覚醒!
黄飛虎を失った姜子牙と黄天化。
しかし世界は彼らに休息を与えようとはしていなかった。
そこは仙界。
西王母が統治しているこの崑崙山で、仲間同士のいざこざが起きていた。
「は、離せぇー!俺に奴を討ち取らせろぉー!」
剣を握りしめ、八仙の曹国舅と張果老に取り押さえられながらも呂洞賓は怒り形相で今にも飛びかかろうとしていた。その相手はコップに果物のジュースを入れて優雅に飲んでこの状況を楽しんでいた玉面乙女だった。
「オホホ。妾に激オコか?」
呂洞賓は曹国舅と張果老を払いのけると、飛び上がり玉面乙女に斬りかかる。
「!!」
が、その一閃を玉面乙女は軽々と飛び上がって躱すと、着々と同時に投げ上げていたジュースを受け止め飲み干したのだ。
「美味しいわ」
「ふざけるなぁー!」
更に怒りをこみ上げ飛びかかる呂洞賓だったが、足下を何かに掴まれひっくり返る。
「!!」
それは部屋中の床が玉面乙女の血で染まっていて、生き物のように伸びて来て呂洞賓の足に絡みついたのだ。それでも剣で斬りつけるがビクともしない。
そこに西王母が入って来たのだ。
「何事じゃ?何を騒いでおる」
そこに膝を付き八仙の鉄拐李 (てっかいり)が告げる。
「主様。それは呂洞賓が玉面に決闘を仕掛けております」
「呂洞賓がじゃと?」
「はい。しかしそれは私とて呂洞賓の気持ちと同じ。あの者(玉面乙女)には私も心底煮えくり返っています」
それは先の戦争での玉面乙女のした行為に対しての怒りであった事は察しがつく。
それは同志であり八仙の鍾離権が玉面乙女によって聞仲への当て駒にされ命を落としたから。
そして呂洞賓にとって鍾離権は師であり、無二の親友でもあったのだ。その怒りは並々ならなかった。
「鍾離権を殺したのなら、償うのが理だ玉面!お前を斬るー!」
その形相を見ても玉面乙女はつまらないように見下ろしていた。
その争いを宥めるために西王母は間に入り、呂洞賓を制した。
「呂洞賓。この玉面乙女は私の養女にした。お前の怒りは分からないわけでもないが、堪えてはくれぬか?」
「くっ、くぅ」
唇を噛みしめる呂洞賓だったが、鍾離権との思い出が廻り、やはり荒ぶる魂が怒りを増長させた。
「なりませぬー!ウゴぉおおおおおお!」
「!!」
その時、この場にいる全員が震えた。
呂洞賓の変化に何かを感じたから。
「ま、まさか?覚醒か?」
思いがけない覚醒の予兆。
呂洞賓の怒りと悲しみが呪魂を震わせ、崑崙城が脅えるように崩れだす。
「ま、まさか呂洞賓が第四仙血になろうとしておるのか?」
すると玉面乙女が付き足す。
「お義母様?アレは王の器かもしれないわ」
「何ですって?」
呂洞賓の身体から血が噴き出して全身を覆うと、その姿が変わり始める。
あの覚醒は第四仙血を超えた第五仙血にまで膨れ上がっていく。
「ウォおおおおおおおお!」
雄叫びと絶叫。
新たな王の資質の覚醒。
しかしそれは、この状況ではとても危うく、仙界を揺るがす崩壊に繋がる。
何故なら王たる資質の玉面乙女と呂洞賓が争い戦う結末しかなかったから。
「やむを得ないわ」
西王母は印を結ぶと、カミシニ全てに施した呪縛を発動させたのだ。
「血縛」
西王母がふりかけた血が呂洞賓に触れた時、その動きがおさまり揺れが止まる。そして石化したかのように動かなくなったのだ。
「仕方ありません。呂洞賓には落ち着くまで封じさせて貰います」
西王母の言葉にその場にいた全員が頷く。
その中で玉面乙女だけがふてくさるような顔をしていた。
「ざ〜んねんだわ」
するとその場に居合わせた新たな幹部のカミシニが呟く。
「王の資質は覚醒する。この俺もまだ可能性が充分にあると言う事だ」
その者は黄飛虎を勧誘に向かった八仙が戻る際に、自らを売り込んで来た男。
「黄飛虎の奴はお前達に靡かなかったようだな?このまま手ぶらで西王母の所に戻るつもりか?だったら俺を招き入れろ。俺は役に立つぞ?」
それには八仙の鉄拐李 (てっかいり)は嘲笑したが、その者が抜いた剣に血を染めた時、その者が持つ資質に興味を抱く。
「お前は何者だ?何故、我らに付く?お前の力があれば人界の軍でも重宝されるだろう。紂王を選ばないのは何故だ?」
