、余元を見直す。
「手応えはあった。でも奴の身体が頑丈過ぎるだけなんだな?なら!」
悔しがる黄天下に余元もまた黄天下の力の成長に驚異していた。
そして再び見る黄天化に鳥肌がたった。
その直後、燃え盛る炎の剣が閃光の如く接近して来たのだ。
否、一直線に突進し向かって来た黄天下の拳が余元の身体を貫いたのだ。
「ま、まさか俺が敗れるな、ん」
身体の中を廻る倶利伽羅の血が身を焦がしていく感覚が襲った。
そして余元の身体は粉砕するように血の霧となって消滅したのだった。
「やったぞ!姜子牙!」
振り向く黄天下に、私は腕を上げて返してやる。
「二人がかりでやっとだったな〜。おっと!忘れるところだった。封神!」
すると私の忌眼に余元の魂が吸引されて消えたのだった。
「!!」
その時、私は忌眼に強烈な痛みを感じた。
そして忌眼が銀色に強く光り輝き私の意思を無視して打神鞭を地面に叩きつけ地割れを起こしたのだ。
「おい!どうした?姜子牙!」
心配する黄天下に私は叫ぶ。
「わ、わからん!忌眼が暴走しとる!私に近付くな!意識はしっかりしているのに身体が言う事を効かぬ!」
そして打神鞭を振り回して暴走し始める。
それには黄天下も堪らずに防御ごと弾き飛ばされたのだ。
「黄天下ぁー!くそぉ!止まれ!止まれ!止まれぇー!」
しかし締め付けられるように胸が痛み、心拍数が上昇していく。
(ヤバい、意識が朦朧としてきた)
その時、私に向かって黄天下が突っ込んで来たのだ。
「や、止めろ!危険だぁ」
「そうは、いくかぁー!」
すると打神鞭を全身に受けつつ、そのまま血塗れで私の身体を抱き締め押さえつける。
押さえつけられ、私の腕から打神鞭が落下するが、忌眼の力の暴走は止まずに雷に打たれたような衝撃が二人を襲う。
このままでは、二人共・・・
「全く、余元を倒した事を多少は褒めてやろうと思ったが、何を遊んでいる」
「!!」
それは余化を倒し戻って来たナタクだった。
「どうやら力の暴走か。己の力くらい制御し、限界値を覚えておけ!」
ナタクの瞳が金色に光り輝くと、今度は私目掛けてナタクが突っ込む。
「!!」
すると私の視界から消えたナタクの姿が私の背後に現れ、私の頭を両手で押さえつけて言った。
「黄天下、そのまま抑えていろよ」
「言われるまでもない!」
ナタクは金色の魔眼を光り輝かせ、私の忌眼を覆い始める。
「うがぁあああ!」
後頭部をハンマーで強打されたような衝撃を受けて、私は意識を失い、同時に暴走が収まったのだった。そしてへたり込む黄天下と、この危機を救ったナタクは、一段落した事に安堵し、その場に大の字になったのだ。
次回予告
余元と余化を倒した姜子牙達。
しかしこの事態に新生殷国が黙っているはずはなかった。
法子「も~う!落ち着かないわね~」