すると男は答える。
「ふふふ。俺は紂王の首を取るためにお前達に付く。同じ敵を狙うなら、お前達に組みした方がお互いに信用出来ると思った。それだけだ」
「裏切れば俺がお前を討つ。良いな?」
「勝手にするが良い。俺の名は姫伯邑考!宜しく頼む」
そして姫伯邑考と名乗る謎多きカミシニが新たに仙界に加わったのだ。
場所は変わる。
人界でも動きがあった。
ここは新生殷国。
新生殷国の王である紂王の前に傷付いた聞仲がひれ伏す。
「申し訳ありません。全権を任されたにも拘らず、おめおめと帰還して失態を見せてしまいました」
すると紂王は聞仲を見下ろし腰から剣を抜いて聞仲の首に当てる。
するとその場にいた者達が止めに入ろうとするが、紂王には誰も逆らえない。
それは聞仲すらも。
かつての紂王は操り人形とも言える使えない王であった。
それは妲己と呼ばれた女妖仙に弄ばれるかのように名ばかりの王として操られ、目の前の聞仲に恐怖して逆らえずにいた。
しかしカミシニとして復活した今の紂王は全てが別人に思えるほど変わり果てていた。
威厳と才能に満ちた真王として!
それはカミシニの血をも覚醒させ、特殊な能力をも手に入れていた。
それは西王母がカミシニの血に植え付けていた呪縛を解き放つ能力。
そして変換する能力。
「何者も私に逆らう者は許せぬ。西王母も、聞仲、お前もな!」
「心しております」
紂王は剣を収めると、黄飛虎が勧誘を断った事に苛立つ。
「紂王様、そこで黄飛虎に代わる新たな精鋭を連れて参りました」
「お前が見込む程か?その者は黄飛虎に代わるほどの器か?」
「間違いなく」
すると奥より新たな武人が紂王の前に出て拝謁する。
「私の名は張奎と申します。門仲殿に救われた命、その主たる紂王様に捧げる事をここに誓い、従僕致します」
「張奎か。前世ではお前もまた優秀な武人だと記憶している。良かろう。この私の血を与えてやる。従僕せよ!」
紂王は自らの血を器に垂らし、聞仲が受け取り張奎に手渡す。
「頂戴致します」
そして器の血を飲み干し、張奎は紂王の配下になったのだ。
そこに王魔と四聖達は紂王の怒りに黙っていたが、収まった事で恐る恐る進言する。
「申し訳ありません。そこで私も新たな新鋭を揃えさせて貰いました」
「新たな新鋭?使えるのか?」
「第三仙血以上の者達です」
「呼び寄せよ」
王魔は控えさせていた者を呼び寄せる。
「此処へ」
すると先頭を歩く者が紂王に謁見を許されて挨拶をする。
「紂王様。私は第三仙血以上の猛者を揃えました。それだけではありません。近日中に、この新生殷国の戦力アップのために第四仙血にまで覚醒させてみせましょう」
「覚醒を促すだと?可能なのか?」
その提案には紂王は興味を持ったと察すると、男は言った。
「私には可能でございます。しかしまだ悩みに悩んでおります」
「悩む?それは何だ?」
「私達が人界に付くか、それとも仙界に付くかでございます」
「!!」
それは紂王に対して挑発にも似た言葉だった。
当然、その場にいた者達の空気も代わり、鞘に手を置く。
王魔もまた、まさか連れて来た男の言葉に冷や汗が止まらなかった。
「面白い。この私を斬りに来たのか?」
「めっそうもありません。紂王様の下にくだる為には裏切らないように血の儀式が必要であると聞きました。そこに一つ条件を加えて頂きたく思います」
「条件とな?」
「はい。それは・・・」
その者が加えた条件。
紂王に一生従うが、その際に優先順位にある者の抹殺を一番にする事。
その者は今、カミシニを狩り続けていると言う人間だった。
しかも、その者の瞳には興味深いモノが存在する事に紂王は了承した。
「忌眼だと?それは確かに興味深い。妲己の瞳を持つ人間か。良かろう!その者の抹殺を最優先し、そして私にその瞳を献上せよ!」
そして紂王に新たな将軍が加わった。
「この私、申公豹がその望みを叶えて差し上げましょう」
動き出す暗躍。
渦中の的としてに巻き込まれまれた姜子牙。
展開が交差する。
次回予告
姜子牙と黄天化、黄飛虎の死を前にして・・・
法子「お悔やみ申し上げます」




